特集

リサイクルを通じて「必要とされる存在に」
横浜市資源リサイクル事業協同組合
栗原清剛さん、戸川孝則さん

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■フリーペーパーで「ゴミの分別」を分かってもらう

―横浜市資源リサイクル事業協同組合とは、どういった組織なのでしょうか。

栗原 通称リサイクルデザインと呼ばれる、横浜市内のリサイクル事業者131社が集まった事業協同組合です。リサイクルの対象は紙や鉄、ビンなどそれぞれで、トラック1台で町内会をまわるような中小・零細事業者が多いですね。設立は1992年なので、もうすぐ20年になります。私は副理事長ということで、組合員と同時に執行役員も務めていまして、会社としては設立当時から参加してまして、組合の運営には2000年から携わっています。

戸川 私は団体職員で、いわば事務局員です。企画室を担当させて頂いてます。運営には栗原と同じくらいの時期から関わっていますね。

―組合ではフリーペーパーの「月刊リサイクルデザイン」も発行されているんですよね。こちらはどういった経緯で始められたのですか。

栗原 組合が設立された当初から、市民の方々に正しいリサイクル情報を発信したいというのが活動の指針でもありました。今年に入って200号を超え、最新号では8万8,800部を発行しています。組合員さんが委員会を作って企画を考え、ライターの方に取材・執筆して頂いて編集しています。人気の企画は横浜のゴミの分別についてですね。配布場所は学校や地元の商店、公共の施設などです。町内会の皆さんにもお配りしています。

戸川 組合員さんは古紙回収などで町内会とのお付き合いが深いんですね。例えば町内会長さんから「ゴミの分別がよく分からない」と相談されたとします。そんな時は「じゃあ、これを読んでください。町内会に配ってください」とお答えしますね。リサイクルとは一体なんなのか。新聞と雑誌を別に束ねなければならないのはなぜなのか、大人でも明確に答えられる人は少ないです。そのあたりの情報を発信することによって、皆さんに分かってもらうのが使命だと思っています。

地域循環型社会を目指す「月刊リサイクルデザイン」 創刊200号を迎えた横浜発のフリーペーパー(ヨコハマ経済新聞)

■子どもの意見は真っ直ぐ

―環境絵日記という企画も実施されているとお聞きしました。

栗原 環境絵日記は2000年から始まりました。横浜市内の小学生の皆さんに、夏休みの自由課題として、エコに関する話題を絵日記にしてもらって、応募してもらっています。当初集まったのは1,000点でしたが、年々増えて今年は約1万8,000点の力作が集まりました。横浜市内の小学生は約20万人いますが、そのうちの10%近くの方からご応募頂いているということになります。また、応募してくれたお子さんが、いろいろなところでエコ活動を行っていると聞きます。嬉しいお話です。これをきっかけに、皆さんにエコに興味をもってもらえればと思います。

―環境絵日記は戸川さんが企画されたそうですね。

戸川 最初は夏休みに応募用紙を家に持って帰ってもらうことで、ご家族の皆さんで環境問題について話してもらおうということが狙いでした。例えば「3Rについてなにか実践していますか」というテーマだったら、家族で「3Rってなんだ」という話が生まれるわけです。しかし、時間が経つに連れて、社会的ミッションが変わってきましたね。

栗原 今応募頂いている作品を読んでいくと、1つ1つメッセージ性が強い。こういったメッセージを発信することが大きな希望ですし、やらなければならないことだと思っています。

―全作品を読むのも大変ですよね。

栗原 1作品を10秒で読んだとしても、全部読むのに18万秒かかるというような計算をしたりしますね(笑)18万秒というと50時間です。でも、「作品を読む」ということはこの企画の核の部分なので、きちっとしないといけないなと思っています。

―とてつもない数字ですね。今年はどんなテーマで募集したのですか。

栗原 今年は東日本大震災があったということで、「未来のエネルギーについて考えてみよう」というテーマで実施しました。比較的今年は応募が多かったですね。節電のことなどがよく言われていた時期でしたし。どうやったら自分たちでエネルギーを作り出せるかということを考えてくれましたお子さんもいましたね。一個一個のメッセージが心に残りました。

