提言と創造界隈の形成
2004年1月14日の有識者提言「文化芸術創造都市―クリエイティブシティ・ヨコハマ」は、都心臨海部の停滞に対し、文化芸術の創造力を都市再生の主軸に据える方針を示した。柱として、臨海部を中心とした暫定利用の推進、クリエイター集積と創造産業の育成、市民参加を伴うネットワーク形成、「創造界隈」の形成などが掲げられた。
市は2004年4月に「文化芸術都市創造事業本部」を設置。2006年4月の局再編で「開港150周年・創造都市事業本部」へ改組し、推進体制を強化。クリエイター集積と歴史建築の活用、公共空間での実験、イベントや国際展の展開を連鎖させた――こうした取り組みが、関内・関外~みなとみらいを核とする創造界隈の可視化と拠点化へつながり、現在に続く政策フレームにも反映されている。
背景と参加組織
創造都市スクールは、横浜市が2004年に文化芸術創造都市構想を発表して以来、公民連携で都市デザイン・文化振興・産業振興の交差点で展開されてきた政策の一環である。創造都市スクール2025は、横浜市立大学に加えて、横浜国立大学、神奈川大学、BankART1929、横浜コミュニティデザイン・ラボ、横浜都市みらいが実行委員会を構成する。講義はオンライン併用で行い、全国の自治体職員・NPO職員・アートプロジェクト関係者等広く参加を期待している。
現場知を体系化する学びの場
横浜の20年で蓄積した政策・拠点運営・プロジェクトの実践知を、講義/対話/公開収録で再編集し、理論と現場を往復するカリキュラムとして提示する。創造界隈形成、歴史建築の暫定活用、芸術不動産、公共空間での社会実験、文化イベント運営、クリエイティブ産業振興といった論点を横断し、国内外事例との比較、意思決定プロセスの可視化、失敗事例の検証まで射程に入れる。記録性の高い運営設計により、受講後の再学習と成果の再利用を可能にし、現場に持ち帰れる“方法”として知を再構成する。
越境学習で実務に直結
行政・企業・NPO・研究者・学生が肩書を越えて学び合い、セッション内の質疑と終了後の交流会を通じて、地域横断のネットワークと小規模な協働の芽を生む。創造・クリエイティブと都市に関心がある人たちのネットワーク形成を促し、受講者それぞれの現場での活用に結び直す。アーカイブ視聴を組み合わせ、テーマ横断での学び直しと共有を後押しする。
会期・時間・方式
会期は9月18日(木)~12月4日(木)の全12回、原則毎週木曜19:00~20:30で実施(※9/24のみ水曜)。受講は無料・事前登録制とし、会場参加とオンライン同時配信を併用するハイブリッド方式で、講義後の質疑を組み込み双方向性を確保する。
会場・定員・案内
会場はExPLOT Studio(横浜市西区みなとみらい4-3-1 PLOT48 テラス棟1F)、定員50名。申込者には参加方法や配信URL等を順次案内し、日程・登壇者は変更の可能性があるため、最新情報は公式サイトの告知を参照する。
【全12回プログラム】
◆第1回(9/18・木)[オンライン開講]
「創造都市の世界的潮流」/講師:佐々木雅幸(大阪市立大学 名誉教授)/ナビ:鈴木伸治
◆第2回(9/24・水)[公開収録]
「創造都市横浜のはじまりと都市デザイン」/講師:野原卓/ナビ:上野正也・小泉瑛一
◆第3回(10/2・木)[公開収録]
「創造都市横浜のDNAをフカボル」/講師:鈴木伸治
◆第4回(10/9・木)
「まちづくりをイノベートする」/講師:嶋田悠介/コメン:野原卓
◆第5回(10/16・木)[公開収録]
「水辺からみた創造都市」/講師:岩本唯史
◆第6回(10/23・木)
「生活と建築から都市をイノベートする」/講師:連勇太朗/コメン:野原卓
◆第7回(10/30・木)
