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オシャレな大人が集う「裏横浜」と「奥横浜」。
カフェ&ダイニングが続々オープン

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■駅ビルが強い横浜駅の「裏」、「奥」に新飲食店群が台頭

JR、私鉄(東急、京急、相鉄)、地下鉄(市営、みなとみらい線)を合わせた1日の乗降客数は約186万人(2004年度)。横浜駅は、全国でも新宿駅、池袋駅、渋谷駅、大阪駅に次ぐ、第5位の巨大ターミナルである。駅周辺のビル、地下街の発達の目覚ましさは周知のとおりで、特に西口駅前では、ザ・ダイヤモンド地下街、高島屋、CIAL、相鉄ジョイナス、相鉄ムービル、岡田屋モアーズ、横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ、三越跡に新規オープンしたヨドバシマルチメディア横浜などの大型商業施設がしのぎを削っている。また、徒歩5、6分の圏内にも、ビブレ、ダイエー、東急ハンズ、ビックカメラなどといった大型商業施設が集積しており、横浜市内随一の商業規模を誇っている。

ヨドバシカメラ、3店舗統合し横浜三越跡地にオープン

そのためか、横浜駅周辺では路面の個人店はあまり発達せず、西口ではチェーン系の居酒屋、ファーストフード、カラオケボックス、ゲームセンター、大規模なボーリング場、サラリーマン対象のキャバクラ群、ラーメン屋が目立つ。ビブレ前の川沿いにあった屋台群も姿を消し、古くから開けた伊勢佐木町や元町などと比べても、街の個性が乏しい印象があった。東口ではそれがさらに顕著で、ポルタ地下街、そごう、丸井、ルミネ、崎陽軒本店、横浜中央郵便局、ヨコハマプラザホテルなどが駅に直結する形で集積している。外にほとんど出ずとも買い物などの用事が済ませられるような、自己完結した状況となっているのだ。

しかし、そうした駅ビル中心の横浜駅前のイメージに、2000年前後から変化が起こっている。駅至近にありながらも人通りが少なかった東口より3分ほど歩いた万里橋南詰、さらには西口では駅からは10分ほどとかなり歩くが、新横浜通りを渡った岡野地区に、個人オーナーによるオシャレなカフェ&ダイニングが続々とオープンし、人気を集めているのである。これらの新しく発展してきた飲食ゾーンは、東口側は「裏横浜」、西口側は「奥横浜」と呼ばれるようになってきた。あるいは、総称して「裏横浜」と呼ばれることもある。商圏としての価値が低く思われていたこれらの地区の魅力が、なぜ急速に高まったのか。

西口のチェーン系居酒屋 混雑する西口に比べ、東口は人通りが少ない 横浜駅東口の万里橋 裏横浜は横浜駅とMM地区の中間に位置する

■「裏横浜」の土台をつくった「ビストロ・フレッシュ」

東口、「裏横浜」が注目されるキッカケとなったのは、1999年4月に万里橋南詰にオープンした「ビストロ・フレッシュ」である。オーナーのフードコミュニケーション社長、入交(いりまじり)功氏は高知出身。高校卒業後に、日産自動車横浜工場に就職。20歳の時に飲食店に興味を持ち、昼に勤務しながら夜のアルバイトを始めたが、3カ月後には日産を退職して、飲食店の社員となった。その店の店長が28歳で考え方も非常に大人に感じたことから、28歳までに独立して店を持とうと目標を抱いたという。

ビストロ・フレッシュ

最初の4年ほどは、山下町のレストラン・バー2軒で料理、お酒、接客の基礎を覚えた。しかし、飲食店に勤めているだけでは、忙しい週末に他の店がどのようなサービスを行っているのかがわからないと痛感し、飲食店を退職。昼間に別の業種の仕事をしながら、今度は顧客の立場で飲食店を食べ歩いた。そうしてコツコツと700万円を貯金し、国民金融公庫から600万円の無担保融資を受け、開業資金1,300万円で「ビストロ・フレッシュ」を開業した。27歳になっていた。

