特集

時代はマスメディアから地域メディアへ
「市民メディア」はヨコハマを変える?

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■ブログの登場で加速する市民メディアとは?

インターネットの登場によって誰でも社会に対して情報を発信できるようになったが、Web上の情報発信にはHTMLなどの特別な知識を必要とするため、これまでは積極的な情報発信者はインターネット利用者の一部に留まっていた。しかし近年は特別なソフトウェアを使わずともブラウザ上で簡単に更新できるシステムが普及し、より手軽に情報発信できるようになった。そのなかでも、いま急速に利用者を拡大しているのが、「ブログ」と呼ばれる個人運営の日記的なWebサイトだ。

ブログは文章や写真を時系列に沿って掲載していくシステム。その優れた機能の一つに「トラックバック」という、別のブログへリンクを張った際に、リンク先の相手に対してリンクを張ったことを通知する仕組みがある。単なるリンクでは元の記事の作者はどこからどうリンクされているのか容易に知ることはできないが、トラックバックではリンク元サイトに自分の記事のURLやタイトル、内容の一部が送信され、「このような記事からリンクを張った」という情報を自動で通知することができる。これにより相互リンクを張る敷居が低くなり、同じ関心を持つ人でコミュニティができやすくなる。またリンク数が多くなるため、検索エンジン(Google)での評価が高くなるというメリットもある。自分のページに文章を書くため、匿名掲示板のように誹謗中傷で荒れることも少ない。

話題ごとに自然とコミュニティが形成され、議論や意見の交流が生まれやすい仕組みとなっていることが普及を促し、ブログを運営する「ブロガー」はここ数年で急増、現在日本には少なくとも200万以上のブログがあると言われている。一般人のみならず、多くのタレントや著名人も自分のブログを運営して情報を発信している。ライブドアの堀江貴文社長やニフティの古河建純社長など、PRやIRの一環として「社長ブログ」を始める社長も多い。また、人気ブログは記事をまとめて書籍化されるなど、ビジネスの面でも注目を浴びており、新たな市民メディアのツールとして幅広い用途で活用されている。

livedoor 社長日記 古河建純 インターネットBlog
livedoor 社長日記 古河建純 インターネットBlog

■アメリカの「ブログ・ジャーナリズム」

ブログが市民メディアとして注目を集めるようになったきっかけは、ニューヨークで起こった9.11事件だと言われている。事件の直後、マスメディアは画一的な報道しかしなかったのに対し、アメリカのブロガーたちは独自の取材のもと自らのブログを通してより広く深い一次情報を発信し、アメリカの世論に多大な影響を与えた。これまではマスメディアが発する一次情報を市民が受け取るという関係だったのが、市民が一次情報の発信者となり情報が広がり、マスメディアが後追いでそれを取り上げるという逆転の現象も生まれている。その後もイラク戦争や大統領選挙などでも主要メディアよりも事件の実態を明らかにするなど、ブロガーたちの活躍は社会に大きな影響を与え、「ブログ・ジャーナリズム」という新たな概念をもたらした。

アメリカのブロガーたちには、マスメディアの報道姿勢を批判的に問い、独自の一次情報を発信し、記録を保存・公開するというジャーナリズムの役割を果たしている人も多い。一方、日本のブロガーたちは積極的な取材を行っているケースは少なく、新聞や雑誌などから得た一次情報について自分の個人的な意見を書いている場合が多いのが現状だ。それには、報道記者の流動性が極めて低いことや、大手5系列16社しか国会や官庁の記者会見に参加できない「記者クラブ」制度の存在など、日本のマスメディア界における様々な問題が要因として考えられる。また他の先進国と比較して、日本人はメディアリテラシーが低いとも言われている。しかし、自由に情報を発信できるブログが大量に集積されリンクされることで巨大なメディアとなり、良質な市民メディアの担い手を醸成する基盤となっていくことだろう。

第3回「市民メディアがヨコハマを変える」フォーラムの様子

■市民メディアを通じた地域活性化

メディアが市民に正確な情報を伝えなければ民主主義が機能しなくなるという危機感から、全国各地で市民メディアを起こす動きが活発になってきている。市民メディアを通して地域活性化を図る団体の情報交換をする場として2004年2月に第1回市民メディア全国交流集会が名古屋で、10月に第2回市民メディア全国交流集会が米子で開催された。第2回集会では、鳥取県米子市のケーブルテレビで地域コンテンツを配信している中海テレビの先進的な取り組みに注目が集まった。中海テレビでは、1992年からパブリックアクセスチャンネルを設置し、市民が企画・撮影・編集した映像コンテンツを放送している。

