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特集

リノベーションで倉庫から創造空間へ。
馬車道に誕生した「万国橋SOKO」の全貌

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■市のコーディネートで物流倉庫から創造空間へ

「創造空間 万国橋SOKO」横浜市が高島町、馬車道、日本大通りの3つのエリアで推進している「創造界隈」事業。これは横浜都心部の歴史的建築物や倉庫、空きオフィスなどを創造的活動の場に転用し、アーティストやクリエイターが、創作し発表し滞在・居住することで街の活性化を図るというものだ。馬車道にはこの2年間で、旧第一銀行をアートスペースに用途転用したBankART1929 yokohama、日本郵船倉庫をスタジオ機能をもつアートスペーに用途転換したBankART Studio NYK、アーティストやクリエイターたちのインキュベーション施設となった北仲WHITE&北仲BRICK、旧富士銀行と新港客船ターミナルをキャンパスとする東京芸術大学大学院映像研究科といった創造的活動や教育の場が生まれている。そして、この4月に新たな施設「万国橋SOKO」がオープンした。

創造都市推進課長の仲原正治氏1968年に竣工した万国橋倉庫は長年にわたり物流倉庫として使用されていたが、2年前から活用されていなかった。そこで所有する国際コンテナターミナルに横浜市が創造的活動の場へと用途転換することを持ちかけたのだ。プロジェクトの中心になったのは、横浜市文化芸術都市創造事業本部(現:開港150周年・創造都市事業本部)創造都市推進課長の仲原正治氏。2004年7月、倉庫としての活用をやめたと聞き、初めて万国橋倉庫を訪れた仲原氏は、その大きな空間と海を目の前とする落ち着きのある豊かな環境に、「創造的活動を行う場としてすばらしい」と感じたという。

横浜市は国際コンテナターミナル側との調整を行い、同社とともに映像系・デザイン系企業に声をかけた。テナント誘致にあたっては、関内地区に進出する企業の設備工事費・改装工事費の一部(2分の1の額を上限、最大5,000万円)を助成する「横浜市映像コンテンツ制作企業等立地促進助成金」が役立った。クレイアニメを中心とするアニメーション技法で「ニャッキ!」などテレビ番組・CM・ミュージックビオデオ等を制作している映像作家・伊藤有壱氏が主宰する「アイトゥーン」(東京都渋谷区)と、映像・ファッション系のクリエイターを養成する教育機関「バンタンキャリアスクール」は、その助成金の最初の活用事例となった。入居する側も、横浜市の描く創造界隈の構想に賛同し、積極的に地域と連携していくことを表明している。今回は市のコーディネートと助成金によって、市が描く地域活性化のプランに沿う形で民間企業のマッチングが図られた好例と言えるだろう。

横浜市、馬車道の万国橋倉庫を創作活動の拠点に転用横浜市、映像系企業・学校誘致で最大5000万円助成

■開放的な施設を目指すバンタンキャリアスクール

バンタンキャリアスクール SOCO横浜入居者のなかでいち早くオープンしたのが、1階の「バンタンキャリアスクール SOCO横浜」だ。短期間でクリエイターを養成するバンタンキャリアスクールは、全国に8校ある。横浜にはもともと横浜駅西口に「バンタンキャリアスクール横浜校」として開校していたが、10周年を機に移転を検討していた。そんなときに、この万国橋SOKOの話があった。バンタンキャリアスクール常務取締役の藤原氏は、「イタリアやロンドンでは倉庫をリノベーションした開放的なクリエイティブスクールがあり、そのイメージで場所を探していました。助成金で移転費の3分の1から4分の1ほどが浮くこと、また市が推進する創造界隈のプランに惹かれ、万国橋SOKOに決まりました」と移転の経緯を話す。

モノトーンを基調としたインテリアデザインインテリアを設計したのは、バンタンOBの曽根氏。元倉庫の広大なスペースと天井高を活かし、パーテーションや机、イスなどはすべて可動式のものを採用、フレキシブルにレイアウトを変更できるようにした。エントランスのフリースペースは照明にも工夫が施されており、ソファを動かせばそこでファッションショーやヘアメイクショーを行うことができるという。なかでも大きな特徴は、中央に空間全体を見渡せるキャットウォークがあること。個別指導が行き届くよう、1クラス当りの人数を10名前後に見直したが、一方、キャットウォークから他の授業風景を見ることができたり受講生同士が談笑できるフリースペースがいくつも用意されている開放性があり、様々なことを貪欲に学びたい人にはうってつけの空間だ。

