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特集

「図書館はこんなに面白い!」~よこはま 本への旅~
ツブヤ大学BooK学科ヨコハマ講座:6限目
「神奈川県立図書館」館長の林秀明さんをお迎えして

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■神奈川県立図書館の外側も内側も大解剖!

三浦 あす(2012年3月末日)で定年退職されると先ほどうかがい、驚いています。

 神奈川県庁に入ったのが1976年。36年間、仕事をしたことになります。最初の配属先は土木部でした。面接のときに「どんな仕事がしたいですか?」ときかれて、「コンストラクティブ(建設的)な仕事をしたい」って答えてしまったからです。「コンストラクティブ? あー建設ですか」ということで土木部に(笑)。実は、最後になった図書館の仕事も、「コンストラクティブ」な仕事だと思っています。図書館の運営というのは、極めて創造的な仕事ですから。

三浦 この「BooK学科」での対話が、最後のお仕事になるのでしょうか?

 そうです。幸運です。

三浦 それでは、きょう会場に来られた方々に聞いてみましょう。神奈川県立図書館に行ったことのある方?

 あ、チラホラ、手が挙がっていますね。事前アンケートでは、「神奈川県立図書館ってどこにあるの?」という方も少なからずおられました。「近くにある横浜市立中央図書館で勉強したいが、混んでいるので、空いている県立図書館を利用していた」という方もいました。つまり、結構知らない人が多い。

 先日、カメラマンの大森裕之さんと一緒に、建物の外観・閲覧コーナーや書庫などの「内部」、さらに県立図書館に所蔵されている「お宝」を取材してきました。その時に撮影した写真を見ながら、県立図書館を“探検”していきましょう。

 まずは、外観をみていきます。県立図書館の建物は、こういう蜂の巣状のラインが特徴です。建築家・前川國男の設計によるものです。前川は、世界の三大建築家と言われているル・コルビュジエの弟子ですね。

 この図書館の建物は、お隣の神奈川県立音楽堂と合わせてひとつの建物として設計されたそうです。図書館と音楽堂をつなぐ渡り廊下のようなところがあって、カーテンが掛かっています。前川さんとしては、どういう意図があったのでしょうか?

 建物のすぐ後ろは、掃部山公園です。今はカーテンでさえぎられているこの場所ですが、両面ガラス張りで、もともとは食堂でした。食事をしながら、公園が眺められるように設計されていました。建築当時は、この図書館と音楽堂は行ったり来たりできたのです。

三浦 「昭和30年度表彰」と書かれていますね。

 完成したのは昭和29年です。建築者として「前川國男設計事務所」という名になっていますが、前川さん自身が設計された建物です。

 次の写真は、掃部山公園から見た図書館の建物ですね。前川さんのスケッチには、公園側から見たものも多い。公園側から図書館を見てほしい、という意図があったのでしょう。また、当時の公園は、現在ほど木が生い茂っていなかったのだと思います。

三浦 今でも、新緑の季節には、気持ち良さそうな空間ですね。ここでお昼でも食べたら良さそうです。

 図書館の特徴でもある「蜂の巣状」の部分ですが、中から見るとこうなります。

 これ、ひとつひとつは特注された陶器のブロックでできています。穴が空いていますが、日本建築の格子と同じく、外の風景を取り入れつつ内部の光を調節する効果を出しています。

三浦 図書館の「内部」に入っていきましょう。まず、1階の受付カウンター。このコーナーでは何をやっているのでしょう?

 この撮影に来られた際(2012年3月8日)は、ちょうど東日本震災に関連する本を集めた展示をやっていました。県立図書館は、全国の市町村史を系統的に集めており、現在1万冊以上を収蔵しています。岩手・宮城・福島の東北3県だけで600冊以上あり、それらをコーナー展示していました。普段は書庫にありますが、閲覧も貸し出しもできます。

三浦 さて、図書館の内部に進んでいきましょう。インターネット端末機のコーナー、パソコンを使えるコーナーなどの写真が続きます。これはどんなコーナーですか?

職員 「リファレンス・カウンター」と言います。調べものをしている方の相談を司書が受け付けます。

三浦 「こういうふうに質問してくれたら答えやすい」ということはありますか?