第2回全国市民メディア交流大会 in YONAGO

「パブリックアクセス」とは、アメリカで普及している制度で、ケーブルテレビ局に地元市民が自分の手で作った番組を放送するチャンネルをつくるというもの。ケーブルテレビが浸透しているアメリカでは、全国約700のケーブルテレビ局でこの制度が実施されている。市民から持ち込まれる映像は原則として局側に編集権はなく、放送コードに抵触するものや商売目的のもの以外は放送される。具体的には、ドキュメンタリー、マイノリティーの紹介、ビデオアート、身近な現象を撮ったホームビデオなど。最も盛んであると言われるマンハッタン・ネイバーフッド・ネットワーク(MNN)には年間1万本もの持ち込みがあり、パブリックアクセスチャンネルを4チャンネル運営しているものの、放送は何ヵ月も順番待ちになるという。

Manhattan Neighborhood Network

中海テレビでは情報を発信したい市民が自分の意図をうまく表現できるように、撮影や編集の技術支援を行っている。市民は社会に訴えたい情報を発信できるとともに、番組づくりの活動を通してメディアリテラシーも向上していく。パブリックアクセスを続けてくうちに、地元住民が積極的に地域の課題を発見し、主体的にまちづくりに取り組む風土が築かれるという良い循環が生まれている。

中海テレビ パブリックアクセスチャンネル

今年9月には、熊本で第3回市民メディア全国交流集会を開催する予定だ。熊本の市民メディアで注目を浴びているのは、「住民ディレクター」を養成している有限会社プリズム。プリズム代表の岸本晃さんは10年ほど前から、市民が映像制作のプロセスを経験することで、企画力、取材力、構成力、広報力を養い、地域情報を自ら発信すると共に、地域作りのリーダーとなっていくと提唱し、これまで市民の番組約300本の制作支援を行ってきた。岸本さんは、住民ディレクターは、ブロードバンド時代の今だからこそ、地域起こしのプロデュサーとして益々全国で求められてきており、地方ばかりでなく、横浜や東京などの大都市からも引き合いがきているという。

プリズム
第2回市民メディア全国交流集会 in YONAGOの様子 Manhattan Neighborhood Network 中海テレビ パブリックアクセスチャンネル プリズム プリズム代表の岸本晃さん プリズム制作の番組画面

■横浜市民メディア連絡会の活動

第4回市民メディア全国交流集会は、来年秋に横浜での開催を予定している。横浜で市民メディアの活用研究を行っているのは、市民団体の横浜市民メディア連絡会だ。横浜市民メディア連絡会は横浜の市民メディアのネットワークを形成することで、情報共有による課題の発見や、他団体との協働を実現など、市民社会・協働社会の形成を目的に2002年から活動を行っている。現在市民メディアに興味を持つ約80人が会員に登録している。横浜市民メディア連絡会の事務局長を務める原聡一郎さんは、「市民メディアに興味がある人なら誰でも参加できるよう、会に登録する条件などは特に作っていません」と多くの人に参加を呼びかけている。

横浜市民メディア連絡会

原さんは、近年市民メディアが盛り上がりを見せ始めていることについてこう語る。「ブログが流行したのが一つのきっかけかもしれませんね。ブログは市民メディアとは何かを説明するのにとてもわかりやすい。たくさんの市民が地に足のついた情報を発信し、そのなかからいいものはリンクされることで多くの人に読まれていく、その仕組みはすばらしいと思います。また、プリズムの岸本さんが住民ディレクターの活動を全国で広めていることや、市民メディア全国交流集会の開催で市民メディア同士の交流が促進されていることも大きな要因だと思います」。

横浜市民メディア連絡会では現在、主に4つのプロジェクトを進行中だという。(1)市民メディアで情報を掲載する際の、著作権や個人情報保護などに関する掲載基準をつくる「メディアリテラシープロジェクト」、(2)市民参加型協働社会と市民の情報発信について研究するプロジェクト、(3)地域のボランティアが協力して学校内にインターネットLAN回線を引き、情報教育や地域に開かれた学校環境づくりを目指す「ネットデイプロジェクト」、(4)地図システム「e-ガリバーマップ」、ブログ、簡単なホームページ作成ツール「NOTA」といった便利なツールの検証と活用を広めるプロジェクト。横浜市民メディア連絡会ではこれらのプロジェクトの推進とともに、シンポジウムやフォーラムを毎年開催している。

