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ひらがな商店街「と」 絵本カフェで人と人をつないだ8年間 3月末に幕

ひらがな商店街アートスペース「と」の前に立つ店主の今井嘉江さん

ひらがな商店街アートスペース「と」の前に立つ店主の今井嘉江さん

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 ひらがな商店街アートスペース「と」(横浜市中区石川町3)が3月31日で閉店する。「と」は2012年4月、絵本カフェとしてオープン、壁には約200冊の絵本を飾り、アート展などのイベントも数多く開くなどして人々が交流する拠点となっていた。

「と」の記録集を手に笑顔の今井さん

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 店主は西区在住で青少年支援拠点「シャーロックホームズ」の創立者、今井嘉江さん。2011年に母を亡くしたのを機に、築約70年の実家をリノベーション。地域の人たちが気軽に立ち寄ることのできる場になればと、デザイナーの阿部太一さんや美術家の吉本伊織さん、リノベーションに関心のある作家の協力を得ながら半年かけて店舗を整備した。横浜国立大学の学生・院生や高校生アルバイトも集まり皆で楽しみながら作業したという。

 「店番」をするのは、アルバイトやボランティアではなく「日直」。担当する日は店にいて自分がやりたいことをやる形で運営。始めてみると「私もやりたい」と手を挙げる人で、曜日ごとの「日直」はすぐに決まった。月曜はフラダンス、火曜はパティシエ、水曜は画家、木曜はフェアトレード、金曜は子育て支援、土曜はカフェ、日曜は横浜市立大学の学生。今井さんは「私が入る日があまりなくて寂しかったのよ」と笑いながら話す。

 そんなに長く続かないと考えていたが、街の人たちと共に作り上げていく「まちづくりの拠点」として、オープン前から雑誌の取材が続き評判に。店名に込めた思いは、何かと何かをつなぐこと。「ギャラリーとアート」「カフェと絵本」「カルチャーとまち」「昔と今」、そして「人と人」「人と街」。

 「日直」は「と」で活動する中、次の道を見つけると卒業していった。自宅でパン教室を始めたり、大学で教職に就いたり…。これまでの日直は20人ほど。2018年からは朝食を提供する「ひらがな食堂」も開き、不登校ぎみな学生に朝から動き出すことで生活リズムを整えてもらうことや、食堂の調理や接客の手伝いも若者にしてもらうことで自立支援につなげてきた。

 周囲から「と」の継続と望む声は多かったが、「70歳からは次の道」と決めていた今井さん。「自宅を誰でも出入りしていい場所にすることは怖いと思われるかもしれないけれど、自分の場を地域に少し還元するだけ。扉を開くだけで、若い人が立ち寄ってくれて流れが生まれる。『と』でやってきたことが、今後の高齢化時代における一つのヒントになれば」と振り返る。

 「青少年支援活動をしてきた中で、子どもたちに最も寄り添ってくれたのはアーティストだった。これからはアーティストへのお返しは続けたい」と展望を語る今井さん。今後は、関内の「自在関内オフィス」(相生町3)を拠点とする予定で、開始時期は未定。「洋裁学校で教えていた経験があるので、ミシンや織り機を置いて、手仕事を通じて交流できる場を作りたい。フラリと立ち寄って、それぞれのことを語れる『居場所』であることは、今までもこれからも変わらない」と包み込むような笑顔を見せる。

 「と」の営業時間は7時~13時(火曜~木曜のみ)と17時~22時(毎日)。3月31日の閉店まで無休。最終日は7時~22時の全日営業を予定。

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