オール横浜ロケで撮影された映画「ラプソディ・ラプソディ」が5月1日、横浜ブルク13・横浜シネマリンをはじめ、全国劇場で公開される。「横浜に実在する場所、実際に使われている店舗や家などで撮影した」というだけあって、横浜市民なら全編を通して「この場所、知ってる!」と言いたくなるシーンが満載。
監督・脚本は、横浜出身の利重剛さん。主人公の叔父役として出演もしている。また、プロデューサーを務めるのはドキュメンタリー映画「ヨコハマメリー」で知られる中村高寛さん。お二人に、撮影地として横浜を選んだ理由や、撮影中のエピソードなどを伺った。
利重剛監督(左)、中村高寛プロデューサー(右)
《あらすじ》 夏野幹夫(高橋一生)はある日、住民票に身に覚えのない「続柄:妻」の文字を見つけ、知らないうちに繁子(呉城久美)という女性が自分と籍を入れたことに気付く。正体不明の妻探しに奔走した末にやっと見つけた繁子は、破天荒すぎる女性だった。繁子に振り回されながらも、懸命に向き合おうとする幹夫。しかし繁子は何をされても怒らない幹夫にモヤモヤを募らせて……。
利重:「知らぬ間に結婚させられていた」というアイデアはかなり前にありました。「さよならドビュッシー」(2013年)が完成した頃には、脚本もできていたんです。それで、ここにいる中村さんに声をかけて一緒に企画を進めていたのですが、諸事情があって中止することになりました。その後、数年がたち、中村さんから「利重さん、映画を作ってくださいよ。あの企画をもう1回やりましょう」と言われたのが、「ラプソディ・ラプソディ」を再び立ち上げたきっかけです。
中村:一度はクランクイン直前までいったのに、頓挫してしまったんですよね。私はこれまで「自分が関わった企画は必ず完成させる」と思ってやってきたのですが、そうならなかった、できなかったことが挫折として残っていました。また利重監督には絶対に長編を撮ってほしいという思いが強くあったので、2022年頃だったと思いますが、利重監督に「もう一度やりませんか」と提案しました。

利重:そうですね。「BeRLiN」(1995年)は渋谷駅周辺、「クロエ」(2002年)は千代田区周辺というように、もともと僕は街の雰囲気を大事にして映画を作るタイプなんです。「ラプソディ・ラプソディ」は可愛らしいラブストーリーだし、出会いを描く映画なので、最初から「横浜が似合うな」と思っていました。誰と誰が出会ってもおかしくない街じゃないですか、横浜って。地元の人も、流れ着く人も、いろんな国の人もいて、横浜ほど“出会う街”はないと思う。
中村:「横浜で撮る」という前提があったからこそ、プロデューサーが本業ではない私に声がかかったのだと思います。要するに、横浜を拠点にして映画を撮ってきた私なら、横浜に詳しいだろうと思ってくださったんじゃないでしょうか。
利重:もちろん、それはあります。日頃から歩いている街だから「この場所は映画に合いそう」というのがわかりますし。それに加えて、2014年から2019年にかけて横浜を舞台にした「Life works」という短編シリーズを24本作った経験も大きかったです。これも中村さんと一緒に作ったのですが、その制作を通して、横浜はすごく映画を撮りやすいってことがわかっていたんですよ。街で撮影していても「何やってるんだ!」と怒る人もいないし、人だかりで撮影がストップになることもない。横浜の方に感謝ですね。
役所で住民票を見た幹夫が、自分に妻がいることに気付くシーン。実際に中区役所で撮影された。©2026 利重 剛
中村:プロデューサーといっても、私の場合は「何でも屋」で、制作資金を集めることから、キャスティング、スタッフ編成、撮影場所の許可取りなど、映画作りのあらゆることを、監督と相談しながら進めていきました。通常は、製作総指揮、製作、そしてプロデューサー、ラインプロデューサー、制作主任、制作進行など業務が細分化されていて、複数人で担当するのですが、「ラプソディ・ラプソディ」では利重監督と私の二人で、そのほとんどを担当しました。
利重:プロデューサーの仕事って、説明を聞いてもよく分からないよね(笑)

利重:とにかく暑かった! 「暑くならないうちに撮ろうね」と6月に撮影したのに、すごく暑かったんですよ。走るシーンも多くて、みんなで汗をダラダラ流していた記憶があります。
中村:ちょうど梅雨の時期でした。雨天で撮影日を変更したシーンも多く、全体の撮影スケジュールが何度も変わっていきました。「街の映画を撮る」というのがテーマの一つだったので、貸スタジオなどは使わずに実際のお店や知り合いの自宅で撮影させてもらったのですが、もちろん、そこで仕事をしたり、生活をしている人がいるわけなので、スケジュールが変更になる度に、頭を下げるしかなく……。そういった調整の大変さは想定していたものの、途中で「本当に全部撮り切れるのだろうか?」という不安がよぎりましたね。

