特集

文化と芸術が新たな「街の個性」?
秋の横浜はアートイベントが目白押し

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■ハマらしさを追求した「横浜トリエンナーレ2005」

今回で二回目となる現代美術の国際展「横浜トリエンナーレ2005」のテーマは「アートサーカス(日常からの跳躍)」。アジアを中心に30カ国・地域から71プロジェクト86作家が参加している。「今回のメイン会場は山下ふ頭3、4号という横浜らしい場所で、作品自体も山下ふ頭という場所を前提に制作されているので、前回に比べて横浜という街を意識したものになっています」と話すのは広報担当の杉野淳さん。

横浜トリエンナーレ2005

今回の「トリエンナーレ」の魅力の一つは、山下ふ頭という会場。通常、このエリアは一般は立ち入り禁止なので、普段は見ることが出来ないふ頭からのランドマークタワーやベイブリッジなどの眺望が楽しめる。デートコースに組み入れるなら、夕方に来場するのがオススメだ。展覧会場の倉庫へ行くには、山下公園会場入り口から紅白の三角旗で飾られた、メイン会場まで約700mのプロムナードを進む。これはダニエル・ピュランによるインスタレーション。ちなみにインスタレーションとは、従来の彫刻や絵画というジャンルに組み込むことができない現代アートの作品とその環境を、観客に呈示する芸術的空間のこと。

3号倉庫に入ると、まず目に飛び込んで来るのがミルク缶を使用した牛のインスタレーション、へディ・ハリアントの「私お母さんはどこ?」。幼児用のミルク製品が市場にあふれている現状にインスピレーションを得たもので、本来は母親の母乳で育つはずの赤ん坊があたかも製品のように生産されているかのような状況への批判なんだとか。何だか現代アートっぽい…。

トリエンナーレ入り口を飾るダニエル・ビュランの作品 普段は見られない山下埠頭からの眺望も楽しみの一つ ヘディ・ハリアントの「私のお母さんはどこ?」(トリエンナーレ)

■作品自体をカフェとして利用?

3号倉庫で多くの人を集めていたのが、タイのソイ・プロジェクト。美術とポップカルチャーが共生するバンコクの未分化な状況の視覚化を試みるプロジェクトグループ。バンコクのソイ(路地)をイメージしたインスタレーションの中に持ち込まれた作品群のうちで、とりわけ人気を集めていたのが「ギグ・グロッサリー」という作品。これはタイの伝説的なバー「ギグ・グロッサリー」をトリエンナーレ会場で再現したもので、オリエンタルで妖しげなムードに浸るカップルや女性グループの姿も。

また、キュートでありながら独特の風貌を持った少女を描いた作品で人気の奈良美智とクリエティブユニットgrafとのコラボレーション作品も、女子高生を中心に女性の人気を集めていた。倉庫の外では、作品自体がカフェのアトリエ・ヴァン・リースホウトによる「バー・レクタム」が展示されている。ただ、この作品、舌の形をした入り口に始まり、食道、胃、腸と続き最後に肛門に至る食物の体内消化の経過を模した形態と機能を、カウンターを含むカフェやバーの機能に同調させたものだけに、ルックスはかなりグロテスク。会期中は、来場者が自由に内部に出入りし実際にカフェとして利用できる。

ソイ・プロジェクトの「ギグ・グロッサリー」(トリエンナーレ) 奈良美智とgrafのコラボ作品(トリエンナーレ) アトリエ・ヴァン・リースホウトの「バー・レクタム」(トリエンナーレ)

■アートというよりもアミューズメント施設?

3号倉庫を後にして、4号倉庫へ移る。この会場で恐らく最もポップな空間が、キュレーターマンによる「SUPER(M)ART@YOKOHAM」だろう。ギャンブル場のような猥雑な雰囲気の中、さまざまなキャラクターのオブジェが所狭しと並んでいる。そうかと思えば、その隣では来場者のカップルが卓球に興じている。もちろん遊戯施設ではなく、これも立派な作品でCOUMAの「extra practice」。なぜ、展覧会場で卓球なのかは意味不明だけれど、卓球を行う過程で生まれてくる作品を順次追加していくという。

さらに進むと、トイレットペーパーが積み重ねられた巨大なオブジェが。最初は何のことやら訳がわからないが、少々離れて全体像を見ると人間が腰掛けているポーズ。トイレットペーパーだけに便器に腰掛けているポーズかと思い、作品名を見るとミゲル・カルデロンの「考える人」。そして、このトイレットペーパーのメーカー名が「ロダン」。「トイレ」つながりではなく、「ロダン」つながりか…。