物件は、横浜駅、大船駅、藤沢駅といった神奈川県東部のターミナル駅周辺で探した。横浜駅から徒歩3分と至近距離にありながらも、1階の角地で家賃も安かったことが、決め手になった。築30年ほど経った古い物件で、テナントの入れ替わりが激しく、何をやってもなぜかうまく行かない場所と言われていた。当時の横浜駅東口は、賑わう西口と違って、2軒のコンビニがある程度の人通りが少ない寂しい場所だった。しかし、入交氏は「多くの店がある中で開業するより、目立っていいのではないか。お客さんがわざわざ探して来てくれる店にしたい」と、かえってチャンスがあると思ったそうだ。

保証金は450万円、家賃は10坪で20万円だった。席数は20席。業態を創作イタリアン中心のダイニングバーとした理由は、女性客やデートに活用してもらえる店にしたいと考えたからだ。また、単なるバーだとどうしても2軒目に飲みに行く店とみなされるので、しっかりとした料理を提供することを考えた。デザインは知人のデザイナー、井能慶太氏に頼んだが、基本レイアウトは入交氏自身が設計した。内装も扉やトイレなどは入交氏の手作り。カウンターに設けた溝で熱帯魚を飼ったり、星型の氷をつくったりするなど、遊び心を随所に取り入れている。

「ビストロ・フレッシュ」外観 フードコミュニケーション社長の入交氏 「ビストロ・フレッシュ」内観 「ビストロ・フレッシュ」内観

■駅ビルが閉まる深夜帯の客層の心をつかむ

「ビストロ・フレッシュ」はオープン時から評判を取り、瞬く間に週末にはウェイティングができる繁盛店となって、現在もその状況は続いている。繁盛した理由としては、当時、横浜駅周辺では珍しく深夜4時まで営業していたことがあった。駅ビルの飲食店の閉店時間は11時で、夜遅くまで残業している人は入ってすぐにラストオーダーになるという不満を持っていたのだ。また始発待ちの人が集まったこと、同業の飲食店従業員が固定客となったことも大きかった。また、徒歩圏の平沼、戸部地区には、ワンルームに住む独身者も多い。丸井やそごう、ルミネに勤めるブティック店員なども集まってきた。顧客層は20代、30代が中心で、男女比は4対6で女性のほうがやや多い。客単価は3,000円前後。

狭い店なので、自然と顧客の間で交流も生まれた。また、入交氏も、顧客同士の共通点を見つけて紹介しあうなど、意識的に仲間づくりを進めた。常連に声を掛けての野外バーベキュー大会などといった交流イベントも、随時行っている。そうした中で、界隈の街づくりについて考えるようになってきたという。

人気メニュー「渡りガニのトマトクリームパスタ」(1,370円) 人気メニュー「タコス風メキシカンサラダ」(1,050円)

■オシャレな大人が集まる街を横浜につくるという夢

「漠然とですが、昔の代官山のように、オシャレな大人が集まる街ができればいいなあと思うようになりました。街というのは、自分一人だけじゃなくて、いろんな人が面白い店をつくってこそ繁栄するんです。『裏横浜』って言葉は、そういった気持ちを込めて、私がお店の中で勝手に使いだした言葉なんです」。そう語る入交氏の趣旨に賛同して、顧客の中から実際に店を始める人も現れた。

そして「ビストロ・フレッシュ」の周囲に、イタリアンを中心に、韓国料理店、バーなどのオシャレな飲食店が次々と開業するようになり、賑わいが生まれてきた。入交氏自身も、00年6月に平沼に2号店を出している。この店は03年1月に改装して、3つのテーブル席で、1日3組のみに究極のサービスを提供する高級イタリアンの店、「イル・エノトリア」として営業中だ。

イル・エノトリア(ぐるなび)