職員 漠然と質問されるより、なるべく、より具体的に質問していただくほうが、お答えしやすいです。たとえば、「建築の本、ありますか?」ときかれるよりも、「前川國男さんの本、ありますか?」のほうが、お答えしやすいわけです。

三浦 「外国語雑誌」もあるのですね。

 昔は外国語の雑誌をたくさん集めていました。それに、移民関係の文献を集めていたりもしていました。

三浦 これは、何をしているところですか?

 職員が本の整理をしているところです。皆さん、書棚に本を返すときに、ちゃんと番号通りに置かずに適当に戻したり、中には本の上に本を重ねたりする方もいらっしゃるので、順番通りに戻しています。毎月第2木曜は休館日で、内部作業をする日になっています。取材に来られた日は、ちょうどその日でしたね。

三浦 取材していて「なるほどなぁ」と感心したのは、横にずれているのは元に戻しやすいけれど、並んだ本の裏側に倒れたりすると、もう本の所在が分からなくなる。観察力と経験が必要な大変な作業だそうです。

 次は、書庫ですね。この写真に注目してください。「一階」「二階」ではなくて、「一層」「二層」と書かれていますね。書庫には、そんなに高い天井は必要ありません。そこで、来館者など人間が主として使う階と、本の保管を目的とする書庫の「層」とで高さをずらして、空間を有効利用しているのです。

■いつでも閲覧できる! 知られざる「お宝」の数々

三浦 次の写真は、『報徳記』ですね。

 神奈川県の資料をたくさん集めていますから、二宮尊徳の関連資料は外せません。ちょっとした二宮尊徳の資料館よりも、うちの図書館のほうがたくさんあると自負しています。

三浦 次は、『新約聖書』のマタイ伝ですね。

職員 「横浜聖書」と呼ばれているものですが、上海で印刷されたようで、漢文で書かれています。当時の日本人は、漢文も読めたのですね。

三浦 次は?

 新聞は、縮刷版がいろいろと出版されていますが、縮刷版には地方版がありませんよね。なので、神奈川の地方版を集めて、そこだけ切り取って保存しています。

三浦 次は何ですか?

 「ACC文庫」です。アメリカのカルチャー・センターのことで、アメリカ軍が日本につくっていた図書館です。神奈川県立図書館では、当時の体系のまま保存しています。ACC文庫(あるいはCIE文庫)のシーラカンス的な保存をしている図書館は、全国でも珍しいと思います。本というのはコレクションとしての意味があるわけで、それはなるだけ大切にしようと考えている結果です。無条件に何でも受け入れて良いものだけもらい、後は捨てるというのは失礼だと思っています。受け入れたものはしっかり残そう、という精神でやっています。

三浦 以前、林館長とお話していて印象的だった言葉があります。とにかく「神奈川県立図書館はヘンな資料の多い図書館だ」と。ついでに、「ヘンな図書館なので、春風社の本はふさわしい」と言われたのは、おほめの言葉というふうに受け取りました(笑)。

 これは、どういう本ですか?

 戦時中、国民の戦意を鼓舞するために、国の指導の下に選ばれたもので「戦時文庫」と言います。当時、こうした本を各都道府県の中央図書館などに置いたと言われています。これに関しては、解題目録をつくってホームページにアップしています。ACC文庫に関しても、これから解題を作成し、インターネット上で公開する予定になっています。

三浦 次は有名な『解体新書』です。まさにお宝です。今日は実物をお持ちいただいています。

 博物館なら、白い手袋とマスクをして丁重に扱わないといけないような本ですが、うちは図書館ですから、普通の本のように手にとってご覧いただけます。

三浦 よく日本史の教科書に出てきますが、その実物ですよね。1774年と記されていますから、もしかしたらこれが初版という可能性がありますか?

 現在の本のように「初版」とは明記されないので、これが初版かどうかは分かりません。

三浦 私は、挿画家に注目しました。「秋田藩」とあって「小田野直武」と書かれています。彼は「秋田蘭画」という一派をつくった人物です。平賀源内に口説かれ、呼ばれて江戸に出てきて『解体新書』の絵を担当することになりました。

 次の本は、『東海道中膝栗毛』。これも現物の和本を持ってきていただいています。

 2冊お持ちしたうち、表紙が黄色い「黄表紙」と呼ばれるほうが、江戸時代につくられたものです。

三浦 東海道は神奈川県内を通っていますから、この本には保土ヶ谷・戸塚・藤沢といった神奈川県内の宿場町の地名が出てきます。これも、普通に私たちが閲覧できるのですか?

