特集

映像で結ばれるフランスとヨコハマ
「フランス映画祭横浜2005」の全貌

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■「フランス映画祭 横浜2005」華やかな幕開け

6月16日、あいにくの雨模様にもかかわらず、フランス映画祭横浜2005のオープニングセレモニーには立ち見も出るなど、大勢の観客が詰め寄せた。今年はテレビでの活躍も目覚しいフローラン・ダバディ氏と、ヨーロッパ初の日本人パーソナリティ(パリのFMラジオ局)という経歴を持つ酒見由梨氏が司会として登場。オープニングから早くも会場はヒートアップし、映画人たちの登場を待ちわびる観客たちの熱気が伝わってくる。今年はリュミエール研究所のディレクターでカンヌ映画祭のアーティスティックディレクターも務めるティエリー・フレモー氏がリュミエール兄弟の作品である貴重なフィルムを携えて登場した。撮影と映写を兼ねたシネマトグラフという機材を発明し、「映画の父」と呼ばれる兄弟の作品だ。上映中、フレモー氏がフランス人らしいウイットに富んだ解説を披露すると、会場は笑いに包まれ大盛況。この映像の中には映画史上最も有名な『列車の到着』をはじめ、日本で撮影された最初の映像も含まれており、映画ファンにはたまらない貴重な体験となっただろう。フレモー氏が壇上に上がった中田市長に、横浜市へのプレゼントとしてこのフィルムを手渡しするなど、記念すべき瞬間も。この後、オダギリジョー氏が登場すると、はちきれんばかりの歓声と拍手の渦が沸き起こる。先月招待されたカンヌ映画祭の感想や、フランス映画についての質問に「カンヌ映画祭はなかなか行く機会がないけれど、今回、20本もの映画を観ました。どんな映画が好きかと聞かれたら、とりあえずメジャーなものは嫌いと答える僕は、フランス映画には独特のアイデアや良さがあると思う」とコメント。これで会場の盛り上がりも最高潮かというまさにその時に、きらびやかな映画人で壇上が埋め尽くされ、いよいよ大団円を迎える。コンフェデレーションズカップを競って、サッカーの日本代表とメキシコとの対戦がこの夜重なり、日本のカラーであるブルーのタオルが映画人たちに配られる。鮮やかな赤いカーペットと青いタオルのコントラストがオープニングセレモニーのラストを強く印象づけ、大盛況のうちに幕を閉じた。オープニングセレモニーでは、毎年多彩なゲストを迎え、趣向を凝らした演出がなされるが、13回目を迎えた今年、まさに絶頂ともいえる盛り上がりを見せてくれた。

フランス映画祭 横浜2005
オープニングセレモニーでは総勢55名の映画人が壇上に表れた ティエリー・フレモー氏が自ら編集したリュミエール兄弟のフィルムを鑑賞 オダギリジョー氏とフローラン・ダバディ氏 ブルーのタオルを広げる中田市長

■「フランス映画祭」今年の見所

今年で第13回目を迎える「フランス映画祭横浜」。毎年、数多くの映画人が最新のフランス映画とともに横浜に上陸。ファンにとっては映画を楽しむだけでなく、監督や俳優によるQ&Aやサイン会などで映画人との交流を図れる魅力溢れる映画祭であり、また映画関係者にとってはアジア最大のフランス映画マーケットだ。今年のフランス代表団団長は、社会問題をテーマにした作品を得意とし、カンヌ、ベルリン、アカデミー賞を制した巨匠コスタ=ガヴラス監督。フランスでは公開1ヶ月で60万人を動員して大ヒットとなった最新作『斧』を携え来日、同映画祭のオープニング上映を飾る。また上映作品は、カンヌ映画祭コンペティション部門でオープニング上映されたサスペンス映画『レミング』(ドミニク・モル監督)をはじめ、M・ルブラン原作の怪盗ルパンシリーズ『カリオストロ伯爵夫人』を基にしたアクション大作『ルパン』(ジャン=ポール・サロメ監督)や、人気女優ヴァネッサ・パラディの最新主演作など、長編18本と短編9本の全19プログラム。いずれも日本プレミア上映で未配給作品も多く、この機会を逃すと国内では観られないというような貴重な作品もでてくるだろう。