戸川 エネルギー問題みたいな言い方をしてしまうと、ネガティブに捉えられてしまう可能性があります。そのため「未来のエネルギー」というテーマにしました。今回、ある賞をとったのが、事故のあった福島から引っ越してきたお子さんでした。いろいろお話を聞いたのですが、やっぱりぐっとくるものがありましたね。

栗原 お子さんの意見は真っ直ぐです。大人はもうちょっと考えなきゃいけないなと思いますね。

大さん橋で「リサイクルデザインフォーラム」-環境絵日記500点展示(ヨコハマ経済新聞)

■2002年には日韓で実施、その背景は

―環境絵日記にまつわる思い出などがありましたらお願いします。

戸川 1年目は1,000作品集まりましたが、2年目は700作品と応募者が減りました。3年目に「このままじゃいけないな」と思いましたね。その年は2002年、ちょうど日韓ワールドカップがあった年です。当時、日本と韓国の国際交流に関して国から助成金制度がありました。これを利用しない手はないと思い、日韓で環境絵日記をやろうという企画書を出したら、「ぜひやってください」という話になりました。でも、僕らは当時「アニョンハセヨ」すらも知らなかったんです(笑)韓流ブームもまだなかったですから。それでも企画書を持って韓国大使館に行ったら、「韓国の仁川(インチョン)の教育委員会に話をしたから、行って自分たちで説明してきてください」と言われたんです。結構無茶ですよね。それで2人で行って熱く語ってきましたよ。あの頃は僕が企画を立てていたので、栗原に撮影係を頼みました。これをドキュメンタリーに残そうと思いまして(笑)そんなノリでやりましたね。でも日本に戻って映像を確認したら肝心のシーンが全く映っていませんでした。

栗原 自分もとても緊張していて、カメラをテーブルに置きっぱなしにしていたままだったんです。それなのに「俺、よく撮ったなあ」って言って、普通に鞄の中に入れてしまったという。

戸川 それくらい緊張していたということです。相手がうんというまで帰らないぞという意気込みでしたから。最初の30分ぐらいで気持ち良く「やりましょう」と言って頂いた。その後、韓国の子どもたちを横浜にお呼びして、日韓で子どもたちによる環境問題への取り組みに関する共同宣言も発表しました。

栗原 その時は韓国の3家族を羽田まで迎えに行ったんですけど、やはりここでもぐっときましたね。何も知らないで韓国大使館に行ったところから、ここまで来ることができたのですから。僕自身も活力になりましたね。

■電子化でより多くの作品を公開

戸川 それが2002年のエピソードで、2009年には応募が1万作品を超えました。それなのに、毎年10月に開催しているイベント会場では皆さんには500作品しかご紹介できない。何か違うのではないかな、という気がしていました。

栗原 そんな時に、富士ゼロックス(東京都港区)さんがお子さんに関わる企画に貢献したいと、横浜市に相談されたんですね。担当の方とお話したら「ぜひ、一緒にやりましょう。もっといろいろな形で社会に発信できるように取り組んでいきましょう」ということになりました。それと日本財団(東京都港区)さんも一緒になって、3団体で実行委員会を立ち上げて、新しい取り組みを始めました。昨年は富士ゼロックスさんから「環境絵日記の電子化を行いましょう」というお話がありました。応募者の了承を得て、スキャンさせて頂いたものをホームページにアップするということから始めて、それから我々のホームページのアクセスが伸びたんです。これはやってよかったなあとすごく思いましたね。

富士ゼロックス

―500作品以外のものも見られるようになっているのですね。

戸川 昨年は全1万4,000作品のうち1万1,000作品は公開を了承してもらいまして、お名前を検索したらすぐに出るようになっています。パソコンであれば、お子さんとは遠く離れて暮らしているおじいちゃんやおばあちゃんでも見てもらえる。大賞をとるお子さんもすばらしいですけど、他にも力作がいっぱいある。ぜひ、皆さんに見て頂きたいと思います。電子化であればいろいろなところで作品展ができるなということで、例年イベントを実施している大さん橋ホールだけでなく、JICA横浜(横浜市中区)さんなどでも展示会をさせて頂きました。昨年は横浜でAPECがありましたので、インターナショナルスクールの方からもご応募頂いた。やっていくうちに、どんどん公開すべきだなあと思いましたね。

