特集

加速する横浜のクリエイティブ・コア
「北仲BRICK・北仲WHITE」始動

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■「北仲BRICK&北仲WHITE」始動

6月30日夜、暫しの間、灯りが途絶えていたクラシックなビルに再び煌めきが蘇った。横浜開港から150年目を迎える2009年度竣工を目指す、森ビル株式会社等による北仲通北地区の大規模開発を前に残された大正末期から昭和初期にかけて建設された事務所ビルを、文化芸術をフィールドにクリエイティブな活動やビジネスを展開するアーティストや建築家、キュレーターなど、文化芸術創造都市の活力となる人々にオフィスやアトリエとして提供する、横浜北仲通5丁目暫定利用プロジェクトのオープニングパーティーが、この夜開催されたのだ。

入居者を中心にささやかに行われるオープニングのはずであったが、このプロジェクトや入居者たちの新たな展開を期待する人々が、横浜のみならず全国から集まり、300人以上がオープニングの夜を祝った。

文化芸術活動の新拠点「北仲BRICK&北仲WHITE」始動

このプロジェクトが大きく注目される理由として、1:大規模再開発を前にした着工前の物件を活用した入居型のプロジェクトであること、2:民間企業とNPO、行政との協業によって実現した新たなシステムであること、3:地域のニーズに基づき・その地域の潜在的可能性を高めるプロジェクトであること、が考えられる。横浜都心臨海部最大の資産である土地の魅力の再生シーンを観察する、リノベーションの連載レポート第2回は、全国規模の注目を集める、この北仲通5丁目暫定利用プロジェクトを解説する。

森ビル 「21世紀型の都市再生のかたち」リノベーションで横浜を活性化 (1)
北仲BRICK 北仲WHITE

■横浜都心臨海部の要・北仲通北地区

横浜北仲通5丁目暫定利用プロジェクトの対象となったオフィスビルは、帝蚕倉庫の旧本社ビルとそれに隣接するテナントビルの2棟。場所は、関内と桜木町、みなとみらい地区の結節点ともいうべきところ。みなとみらいへと続く、6車線の大通り栄本町線の北側に面し、みなとみらい線馬車道駅のすぐ横である。

再開発計画が進行中の北仲通北地区は、これらオフィスビルから背後約6ヘクタールにわたる地域で帝蚕倉庫の保有していた倉庫群などが建ち並んでいる。再開発が完成すると、横浜の都心臨海部の中心では数少ない、水辺を活かすことが出来る、住居、オフィス、商業、文化施設が揃った複合施設が生まれることが構想されており、まさに地理的中心部であるという特性もあり、都心臨海部活性化の大きな力になることが予想され、横浜市にとっても重要な開発地域と見なされている。

帝蚕倉庫 北仲通地区街づくり協議指針 (横浜市都市整備局)
再開発計画が進行中の北仲通北地区

■開港150年後の新たな開港の物語の導入として

横浜都心臨海部の地理的な中心というべき、北仲北地区が今後再開発のため、何年にもわたって無味乾燥な高い白色のボードに囲まれ、オープンの日まで機能しないのは、都市に大きな空白を生むことになるのではないか。帝蚕倉庫の部分を中心に2ヘクタールの土地を取得し、同開発の中核的存在である森ビルの担当者の間からこのような問いが生まれていた。そこにある1棟のビルは2005年の3月まで、もう1棟も一部は2004年までオフィスビルとして機能していた。着工まで廃墟にするのではなく、新たな都市へと生まれ変わるための導入として活用出来ないだろうか。

ナショナルアートパーク構想を進める横浜市。開港以降の都心臨海部の土地や建物を活かし、文化芸術創造都市の活性化の中心としようとするこの構想。そこでは、文化芸術活動の創造性を活動資源とした、芸術家やクリエーター、建築家などが、オフィスや活動の場を構える環境を整備し、数多く誘致することが実現のための中核をなしている。BankART 1929など、横浜市が直接的にこれら創造的人材の誘致につながる場所の整備を行っている一方で、これらの動きに呼応した民間による活動も活発化し始めている。また、旧第一銀行(BankART 1929 Yokohama)を皮切りに横浜トリエンナーレのオフィスとして稼働中の旧関東財務局の建物など、市による歴史的建造物の時限活用プロジェクトが実験事業として展開中である。

再開発完成後にはナショナルアートパーク構想の中核となる場所になることが期待されている北仲通北地区。このような動きの中で、着工までの時限事業として、創造的人材のためのスタートアップオフィスをいまだ活用できるオフィスビルを用いて行うことで、新たな北仲のストーリーを作り出そうという発想が生まれるのは自然なことであった。

(仮称)ナショナルアートパーク構想推進委員会(横浜市文化芸術都市創造事業本部) BankART1929
帝蚕倉庫 帝蚕倉庫

■BankARTの経験が実現の力に

しかし、老朽化したオフィスビル。それも、入居者が全部退出した後のビルを、暫定的ながら再び短期間で活用の目処をつけることは、簡単な話ではなかった。だが、横浜には至近の経験があった。BankARTである。

「一年ちょっとの間にNPOが3つの文化施設を一から立ち上げたなんて普通無いでしょう」と語るのは、BankART1929の池田修副代表。自身も建築系の作家である池田氏は、そのありえない状況を実現させた。横浜市による都心部歴史的建築物文化芸術活用実験事業を実現するため、全国公募によって選ばれたNPO団体によって組織されたBankART1929は、旧第一銀行横浜支店、旧富士銀行横浜支店(2004年12月まで実施)、日本郵船倉庫という3つの物件をそれぞれ立ち上げから数ヶ月の期間でアートスペースとして再生させた実績を持つ。そのBankARTの経験が、横浜北仲通5丁目暫定利用プロジェクトの実現にも活かされた。