100人を越す映画人がヨコハマに上陸!カンヌの風薫る「フランス映画祭」事情
フランス映画祭 横浜2005 コスタ=ガヴラス監督作『斧』

■今年注目の新たな試み

今年は「横浜フランス月間・2005」として横浜市が民間事業者や団体らとともにシティプロモーションを実施。映画以外にもフランス文化を基調とした多彩なイベントが市内各地で行われ、一層フランス色が濃く、華やかな雰囲気での開催となった。例年行われていた関連イベントのうちのひとつ、来日ゲストを迎えた大学での特別講演会は、恒例となった横浜市立大学と慶應義塾大学はもちろん、今年は新たに神奈川大学と関東学院大学の2校が加わり、をあわせて計4校、4日間にわたって開催する。今年4月にオープンした東京藝術大学大学院映像研究科では、6月18日、横浜赤レンガ倉庫1号館にて『映画づくりは学校で学べるか?』をテーマに国際シンポジウムを行う。パネリストは日本から黒沢清氏、フランスからコスタ=ガヴラス氏、中国からシェ・フェイ氏、韓国からパク・キヨン氏で、いずれも映像教育に携わる世界的な監督ら4名。同大学院は、日本で数少ない映像専攻を有する大学院であることから敢えてこのようなテーマに挑み、各パネリストが実際に映像を習う機会があったのか、また、学んだことは仕事として現場で活かされるのかを深く掘り下げるという。

横浜フランス月間・2005 横浜赤レンガ倉庫1号館

会場は従来どおりパシフィコ横浜をメインに、「109シネマズMM横浜」と「ワーナー・マイカル・シネマズみなとみらい」がサブ会場として加わった。これにより、昨年までひとつの作品につき1回だった上映回数が2回に増え、飲食店やショッピングフロアがある複合施設内でのシネコンということから、これまでフランス映画にあまり馴染みがない人たちにも門戸が広がったと言えるだろう。同映画祭を主催するのは、フランス映画をプロモーションするユニフランス・フィルム・インターナショナルとフランス映画祭実行委員会、フランス映画祭受入委員会。今年のフランス映画祭の注目度ついて、横浜市の文化芸術都市創造事業本部 創造都市推進課担当課長の秋山さんに伺うと、「今年は近隣でのルーブル美術館展の開催や、シネコンでの上映もあり、チケットの売り上げはかなり良いです。昨年は17,000人の動員がありましたが、それを超えるのではと予測しています」と語る。また、首都圏で放送されている外国語FM放送局「InterFM」による同映画祭に関する情報発信や、渋谷での街頭テレビジョンによる期間限定のコマーシャル映像の放映など、東京都心部からの集客を狙うプロモーション活動も精力的。昨年は2つ折のチラシだった販促ツールも、『YOKOHAMA navigator』としてイベントを網羅する内容でグレードアップし、横浜市内、都内各地の映画館やカフェ、ショップなどに設置されている。毎年新しい取り組みや工夫がなされ、今年で13回目を迎えるフランス映画祭横浜は一層規模が大きくなった印象が強く、今後更なる盛り上がりを見せてくれそうだ。

109シネマズMM横浜 ワーナー・マイカル・シネマズみなとみらい
ドミニク・モル監督作『レミング』 ジャン=ポール・サロメ監督作『ルパン』 カリン・アルブー監督作『リトル・エルサレム』 映画祭情報とイベントを網羅する『YOKOHAMA navigator』

■フランス映画祭記者会見

6月15日、駐日フランス大使公邸で同映画祭記者会見が行われた。会見ではベルナール・ド・モンフェラン駐日フランス大使と、マルガレート・メネゴーズ ユニフランス会長が、今年も映画祭を迎えることができた喜びと、関係者への感謝の意を述べ挨拶。メネゴーズ ユニフランス会長は今回の映画祭について、サブ会場での同時上映や4つの大学での講演、横浜シネマテークが発足したことを挙げ、横浜はアジアにおける重要な意見交換の場だとコメント。同映画祭受入委員会の斎藤龍会長も「今回、市民の方により多く観てもらうため、サブ会場での上映が実現したことをPRしたい。映像文化都市をアピールする重要な役割を持った映画祭」という中田市長のメッセージを読み上げ、フランスと横浜市が同映画祭に寄せる高い期待を示す内容となった

代表団団長のコスタ=ガヴラス監督は、自身の映画製作歴40年周年とフランスに移り住んで50周年を迎える記念すべき年に団長として迎えられたことへの喜びを語るとともに、日本的なものが自身の映画作りに大きく影響を与えたこと、最近の作品では宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』を例に、日本映画について高く評価していることを述べた。「国によってそれぞれの映画があるが、今回携えてきた18本の映画もまさにフランスのプライベートヒストリー。表現できるものを網羅した、多様性に富んだ作品を持ってきた」と語るガヴラス監督の姿からは、並々ならぬ映画への熱い想いが感じられた。