栗原 電子化の効用として、いろいろなものにプリントできるという強みがあるんです。みなとみらいの住宅展示場「横浜ホームコレクション」の全棟を使いまして、作品をTシャツにプリントさせて頂き、子ども部屋に飾るということもさせて頂きました。これは展示場の方にも喜んでもらえましたね。

戸川 電子化によって、やっと全部の作品を紹介できるツールを手に入れたという感じですね。

環境絵日記(リサイクルデザイン)

―12年という歴史も、もうだいぶ長いですよね。

栗原 最初に応募してくれた子はもう大学を卒業するくらいになりますね。審査会に市民の方をお呼びすると、以前受賞した中学生や高校生の方もいらっしゃいます。中にはスタッフをやりたいという声もありますね。

戸川 12年もやっているといろいろある。栗原が「リサイクルデザインフォーラム」というイベントの実行委員長だったときに、横浜のゴミを30%削減するG30プランが始まった時期くらいだったので、最後に子どもたちとステージに上がって「G30」と叫ぼうよという話になりました。最後の実行委員長の挨拶の時、栗原の周りに子どもたちが「ぶあーっ」と集まりまして。

栗原 僕は感動屋なんですね。別に自分のために集まってきてくれたわけじゃないんですけど。お子さん方とイベントを共有できたと実感して、思わず涙してしまいました。その時は会場から「頑張れー」という応援の声が挙がりました。

戸川 会場に500人くらいいる中で、泣いている栗原がいる。これはすごいことだなと。毎年やっていると、スタッフもそのことに慣れるんですね。インカムで「そろそろ実行委員長が泣きますよー」って(笑)

■10月30日に「リサイクルデザインフォーラム」を開催

―お話にもありましたが、そんな環境日記も展示するイベントがもうすぐ開催されるとお聞きしました。

栗原 毎年「リサイクルデザインフォーラム」というイベントを行っています。今年は10月30日に大さん橋ホールで、環境絵日記の優秀作品約500点を展示し、表彰式も行います。そのほかにも、楽しみながらリサイクルを学んで頂こうという企画が盛りだくさんです。例えば、ステージでは昨年からリメイクした衣装でキッズダンスのショーを行っています。これは僕も侮っていたんですが、実はかなり本格的です。ぜひご家族でご来場頂ければと思います。

リサイクルデザインフォーラム(リサイクルデザイン)

■必要とされる存在に

―今後、目指す方向性ややりたいことなどはありますか。

栗原 私たちの組合ではリサイクルデザインタウン構想というのがありまして、2020年に向けて組合の活動ビジョンを作ったんですね。当初組合ができた時の構想にもあったのですが、リサイクル事業者の組合としての相互扶助というのは当然そうなんですけど、そういった力を駆使してまちづくりや事業提案など、市民の皆さんに情報発信するといったパブリック的で、行政とは違った架け橋になれるような立ち位置で、いろいろ社会的な活動をしていくというのが我々リサイクル業界にも求められていると思うので、より力を入れてそういったことをやっていきたいです。

戸川 必要とされる組織、または必要とされる人たちになれればと思っています。彼らがいたから良かったと言われる仕事をしたい。彼らがいなくても良かったと言われると寂しいじゃないですか。最近は、社会的ミッションという言葉もあります。やっぱり世間様に必要とされるような仕事をしたい。そうすれば、頑張っている姿をみてくれるだろうし、ちゃんとゴミを分別しようかなと思ってくれるだろうし、そうすれば循環型社会ってもっと良くなると思います。市民の方はゴミを廃棄物として出しますが、僕らとしてはそれは商品なんです。市民の方が協力してくれるとありがたい。僕らがいていいよと言われるような存在になれればと思います。

―ありがとうございました。

リサイクルデザイン(横浜市資源リサイクル事業協同組合)

※ヨコハマ・エコ・ビューイング
環境キーパーソン公開取材「ヨコハマ・エコ・ビューイング」は毎週火曜の19時30分~20時30分に、共同シェアオフィス<さくらWORKS関内>で実施中。会場で聴講が可能なほか、USTREAMによるインターネット生中継も行われている。

ヨコハマ・エコ・ビューイング(横浜コミュニティデザイン・ラボ)

梶原誠司 + ヨコハマ経済新聞編集部

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