利重:坂があって、海があって、いろんな人が行き交う街。そう考えると、中区が最もイメージに近かったんです。主人公がサラリーマンなので、仕事と生活をしている街を撮りたかった。だから、中区でも中華街は門くらいしか映っていません。
中村:早い段階で、利重監督から「ファーストシーンは『アルテリーベ 横浜本店』で撮りたい」「元町もいいよね」というリクエストがありました。なので、その周辺で撮影場所を探していくことになりました。実はこの時「困ったな」と思ったんですよ。私がこれまで撮ってきたのは関外、伊勢佐木町などでした。関内の方面はビジネス街や観光地というイメージもあって、自分自身、撮影する場所としてはあまりピンときていなかった。今回、撮影した多くの場所は、一軒一軒あいさつして回ることから始めていったので、まさに一から撮影場所を開拓していきました。
幹夫と大介叔父さんの食事シーンから物語は始まる。アルテリーベ 横浜本店にて撮影。©2026 利重 剛
利重:イメージロケハンですから「絶対にアルテリーベじゃないと!」という指定ではなかったんです。ただ、ファーストシーンは幹夫と叔父さんが並んで食事をしていて、後ろから日光が差している、そういう画が撮りたかった。だったら男二人に似つかわしくないような、広々とした空間がいいじゃないですか。そこから始まれば「なんだか面白そうな映画だな」と感じてもらえるかな、と。
中村:具体的な撮影場所を決めていくにあたって、私は、監督とは違う目線で「なぜここで撮るのか? ここでどんな物語が作れるのか?」を考えるようにしていました。日本大通りにしろ、山下公園にしろ、多くの人がよく知る場所ではあるけれど、いわば非日常的な空間です。一歩間違えると観光映画になってしまう。なので、観光地のような場所でも、そこに住んでいる人がいて、「日々の営み」があることを表現できるようなロケーションを探して歩き回りました。これは私にとっても新しい試みで、大変だけれど面白い経験でした。
幹夫の妻、繁子が働くのは元町の小さな花屋「宮崎生花店」。実際の店名がそのまま映画に登場する。©2026 利重 剛
利重:「ラプソディ(狂詩曲)」という単語を入れることは決めていました。話がどうなるのか全然わからない、という意味を込めて。幹夫と繁子、二人のラプソディだから「ラプソディ・ラプソディ」。二つつなげると響きがかわいいのでこれに決めました。
中村:「ラプソディ・ラプソディ」は、街と人の映画だと思っています。横浜という街と、そこに生きている人たちの「日々の営み」を丁寧に描いている、そんな映画にしたかったんです。そのアプローチから見えてくるのは、どこの町でもありえるような「普遍性」だと思っています。横浜で撮っているけれども、北は北海道、南は沖縄まで、自分の住んでいる街との繋がり、親近感が湧くような映画になっているのではないでしょうか。
利重:肩ひじ張った映画ではありませんから、気楽に見ていただければ。見終わった後に「なんか良かったな」と思ってもらえたら、私は幸せです。
監督・脚本:利重剛
プロデューサー:中村高寛、利重剛
出演:高橋一生、呉城久美、利重剛、芹澤興人/池脇千鶴
5月1日より、横浜ブルク13、横浜シネマリンほか全国劇場にて順次ロードショー
▼「ラプソディ・ラプソディ」公式webサイト https://www.bitters.co.jp/rhapsody/
横浜ブルク13・横浜シネマリンをはじめ、全国劇場で5月1日から上映。横浜での舞台あいさつは5月2日に予定。
【横浜ブルク13(中区桜木町1)】
日時:5月2日15時00分回 劇場予約サイト
登壇者:高橋一生、呉城久美、利重剛監督
料金:2,200円
【横浜シネマリン(中区長者町6)】
日時:5月2日19時00分回 劇場予約サイト
登壇者:呉城久美、利重剛監督
料金:一般1,900円、大学・専門・シニア1,300円、高校以下800円
■利重剛
映画監督、脚本家、俳優。1981年、自主制作映画「教訓?」がぴあフィルムフェスティバル入選。同年公開の「近頃なぜかチャールストン」(岡本喜八監督)で主演・共同脚本・助監督を務める。1989年「ザジ ZAZIE」で劇場用監督デビュー。そのほか監督作に1995年「BeRLiN」、2002年「クロエ」、2013年「さよならドビュッシー」など。「ラプソディ・ラプソディ」は「さよならドビュッシー」以来13年ぶりの長編監督作で、オリジナル作品としては31年ぶり。俳優としての公開待機作に「未来」(5月8日公開予定/瀬々敬久監督) 、「祝山」(6月12日公開予定/武田真悟監督)など。
■中村高寛
映画監督。横浜に生まれ育つ。1997年、松竹大船撮影所よりキャリアをスタートし、助監督として数々のドラマ作品に携わる。1999年に中国・北京電影学院に留学し、映画演出、ドキュメンタリー理論などを学ぶ。2006年に映画「ヨコハマメリー」で監督デビューし、横浜文化賞芸術奨励賞、文化庁記録映画部門優秀賞など11の賞を受賞。2017年に映画第2作「ヘンリ・ミトワ 禅と骨」公開。利重監督とは2014年より横浜を舞台にした連作ショートフィルム「Life works」で企画・プロデュースとしてタッグを組む。
ライター=小林幸江 撮影=紀あさ + ヨコハマ経済新聞編集部