特集

学生も創業するならダンゼン横浜?
夢の実現を支援する起業家育成環境

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■若い世代の柔軟な思考がユニークなビジネスを生み出す

「ソフトバンク」の孫正義代表、「チケットぴあ」の矢内廣代表、いま話題の「ライブドア」堀江貴文代表――。いわゆるベンチャーの旗手とよばれる彼らの共通点は学生時代に会社を設立したということだ。彼らは学生ならではのユニークなアイデアで新しいビジネスモデルを作りだし、会社を成長させてきた。もちろん、こうした成功例はごく1部であり、失敗するケースのほうがはるかに多い。しかし、学生時代の失敗は、やり直しがきく。社会人になってから起業するよりも、思い切った挑戦ができるのではないだろうか。一方、「大企業に就職すれば一生安泰」という神話はすでに崩壊している。多くの企業では、自分自身の頭で考え、自立して行動できる人材――つまりリーダーシップやマネジメント能力、アントレプレナー精神をもった人材を求めるようになってきている。就職するにしても、起業するにしても、自分らしい生き方をするために起業家マインドは不可欠だと言える。

YOKOHAMA ENTREPRENEUR SPIRIT

■横浜市は学生向けに起業をテーマとしたイベントを計画

昨年度からの3カ年で「起業・創業350社」を目標に掲げる横浜市は学生の起業家マインド育成の重要性を意識している。「3カ年計画は順調(03年度で172社達成)、大人向けの起業家講座などを実施してきましたが、長い目でみた場合、学生や若い世代の起業支援にもっと力を入れていかなくてはならないと考えています。そこで、今年度、市としては初めて、学生向けの起業支援事業に予算を計上しました」と横浜プロモーション推進事業本部、創業・ベンチャープロモーション課の石井和男さんは語る。予算額は200万円。小中学生向けの起業家教育のほか、大学生を主な対象とした学びと交流のイベントを計画している。「いまの学生が、起業や創業といったものに対して関心をもっているか、正直言ってわかりません。まずはイベントなどを通して彼らの現状を把握し、そして来年以降につなげていきたいですね」と石井さんは語る。同課の高木秀昭さんもこう続ける。「若い世代が自分の将来を考えるきっかけになるような、そんなイベントを今、計画しています。起業する・しないは別として、まずはリーダーシップやマネジメント能力を身につけてほしい。どうすれば自分の夢を実現できるか、そのために何をすべきか。そういった思考プロセスをもった人のなかから、将来、横浜に起業家が生まれてくることを期待したいですね」。

横浜プロモーション推進事業本部
石井和男さん(右)と高木秀昭さん(左)

■よこはまビジネスプラングランプリ学生部門

横浜産業振興公社も2003年度から「よこはまビジネスプラングランプリ」を開催している。横浜で起業を志す人々のビジネスプランを審査・表彰するというもので、そのなかに「学生ビジネスアイデア部門」もある。応募資格は市内在住、在学または将来横浜で事業を起こそうと考えている高校生、大学生、大学院生、専門学校生で、今年度の募集期間は10月12日から12月3日まで。12月中旬に一次審査会、最終審査会、発表会が行われる予定。同公社経営支援部の鴇田実さんは「近年、ベンチャー経営者は学生時代から創業を目指し、活動していた方が多くなってきています。そこで、将来起業家を目指す若者を掘り起こし、支援することを目的としています。学生の皆さんに卒業後の選択肢のひとつとして、近い将来、起業するということも頭に入れて、就職活動なりをしていただきたいと思います」と語る。昨年度の応募数はわずか4件のみだった。「応募数を増やすのと同時に、学生のレベルアップを図っていきたい。今年は10月8日と15日、2回に分けて無料で受講できる『学生向けビジネスプラン作成講座』を実施し、参加者にはビジネスグランプリへの応募を促したい」と鴇田さんは抱負を語る。

横浜産業振興公社「よこはまビジネスプラングランプリ」

学生向けビジネスプラン作成講座では、起業支援コンサルティングを手がける株式会社「ワイエスビー」の舟生俊博代表が講師を務める。「学生に欠けているのは社会経験。面白いアイデアはあっても、人やカネの面などで実現性の高いビジネスプランを描くことはなかなか難しい。この講座では、参加者にある事業化テーマを与え、その事業計画の作成を一通り体験してもらいます。自分のアイデアを事業化するときに、その体験を役立ててほしい」と語る。また、行政の取り組みについては「すぐに結果が出ることではないので、10年先、20年先を見据え、地道に続けていくことが必要ですね」と語る。

