市民メディアの価値は、マスメディアがさまざまな理由で伝えきれない出来事や肌感覚を、市民の関心からすくい上げ、独立して自由に共有できる「オルタナティブ」であることにある。市民目線で「知りたい」「共有したい」と思うことを編集し、地域に必要な情報の流通をつくる。さらにICTとAIの進化によって、記事や番組といったコンテンツをデータベース化し、ネットワークで磨き、再編集して届け直すことが可能になり、“媒体価値を伸ばす余地”は大きく広がった。
コンテンツの価値を高めることは、地域資源の価値を可視化し、地域の選択肢を増やすことにもつながる。メディフェス横浜2026では、コミュニティFM、タウン紙、ネットメディアが交差しながら、地域価値を増幅させ、持続可能にするための具体策が議論される。コンテンツ価値=地域価値をどう高め、どう広げるかを探るメディフェス2026を紹介する。

メディフェスが20年続いてきた理由の一つは、メディアの技術や流行が変わっても、「地域のことを地域の人が語り、共有し、対話できる場」をつくり続けてきた点にある。発信のハードルが下がったSNS時代でも、対話が深まるには“場”が必要で、そこには偶然の出会いと学びが生まれる。
もう一つは、媒体や立場を越えてつながれることだ。放送、紙、Web、SNS、音声、動画――表現は違っても、「地域をよくしたい」という実践者が集まり、互いの工夫を持ち寄る。その交換が、次の実験や協働のきっかけになる。
そしてこの「場」は、単なる交流会ではなく、情報の作り手が増える土壌でもある。受け手だった市民が、取材協力者になり、書き手になり、パーソナリティになり、支える側にも回る。メディフェスは、その循環を地域ごとに芽吹かせる装置でもある。
市民メディアは、オルタナティブメディアとして「伝えられないことを伝える」役割を担ってきた。市民目線で「知りたい」「共有したい」と感じたことを、自律的に編集し、自由に発信できる。中央の視点で平準化されがちなニュースの外側にある“生活の輪郭”をすくい上げることが、市民メディアの強みだ。
一方で、AIを含むICTの進化は、市民メディアの媒体価値を“構造的に”底上げできる。たとえば、記事や番組のアーカイブを整理して検索性を高める、タグ付けで地域資源を地図のように蓄積する、音声を文字起こしして引用しやすくする、過去記事を再編集して特集として束ね直す。コンテンツは単発で消費されるものではなく、地域の価値を見える化する資産になっていく。
媒体価値の向上とは、露出やPVだけではない。地域の価値ある情報が「必要な人に届く確率」を上げ、行動(参加・来訪・支援・協働)につながる回路を増やすことだ。AIは、その回路づくりを“少人数でも回せる”方向に押し上げる可能性を持っている。
記事も放送プログラムも、地域に散らばる出来事・人・店・活動・施設といった“資源”を、それぞれの編集フィルターで拾い上げ、意味づけし、共有可能な形に整える営みだ。どこに価値があるかは、最初から見えているわけではない。取材や番組づくりは、価値の芽を見つけ、言葉と文脈を与える作業でもある。
重要なのは、その営みが「価値の所在」を地域社会のコモンズ(共有財)として積み上げる点にあること。誰かの頭の中や内輪のネットワークにある情報が、記事や番組を通じて公共的に参照できる状態になる。いわば、地域の“知のインフラ”をつくる行為だ。
さらにAI時代は、このコモンズ化が加速する。蓄積したコンテンツを、別の切り口で束ね直す。音声をテキストに変換し、検索できる資源にする。ネットワークで共有し、他地域の学びを取り込む。コンテンツ価値が上がれば、地域資源そのものの価値も伝わりやすくなる。
メインセッション5「市民メディアの持続可能性」では、媒体の枠を越えた連携や、新しい収益モデルの可能性がテーマになる。議論の土台には、「公共性は大切だが、続ける設計がなければ維持できない」という現実がある。理念や熱量があっても、運営が回らなければ、地域の“情報インフラ”は途切れてしまう。
登壇者は