「Art Center NEWを開いてみたら」/講師:小川希
◆第8回(11/6・木)
「BankParkがめざすもの」/スピーカー調整中/ナビ:鈴木伸治
◆第9回(11/13・木)[公開収録]
「関内外をめぐるアートスペース」/講師:稲吉稔
◆第10回(11/20・木)
「Yurakucho Art Urbanismについて」/講師:長谷川隆三
◆第11回(11/27・木)
「創造都市の未来・クリエイティブな都市とは何か?」/講師:岡部友彦/ナビ:秋元康幸/コメン:鈴木伸治
◆第12回(12/4・木)
「みなとみらい21のクリエイティブコミュニティを創る」/講師:小島健嗣/コメン:古木淳/ナビ:秋元康幸
無料・ハイブリッド・アーカイブ
受講無料、会場+オンラインのハイブリッドで参加の敷居を下げる。事前登録者は各回のアーカイブを後日視聴でき、昨年度(2024年度)の全44講義も視聴対象に含める。勤務後や移動中でも追いつける設計とし、テーマ別の見直し・横断視聴・チーム内共有まで運用を見据える。
交流と学びの循環設計
毎回の質疑応答と終了後の交流会で、参加者同士の“顔の見える関係”を育てる。小さな協働の種をその場で可視化し、次回の参加やアーカイブ復習へと循環させる。講義→対話→接続の流れを固定化し、現場で“小さく始めて回す”実装へ橋渡しする設計だ。
プログラムディレクター
横浜の創造都市の現場に携わる6人がプログラムの設計を統括した。
・鈴木伸治(横浜市立大学)— 創造都市論・都市デザインの視点から全体設計を統括。
・野原卓(横浜国立大学)— 都市デザイン史と政策文脈を接続し、公開収録回を主導。
・上野正也(神奈川大学)— 都市計画・地域マネジメントの実装に橋を架ける。
・小泉瑛一(about your city)— プロジェクト編集とポッドキャストでの情報発信を担う。
・神永侑子(AKINAI GARDEN STUDIO)— 商い×まちの視点で場づくりと関係構築を編成。
・秋元康幸(BankART1929)— 文化拠点運営の知見を反映し、現場志向のセッションを強化。
創造都市は、固定化された青写真ではなく、分野横断の協働と小さな実験が連鎖し続ける運動として捉える枠組み。ポイントは三つ—①アート、建築、産業、福祉、教育などの分野横断の統合、②市民・NPO・企業・大学・行政による多主体協働、③マスタープランに依存しない、現場発のプロジェクト主義。一つの試みが次の企画を呼び、更新が習慣化することで都市の創造性が持続的に立ち上がる。
核にあるのは人と関係のマネジメント。意志決定を開き、成果も失敗も可視化し、アーカイブ化と共有で学習を蓄積する。拠点はゴールではなく媒介装置であり、場の運営を通じて出会いと試行錯誤が循環する設計が要となる。横浜では、歴史建築の暫定活用、公共空間での社会実験、創造界隈の形成がこの考え方を体現してきた。創造都市スクールは、この“運動”を支える理論と実装の往復を学び、各受講者が自分の現場で小さく始めて回すための方法と関係資本を獲得する場として位置づく。
次の10年へ、知と現場をつなぐ起点に
会期は9月18日~12月4日の全12回。受講は無料・事前登録制で、登録者は各回のアーカイブに加え2024年度の全44講義も視聴できる。講義とは別に12月にはフォーラムイベントも計画されている。毎回の交流会は、行政・企業・NPO・研究者・学生が越境して結び直す場となる。20年の蓄積と新拠点の動きが交差するいま、本プログラムは知を現場の実装へ接続する“中間プラットフォーム”として位置づく。横浜からどのようなプロジェクトが立ち上がるか、次の10年を見据えて注目したい。
創造都市スクール2025
https://creativecity.yokohama/900/2025/09/08/