今回の「トリエンナーレ」はアートサーカスというだけに、来場者が参加したり、遊んだりできる作品がとても多い。KOSUGE1+アトリエ・ワン+ヨココムによる「《アスレチック4号プロジェクト》のためのスケッチ」もその一つ。欧州などでポピュラーな卓上サッカーゲームの拡大版とも言える今回の作品は、会場に巨大サッカーボードゲームが登場。手先で操作する通常のボードゲームと異なり、人形が人間の2分の1スケールだけに操作も身体全体を使わなければならない。プレーしている来場者を見ると、かなり辛そう。実際にサッカーをプレーした方がよさそうな気もするが、観念的な動作と身体的な動作のスケールの差を体感させることが、この作品のコンセプトなのだそう。

前出の杉野さんが「現代アートという垣根を取っ払ってもらって、イベントとして楽しんで欲しいですね」と話すように、展示作品の多くは小難しい現代アートというよりも、来場者が参加できるアミューズメント施設のようなイメージが強い。アートというと敷居が高すぎて二の足を踏んでしまいそうな向きも、今回の「トリエンナーレ」はかなり楽しめるはずだ。

※入場料は一般が1,800円(当日券)・1,500円(団体券)・3,500円(フリーパス)、大学生・専門学校生が1,300円(当日券)・1,000円(団体券)・2,500円(フリーパス)、高校生が700円(当日券)・400円(団体券)・1,200円(フリーパス)、中学生以下は無料

運動態として変化を続ける現代美術展。「横浜トリエンナーレ2005」が目指すもの
COUMAの「extra practice」(トリエンナーレ) ミゲル・カルデロンの「考える人」(トリエンナーレ) KOSUGE 1-16+アトリエ・ワン+ヨココムの「アスレチッククラブ4号プロジェクト」(トリエンナーレ) エスタシオの「エスタシオ・ツアー ベニファイエット-横浜」(トリエンナーレ)

■展覧会場で泊まれる?「BankART Life」

「BankART Life "24時間のホスピタリティー" ~展覧会場で泊まれるか?~」は、「トリエンナーレ」の連動企画としてホスピタリティー(もてなしのあるくつろげる空間)をテーマにし、BankARTの2つの施設を昼は「展覧会として」、夜は「くつろぎの場所として」24時間開放する企画。

BankART1929

アーティストや建築家たちが寝具やベッド、部屋、小さな家などの作品を提供する。会場は、BankART1929 YokohamaとBankART Studio NYKで、開催時間は1部は11時30分 から19時30分(金曜は22時まで)、2部は19時30分から翌10時まで(2部はトリエンナーレ公式ボランティアと作家アシスタントが原則・要予約)。

「くつろげる空間」がテーマなだけに、どの作品も実際に体感できるのが特徴。アート作品というよりはユニークな住宅展示場かインテリアショップのよう。いかがわしげな「ホテルニューパルコ」の看板が目を引く「助々荘」(昭和40年会)は、重層的な構造の木を表現。組み合わされた鳥かごのような7つの部屋を各作家が担当。もちろん室内に入って、居心地を楽しむことができる。

昭和40年会の「助々壮」(BankART Life) Off Nibrollの「お部屋」(BankART Life) 開発好明の「都市生活者のためのオアシス」(BankART Life)

■心地よさを体感できる作品展

直径5メートルを超える泉を模した「都会生活者のためのオアシス」(開発好明)は、共同ベッドのような作品。テレビモニターからは心地よい水音が流れ、モニターに眠る犬が映るというフェイクの噴水。ベッドということなので寝てみる。ムクムクのフェイクファーが気持ちよく、さらにモニターの犬や水音が眠気を誘い、取材であることを忘れてうっかり寝てしまいそうになる。

この他にも、ブロアーで膨らませることができる変形自在のテント「エレファン」(みかんぐみ)や日本式こたつの形状をした部屋「コタツパビリオン2005」(アトリエ・ワン)、ピンクと緑の部屋が印象的な「Hier gibt es schon.もうここにある」(和田みつひと)など、様々なユニークかつ心地よい空間を体感することができる。

※入場料は1部2部共900円(当日600円(前売り)、横浜トリエンナーレとの共通チケット2,100円)

アーティストが集うニュースポット誕生。「BankART Studio NYK」の全貌
和田みつひとの「Hier gibt es schon.もうここにある」(BankART Life) みかんぐみの「エレファン」(BankART Life)

■アーティストがアトリエを一般公開「北仲オープン」

「北仲オープン」は、北仲通北地区で昨年までオフィスとして利用されていた北仲BRICK(旧帝蚕倉庫本社ビル)と北仲WHITE(旧帝蚕ビルディング)に入居するクリエイター達によるオフィスやアトリエの一般公開(オープンスタジオ)や作品展示、イベントなどを行い市民と交流する機会を設けるもの(開催期間11月18日~12月18日)。

北仲OPEN!

