特集

CGアートは芸術への道を拓けるか?
日中韓で進む「アジアグラフィック」構想

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■愛・地球博で日中韓のCGアート展覧会 「アジアグラフィック2005」

9月15日から9月17日まで、愛・地球博の長久手会場で日中韓50人の作家によるアジア最高水準のCG作品展「アジアグラフィック2005」が開催される。参加する作家は日本から30人、中国から15人、韓国から5人で、3メートルほどの大きさにプリントした静止画の作品や、最先端の表現を取り入れた映像作品など、静止画100点・映像30点を展示する。主催するのは横浜を拠点に、優秀なCGクリエイターのネットワークを形成している「アジアグラフィック」。代表の喜多見康さんは、「日本のCGアートはマンガやアニメなどの影響を受けながら独自の発展を遂げました。特異な作品の主題やモチーフの扱い、そして極めて高い製作技術と執拗な執着。世界最高水準のCG作品に触れ、CGクリエイターたちに脈々と受け継がれている日本の『ものづくり魂』を感じてください」と語る。

愛・地球博 「アジアグラフィック2005」

「アジアグラフィック2005」では、企画展示1としてビジュアルアーティストの倉嶋正彦さんの巨大CG絵画「パテンテ曼陀羅」を展示する。倉嶋さんはアートの分野でCGを用いた作品を制作している数少ない作家の一人。今回出品した作品は、昨年開催された中国国際電脳科技芸術展に招待作品として出品したもので、超細密な描写が一辺2,4メートル四方の巨大なパネルに描かれており、見るものを圧倒する。9月15日には倉嶋さん本人が実際の作品画像データを見せながら制作過程から作品の解説を行った。企画展示2として、日本独特のリアルな「CG美少女」を筆頭に、ロボット・怪物などの優れたCGキャラクターを展示する「キャラクターの顔」を開催。また、展示作家がこどもに直接指導するCG教室も3日間に渡り開催する。

倉嶋正彦
「アジアグラフィック2005」を愛・地球博で開催 1日に数千人の観客が訪れた 子どもCG教室も3日間に渡り開催 倉嶋正彦さんの巨大CG絵画「パテンテ曼陀羅」

■CG作家がアーティストになれない社会構造

アジアグラフィックは、日本を中心にアジアのCG各ジャンルを代表する優秀な作家を集め、CGアートのトップクリエイティブを常に出し続けることをミッションとしている。そしてその活動の狙いは、テレビやゲーム、広告、企業のプレゼンといった商業メディアの中でしかCG作品の発表の場がない現状に風穴を開け、アートとしての純粋な発表の場を創出することだ。「CG作家が作る優れた作品は、現状では既存産業のなかの一端で使われる素材でしかない。CGは産業用画像生成、表示技術から生まれた表現方法であるためか、芸術とは全く別の存在として扱われています。非常に高度な技術を使いこなし、創造性の高いものを生み出しているにも関わらず、CG作家はただの素材屋に成り下がっている。しかしCG作家自身も、それを使う側も、作品を見る側も、みんなその現状に疑問を持たず、満足すらしてしまっている。CGアートは、日本が世界に誇れる最先端の芸術に為り得ることに気づかせていくこと、そして若々しく創造的な文化と表現がアジアから生れ出るよう、国や体制の枠を超えて活動することが『アジアグラフィック』の活動理念なんです」。

Asia Graphics

CGによる芸術表現が日本でピークを迎えたのは、1990年代中頃から1999年にかけて。今までにない全く新しい表現技術として大きな注目を浴び、優れた創造性を発揮した優秀な人材は大手企業やゲーム会社などに就職。しかし商業や産業という枠のなかでは、企業イメージを高めるための素材や、大衆に受け入れられる“商品”を作るなど、芸術の持つ自由な創造性からはほど遠い仕事をしなくてはならないことも多い。またCGをアートとして発表する場がない現状では、たとえ独立しても大企業の下請けとなることは免れない。優れたCG作家が30代の働き盛りに独立、起業することで、様々な責任や経営に追われ、自らの手で作品を作りづらくなくなってしまうことは、社会的に見ても極めて大きな才能の損失である。そのような社会構造と、どん底の不況により日本のCGアートは、1999年をピークに進化がフリーズしてしまっている、そのまま順調に進化して行けば本物の「アート」になりかけていたのに、フリーズしてしまった日本のCGの進化に、私はアジアグラフィックという活動によって再起動(リスタート)をかけたいのです、と喜多見さんは言う。