3号店は「ビストロ・フレッシュ」のすぐ裏に、01年11月、「リストランテ・リアル」をオープン。これは、本格的なイタリアンの店で、年齢層は20代後半から40代前半と「ビストロ・フレッシュ」に比べればやや高めの設定だ。席数は50席。さらに、西口の東急ハンズ裏に、昨年10月、アイリッシュパブの新店「グリーンシープ」をオープン。アイルランド製のビールサーバーから注がれるギネスやケルニーなどのアイリッシュビールは本場の味。座席は60席とかなり大きく、週末には店内でライブを行ったり、大型スクリーンでサッカー中継を映すなど、一体となって盛り上がれるお店だ。これらの店を経営するフードコミュニケーション全体では、3億8000万円の年商を上げている。

リストランテ・リアル(ぐるなび) グリーンシープ

こういった路面店中心の飲食ベンチャーが育ってきていることが、「裏横浜」のブレイクを象徴しており、東京の恵比寿、広尾、西麻布あたりで2000年前後に起こった、隠れ家的なカフェ&ダイニングのブームと近似した展開になっている。なお、「裏横浜」という言葉は、02年5月に発売された角川書店の雑誌『横浜ウォーカー』によって一般に認知された。同誌の編集者がリサーチで「リストランテ・リアル」を訪れ、入交氏との会話の中で趣旨に共感。メディアとして初めて使用し、一気に広がったという。

「イル・エノトリア」外観 「リストランテ・リアル」外観 「グリーンシープ」外観 「グリーンシープ」内観 「グリーンシープ」ライブの様子

■住宅街の岡野町に飛び火した隠れ家ダイニングブーム

東口「裏横浜」の弱点は、飲食店として使用できる物件が少ないことだ。そのため、02年頃から、西口の従来の繁華街から広い新横浜通りを越えた岡野地区に、新しいダイニングゾーンが発達してきている。「フレッシュネス*ランド フルーツ!」は、03年5月に岡野にオープンした、イタリアンレストラン。50坪、70席あり、客層は20代後半から30代の女性が中心で、週末は予約で一杯になる。

Freshness*Land Fruits!

メニューの特徴は、三浦半島の地野菜を農家から直接買いつけている八百屋から、不揃いでも低農薬の野菜を仕入れていることで、使用する野菜の約半数を占める。また、ピザの生地、パンは100%自家製、パスタも出数で半分が自家製とこだわっている。前菜盛り合わせと、サラダ、肉または魚の料理、ピザ、パスタ、デザートのセットで2,500円のコースが人気で、7割の顧客が注文する。ドリンクではマンゴーなど、フレッシュフルーツのカクテルが人気。客単価は3,500円前後だ。

運営はサウスプランニングで、01年5月、野毛に「フリー*スタイル*キッチン サウス」という24席の小さなイタリアンダイニングをオープン。その店を成功させて、「奥横浜」に乗り込んできた。新横浜通りを越えると、家賃は3分の2、坪単価にして1万5000円ほどにまで落ちる。個人オーナーにとっては魅力である。店の内装は、店舗内装の雑誌などを参考に、基本的に手づくりで完成させたそうだ。

Free*Style*Kitchen South
「Freshness*Land Fruits!」外観 「Freshness*Land Fruits!」内観 パスタも手づくり パスタも手づくり

■岡野のダイニングの特徴は、東京にはない“ゆったり感”

「平日の夜は、西口の会社で働くOLさんがメインです。日曜日は女性が減って、近所に住んでいるご家族の方がお見えになります。土曜日は、幅広いお客さんがいらっしゃるといった感じです」と中邨(なかむら)義男店長。顧客はゆっくりと時間をかけて、会話を楽しみながら食事をする人が多く、効率優先の従来の西口の飲食店では拾いきれなかった客層を集めている。これは総じて岡野のダイニングの特徴で、目的を持って来る店になっている。