また、作品の選定や配給に関しての質問に対し、メネゴーズ ユニフランス会長は「映画は、自分の国にいかに根を下ろしているかが成功を左右するため、作品の選定は日本の配給会社の意志や要求などを考慮して行っている。配給に関しては、日本には充分な数の劇場がなく、60本ものフランス映画が待機中」と答え、日本におけるフランス映画の上映本数が少ないことを指摘した。今後の展開についても、「現状に満足しているわけでなく、横浜市とも毎年意志を確認し合って継続していく。横浜市だけでなく、日本の他の都市でも映画祭を開催していきたい」と意欲的な姿勢を見せた。

ユニフランス会長のマルガレート・メネゴーズ氏 左からベルナール・ド・モンフェラン駐日フランス大使、ティエリー・フレモー氏、コスタ=ガヴラス監督、マルガレート・メネゴーズ氏 フランス映画祭ポスター展

■映画祭関連イベント『シネマテークはどうしてできたか?』シンポジウム

6月16日、「横浜シネマテーク」発足記念記者会見とシンポジウムが開催された。「シネマテーク」とは映画を収集、保存し、研究・観賞用に上映するフィルム・アーカイヴのこと。横浜シネマテークは横浜の映像文化の振興とフランス映画の普及を目的に発足。発足記念記者会見は中田市長、メネゴーズ ユニフランス会長、ティエリー・フレモー氏を迎え、ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルの一室で行われた。中田市長は「シネマテークの発足は光栄で誇らしいこと。この事業に尽力してくれたメネゴーズ ユニフランス会長へ感謝をしたい」と挨拶。メネゴーズ ユニフランス会長がそれに応えるように「多くの面で共鳴し、この事業が発足した。フランスの映画人がシネマテークで日本の作品を観て育ってきたように、横浜市民にもフランス映画から多くのものを学び取ってほしい」と喜びの言葉を述べた。

「横浜シネマテーク」発足記念シンポジウム開催

横浜市とユニフランスとの間で横浜シネマテーク設立についての協定が結ばれたのは2年前に遡る。フランス映画祭で上映されたフィルムはユニフランスが日本国内で管理、保管しており、当時、過去10回分のフィルムを所蔵。管理するフィルムは年々増える一方であることと、配給がつかなくて、日本での上映が同映画祭での1回きりになっている作品を、何とか活用できないかと考えられたのが、横浜シネマテークの構想だった。当時、非営利の上映という条件で活用できるフィルムは20本程度だったが、今回の発表に至るまでには未配給作品125本の寄託及び権利についての契約が整った。活動の内容は、1、フランス映画祭で上映された全作品を収集 2、寄託されたフィルムほか、ポスターやプレスシートといった付属物の保管 3、上映会の開催 4、フィルムの貸出 5、シンポジウム、講演会などの関連企画の開催 6、webによる情報の提供 など。関係者によると、ティエリー・フレモー氏との会談のなかで「シネマテークが恒常的な上映施設を持っていなければいけないという考え方はもう古いのでは」という意見も聞かれたという。つまり、アーカイブ施設を運営して来てくれる人を待つ受動的なものではなく、他の地域の映画祭など、観客のいる場にフィルムを持ち出して積極的に上映していく活動の在り方もあるのではないか、というものだ。多くの人に見られてフィルムが劣化していくことで映画は役割を終えるという考え方も一方ではある。それを受けて横浜シネマテークでは、今までの在り方に囚われず、新しいスタイルの検討も含め、模索していく予定だという。当面は横浜赤レンガ倉庫1号館のホールを定期上映の施設とし、今年度は秋以降にテーマを決めて3回の上映を予定している。

