特集

2010年・横浜のおせち事情
いち早く取り入れられた「食の無国籍化」

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■あなたの家庭では「家でつくる派」?それとも「買う派」?

 家族旅行を控え、年末年始を自宅で過ごすという人が増えて来ている。また、核家族化にともなって、少人数分のおせちを作るのは不経済、さらに年末ギリギリまで仕事をする女性が増え、おせちをつくる時間がないなど、いくつかの理由から家ではつくらず「買うおせち」派が定着してきている。注文おせちの予約時期は既に佳境に入り、今から重箱を開く当日を楽しみにしている家庭も多いことだろう。

■フレンチ、中華、純和風など彩り豊かな百貨店では

 まずは、彩り豊かなおせち料理が並ぶ百貨店を見てみよう。

 百貨店でおせち料理を販売するようになったのは1950年ごろ。当時は、予約の際に客が重箱を持参し、大晦日に受け取るという仕組みをとっていたという。その後、完成品のおせちが登場し、定着したのは2000年前後。女性の社会進出やライフスタイルの多様化が進んだと同時に、西暦の変わる1999年の「2000年問題」や2001年の「9・11テロ」などの影響もあり、「家で過ごすお正月」という傾向が強まったことも影響して「買うおせち」が定着した。

 さて、10月から予約を開始した、横浜タカシマヤ(横浜市西区南幸1)では、老舗料亭・有名ホテル・人気レストランなどのおせちや、少人数向けのお手頃タイプ、健康志向の「精進おせち」など、和・洋・中、約330種類のおせちを取りそろえた。

 中でも人気なのは、横浜タカシマヤオリジナルの「開店50周年記念おせち」(和・洋・中)のほか、横浜に店をかまえるフランス料理のシェフ3人が、それぞれの個性を生かして仕上げた「横浜フレンチ競演おせち」、横浜中華街の老舗店の味を楽しめる「皇朝の中華二段重」などだ。

 高島屋の広報・IR室の花井宏演さんは「デフレの影響からか、お正月を家で迎える方が多いようで、例年より販売数は増えています。価格帯では、手頃な1~2万円の商品に人気が集中する一方で、高級料亭や有名ホテルが手掛ける高額商品も完売状態。節約派と贅沢派と“おせち”にも、二極分化が進んでいるようです。予約での販売は既に申し込みを締め切っていますが、横浜タカシマヤでは31日までおせちを販売していますので、ぜひご利用ください」と話す。

 会場は地下1階催し会場、営業時間は10時~20時。販売期間は12月29日~31日まで。

横浜高島屋がおせち料理の予約受付スタート‐330種類を販売(ヨコハマ経済新聞)

横浜タカシマヤ

■「地産地消」で神奈川の農家や漁師のお母さんたちの味を堪能!

 一方、バラエティー豊かな百貨店とは対照的に、神奈川の食材にこだわった「かながわおせち」を販売するのは、横浜から80キロメートル圏内の食材を調達し、その食材を80%使用するというカフェレストラン「80*80(はちまるはちまる)」(中区北仲通、TEL 045-663-7056)だ。

 同店は「地産地消」というコンセプトのもと、5年前に開店。店舗でのメニュー提供や弁当販売に加え、2006年から神奈川の食材にこだわった「かながわのおせち」を販売してきた。

 このメッセージ性の強い同店のおせちは、食の安全性への関心の高まりを背景に、発売当初から新聞やTVなどをはじめ、各メディアで紹介され話題を呼んだ。その証拠に、同店でおせちを購入する客は毎年のリピーターが多いという。そんな客の要望に応え、今回はさらに神奈川を身近に感じられるおせちに仕上げたようだ。

 80*80のカフェで提供する料理の食材は、オーナーの赤木徳顕さんが直接産地に出向いて、納得できるもののみを調達している。今回は、そのこだわり食材を生産している寒川町や津久井の農家をはじめ、三浦の長井、小網代の漁師のお母さんたちがおせちの調理に参加した。

 「地元で生産したものを地元で消費するという『地産地消』や、食に対する安全志向の高まりは、消費者だけでなく生産者も同じです。『おせち』を通じて、生産者 の方と消費者の方がより近くに感じてもらえることで、神奈川産の食材が、より一層質の高いものになる。そのきっかけづくりになれたら」と、このおせちに込めた思いを赤城さんは話す。

 おせちの内容は、水分たっぷりの三浦大根にしっかりと味を含ませた「三浦大根の煮つけ」をはじめ、三浦の長井で水揚げされたイワシを素揚げにして甘煮にした「カタクチイワシの素揚げ田作り」、寒川産のローズマリーを使用した「水郷若鶏のローストチキン」など、14品目が詰められる。そのほかに、各地のおせちに関するエピソードや、料理や食材に対する想いをまとめた小冊子が付く。おせちを食べながら、料理に込められたメッセージや物語も楽しめるのも同店のおせちが人気である理由となっている。

 価格は重箱(27×18センチ)2段重ねで12,600円(税込)。今冬は既に予約を締め切っている。

80*80が地産地消「おせち」-県内農家・漁師のお母さんの手作り(ヨコハマ経済新聞)

80*80

■ギャルママも日本の文化・おせち作りに挑戦!

