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横浜ゆかりで、NYで活動中 俳優・プロデューサー 小野功司さんインタビュー
「ファミリーミュージカルを世界中の子どもたちに届けたい!」

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今年の夏にKAAT(神奈川芸術劇場)で上演されたファミリーミュージカル「えんとつ町のプペル」はハロウィンの一日から始まる物語だった。このプロデュースチームの一員として活躍した俳優でプロデューサーの小野功司さんは、学生時代と劇団四季に所属していた期間を合わせ、横浜在住歴は17年間。

現在は「ファミリーミュージカルを世界中の子どもたちに届けたい!」という夢を抱いてニューヨークへ渡り、日米を拠点に活動している。

ミュージカルとの出会い、そして今後の展望について、独占インタビュー!

KAAT舞台で 小野功司さん

横浜での原体験が、俳優への道につながった

 少年時代の小野さんは、読書が大好きだった。横浜市青葉区の桐蔭学園に通い、学校の中心にあったホールでは、無名塾の仲代達也さんや「こまつ座」など、質の高い舞台を数多く鑑賞した。国語の先生と作品のセリフについて語り合った経験は、後の俳優の道につながる原体験となったという。

 大学は早稲田大学法学部に進学。「人を救う仕事がしたい」と弁護士を目指していたが、「自分の好きなことで人を笑顔にしたい」そう考えた小野さんは、中高時代に見た演劇の世界を思い出し、演劇の道へ進むことを決意。大学3年次に「演劇集団 円」の研究生となり、演技の基礎を学んだ。

KAAT(神奈川芸術劇場)前で撮影

NYでミュージカルと出会い、帰国後ディズニーランドへ

 大学卒業後、3ヶ月間の留学で訪れたアメリカ。ニューヨークで目にした「シカゴ」や「ストンプ」といったブロードウェイミュージカルは、日本で観てきた演劇とは違う「光り輝く」世界で、キラキラしていた。

 「人を笑顔にするのはこれだ!ミュージカルだ!」と直感した。

 帰国後は、ミュージカルに必要な歌とダンスを学ぶため、歌のレッスンやダンススタジオに通う日々を送る。そんな中、東京ディズニーランドのオーディションに挑戦。合格してプロの世界へ。「合格は本当に運が良かっただけです」と笑う。 

東京ディズニーランド時代の小野さん

 1年間、東京ディズニーランドのパレードに出演し華やかなエンターテインメントの世界を知った。観客が皆、笑顔になっているのを見るのが楽しかった。と同時に心のどこかで自分は本当は演劇やミュージカルがしたいのではないかという気持ちも募っていった。

 「演劇を軸としたミュージカルに出演したい。ダンサーではなく舞台俳優になりたい」と。

劇団四季へ ファミリーミュージカルとの出会い

 2008年2月、雪が降る日。横浜あざみ野にある劇団四季のオーディションを受けた小野さんは、ここでも「またもや奇跡が起こって合格した」と謙遜する。同年、ファミリーミュージカル「人間になりたがった猫」で四季の初舞台を踏んだ。

 「これがファミリーミュージカルとの出会いです。僕がやりたかったのはこれだと直感しました。初めての稽古で鳥肌が止まりませんでした」と、当時の感動を語る。

 演劇、ダンス、歌で、友情や愛、夢、希望といった大切なメッセージが子どもたちに伝わることに、心から魅了された。

 その後、在団中にファミリーミュージカルのほか「ライオンキング」「コーラスライン」など数々の人気ミュージカルにも出演。年間200~300ステージをこなしながら、舞台俳優としての研鑽を重ねていった。

劇団四季時代 「ガンバの大冒険」(左)と「コーラスライン」

ニューヨークへの挑戦、そして「えんとつ町のプペル」との出会い

 11年間在籍した劇団四季を2018年に退団。「ファミリーミュージカルを世界中の子どもたちに伝えたい」という夢を胸に、ブロードウェイへの挑戦を始めた。物語性が強く、テーマが明快で、家族で楽しめる作品を世界に届けたいという思いがあった。

 2019年初頭、ニューヨークで演劇学校に通いながら、仲間たちと上演する作品を探し始めた。そのとき、ふと頭に浮かんだのが「二次利用可」という異例の姿勢を打ち出していた絵本「えんとつ町のプペル」だった。NYの紀伊国屋で絵本を手にし、「なんて素敵な物語なんだ」と感動。この物語ならファミリーミュージカルができると確信し、すぐに作者の西野亮廣さんにメッセージを送った。「NYでプペルのミュージカルをやってもいいですか」。質問というよりは報告に近い気持ちだったという。

 まさか本人から直接返事があるとは思っていなかったが、西野さん本人から脚本を書きますという返事があり、原作者本人が関わるという思いがけない展開に。

 そこからすぐにプロジェクトが立ち上がりNYでミュージカル「えんとつ町のプペル」を上演するという目標に向かって走り出した。

コロナ禍、ロックダウンしたニューヨークで

 ところが、翌2020年、新型コロナウイルスが世界を襲ったブロードウェイの劇場は全て閉鎖され、街はロックダウン。演劇の存在価値そのものすら問われる絶体絶命の状況に陥る。

 移住してまだ1年足らず、さらにコロナが直撃するという困難な状況下ではあったがオンラインでのミーティングを重ね、プロジェクトは少しずつ進行していった。

 そして当初、オフブロードウェイの劇場で初日を迎えるはずだった2020年9月19日に、劇場公演ではなくオンライン配信で作品を届けた。クラウドファンディングで1,800万円以上の支援が届き、視聴者は2000人以上になった。俳優が各自の自宅で撮影したビデオを編集し、オンライン配信としては出来る限りのことをしたが、やはりいつかは劇場で公演したいという思いは募っていった。
 

