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関東大震災から98年:確かな情報で備えを~ニュースパーク尾高泉館長に聞く

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 2011年3月11日の東日本大震災から10年がたち、1923年(大正12年)9月1日に発生した関東大震災から98年がたつ。関東大震災での死者は約10万5,000人、全半壊・全焼・流出した家屋は約37万棟。横浜の被害も大きく死者は2万6,000人余り、被害を受けた家族は約3万5,000棟に上った。
 災害についてどのように確かな情報を得て、どのように行動して災害から命を守るのか。企画展「伝える、寄り添う、守る――『3・11』から10年」と関連シンポジウムを開催中のニュースパーク(日本新聞博物館、横浜市中区日本大通)の尾高泉館長に聞いた。

 東日本大震災で教職員の車や教材、ガラスが散乱した岩手県大槌町の大槌小学校校庭(右奥が校舎)=2011年3月13日(岩手日報社提供)

「伝える」「寄り添う」「守る」をテーマに

―――今回の企画展、関連シンポジウムの意図をあらためて教えてください。

 東日本大震災から10年の節目に合わせた企画で、「伝える」「寄り添う」「守る」の3つをテーマにしています。「伝える」は普段からの新聞・ジャーナリズムのことで、3・11から10年、新聞は震災(と復興を)どのように伝えてきたのかということです。「寄り添う」は、新聞が毎日毎日、発行されて、地域を支え続けてきていることを表しています。「守る」は、命を守ること、未来につながる防災・減災と新聞の役割を考えることです。今回の企画展は、被害の大きかった3県の地元の新聞4紙(岩手県の岩手日報、宮城県などの河北新報、福島県の福島民報と福島民友)の特別協力で開催しています。

東日本大震災からの全線復旧後、2019年の台風19号で再び被災。二度の大災害に見舞われながらも運行再開した三陸鉄道=2020年3月20日、岩手県山田町(岩手日報社提供)

 展示では、被災地の地元の新聞が10年間、読者・住民に寄り添って、どのように伝えてきたかを、福島の原発事故のことも含めて紙面や記者らの寄稿、写真などで振り返っています。「守る」では、熊本地震(2016年4月)や北海道胆振東部地震(2018年9月)、西日本豪雨(2018年7月)など全国各地で頻発する自然災害について、地元の新聞の対応を紹介しています。そして、ここが大事なのですが、防災・減災に向けてどんな取り組みが広がっているかを知り、さらにどのような仕組みが必要か、考えてもらおうとしています。災害時の情報との向き合い方についても、コロナ禍同様、問題提起しています。

―――報道写真を展示するコーナーを見ると、福島の写真だけが10年前とまったく変わっていないことに衝撃を受けます。

 3県の写真をフラットに(差をつけずに)並べることで、福島の状況がよりはっきり見えたのではないかと思います。

東日本大震災から9年後の2020年3月11日、自宅跡に設けた祭壇に手を合わせる男性=福島県双葉町(福島民友新聞社提供)

 
 当館では毎回、企画展に合わせ、関連のシンポジウムを企画・開催しています。今回のシンポジウムの第1弾「地元紙が伝えた10年とこれから」は、毎日毎日、10年間寄り添ってきた地元の新聞の話を聞くべきだと考えて、8月21日に、地元4紙の報道部長に集まっていただいて議論しました。

 >>新聞は震災と復興をどのように伝えてきたのか
 >>東日本大震災で大きな反響があった避難所に避難した人の名簿

 福島については、原発事故という全く別の要素があるので、別の形でやらなければと、8月28日にシンポジウム第2弾「福島の伝え方 東京電力福島第一原発事故から10年」として開催しました。まず、福島2紙の思いを聞くこと、さらに、リスクコミュニケーションや科学の課題などを念頭に、異なる意見の間の対話や「安全と安心の隔たりを埋めるコミュニケーション」の必要性、多面的な報道について考える機会として企画しました。

 >>放射性物質を含んだ処理水の貯蔵タンクが並ぶ東京電力福島第一原発
 >>たわわな実をつける福島の桃

 9月19日に開催するシンポジウム第3弾「防災・減災に向けて 新聞社に求められること」は、防災・減災に向けて、新聞以外の人も含めて関わっている人の話を聞く場が必要だという思いで企画しました。集中豪雨や大地震と、災害が激甚化する中、ジャーナリズムとしての取材・報道の枠組みを越えて、命を守るための取り組みに、新聞がどう関わることができるか、社会実装に向けて活動する研究者やNPOの人にも参加してもらって考えます。

関東大震災での「フェイクニュース」も展示

―――展示の中には、1923年9月1日に発生した関東大震災での横浜の被害を伝える新聞や流言飛語をそのまま記事にしている新聞も含まれています。

 あと2年で関東大震災の発生から100年になります。今回、流言飛語を載せた紙面を6点、意識して展示しています。「横浜全市が海底に沈んだ」「伊豆7島が噴火」「横浜では軍と朝鮮人が砲火を交えているとの風説あり、確認中」「政府が流言飛語を取り締まる」など、「フェイクニュース」を巡る問題があったことも紹介しています。

「横浜市全市海底に」と誤った情報を伝える関東大震災のときの新聞も展示されている

 新型コロナウイルス感染症の広がりとともにわかったのは、自分が見ているSNSの情報だけで判断する人が多いということです。ニュースパークでは2020年7月から9月、緊急企画展「新型コロナと情報とわたしたち」を開催し、デマの広がり、フェイクニュースについても考えました。メディア環境やニュースの流通構造は全く変わっています。

 SNSをリツイートやシェアして共有・再発信するだけで、自分が誤った情報の発信者になってしまったり、誤った情報の拡散に加担してしまったりします。関東大震災のときの流言飛語の比ではありません。その自覚と情報に対するリテラシー(読み解く力)を持ってほしいと思います。