同店では現在の集客数が、オープン時の3倍に伸びてきたという。店の寿命がヘタをすれば1年と言われる、東京都心部、特に渋谷、青山、恵比寿、六本木あたりの回転が早い飲食店とは大きな違いだ。また東京では和食、それも郷土料理の店や、オシャレ系立ち飲み屋が流行の中心にあるが、「裏横浜」、「奥横浜」では、そういったトレンドは波及していない。中邨店長は「いい意味で横浜は、情報の伝達がゆっくりしています。このエリアではイタリアンの店が多いですが、たくさんあるぶん、お客さんは次はどこに行こうかと、選ぶ楽しみを感じていらっしゃるようです」と語った。

「Freshness*Land Fruits!」店長の中邨氏 2,500円のコースが人気

■浅間下の潜在的な可能性と、西口・東口の分断の問題

しかし、岡野のダイニングゾーンもすぐ裏は住宅地になっており、すでに物件不足となっている。そこで、今後注目されるのは、岡野よりさらに新横浜寄りの浅間下交差点付近である。横浜駅からは1キロ近くも離れているが、オフィスビル、専門学校、犬も飼える新しいマンションなどが数多くあり、飲食店の需要は高いのではないだろうか。

たとえば、今年初夏にオープンした「ルーズカフェ」は、店内まで犬を連れて入ることができるカフェだ。ソフトロックやラウンジ系の音楽を流し、メニューはドライカレー、ピザ、パスタ、サラダなどの軽食から、スイーツ類、有機栽培のコーヒーなどのソフトドリンク、さらにはビール、ワイン、カクテルといった酒類まで提供するといったように幅広い。席数は40席。そもそも、横浜駅周辺は西口、東口を通じて、ゆったりと息抜きの時間を過ごせるカフェが非常に少ない。ましてや犬を連れて行ける飲食店は、ほとんどない。そうした意味では、「奥横浜」の今後の発展を考えると、人が交流する拠点として、このような店が重要な役割を果たす可能性は高い。

Lu’s CAFE(ぐるなび)

さて、「裏横浜」、「奥横浜」の今後を考えると、東口は5年後に新高島への日産自動車本社移転が控えている。新高島は横浜駅から近く、徒歩で通う人も多く出てくるだろう。その場合、万里橋は通過点となる。アフターファイブの需要を考えると、平沼1丁目交差点あたりまでは、ビジネスチャンスが出てくるのではないか。実際、平沼商店街にイタリアンの店などもオープンし始めているし、平沼橋駅や高島町駅界隈までは、マンション建設も進んでいるので、動線がつながってきそうだ。西口は先述したように岡野が飽和状態なので、浅間下に期待といったところ。

現状、物足りない点としては、もう少し街に回遊性が出てくるように、心地よいカフェが増えエリアに点在する必要があるだろう。接待需要を目的とした、個室ダイニングも不足している。飲食以外の業種が少ないのも気掛かりではあるが、都内でも恵比寿、西麻布のようにそれでも繁栄している街もあるので、ダイニングのメッカとして発展していくのも一つの道だ。それならば、新しい“横浜イタリアン”を発信する何らかの組織も、あったほうが集客効果が高まるだろう。これについては入交氏が組合設立の意欲を見せており、期待したいところだ。

また、西口と東口の間の回遊性の悪さも改善が求められるところだ。例えば横浜市が運行している「みなとみらい100円バス」は東口とMM地区をつなぐもので、西口との連絡はない。平沼橋を歩いて渡る人は少なく、西口と東口の商圏が線路によって分断されているのは、街のトータルな発展を考えるとマイナスが大きい。この新しいカフェ&ダイニングの流れをより発展させるための鍵は、気軽に西口と東口を行き来したくなるような商圏の連携にあるのかもしれない。

横浜市交通局 みなとみらい100円バス

長浜淳之介 + ヨコハマ経済新聞編集部

「Lu’s CAFE」外観 「Lu’s CAFE」外観 浅間下の隠れ家的なバリ風居酒 浅間下の新和食店 平沼商店街 平沼商店街のイタリアンの店 西口と東口をつなぐ平沼橋
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