 20~60代の子どもを持つ主婦を対象に行った「お正月に関する意識と実態調査」によると、「おせちを自宅で用意する」と答えた主婦は全体の約半数だったという。このままでは、子どもたちに正しい「お正月」が伝承されず、江戸時代から200年以上も続く日本の伝統料理ともいえるおせちもお正月の食卓から姿を消してしまうかもしれない。そんな危機感から設立されたのが、実態調査を行った「お正月ニッポンプロジェクト」だ。

 同プロジェクトが設立されたのは今年の10月。「日本人のしきたり」(青春出版社)の著者で、民族学の専門家・飯倉晴武さんらが発起人となり、活動を開始。小さな子どもを持つ10~20代の母親を主な対象とした「簡単おせちづくり」イベントを企画し、横浜では11月25日の横浜市青少年交流センター(西区老松町25)と、12月10日の平沼記念レストハウス(中区不老町2-7)で開催された。

 11月の開催時には9組の親子の参加にとどまったが、その後、ギャルママサークルのメンバーで評判となり、2回目の参加者は予定数20組をオーバーする22組が参加した。

 イベントでは、子どもたちも十分楽しめるよう、プロジェクトの説明のあとに年神様のアニメーション「としがみさまをおうちによぼう大作戦!」を上映。その後、母親と子どもによるおせち作りと試食会がおこなわれた。

 おせちづくりでは、料理研究家の今泉久美さんの指導のもと「うさぎ」や「ちょうちょ」などの形にする「かまぼこの飾り切り」を実践。かまぼこの形が日の出に似ていることから、縁起の良いめでたい食べ物としておせちにとり入れられたことや、黒豆には「まめまめしく、健康で働けるように」との祈りが込められていることなど、おせち料理のいわれについての説明を受けながら、おせち料理5品を約11センチ四方の重箱に親子で詰めていった。

 イベントに参加したギャルママサークル「Brilliant LaB」代表のAKIさんは、このイベントへは2回目の参加。「おせちの重箱に詰める料理の数が3、5、7とおめでたい数字にこだわっているのもこのイベントで初めて知った。娘も『お家でもおせち作りをしたい!』と、張り切っています。この経験をママ友達にも体験させてあげたいと呼びかけたら、思った以上にみんな興味を持ってくれたのでビックリしました」と話す。

 「きれいに彩りよくお重に詰めていく『おせちづくり』は、子どもが小さくても楽しめます。お母さんと行うことで、子供たちが自然と料理や行いの意味を覚えて、新しい発見につながります」と今泉さん。

 プロジェクトのホームページでは、今回行ったイベントにも使用した、お重への詰め方が簡単にわかる「簡単おせちガイドシート」や、飾り切りのレシピがダウンロードできる。未来の横浜や日本を担うであろう子どもたちが、正しい日本の正月文化をのちの世代にも伝えられるよう、ギャルママたちに負けずに、ご家庭でも試してみてはいかがだろうか?

ギャルママがおせち作りに挑戦-お正月ニッポンプロジェクト(ヨコハマ経済新聞)

お正月ニッポンプロジェクト

■2010年、そしてこれからの横浜おせち事情は

 トマト、キャベツ、パセリなど、今では日本の食卓に欠かせない食材となっている西洋野菜を最初に家庭の食卓に取り入れてきたのは、何を隠そう横浜の人々である。横浜港が開港して150年を迎えても、海外から伝わった新しいモノを独自にアレンジして受け入れていく姿勢は、まさに横浜人気質と言えるだろう。

 しかし、だからと言って地元の横浜や神奈川にこだわらないわけではない。さまざまな歴史の舞台になった土地だけに、横浜の人々は古くから伝わる物語やメッセージに愛着を持ち、それを大切にする。もちろん、現在でも多くの外国籍の市民が住み暮らしており、さまざまな国の味が楽しむことができるのも横浜である。

 近い将来、各地の良いところだけを吸収した「横浜ラーメン」といった地域ブランドが確立したように、和・洋・中華などさまざまな国の料理が混ざり合った、横浜発の新しい「おせち」のあり方が出てくるかもしれない。編集部では今後もそんな動きに注目していきたい。

児玉こたつ + ヨコハマ経済新聞編集部

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