バンタンキャリアスクール常務取締役の藤原氏同校では移転にともない新しく映像作家養成コースとファッションコースを新設、それに合わせて施設も充実したものになっている。最新の機材を導入した撮影スタジオ、映画を上映できる50名収容の視聴覚室、実際に挙式も挙げられる結婚式場も整備する。バンタンキャリアスクール常務取締役の藤原氏は、「これまでのノウハウを凝縮し、1年間でプロになるための時間と空間、設備の提案をしています。映像施設や交流スペースなどは、横浜市の力も借りてより充実したものにしていきたい。スタジオ等の施設をプロのクリエイターの方に活用していただくことはもちろん、ギャラリー利用、結婚披露宴利用などでも一般開放していきます。また企業・大学等とも連携・交流して地域に貢献するとともに、実践教育のできる場としていきたい」と語る。初年度の受講者数は約500名を予定、4月20日頃から講義をスタートする。

■横浜の街をデザインするNDCグラフィックス

デザインディレクターの中川憲造氏2階に入居したのは、デザインディレクターの中川憲造氏が代表を務めるデザイン事務所「NDCグラフィックス」。中川氏は20数年前から横浜に住み、みなとみらい地区など横浜都心部の開発にデザイン面で携わってきた人物。銀座と横浜に事務所を置き、横浜では世界に通用する横浜ブランドの商品「横浜グッズ」の企画制作に加え、ショップを持ち販売まで行っている。青い斑点のブルーダルメシアンのキャラクター「ブルーダル」をデザインしたことで有名だ。今年の元旦には神奈川新聞の55年ぶりの紙面改革のデザイナーにも起用されている。

NDCグラフィックス 神奈川新聞、中川憲造氏を起用し55年ぶりの紙面改革

巨大な本棚とドイツの信号機をデザインしたランプ横浜では帝蚕倉庫第一帝蚕ビル(現在の北仲WHITE)に10年間にわたり入居していた。実は中川氏は1年半前にビルを出るときには、すでに次の入居先候補の一つとして万国橋倉庫に目をつけていたという。「ヨーロッパではデザイン会社の職場は単なる事務所とは違い、ショールームの機能を果たすような魅力的なデザインで溢れています。新しい事務所では、レセプション、ワークスタジオ、ショールーム、図書館、ゲストハウス、ギャラリーといった複合的な機能を持ちたいと思っていました。それには倉庫のような大きく多目的に活用できる空間が最適なんです」。

しかし、当事はまだ横浜市がリノベーションの調整をしている段階で、倉庫の活用方法の最終決定が出ていなかった。昨年秋にようやく創造空間への転用が決まり、銀座の事務所を引き払い本社を横浜に移すことになったのだ。中川氏は万国橋倉庫の印象をこう語る。「入ってみて、空間の凄さというものを感じましたね。窓からは海が見えるので、潮の満ち引きがわかります。職場で時間と季節の移り変わりを感じることができるのは、東京ではできない経験ですね」。

イタリア製の赤く塗られたランプをつなげて導線を演出NDCグラフィックスのデザイン分野は幅広く、アイデンティティ・インフォメーション・プロモーション・プロダクト・環境グラフィックスの5つを手がけている。ピクトグラムや地図のデザインなど都市環境デザインにも深く関わる中川氏だけに、新しい事務所のなかでもそのポリシーは貫かれている。イタリア製の赤く塗られたランプをつなげ、エントランスから奥の作業デスクまでの長い導線を演出する。高い天井を活かし、作業デスクの一番奥の壁際には高さ4メートルほどの大きな本棚にした。ミーティングスペースのデスクは横浜港が一望できる最高の場所に置かれ、そこの地面には帝蚕倉庫第一帝蚕ビルで10年間使っていたお気に入りの床板を貼り、再利用するなど、あちこちにこだわりの品がある。「過去にあったいいモノをちゃんと残し、その魅力をいかに使い切って生かしていくかが大事。いい意味で過去をひきずっていきたい」。