YouTubeアカウント「Poupelle The Musical」より 「Poupelle of Chimney Town - NY company member 2020」

日本へ 東京のミュージカルと、横浜KAATのファミリーミュージカル

 NYでパンデミックが収まる気配がない中、一時帰国を決断。2021年は、東京キネマ倶楽部(東京都台東区)でのミュージカル「えんとつ町のプペル」初演にプロデューサーチームの一員として参画した。本物のミュージカル作品にしたいという思いで、吉原光夫さんや乾直樹さんといった実力派俳優に出演を自ら依頼。稽古場で吉原さんの口上「えんとつ町はえんとつだらけ」と聞いた時には、煙とコロナの印象が重なり、涙した。各回定員250人で2週間の公演は完売、有料オンライン配信も1万5千人以上に視聴された。
 

YouTubeアカウント「Poupelle The Musical」より 【全編無料公開】ミュージカル『えんとつ町のプペル』(2021年版)

 そして4年後、2025年8月、ついに小野さんが夢見た大劇場でのファミリーミュージカル「えんとつ町のプペル」の上演がKAAT(神奈川芸術劇場)で実現。総製作費は4億5千万円。客席数は千を超える大劇場での生オーケストラ版で、親子で観覧できる席も用意し、ついに、家族で楽しめる本格的なファミリーミュージカルが誕生。

 小野さんは日米を往復しながら、プロデューサーチームの一員として、メインキャストとの出演交渉からクリエイターとの交渉、また制作としても稽古管理にと奔走した。

 三週間の公演期間中は毎日劇場に通い、舞台に目を輝かせる子どもたちの姿や、思ってもみなかった反応、時に涙を浮かべる観客の姿を見守っていた。

客席の床にも仕込まれた照明 終演後に照明空間を楽しめる時間も

 劇団四季の本拠地である横浜での上演ということもあり、劇団四季時代の仲間たちが観に来てくれたのも嬉しかった。尊敬する先輩が終演後に「凄い作品を作ったね!」と声をかけてくれた。小野さんは「脚本の西野さんや演出の吉原さん、振付のKAORIaliveさんといった素晴らしいクリエイターの力が大きくて、一緒にやれたことにただただ感謝です」と話す。

 製作に携わった人数は200人以上。「始めはNYで2.3人で始まったプロジェクトが、これだけ多くの人を巻き込んで、夢が叶って・・・本当に人に恵まれました。感謝でいっぱいです」と振り返る。そして「僕って運がいいんです!!!」と笑顔を見せた。

小野さんのnoteより「大好きな製作チーム」

次なるステージへ

 KAATでは「2019年当初から応援していました」という観客とも出会った。「感無量です。KAAT公演は、ある意味自分の人生のチャプター1の集大成だったのかな」と小野さん。

 9月後半にはニューヨークに戻った。冬にはクリスマスショーの全米ツアーなどの出演が決まっている。これからも「ファミリーミュージカル」を世界に届けたいという思いに変わりはない。と同時に「ひとつ大きいことをやり遂げた今、少しの間、流れに身を任せたいという気持ちもある」という。

クリスマスショー全米ツアー(写真中央が小野さん)

 「劇団四季をやめて、アメリカに渡りフリーになった一年が、ミュージカル『えんとつ町のプペル』との出会いにつながったので、新しい風が入るような時間も持ちたい」と。

 夢は、演劇、英語、教育を掛け合わせ、世界と日本の架け橋になり仲間と楽しい未来を作ること。続く第2章には、どんな物語が待っているのだろうか。

編集後記

 横浜から世界に羽ばたき、活躍を続けるミュージカル俳優兼プロデューサーの小野さんの物語、いかがでしたでしょうか。

 「運がいい」という言葉を口にする小野さんですが、話を聞くと、横浜での劇団四季所属時代にも劇団の稽古のほかに、外部のレッスンにも通ったり、休みがあれば他劇団の芝居を見たりしていたとのことで、ずっと積み上げ続けてきた努力があって、その上で運を手にしている人だと感じました。

 NYで企画を立ち上げた日から、横浜で大劇場版ファミリーミュージカルを届けられるようになるまでには、書き尽くせないほどの紆余曲折もあったそうです。作品のファンからは、ミュージカルを立ち上げた人としても、今回のプロデューサーチームの一員としても、よく知られている小野さんですが、実は公演ウェブサイトのCAST&STAFF欄に小野さんの名の表記は見られません。

 「一緒に夢を見てきて、今ここにいない人もいる中、僕だけの名前、出せないですよ」と重ねてきた時間を感じる一言もありました。

 現在も視聴可能なオンライン配信動画では、総勢200人にも及ぶすべての今回の公演関係者の名前が並んでいて、そこなら、とはじめて名前を表記したのだそうです。アシスタントプロデューサー 小野浩司・・・と。

 またいつか小野さんの作品と横浜で出会える日を、心待ちにしています。

ファミリーミュージカル「えんとつ町のプベル」オンライン配信(12月31日まで)
https://chimneytown.zaiko.io/

ミュージカル楽曲の演奏も予定されるハロウィンイベント「えんとつ町の踊るハロウィンナイト」(11月1日・2日 幕張メッセ)
https://odoru-halloween.jp/

ヨコハマ経済新聞編集部 + 紀あさ

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