「日本のCGは、マンガやアニメ等と同様、数少ない世界に通用するオリジナルコンテンツです。優れたCG作品がきちんとアートとして評価されて価値を高め、制作する作家が十分なリターンを受けられる仕組みが社会になければ、文化として育っていかない。作家が収入を得るために作品や技術を“素材”として切り売りしなければならないような状況を放置しておいて、デジタルコンテンツ産業が国の基幹産業になる事はあり得ないでしょう。なぜならその産業の成果物、商品は文字どおり『作品、コンテンツ』であり、それは機械で出来上がる量産工業製品ではなく、人間のやる気と創造力が作り上げる『作品』だからです。作った人間と作品を正しく評価せずに創造力のレベルを維持、発展させることはできないので、この状況を放置しておけば将来的にはCGの制作レベルは低下するのではないかと危惧しています」。

「アジアグラフィック2005」愛・地球博 アジアグラフィック代表の喜多見康さん アジアグラフィックに参加するCG作家の作品 アジアグラフィックに参加するCG作家の作品

■純粋なCGアートはF1のようなもの

喜多見さんは東京芸術大学での学生時代、CGの黎明期からCGアートに関わってきた。当事はコンペで賞を獲ればすぐビジネスにつながり、デザインやイラストレーションの才能があれば若者でもスターになれる時代。同期には日比野克彦さんがいて、好きなものを作り、それが商売になることを間近で見て、学生ながら浮き足立ったという。もともと工芸や染色を専攻していた喜多見さんは、大学院で教授から「CGをやってみてはどうか」と勧められて始めたのがきっかけだった。在学中にCG専用のパソコンでフラクタル画像をつくり、それを着物に印刷してCGの世界最大の祭典「シーグラフ」に出展。卒業後はCGを扱える希少なクリエイターとして様々な仕事を経験、広告、出版メディアを主な舞台にキャラクターデザイン、イラストレーション作品を多数発表した。

喜多見康のこどものじかん

しかしそこで気付いたのは、アートとしてのCGの純粋な発表の場がないことだった。自分が本当に表現したいことを実現するためには、まずそれが受け入れられる土壌をつくらなくてはならない。喜多見さんは、目指しているのはF1のようなものだと語る。「自動車産業は日常生活で使いやすい車を生み出してきた一方、自動車の性能や創造性を極限まで追及するF1も生み出しました。最高の技術を使い速さの限界に挑戦するという純粋な想いを多くの人が共有し、世界に巨大なマーケットが出来上がった。CGも同じで、商業メディアで使われる素材としてのCG以外にも、最高の技術を使って表現の限界に挑戦するアートとしてのCGの素晴らしさを享受するマーケットを生み出せるはずなんです」。

ビジュアルアーティストの倉嶋正彦さんも、CGアートはごく普通の表現としてあって然るべきだと語る。倉嶋さんにはアートワークの中で作品を作っていくというこだわりがある。「我々が作品を発表するときには、必ず“CG”という言葉をつけなければいけません。それがあるうちは、絵画や写真のように自然な芸術として認識されていないということです。作る側もそうですが、見る側の目も多様になっていく必要があると感じています」。また、CGアートが芸術として成立するためには販売の点でも課題があるという。「作品を印刷するにしてもプリンターやインクなどの規格は不安定なものだし、プリントがどれだけ保存が効くのか未知数という問題もある。やがて大型ディスプレイが家庭に入れば、そこに映せるようにCGのデータ自体を売るようになるかもしれませんが、まだビジネスとして成立するのか見えていない部分が多くあります。逆に言えば、そういった販売形式が確立されれば、作家側もアートとして作品を売ることを考えるようになるでしょう」。CGアートが芸術として成立するためには、様々な視点から課題を解決していく必要がある。