シンポジウムはフランス映画祭の関連イベントとしてパシフィコ横浜を会場に、前述のティエリー・フレモー氏、日本のシネマテークの草分け的存在でアテネフランセ文化センター・プログラムディレクターの松本正道氏、映画評論家の大久保賢一氏の3名をパネリストに『シネマテークはどうしてできたか?』をテーマに行われた。会場ではシネマテークの考え方や活動の内容、運営にあたってどのような点にポイントを置くべきかなど、活発な意見交換がなされた。フレモー氏は、若い世代が映像表現を理解するための教育として、またフランスではシネマテークによる映画文化の伝承がゴダールやトリュフォーといった優れた映画人を生んだように、未来の映画人を育成するためにも、同事業がいかに意義あるものかを熱っぽく語った。松本氏は日本のアーカイブの現状として、一般に広く認知されていないことを問題点として挙げ、対して大久保氏が世界のシネマテークの具体的な成功事例をもとに、活動を自ら楽しむことと、人々が参加したくなる巧みな演出が重要だと指摘。フレモー氏も、足を運ばせるためには魅力的なプログラムが必要だと言う。横浜シネマテークについて、「リュミエール研究所はリュミエール兄弟の作品収集からスタートし、徐々に活動を拡大していきました。横浜シネマテークも、はじめはフランス映画祭のフィルムからスタートするが、他の様々な映画のアーカイブへと発展していってほしい。リュミエール研究所では横浜シネマテークに協力し、フィルムの提供や相互貸し出しなどの連携を行っていきたい」とフレモー氏は語った。また大久保氏は「シネマテークが横浜市の誇りとなるように期待したい。そのためには行政と市民がその理念を確認しながら事業を進めていくことが大切」とコメント。松本氏の、「まずは恒常的な上映施設をつくること。シネマテークは長く続けることが大切だから、維持しやすい小さな施設でいい。ただし、スクリーンだけは絶対に大きくしなければいけない(笑)」とのコメントに会場から笑いも沸き起こるなど、和やかなムードでシンポジウムは幕を閉じた。

『シネマテークはどうしてできたか?』シンポジウム リュミエール研究所ディレクターのティエリー・フレモー氏 アテネフランセ文化センター主任 プログラムディレクターの松本正道氏 映画評論家の大久保賢一氏 シンポジウムのあとに記者発表が行われ、「横浜シネマテーク」の構想が発表された

■映像文化都市を目指す横浜の現状

「文化芸術創造都市」を目指す横浜市では、その実現に向けて基本的な施策の方向性と具体的な取り組みに関する中期的方針(素案)をまとめたものを今年4月末に発表した。「文化芸術創造都市」とは市民と文化芸術、都市の間に新しい関係が築かれ、創造性という人間固有の力が存分に発揮できる都市のこと。中期的方針(素案)では、1、創造の場と機会を充実し、世界に通用する個性を発信 2、魅力ある空間形成と創造的産業の集積を図り、都市の活力を高める 3、文化芸術と地域や社会をつなぐ市民を支援 4、創造の担い手づくりに投資 5、歴史と資源を活かし新たな文化基盤を創る という5つの基本方針を打ち出した。その主な取り組みの中に「映像文化都市」づくりも含まれ、映像系コンテンツ産業などの集積や人材育成・支援を図り、アジアやEUとの連携も視野に入れて映像制作、発信、交流の場としての横浜を目指す。

横浜市文化芸術都市創造事業本部 文化芸術ナビ

最近の動向としては、2月に映像系企業誘致のための助成金制度が開設、4月には旧富士銀行をキャンパスに東京藝術大学大学院映像研究科がオープンした。同大学院ではメディアアート科を来年設置することも予定されている。また、横浜市には「フランス映画祭」以外にも「ヨコハマ映画祭」、「横濱学生映画祭」、「デジコンフェスタ横浜」などの映像関連イベントがあるが、新たに「横浜自由映画劇場」が5月に誕生。作品発表の場に恵まれない映像作家に発表の場を提供し、新たな才能を発掘、育成していくことを目的に年4回開催する。文化芸術都市創造事業本部の秋山さんは「映像文化都市の実現に向けて、今はまだ種を蒔く時期。フランス映画祭関連の大学講演会など、交流の場を提供することが、新たな展開へのきっかけづくりとして重要だと考えています。CGやメディアアートといった分野にも着目し、横浜らしい映像文化を築いていければ」と今後の展望を語った。

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先月14日、カンヌ映画祭で、日本映画の海外紹介などを行っているユニジャパン(日本映像国際振興協会)とフランス映画庁(CNC)が関係強化を図る「日仏映画協力覚書」に調印した。覚書では、両国の映画が互いの国でより多く公開されるための環境整備や共同制作、人材育成や映画祭の交流を促進することが定められている。横浜市では、過去12回にわたってフランス映画祭が開催され、その蓄積が横浜シネマテークという形で今年実を結んだ。日仏間の映画産業がより活発化することを目的としたこの調印が、横浜市に新たな展開をもたらしてくれることを期待したい。

ユニジャパン
上映終了後の監督や俳優によるQ&Aやサイン会も魅力の一つ 多数のカメラに顔を向けるオダギリジョー氏 豪華映画人の登場に会場は大いに沸いた 「フランス映画祭 横浜2005」は華やかに幕を開けた
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