北仲BRICKと北仲WHITEには、アーティストや建築家、デザイナーなど約50組のクリエイターが入居している。その昔、手塚治虫や藤子不二雄、石ノ森章太郎など日本を代表するマンガ家達が数多く住んで有名だった「トキワ荘」を連想させるが、言ってみれば「クリエイター梁山泊」といったところだろうか。北仲BRICK&北仲WHITEオープンプロジェクト実行委員長で、自身もアーティストとしてイベントに参加している丸山純子さんは、こう話す。「北仲のように、アーティストやクリエイターのアトリエやオフィスが一ヶ所に集結するなんて普通はありませんからね。そういう意味では同業者同士の交流が深まりますし、イベントの準備なんてみんなで助け合ったりして、あまり経験したことのない日常を楽しんでいます(笑)」。

北仲BRICKと北仲WHITEは戦前の建築物だけに、なかなかレトロな趣で建築に興味のある向きなら、この建物だけでも必見だ。中に入ってみるとオフィスビルとはいうものの、古い学校や病院を連想させる雰囲気である。そこへ入居しているクリエイターやアーティスト達の各室でさまざまなイベントが行われているわけだが、アートなどと肩肘張らずに学校の文化祭のノリで楽しめそう。もちろん、そこで展開されているのはあくまでもプロの仕事ではあるが…。

北仲オープン 建物の中はまるで学校の校舎のよう Polonium(北仲オープン) この北仲オープンのパンフレットをデザインした加藤朋子さん

■入場無料で1日中楽しめるイベント

「北仲オープン」では期間中、さまざまなワークショップやイベント、トークショーなどが開催されるが、何と言っても一番の売りはアトリエの一般公開。普段は見ることのできない、作品が完成するまでの過程を目の当たりにできるのだから、アート好きには堪えられないに違いない。事務局の吉田有里さんによれば、「アーティストが自身のアトリエを一般公開することは、欧米ではそれほど珍しくはありませんが、日本ではまだまだこうした機会は多くありません。アートや建築に興味のある方なら見逃せませんよ」とのこと。

もちろん、アートや建築に詳しくなくても十分楽しめる。例えば、吉田さんが入居する部屋「YOSHIDATE HOUSE」は、友人の家のように落ち着ける空間となっている。「私自身はアーティストではないので、様々な人達との交流の場をこの部屋で作っていきたいと考えています。よくパーティを開いていますので、いろんな方々に立ち寄ってもらいたいですね」(吉田さん)。

また、今をときめく建築設計チームの「みかんぐみ」のオフィスや「ブックピックオーケストラ」が運営する全く新しい人と本の出会いを提供するブックルームもオススメ。ちなみにこのブックルーム、本が1冊ずつクラフト袋に包まれ、中身の見えない作者もタイトルもわからない状態で本棚に並んでいる。訪れた人はその中から選んで包みを開封することができ、気に入れば購入も可能。もちろん気に入らなかった場合は返品可能だが、その開封した本に挟まれている用紙に、本文の印象的な箇所を引用しながら、次にその本を手に取る人へのメッセージを残さなければならないというユニークなシステム。

みかんぐみ ブックピックオーケストラ 「ヨムリエ」が読書熱を牽引する?変貌するブックカルチャーの未来

入居39組のオープンスタジオの他、美術ジャーナリストの村田真氏が各部屋を案内する「北仲ツアー」や前出の丸山さんによるパフォーマンス「そうじ」、アーティストが住みたくなる街をテーマに行われるトークショー「芸術不動産」など、イベントも目白押し。「見るだけでなく参加もできるし、来場者の方々が様々な楽しみ方ができるのが、北仲オープンのいいところです。お腹が空いたら、『YOSHIDATE HOUSE』のパーティに参加してもらえばいいですし(笑)」(吉田さん)。「クリエイター達も、こうした形での一般の方々との交流の機会は滅多にないことなので、おもてなしに気合が入っています(笑)。ホスピタリティーにも期待して下さい」(丸山さん)。

ちなみに入場料は無料。アーティストやクリエイター達と交流したり、制作現場を目の当たりにする機会など、そうそうない。しかも1日中楽しめるというのだから、かなりお得なイベントだと言える。

加速する横浜のクリエイティブ・コア「北仲BRICK・北仲WHITE」始動
北仲オープン実行委員の吉田有里さん 自らも北仲WHITEにアトリエをもつアーティストの丸山純子さん ガラスの廃材を使った丸山さんの作品(北仲オープン) LandmarkProjectの福井裕司によるパブリックサービスプロジェクト