横浜グッズでは、商品の企画から販売までをトータルで手がけている。デザイン事務所がショップを持つ意味を、中川氏はこう語る。「ファッションブランドは服のデザインをするとともに、自分のリスクでショップを持っている。だから本当につくりたいものを作ることができるんです。マーケティング発想ではなく、自分たちのキモチのいいモノをつくり、豊かな生活を提案していくことがデザイナーにとって大切なんです」。日常のあらゆるモノにデザインの視点を入れていく、その中川氏のスタイルは、この万国橋SOKOでより磨かれていきそうだ。「事務所にはクライアントのみならず、友人やその家族など、できるだけたくさんの人に来てほしい。様々な人と交流して新しい刺激を受け、コラボレーションしていきたいですね」。

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■横浜で次のステージを目指す映像プロダクション「I.TOON」

映像作家で「I.TOON」代表の伊藤有壱氏3階にはクレイアニメやデジタルなどの技法を駆使してテレビ番組・CM・ミュージックビオデオ等を制作しているアニメーションスタジオ「I.TOON」の入居が決定している。主宰するのは映像作家の伊藤有壱氏。NHKで11年にわたり放送中のイモ虫が主人公のクレイアニメ「ニャッキ!」を制作している。最近では映画館に足を運ばせるため、松竹系の劇場で映画の上映前に流すオリジナルのショートアニメーションや、NHKの連続テレビ小説『純情きらり』のタイトルアニメーションなどを手がけている。

I.TOON ニャッキ!

松竹系の劇場で映画の前に上映されるアニメ「ノラビッツミニッツ」(C) I.TOON/SHOCHIKU横浜出身の伊藤氏だが、クリエイターとして活躍するようになってからはずっと東京を活動の拠点としてきた。伊藤氏は渋谷から横浜への移転を決めた経緯をこう語る。「NHKBS2のデジタルスタジアムという番組の審査員をやっていて、その収録で横浜に行ったときに横浜市の方と挨拶したのが最初でした。横浜市の仲原氏をはじめ創造都市推進課の方々は、人と人をつなぐということを根気よくやっています。その姿勢を見て、『横浜市は本気なんだ』と思いました」。当初の移転先は、現在BankART Studio NYKになっている日本郵船倉庫など、他の建物が候補になっており、最終的に万国橋倉庫に決まるまでには2年3ヶ月かかった。しかし伊藤氏には、壮大なプランを掲げ本気で実現に取り組む横浜市に対する信頼感があった。

コンテンツ制作企業にとって、テレビ局や出版社、広告代理店が集積する都内から出ることは不便ではなかったのか。「NHKから数多く仕事を請けている弊社にとって、渋谷で仕事をするのはすごく便利でした。横浜への移転で不便になることは間違いない。しかし、クレイアニメは自社で撮影環境をもたなくてはならない仕事。都内で撮影セットを設置できるだけの広さのある事務所を確保するのは予算がかかりすぎて無理です。その点、万国橋SOKOはスペースが広く、天井も高いので問題なく撮影セットを組むことができます。20年間ずっと都内でやってきて、『東京を卒業しよう』という思いもありました。一つのプロダクションとして新しいことをやりたい、それができる場所は横浜だったんです」。

横浜で次のステージを目指す映像プロダクション「I.TOON」伊藤氏は東京芸術大学、大阪芸術大学、沖縄県芸術大学、広島市立大学芸術学部などで若い学生に教える立場でもある。「学生たちがつくる作品は非常にレベルが高く、世界に通用するものもあります。しかし、プロデューサーがいないので作品の行き場がない。作り手だけでなく、キャラクターやコンテンツを海外に売れる人材も必要です。育った人材が一人前になるとみんな東京や海外へ出てしまうのではダメです。横浜は世界に通用するコンテンツ制作の拠点と、その知財を守り活用して世界に販売していく拠点となることを目指していかなくては意味がないと思います」。

かつて横浜は、国内で生産された生糸が集まり、絹織物に加工して世界へ輸出して大きく繁栄した街。当事、横浜には絹織物の技術者やデザイナー、海外へ生糸や絹製品を販売する商人が全国から集まっていた。そのメタファーで言えば、これからの横浜が目指すべきなのは、世界に通用する日本のコンテンツの制作と輸出の拠点となること。東京のほうを向くのではなくて、アジアや世界というマーケットを見据えたビジネス創出と人材育成に取り組んでいくべきなのだ。馬車道創造界隈事業によって、このエリアには確実にアーティストやクリエイター、映像系・コンテンツ系企業、クリエイティブな教育機関とそこで学ぶ人々といった、コンテンツ産業を支える人材が集積しつつある。次の課題は、それぞれの交流を促進し、連携事例・成功事例を生み出していくことではないだろうか。

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