弘明寺で1963(昭和38)年にスーパーマーケット「長崎屋」として建てられた「GM2ビル」(横浜市南区弘明寺町)の、2.3階に、現代美術家の渡辺篤さんとアーティストの小泉明郎さんがスタジオを構え、10月16・17日に初めてのオープンスタジオを開催する。
渡辺さんは1978年横浜生まれで南区在住。東京藝術大学の大学院を2009年に卒業後、2010年から2013年にかけて、ひきこもった経験を持ち、2013年に美術家としての活動を再開。元当事者として「ひきこもり」にまつわるテーマなどについて、心に傷を持った人たちと協働するプロジェクトを多数実施している。
スタジオは2階に構え、オープンスタジオでは、2014年の個展「止まった部屋 動き出した家」での、まだひきこもりを終えた翌年の写真や、2017年の「わたしの傷/あなたの傷」展でひきこもり当時暮らしていた実家のミニチュアを母とともに壊して金継ぎで再生した作品など歴代の作品とともに、新型コロナウィルスの感染拡大で非常事態宣言が出た2020年4月7日から、ひきこもりやコロナ禍に孤立を感じる人たちとともに、各自の居場所で撮影した月の写真を時系列に並べ続けている「同じ月を見た日」プロジェクトの関連作品などの最新作を展示している。
渡辺さんは「タイトルが、『同じ月をみている』という現在系でなく『同じ月を見た日』という過去形。当初からアフターコロナの世界に照準をあわせていて『ここに居ない誰かと月を見る日があった』ということを思い出すようにと。ハレの場には多くの人が来るけれど、その場に来られない人もいる。コロナは『来られることの特権性』にも気付く機会」と話す。アトリエ内に配置された球形のライトは、会場に来ることのできないプロジェクトメンバーたちが遠隔からスイッチを入れている。
小泉明郎さんは1976年生まれ、横浜在住。ロンドンの「チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン」で映像表現を学び、現在は国内外で滞在制作し映像・VR・パフォーマンスによる作品を発表している。本年の文化庁メディア芸術祭では、VR/AR技術を駆使した体験型演劇作品「縛られたプロメテウス」で、アート部門大賞を受賞した。
小泉さんのスタジオとなったビルの3階には、スーパーだった当時の壁面が残っていた。現在は、解体をしながら自分のスペースを制作中で、オープンスタジオは、スタジオの制作過程を公開する形。「窓を全部開けられるようにするのにも丸一日かかった、ガッチガチでね」と話す小泉さん。「制限事項のない空間はアーティストにとって本当にありがたい。解体をした壁を使って、物を作ろうかな」と構想を持つ。
あわせて。小泉さんのアシスタントの映像も流しており、「今回手にいれたスタジオで、自分より若いキャリアのアーティストの、発表の場にもなるようにしたい」と口にする。
GM2ビルを所有する泰有社の水谷浩士さんは「素晴らしいクリエーターが来てくれた。身近な芸術の場として、街の人が集まってくるような空間になる手伝いをして、これから弘明寺に新たな面白い人が集まって、街が盛り上がっていけたら」と話す。
渡辺さんは「以前居たR16 studioが耐震補強工事のためと退去要請があり、場を探していた時に泰有社が新たな場を貸してくれた。アートを媒介に来客やクリエーターを呼ぶのが恩返しだなと思って」と、今後、140平米ほどの2階のスペースを2つに区切り、半分をスタジオに、もう半分は他のアーティストの展示やイベントなどにも使用可能なスペースにする予定という。
オープンスタジオは17日17時まで。入場無料。感染症対策のため同時入場者数の制限をしており、要予約。当日予約も可能。