ネットデイ e-ガリバーマップ NOTA
横浜市民メディア連絡会事務局長の原聡一郎さん 横浜トリエンナーレ2005の第1号作品の前でインタビューする桜美林大学助教授の和田昌樹さん ネットデイ e-ガリバーマップ NOTA

■第3回「市民メディアがヨコハマを変える」フォーラム

横浜市民メディア連絡会は、これまで3回にわたりフォーラム「市民メディアがヨコハマを変える」を開催し、横浜での市民メディアの活性化と協働の促進に務めてきた。4月24日に横浜市大よこはまアーバンカレッジで開催された第3回のフォーラムでは、横浜のNPO、市民活動団体、大学教授などが集まり、市民メディアに興味を持つ人たちに活動紹介やワークショップを行った。武蔵工業大学助教授の中村雅子さんは、「市民メディアと参加のデザイン」と題して市民メディアや市民活動の参加に関する課題提起をした。夢ネット・栄の藤田幸子さんは、「市民メディアの新しい技術BlogとNOTAの活用」と題し、BlogやNOTAといった新しいWebツールの活用方法を紹介した。

横浜市民メディア連絡会のBlog 夢ネット・栄 洛西一周のホームページ 2005 グリーンマップよこはま

そして、産能短大兼任講師でイーパーツ常務理事の会田和弘さんは、「防災における市民メディアへの期待」と題して、ネットデイ、わいわい防災マップ、情報ボランティアなどの取り組みを紹介した。つづき交流ステーション代表の岩室晶子さんは、「地域ポータルサイトに期待するもの」と題し、地域ポータルサイトに必要とされる情報とは何かについて経験から問題提起をされた。最後に、桜美林大学助教授の和田昌樹さんが「Webラジオと市民レポーター」と題し、開局準備中の横浜ラジオマガジン「ポートサイド・ステーション」についてのビジョンを紹介した。以上の課題提起に対して、会場の参加者全員が5つグループに分かれ、ファシリテーターを加えてワークショップを行った。

イーパーツ つづき交流ステーション まちづくりフォーラム港南 あおばぱそこん横丁

原さんは、横浜の最近の市民メディアの面白い事例として、横浜トリエンナーレ2005の市民広報チーム「はまことり」の動きを挙げる。はまことりは、横浜に住むアートに関心のある市民が集まり、市民の視点から横浜トリエンナーレ2005の魅力を広報していくもの。4月23日にはフリーペーパー「横浜シティアートニュース」創刊号も発行した。また横浜ラジオマガジン「ポートサイド・ステーション」を活用し、はまことりのスタッフが中心となり、横浜の子どもたちがインターネットラジオの番組制作を通してメディアリテラシーを学ぶプロジェクト「横浜トリエンナーレ子ども放送局」もスタートし、その活動領域は日に日に拡大している。「ポートサイド・ステーション」や「横浜トリエンナーレ子ども放送局」のプロジェクトの詳細は、5月10日にBankART 1929 YOKOHAMA 3階で開催されるイベント「ポートサイドステーション vol.0」にて発表される。原さんは、「市民広報として横浜トリエンナーレ2005というアートイベントを市民に身近なものにするだけでなく、イベントそのものの価値転換をしてしまう可能性もあると期待しています」 という。

はまことり、「横浜シティアートニュース」創刊号発行 5.10「ポートサイドステーション vol.0」@BankART 開催のお知らせB

初めてラジオが世の中に出たとき、それには電波を受信する機能のみならず発信機能もついていた。誰もが情報の発信者になれるマルチメディアの機械であったにもかかわらず、発信機能は需要が少なかったため、やがてラジオは受信機能のみがあるマスメディアとなって普及した。市民メディアが本当の意味で機能していくには、マルチメディアとなる便利なツールがあるだけでは不十分で、個人が高い意識を持ち、事実を明らかにしよう、伝えようという意志を持つことが不可欠である。市民メディアのツールとなる新しい技術への関わりを通して、マスメディアの流す情報を盲目的に受け入れてしまう危険性を知り、自分の目と耳で事実を確認して情報の発信者側の意図を読み解く高いメディアリテラシーを養っていくことが大切なのではないだろうか。

夢ネット・栄の藤田幸子さん 産能短大兼任講師でイーパーツ常務理事の会田和弘さん 第3回「市民メディアがヨコハマを変える」フォーラム参加者 グループに分かれてのワークショップの様子 つづき交流ステーション代表の岩室晶子さん 桜美林大学助教授の和田昌樹さん はまことりが発行したフリーペーパー「横浜シティアートニュース」創刊号 横浜トリエンナーレ2005の川俣正ディレクターを愛知万博会場にインターネット放送で中継する様子
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