 図書館に来て「見たい」と言っていただければ、書庫からお出ししますので、ご覧いただけます。

三浦 次の本は、『偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)』です。これはどういうものですか?

 2008年の「源氏物語千年紀」に、ある方から寄贈していただいた資料です。平安時代に書かれた有名な『源氏物語』のパロディで、室町時代に置き換えて物語が展開します。絵は、歌川国貞による美しいものです。

三浦 持ってみると、和本というのは、洋本と違って軽いですね。

■「本」も宝、「人」も宝

三浦 話を先に進めます。神奈川県立図書館は、実は川崎にもあります。二つの図書館の職員の方に、それぞれの県立図書館のセールスポイントは何か? というアンケートをお願いしました。

 回答には「こういうふうにユニークだから、ぜひ利用してください!」とか、「声をかけてくだされば、どんなふうにでもお応えします」といった声が多い。

 いくつか読み上げますと、たとえば、「私の家のすぐ近くにある舞岡公園(横浜市戸塚区)が、どのようにつくられたかを書かれた本もありました。NHKのプロジェクトXという番組では、困難な事業をやり遂げる人たちを“地上の星”と表現していましたが、身近な地域にいる“地上の星”や感動のドラマに出会うのもよいと思います」ということで、身近なところから本をひも解いていく、そういう資料もありますよ、と答えてくださった方もありました。

 それから、「調査にいらしたら、たくさん司書とお話しください。司書はお話の中からヒントを得て、答えにたどりつくべく調べます。なので、なるだけたくさん、調べている内容を話してください。そうすると、周辺資料も出しやすいです。ついでに、もし納得のいく調査ができた場合は『ありがとう』とひとこと言ってくださると励みになります」 …それは、そうでしょうね(笑)。「真面目に調査にいらっしゃるお客様を、司書は尊敬していますし、大切にしています」そう書いてくださった方もいます。

 こういうのもあります。「利用者からの資料要求に対して、図書館は『それは当館にありますorありません』で終わるのではなく、むしろ所蔵していなかった際に『どこに所蔵しているか、どうすれば利用することができるか』といったところまで情報を提供していく存在であるので、所蔵していない場合でも、そこであきらめずに聞いてください」

 今、ご紹介した声はほんの一部ですが、アンケート結果の全体から「どうぞ何でも聞いてください。知っている限り情報を提供します!」という職員の方々の熱い気持ちを、ひしひしと感じました。

 図書館なので「本」も自慢なのですが、うちは「人」が自慢なのです。本当に丁寧にやっています。本を紹介するだけでなく、検索の仕方なども、しっかりお話するようにしています。

三浦 今夜は、まだまだお宝が出てきます。こちらの絵は何でしょうか?

職員 横浜の開港当時の様子を描いた「開化絵」です。1858年ですから江戸時代末期に書かれたものです。ウェブサイトにアップしてありますので、大きな画像で見ることができます。

電子図書館:横浜絵・開化絵とは(神奈川県立図書館)

三浦 貴重な写真集やLPレコードもそろっているのですね。LPはどのくらい収集されていますか?

職員 少なくても10万枚はあると思いますが、データがないので、詳細は分かりません。

三浦 こちらにそろっている雑誌は、どのような雑誌ですか?

職員 雑誌の創刊号のコレクションですね。

■わが人生の3冊

三浦 本当に貴重な資料がたくさんありますので、皆さん、ぜひ県立図書館へ行ってみてください。行ったことのある方でも、こんなすごい資料があるとは、ほとんどの方がご存じなかったと思います。私自身も、今回の取材で初めて知ったことがたくさんありました。

 今日は、林館長お勧めの本と言いますか、人生のエポックになった本を3冊、お持ちいただいています。

 まず、『ロボットのいる暮らし』(日刊工業新聞社・2007)という、私も執筆者のひとりとして参加している本です。「ロボットのいる暮らしを想像してみませんか?」という趣旨のイベント「ロボットLDK」の報告書です。ロボット産業は「伸びる」と言われていたんですが、実際にはそうでもない。どういうふうに使ったらいいか分からないからです。「ロボットLDK」はロボットコンテストなのですが、ロボットの技術ではなくて「使い方」のコンテストです。「こんなロボットがあったらいいな」ということを劇で表現します。工場などではロボットは(誤作動を起こしても問題のないように)人から隔離されていますが、「ロボットのいる暮らし」は、人のそばにロボットがいる。そうなった場合の安全性の問題についても書いてあります。