横浜産業振興公社「学生向けビジネスプラン作成講座」 株式会社ワイエスビー
株式会社ワイエスビー

■起業家マインドも自分流~「ジャムコム」政池英一社長

今年の1月、横浜で株式会社「ジャムコム」を設立した政池英一さん(38歳)は横浜国立大学出身。大学在学中に事業を起こした経験がその後の自分のキャリアマネジメントにプラスになったと語る。「大学1年生のときに『学生による学生のためのマーケティング会社』として友人と一緒にアンケート調査やイベント事業を手がける会社をつくりました。遊びの延長という感じで始めて、4年まで続けました。今にして思えば会社もどきですが、学生時代から電通のような大手企業と仕事をして社会勉強できたこと、会社を経営するという視点を早いうちに持てたことはいい経験でした」。卒業後も事業を続けるという選択肢もあったが、政池さんは就職しながら勉強し、将来起業することを決意。総合商社の「イトマン」(93年、住金物産により吸収合併))で働きながら慶應義塾大学ビジネススクールでMBA(マーケティング専攻)を取得。その後、市場調査、情報および分析サービスの「ニールセン」、広告代理店の「東急エージェンシーインターナショナル」、会計監査の「アーサーアンダーセン」とさまざまな業種でマーケティングの実務を経験し、01年、現在勤めるマーケティング調査会社に転職してネットリサーチ事業を立ち上げた政池さんは今年1月に会社公認で株式会社「ジャムコム」を設立。平日の日中は会社で勤務、早朝や夜、土日を利用してジャムコムの運営にあたるという二足のわらじを履く生活だ。会社員でありながら別の会社では社長、というのも珍しい起業形態といえるだろう。

「会社の名前や肩書きにはあまり興味がないのです。会社員として社内で評価されるよりも、マーケティング・ディレクターとして世間から認められたい。自分でやった仕事の評価がちゃんと自分に返ってくる、そのために自分の会社を作りました。だから社員を増やしていくつもりはない」。現在、ジャムコムは政池さんのほか取締役2名、社員1名の会社。今年度(実質9カ月)の売上は1500万円を見込んでいる。政池さんは起業するにあたり、横浜という土地にこだわったという。「新しいビジネスモデルを動かしてみる上で、テレビ局、FM局、スポンサーとなりうる地場企業などが一通り揃っている横浜は好環境。地元愛が強いからコラボレーションもしやすいし、東京からも近い。住むこと、働くことを考えるとリアリティーがある都市は横浜」。政池さんは今年の4月から中区の「SOHO STATION」にオフィスを構えている。同施設に入居する起業家などとの交流から、すでに2社から仕事を受注したという。

政池英一さんブログ SOHO STATION

若い世代に対して、政池さんは「私がマーケティング・ディレクターとして生きていこうと決心したのは35歳のとき。少々遅かったと後悔しているんです。起業であれ、なんであれ、早く自分の目標を見つけて行動する人ほど成功できると思います。たとえいい会社へ就職しても目的を持っていなければ成長することはできない。常に学びの姿勢を持って働くのなら得るものは必ずあります。今の世の中、どんな会社に入っても安定の保証などない。いい会社に入るより自分がやりたいことを見極めることが大切」と語る。たとえ学生起業して失敗したとしても就職という道もある。起業の経験は、若ければ若いほどローリスク・ハイリターンとなる。やり直しできる若いときにいかに多くの経験を積めるかが大切だという。「横浜の大学生に、ぜひとも横浜で起業してほしい」と政池さんはエールを送る。

今年度より学生向けの起業支援に取り組み始めた横浜市。重要なのは支援事業を単発で終わらせず継続させていくことだ。また、様々な支援機関との連携や大学とのより深い関係構築も今後の課題であろう。彼らがすぐさま横浜経済界をリードするような起業家になるわけではない。支援する大人たちは若い人たちがチャレンジしたくなるような魅力的な創業環境を整備し、才能ある起業家と一緒になって成功体験を共に積んでいくことが大切なのだろう。

株式会社「ジャムコム」 株式会社「ジャムコム」代表取締役の政池英一さん SOHO STATION 起業創業に関する資料
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