■街の価値を高めるブランディング戦略の一環

これら3つのアートイベントは、もちろん単に「芸術の秋だから」ということで開催されているわけではない。そこには、「横浜」という都市の価値を高めようとする地方自治体のブランディング戦略がある。それが、横浜市が標榜する「文化芸術創造都市」構想だ。横浜市文化芸術都市創造事業本部の川口良一本部長はこう語る。「そもそもこの構想は横浜に残る歴史的建造物をどう保存・活用するか、という文脈から出てきたものなんです」。

横浜文化芸術都市創造事業本部

かつて、横浜は独自の歴史や文化で多くの人達を魅了してきたが、近年、関内地区など旧市街地では歴史的建造物が減少するなど景観が失われようとしている。さらに一方で、景気の後退に伴い関内地区のオフィス街では業態の固定化が進み、オフィスの空室率が上昇するなど、その活力が失われつつある。関内地区に文化的・経済的魅力を取り戻すためには、再開発をはじめとする横浜という街の魅力を高めるためのブランディング戦略が必要になってくるわけである。「ただ今は、単純なスクラップ&ビルドによる再開発の時代ではないということで策定されたのが、文化芸術創造都市という街づくりビジョンだったんです」と、川口本部長は話す。

文化芸術創造都市というと、「アートによる町おこし」のようなものを想像しがちだが、そうではない。そのコンセプトは文化芸術・経済の振興というソフト施策と、横浜らしい魅力的な都市空間の形成というハード施策を融合させたものだ。こうした「創造性」という考え方に着目した街づくり策は、何も横浜が初めてではなく、わが国では金沢市や京都市などで同様の試みが行われているし、そもそもはEU諸国で提唱され始めた「クリエイティブシティ(創造都市)」という街づくりのコンセプトだ。

例えばフランスのナント市では、文化政策を柱にした都市再生プロジェクトに取り組み、最近では工業都市という従来のイメージから脱却し、フランス国内では「住みやすい街」の一つだとの評価を受けているという。

横浜市文化芸術都市創造事業本部の川口良一本部長 横浜トリエンナーレ2005 BankART1929 Yokohama BankART Studio NYK

■四つの目標を掲げる「文化芸術創造都市」構想

横浜の黄金時代は1960年代だった、という説に異論を差し挟む人は少ないだろう。米軍基地経由で本牧から発信されるアメリカ産の音楽やファッションなどの流行・風俗によって、横浜は東京とは一線を画す個性的な都市として独特の存在感を誇示していた。だが、70年代以降、日本全国の都市が均一化の波に呑み込まれる中、横浜も次第にその個性を失っていくことになる。「横浜らしさが失われていく中、新たな横浜の個性として着目したのが文化や芸術だったわけです。目指すのは横浜市民がステータスに感じられる、東京の真似をしないクリエイティブな街です」(川口本部長)。

「文化芸術創造都市」構想は2008年を目標年次として、(1)アーティスト・クリエイターが住みたくなる創造環境の実現(2)創造的産業クラスターの形成による経済活性化(3)魅力ある地域資源の活用(4)市民が主導する文化芸術創造都市づくり――という4つの目標を掲げている。

前述した「トリエンナーレ」「BankART Life」「北仲オープン」もまた、こうした横浜市の取り組みの一環なのである。例えば「トリエンナーレ」は単なる現在美術の国際展という位置づけだけではなく、ボランティアの育成など市民がアートに触れる創造的な環境整備を担っている。また「BankART Life」は、明治時代から昭和初期に造られた近代建築を文化芸術分野での活用により、横浜らしい街の雰囲気づくりを促進するBankART1929事業の一つだ。一方、「北仲オープン」が開催される「北仲BRICK&WHITE」は、北仲通北地区における再開発事業の計画期間中も街の賑わいを継続させるための暫定プロジェクト(2005年5月~2006年10月)で、横浜市が進める文化芸術活動による都心臨海部の活性化に寄与すること目的としている。

「この構想はまだスタートしたばかりなので、今は、いろんなところへ種を蒔いている状況です。やはり文化みたいなものが定着するのには時間がかかりますからね。10年スパンぐらいで考えるべきものなのかな、と考えています」(川口本部長)。「文化芸術創造都市」構想は、今後の横浜のあり方を左右する重要なプロジェクトである。秋の横浜を彩るアートイベントの裏で、将来へ向けた様々な布石が打たれようとしている。

牧隆文 + ヨコハマ経済新聞編集部

北仲BRICK 北仲WHITE
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