三浦 ロボットに対するとらえ方って、人それぞれなんじゃないでしょうか。たとえば、ロボットが出てくると仕事が奪われるのではないかと考える人もいます。

 海外では、ロボットと敵対するような感覚もあるかもしれませんが、日本では、ロボットに「~ちゃん」とか愛称をつけたりしますからね。日本人のロボット観は、「人に替わるもの」というより、「人間の可能性を拡大するもの」という感じが強くあります。「ロボットのいる暮らし」では、人間の主体性がさらに求められることになるだろう、というのがこの本のテーマですね。ここでの劇は、どれも人が主役です。ロボットが主役の劇はひとつもありません。

三浦 2冊目はどんな本でしょう。

 私の名前は「秀明」なんですが、生まれは1952年で、その少し前の1949年に湯川秀樹がノーベル賞を受賞したのですね。ですから「秀」という字がつく名前をつける親が、多かったようです。そういう影響もあってか、子どものころから科学に対する憧れがとても強かった。これは15歳くらいの時に読んだ本で、『現代の経済と技術6 新技術群』(講談社・1967)と言います。

 たとえば、電気自動車についての文章で「夜、人が寝ている時間に生まれる電気を使える」ということがすでに書いてあります。今、電気自動車をやっている人たちは、そこを売りにしていますよね。原子力に関しても、示唆あることが書かれています。こういう本を読んで、科学の道に憧れたものでした。

三浦 最後の1冊は、何でしょう。

 民法学者の渡辺洋三さんが書かれた『法というものの考え方』(岩波新書・1959年)です。高校生の時、法律に関心をもつきっかけとなった本です。「科学だけでなくて、こういう分野も面白そうだな」と思って「LAW」(法律)と書き込んだつもりが「LOW」とスペルを間違えていて恥ずかしい限りですが、懐かしくて、相変わらずとってあります。

 その後、文化系に進んで、役人になって、最後にこういう面白い職場でヘンな人たちと一緒にクリエイティブな仕事ができて、最後の最後にこんなヘンな三浦さんと仕事ができて(笑)、それも幸せなのですが、元はと言えばこの本のおかげかな、という気がします。

■図書館と友達になる

三浦 県立図書館には本当に貴重な資料がたくさんあるのだな、ということがわかりましたし、人の温かみというのか、職員さんたちの熱い思いがすごく伝わってきました。貴重な「資料」と「人」という財産が、うまく回っていくといいなぁと思います。

 図書館っていうのは、ユーザーの方々が育てていくものだと思っています。川崎にある県立図書館では、ヘビーユーザーがたくさんいらっしゃって、毎月のように集まって「図書館はこうあるべきだ」と議論し、本が毎月のように寄贈されます。そこまでいかなくても、皆さん、まずは図書館と友達になってください。「図書館探検ツアー」というイベントもやっております。参加者の皆さんには、図書館のあり方について意見も聞かせてください。言いたいことを言ってもらって、一緒に図書館を育てていってください。

 県立図書館はそんなに「役に立つ図書館」ではないかもしれません。でも、人文系の基礎となるような本を丹念に集めている、珍しい図書館かもしれません。ぜひ応援してほしいと思います。

神奈川県立図書館

神奈川デジタル・アーカイブ

 次回4月27日20時からの「ツブヤ大学BooK学科ヨコハマ講座7限目」は、「『ことばのポトラック』をめぐって」。2011年3月11日の東日本大震災は、「ことばのプロ」たちに何をもたらしたのか? 震災を受けて詩人・歌人・作家・写真家たちが持ち寄った新作をまとめた『ことばのポトラック』(大竹昭子編・春風社)刊行を記念して、日本を代表する詩人・佐々木幹郎さんをゲストにお迎えしてUstream中継を行います。聞き手は今回と同じく、三浦衛さんです。

ツブヤ大学

下窪俊哉 + ヨコハマ経済新聞編集部

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