神奈川県民ホールでの展覧会 神奈川県民ホールでの展覧会 リアルな「CG美少女」は日本独特のもの 「夏休みこどもCG教室」での喜多見さん

■未来のCGアートを担う純粋な子どもたち

そんな現状のなかで、喜多見さんが大きな期待を寄せているのは、将来のCGアートを背負って立つ若年層のCG作家たち。喜多見さんは1999年から「喜多見康こどもCG教室」を開講、デジコンフェスタ横浜でも「夏休みこどもCG教室」を開き、作家の直接指導により、CGを使って表現することの楽しさを子どもたちに教えている。「CGはコンピューターにより、表現技術の機能強化を計るシステムです。発想力と想像力が強大で、独創的なイメージを描く能力があれば、手わざとしての描写力が劣っている子どもでも、CGシステムの力を借りて素晴らしい作品を作ることが出来るのです。つまらない苦労を経験していない彼らは、CGを自分の想像を具現化する純粋なアートの道具として使っていますよ」。

デジコンフェスタ横浜

子どもCG作家のなかでも突出しているのが、2人の天才CG少年、須藤健斗くん(13歳)と林俊作くん(12歳)だ。2人はそれぞれ幼児期から非凡な創造性を発揮し、小学生になるとCG作品制作を開始。キャラクター作りからイラストレーション、さらにはアニメーション制作へと、その能力を開花させた。文化庁メディア芸術祭の「学生CGコンテスト」U-18部門賞を、2人とも小学生で受賞するなど、様々なコンテストを総なめにし、テレビ東京の番組「たけしの誰でもピカソ」では天才少年アーティストとして特集され注目を集めている。アジアグラフィックは今年8月に2人の作品展「こどもの時に見た夢 2005~こどもだけのCG作品展 須藤健斗と林俊作~」を神奈川県民ホールギャラリーで開催した。日本のCGアートに新しい時代が来ることを予感させる作品の数々に、来場者は感嘆の声を上げた。

アジアグラフィック、12歳と13歳のCG作家の作品展開催 文化庁メディア芸術祭
「夏休みこどもCG教室」での喜多見さん CGを使って自由に絵を描く子どもたち こどもの時に見た夢 2005~こどもだけのCG作品展 須藤健斗と林俊作~

■日中韓を中核とする国際展「ASIAGRAPH」の開催

そして次世代作家の育成とともにアジアグラフィックが目指すのは、アジア地域での優秀なCG作家のネットワークをつくり、CGを中心とするメディアアートと科学を融合する国際展「ASIAGRAPH(アジアグラフ)」を開催することだ。この流れの中心になっているのが、「アジア芸術科学学会」である。「アジア芸術科学学会」は2004年7月17日に設立された、科学と芸術の融合分野の学術団体であり、現在は中国、韓国、日本の研究者やCGアーティストを中心に、マレーシア、インドネシア、フィリピン、台湾も参加している。今年中にアジア16ケ国の参加を目標にしており、今年の「アジア芸術科学学会学術大会」は、2006年に上海で開催予定の「第1回ASIAGRAPH」の基盤行事と位置づけられている。

今年、上海では中国、韓国、日本の企業や教育機関が出展する見本市「中国国際動漫遊博覧会」が7月28日から8月1日の5日間にわたって開催され、それに併設されて「アジア芸術科学学会作品展」も開催された。また、北京の中国科学技術館ではデジタルアートの大規模国際展覧会「中国国際電脳科技芸術展」を8月に開催、展示招待を受けたアジアグラフィックは、日本のCGを代表して参加した。30点の大型プリント作品と1時間分の選りすぐりの映像作品を出展。韓国からも作品が出品され、日中韓のCG代表者がアジアのCG発展のために交流を行った。この日・中・韓を中核とするアジア地域でのCGアートの大きな波の中心になっているのは、日本のCG作家のネットワークを持つ喜多見さん、世界的CGアーティストの河口洋一郎さん、東西大学の金教授の3人だ。