 横浜の近くでも静岡県熱海市で2021年7月、土石流災害が起きました。新聞はさまざまな災害について、紙面だけでなく、ウェブなどでも写真を使いながら訴えてきました。新聞だけを見ろというつもりはありません。確かな情報に接するということとメディアの役割を考えていただければと思っています。

 >>緊急企画展「新型コロナと情報とわたしたち」

―――首都直下型地震、南海トラフ地震の発生も危惧されています。

 30年以内に70~80%の確率で、首都直下型地震、南海トラフ地震が発生するとされています。東日本大震災の発災直後の避難者数は約47万人と聞きますが、首都直下地震や南海トラフ地震では、内閣府によると、避難者はそれぞれ720万人、950万人と想定されています。横浜だけが被害を受けて全国が支援してくれるわけではありません。それぞれの地域で防災・減災に取り組むしかありません。災害想定をどのように「自分ごと」化して、地域、コミュニティの力を強くしていくか、そのためにどうやって正しい情報を得ていくかが重要です。

 河北新報が東日本大震災の半年後に、「報道は防災や避難に役に立ったか」というアンケートを実施したところ、「役に立たなかった」という回答が約7割もありました。この結果にショックを受けて河北新報が始めたのが、全国各地のメディアと共催する形で地域を巡回し、防災や減災について住民が主体的に行動するためのワークショップ「むすび塾」です。100回以上、実施されています。

 神奈川新聞では、毎週日曜日に「減災新聞」という紙面をつくって、防災や減災に関する情報を取り上げています。こうした取り組みも企画展の「守る」のコーナーで紹介しています。

東日本大震災から10年を迎えた2021年3月11日の河北新報(本社=宮城県仙台市)の紙面

新聞も博物館もコミュニティに根ざす

―――ニュースパークの企画では、地方紙の取り組みに注目するものも多いですが、それはなぜでしょうか。

 全国紙と地方紙のどちらかを重視しているということはありません。新聞、ジャーナリズムの役割には、権力の監視、人権を守ることなどと並んで、「コミュニティに根ざす」ということがあります。自然災害が多発するなか、2019年に歴史展示を拡充した際、常設展示に「災害と新聞の役割」のコーナーを設けました。災害は、災害ごと、地域ごとに、被害の実相や備えるべき対策が違っているので、災害と情報・新聞について考えようとすれば、地方紙の報道が中心になるのです。

―――ニュースパークは日本新聞協会が運営する博物館ですが、その立場を考えて非常にユニークで貴重だと思うのは、新聞以外の地域のメディア、ローカルメディアの取り組みにも注目し、発信されていることです。

 2019年10月~12月に企画展「地域の編集-ローカルメディアのコミュニケーションデザイン」を開催しました。旧来の「地域メディア」とはちょっと違う、若い人も関わる昨今のローカルメディアの新しい取り組みや、地方紙とローカルメディアの連携の事例も調べて紹介しました。

 >>ニュースパークでローカルメディアの企画展「地域の編集」 メディアづくりワークショップも

 >>「コロナ禍におけるローカルメディア」 横浜・ニュースパークで運営者らが議論

 2016年のリニューアルで当館は「情報と新聞の博物館」を掲げました。そして博物館は、社会教育施設です。社会教育施設としては、地域との連携、社会とのつながりを図っていくのは当然のことだと考えています。メディアの変化よりも社会の変化、社会のデジタル化の変化の方が大きいので、社会の人に支持される博物館でいようとすると、社会の人のメディア利用の変化に直面します。だから展示や企画を工夫します。ただ「新聞はすごいでしょう」という企画をやっても支持されないと考えています。

 「地域の編集」もコロナの緊急企画展も、若い人の紙メディアへのこだわりや情報社会の実相など、新聞以外の要素を多く伝えました。その上で新聞の役割や重要性を伝えています。

 当館で最も大事な展示は、子供たちに向けて掲げる「戦争と新聞を学ぶ意味」というパネルです。「正確で正しい情報が提供されているか」「そのために言論の自由が保障されているか」「新聞・メディアが責任ある報道をしているか」、戦争の時代の経験は、この3つがそろうことの大切さを教えてくれます。

 情報には命を守る役割があります。戦争もコロナ禍も災害も。災害時に確かな情報をどのように手に入れるか、災害が起きていないとき何をするべきか、企画展やシンポジウムを通じて、ぜひ自分にかかわることとして考えてほしいと思っています。

 >>ニュースパークで「言論弾圧と新聞」展、リンゴ日報最終号も展示

尾高泉さん(ニュースパーク=日本新聞博物館=館長)

東京都在住。1987 年、ニュースパークの運営母体・日本新聞協会に入職。広報や新聞社のデジタル部門についての調査研究、新聞を購読しない層への対策、学校などで新聞を教材として活用する「NIE」の普及などを担当してきた。2017年1月、同協会博物館事業部長、同10月から、ニュースパーク館長を務める。

 
 企画展「伝える、寄り添う、守る――『3・11』から10年」は、同館で9月26日まで開催中。緊急事態宣言発令中は、金曜日と土曜日のみ開館で、新型コロナウイルス感染防止のため、電話かメールでの事前予約が必要。

 シンポジウム第3弾「防災・減災に向けて 新聞社に求められること」は9月19日10時から12時30分まで、防災や被災地支援の取り組みに関わる専門家も交えて開催する。同館内での対面式・サテライト形式とオンラインで実施予定だが、変更の可能性がある。参加費は、オンライン参加は500円。会場参加は無料(ただし入館料が必要)。申し込みは同館ホームページから。

 >>ニュースパークが災害・原発事故と報道を考えるシンポ

三澤一孔 + ヨコハマ経済新聞

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