・鈴木伸幸(FM小田原 代表取締役/関東のコミュニティFMネットワーク会長)
・門馬康二(タウンニュース)
・船本由佳(メディフェス横浜2026 実行委員長/元NHKキャスター、マリンFMパーソナリティ)
・杉浦裕樹(ヨコハマ経済新聞/横浜コミュニティデザイン・ラボ)
セッション5へ至る導線として、初日の「横浜のコミュニティFM大集合(その1)」、2日目の「(その2)」がある。
このセッション5には、遠隔参加のゲストとして西樹氏(みんなの経済新聞ネットワーク本部代表/シブヤ経済新聞編集長)も登壇する。みん経とコミュニティFMの連携事例は、理想論ではなく「現に回っている運用」の具体例として、持続可能性の議論に厚みを加える。連携が成立する条件や、継続のための“型”が共有されれば、横浜の実践に落とし込めるヒントも増える。
モデレーターを務めるのは、東海大学の水島久光教授。20年にわたりメディフェスに深く関わり、今回はプログラムディレクターとして全体を統括する立場でもある。ここでの議論が“2日間の総括”へつながる。
議論が拡散しがちな「持続可能性」というテーマを、どんな問いで束ね、どんな結論へ導くのか。統括者の“編集力”そのものが、今回のテーマを体現することにもなりそうだ。

持続可能性を語るとき「お金の話」になりがちだが、実はその前に「参加の設計」がある。参加者が増えるほど取材網が広がり、編集の厚みが増し、コンテンツ価値が上がる。コンテンツ価値が上がれば、スポンサーや協働も生まれやすくなる。ここには、媒体価値と経営がつながる循環がある。
参加の入口は多様でいい。たとえば、
・パーソナリティ/レポーター/書き手として参加する
・サポーター(取材協力・写真・文字起こし・イベント運営)として参加する
・企業・個人スポンサーとして支える(番組枠/記事枠を持つ、企画に協賛する)
この仕組みを回すために必要なのは、募集の言葉だけではない。役割定義、参加導線(申し込み~研修~デビュー)、編集ルール、クレジットの扱い、成果の見える化、そして「参加してよかった」と思える体験設計。さらに言えば、企業や個人にとって「支援する意味」が腹落ちする“見立て”も必要だ。地域資源の価値が可視化され、行動が生まれ、地域が少し良くなる——その過程が見えるほど、参加は続く。
地域メディアの経営課題は、紙メディアでもWebメディアでも電波メディアでも共通項がある。営業、スポンサー設計、制作進行、デジタル運用、権利処理、会計、ファンドレイズ、コミュニティ運営――。しかし各社が小規模だと、マネジメント人材を抱えるのが難しい。結果として、現場の頑張りが属人化し、継続が不安定になる。
だからこそ、同じ地域の複数メディアでマネジメント人材やノウハウを共有できたら強い。共同営業、共同企画、共通のスポンサー商品、共通のデータ基盤、共同の人材育成。知見とネットワークを「個社の資産」から「地域のコモンズ」へ寄せていく発想は、メディアの持続可能性を現実のものにする。
たとえば、制作や編集は各媒体の個性として残しつつ、営業・法務・会計・データ整備など“裏方”を連携で支える。あるいは、地域横断の「編集会議」や「営業会議」を定例化し、小さな成功事例を横展開する。セッション5で語られる「連携」を、実務の手触りに変える鍵がここにある。
市民メディアは、地域の出来事を拾い、語り、共有し、対話を生む装置だ。その役割は、マスメディアでもSNSでも代替しきれない。伝えにくいことを伝え、生活者の目線で価値の所在を見つけ、地域のコモンズとして積み上げていく。
同時に、AI時代は“届け方”を更新できる。蓄積し、再編集し、ネットワークで磨き、必要な人に届く確率を上げる。コンテンツ価値の向上は、地域資源の価値を可視化し、地域の選択肢を増やしていくことでもある。
メディフェス横浜2026のセッション5は、その理想を「続けられる仕組み」に変える議論の場になる。参加の仕組み、連携の型、マネジメントの共有——具体策が語られるほど、次の一歩は現実になる。次の20年へ向けて、横浜からどんな“編みなおし”が始まるのか。