AsianGraphics、「中国国際電脳科技芸術展」を後援 文化庁メディア芸術プラザ 中国国際動漫遊博覧会とアジア芸術科学学会学術大会レポート
中国国際動漫遊博覧会 中国国際動漫遊博覧会 アジア芸術科学学会学術大会につめかけた関係者や学生 東西大学の金教授

■横浜はCGアートのメッカになれる場所

CGアートの世界の潮流はどうなっているのだろうか。アメリカではCGは巨大な映像産業の階層のなかの一部であり、CGクリエイターはアーティストというより技術者のような立場で仕事をしているという。日・中・韓ではどのような違いがあるのか、倉嶋さんに聞いた。「韓国は広告ポスターのようなグラフィック寄りの表現が多いですが、何か期待させるものがあります。中国は、タブローの世界はそうであるが、CGでは古宮の3D再現など、まだまだ自由な発想の絵までは至ってない印象です。水墨画をCGで描くなど、伝統的なアートの比重の重さを感じます。一方、日本の作品はおとなしく、安心して見ていられるものが多い。クオリティや緻密さは群を抜いているものの、アートというよりは商業作品のような感じがします」。日本にはイラストレーションやグラフィックの文化の蓄積があり、世界でも最も趣味やアートといった自由な感覚でCGに取り組むことができる豊かな環境があるにも関わらず、純粋なアートへ向かう強い意識が育っていないと言える。しかし、いずれ今までの「商品」としてのCGでは飽き足らなくなる時代が来ると喜多見さんは言う。そのときにあふれてくる優秀な才能が行き場を失わないように、アートとしてのCG文化の市場という“受け皿”を作っておくことが必要なのだ。

喜多見さんは、横浜を日本の、さらには世界のCGアートのメッカにしたいという。「ポンチ絵(風刺を込めた滑稽な絵や漫画)は横浜発祥の言葉で、今で言うイラストレーションと風刺画の中間のようなものです。雑誌に絵を載せて人に見てもらうという文化が生まれたのも横浜から。東京芸術大学の創設者である岡倉天心も横浜出身の人。横浜には異端なものを生み出し、しかもそれを許容していく風土がある。新しいCGの文化を生み出す土壌もここにはあるのではないでしょうか」。また、喜多見さんが目指すのは大量消費を前提としたコンテンツ産業とは全く別の評価軸をつくり出すこと。既存の商業メディアが集積し、消費の街である東京から一定の距離を保つことも、活動の拠点を横浜とする理由なのかもしれない。アジアグラフィックでは、来年のゴールデンウィークに神奈川県民ホールをメイン会場に展覧会を開催する。そこには中国・韓国からスピーカーを招いて、アジアにおけるCGアートの未来についてディスカッションを行う予定だ。

横浜を舞台に動き始めたデジタル系クリエイティブシーンの現在

現段階ではアジアグラフィックは喜多見さんの個人活動であり、海外での展覧会での日本からの参加作家の渡航、宿泊等の経費は現地の主催者団体に負担してもらっているのが現状だ。逆に言えば、海外ではアジアグラフィックの作品と活動には大きな価値があり、連携していくことが必要であると高く評価されているということである。この活動を拡大していくために、日本国内でもアジアグラフィックの取り組みの価値、その可能性がより深く認識されていく必要があるのではないだろうか。

作品の展示方法は様々だ マンガやアニメなどの影響を受けた日本のCGアート 神奈川県民ホールでの展覧会 アジアグラフィックの構想をプレゼンする喜多見さん
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