都心部歴史的建築物文化芸術活用実験事業 (横浜市都市整備局) アーティストが集うニュースポット誕生。 「BankART Studio NYK」の全貌 ヨコハマは世界のアートの発信地になれるか?アーティスト支援実験プロジェクトの全容

このプロジェクトの開始を決定してから実際の入居まで、実は3ヶ月超という短期間によるものであった。それを横浜で実現するために池田氏を中心とするBankART1929のスタッフが協力し、迅速な実現をもたらした。同じく、ナショナルアートパーク構想の推進に大きく寄与する同プロジェクトに横浜市も積極的に協力、現在の水準のオフィスビルとして再び稼動させるための、作業やチェックを迅速に行った。これら迅速な市役所の動きが、実現できたのもBankARTを立ち上げた実績が市にとってノウハウになったからだといえる。

当然のことながら森ビルとして、安全に機能する最低限の条件が整ったオフィスビルであることは、このような特別なプロジェクトであっても必要不可欠なものであるという。横浜市はオフィスビルとしての基準をチェックし、許可を出す一方、森ビル側ではセキュリティーや維持面での最低限の補修を行った。その中には、老朽化が著しく安全面やオフィスとしての機能を担保出来ない地下区画の封鎖も含まれている。

文化芸術創造都市の向けた横浜の経験の蓄積は、入居者募集にも現れている。2006年10月までの期間限定プロジェクト。この短期間のプロジェクトを効率的に成功に導くためには、逸早く満室にし、そして、最後まで継続して入居する入居者が必要とされる。通常の入居募集では、いくら人気の物件であっても、全部確定するためには、募集から、入居基準の審査、それに契約まで何ヶ月もの期間を要する。特に優良なオフィスビルを提供することをビジネスとする森ビルはより厳格であるといえるだろう。

結果から先にいえば、約50組が短期間に決定し、一斉に入居した。これらの入居者は、文化芸術創造都市に向けた横浜の基盤を活用し、実績をみせた人々である。まさに現在進行中の取り組みを彩ってきた、実績あるアーティストや専門家に打診をし、継続して横浜で活動する場を求める人々が入居したのだ。これもアーティストに質の高い活動の場を提供する横浜市と各民間セクターによる経験によるものである。

入居者は多岐にわたる。横浜トリエンナーレ2005の総合ディレクターである川俣正氏や、新進気鋭の建築家集団みかんぐみなど、アート界・建築界の話題の中心となる人々がアドレスを持つ一方で、美大を卒業したばかりながら頭角を見せるアーティストや新しい美術活動を展開するNPOやグループまで。全ては横浜での継続的な活動と実践で貫かれている。

みかんぐみ 横浜トリエンナーレ2005 横浜トリエンナーレ組織委員会、参加作家51人を発表
BankART1929 yokohama BankART1929 馬車道 BankART studio NYK 北仲BRICK&北仲WHITE 入居団体の郵便受け 北仲WHITEの廊下

■補助モデルではない自己成立する地域貢献モデル

横浜北仲通5丁目暫定利用プロジェクトで使われる、2つのオフィスビル。それぞれのビルの特徴をとって、ひとつは「北仲BRICK」(レンガの外壁によるもの)、もうひとつは「北仲WHITE」(白い外壁によるもの)という名前がつけられた。家賃は、この地域の市場の1/2から1/3 程度まで安くしている。通常、この価格というと、ベンチャー支援施設のような、助成金による家賃補助の結果によるものがほとんどで、これもまた、補助金などの資金的支援によるものではと考える人もいるだろう。

民間企業である森ビルによるプロジェクトとして、ここでは資金的にも完全に自己成立する事業として運営されている。プロジェクトとして成立する費用を家賃として入居者に負担してもらう仕組みになっているのだ。契約は森ビルとの定期建物賃貸借契約で、家賃の用途内訳はオフィスビルとしての固定資産税、週1回の共用部分の清掃などの維持管理費、オフィスとしての機能を維持するための補修修繕費などにまかなわれる。森ビルにとっては、着工までの遊休地をそのままにしておくだけのコストと同じコストになるように設定している。

地域貢献という目的だけでなく再開発事業への期待感を醸成する効果として今回の暫定利用を推進しているとも森ビルの担当者は語る。横浜で活躍したい芸術家や専門家の活動拠点として機能することで、着工までの都市空間の空白がクリエイティブな場へと変わることは大きな効果であり、実際、オープンを通じてこの再開発が大きな注目を集め、北仲が脚光を浴びたことはその現われであると評価している。そして、今後の暫定利用から、新たなストーリーが生まれ、そのストーリーの中から、クリエイティブシティーとしての新たな北仲へとつながるヒントが生まれればと期待している。

開港150年を迎え、クリエイティビティーに依拠した活力で世界に互せる文化と産業による新たな開港を目指す横浜。「新たな時代の開港の拠点となる再開発」(山本和彦森ビル副社長によるパーティでの挨拶)の現場となる北仲から、どのような活力が今年来年生まれることになるのだろうか。各方面の期待を担っての門出である。入居したクリエイティブな人々の紹介は次回。

岡田智博 Creative Cluster + ヨコハマ経済新聞編集部

http://coolstates.com
「日常企画フリッジフリーク」動物園などを舞台にアートプロジェクトを展開 「NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ」の事務所も入居 「YOSHIDATE HOUSE」若いアーティストの交流サロン
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