特集

黄金町出版プロジェクト「アートとコミュニティの再生ー黄金町の実践」~都市×アートの実践と創造都市の政策を本にしたい~
クラウドファンディングに挑戦

  • 128

  •  

初黄・日ノ出町地区(黄金町)を舞台にしたアートとまちづくりについての出版企画が進行中

 かつて売買春のまちとして有名であった黄金町では現代アートのイベント「黄金町バザール」が毎年開催されるなど、アートによる地区の再生が進められている。黄金町バザールは2008年から始められたイベントであるが、その当初からこの地区で活動を続けてきた二人の専門家が、クラウドファンディングを利用して、これまでの実践を振り返る本を出版しようとしている。

 山野真悟さんは2008年の第一回黄金町バザールのディレクターをつとめ、その後は第一回実行委員会メンバーと地域住民とで結成されたNPO法人黄金町エリアマネジメントセンターの事務局長として、地域に根ざした活動を行ってきた。

 もう一人の鈴木伸治さんは、横浜市立大学の教員として、2006年ごろから黄金町のまちづくりに学生とともに関わってきた。主にはまちづくりの側面から地区に関わり続け、現在は同NPOの副理事長をつとめている。

 10年以上継続しているこれらの活動を記録することを目的に、昨年スタートした出版企画だが、単純な黄金町の記録集ではなく、山野さんの福岡時代からのまちなかに展開するアート実践の歴史や、横浜の創造都市の取り組みの社会的、歴史的背景なども理解できるような本にしたいとの思いから、アイディアはふくらんでいった。

 そのため、山野さんの福岡時代の資料の発掘や、アートディレクターの北川フラムさんを黄金町に招いたシンポジウム(「まちに出たアートはどこへ向かうのか?」2017年)の記録の再録、NPO法人BankART1929代表である池田修さん、プランナーの櫻井淳を交えたトークや、創造都市政策の初期から専門家として関わってきたニッセイ基礎研究所の吉本光宏さんを交えた対談、これまで黄金町のまちづくりを支えてきた関係者へのインタビューなども収録される予定である。

黄金町エリアマネジメントセンターの山野さんは福岡から横浜へ

 山野さんは1970年代初頭、東京から福岡にもどり、「IAF芸術研究室」を立ち上げた、その後そこに集まる学生や若手アーティスト達とともに、現代美術についてのさまざまな活動を展開していった。

 そして、川俣正のアートプロジェクトをきっかけに、福岡のアートシーンにも大きな変化が生まれ、山野さんの活動もIAFから、ミュージアム・シティ・プロジェクトへとその中心が移っていった。1990年からスタートしたこのプロジェクトは都市型アートプロジェクトの先駆的事例であり、初期のプロジェクトには、現在は世界的な現代美術作家となった蔡國強なども参加している。


ミュージアムシティ天神(1990年), 母里聖徳《ドラムマン》 撮影:安斎重男

 その後、山野さんは2005年に開催された横浜トリエンナーレ2005(総合ディレクター:川俣正)のキュレーターの一人として参加し、2007年から黄金町での活動に加わることとなった。

 この本では、福岡時代の経験なども振り返り、なぜ当時の若手のアーティスト達が都市へと向かっていったのか、どのように地域と向き合ってきたのかについても記録を残したいとのことである。

思いをつなげる

 また、黄金町のまちづくりについても、この十数年の間に絶え間なく変化しているという。鈴木さんによると、2007年に地元の協議会と市大の研究室で売春に使われていた小規模店舗をセルフリノベーションして拠点を構えたときには、全く人通りがなく、地域の住民にとっても、日常的に訪れる場所ではなかったという。

 そのため、当初は近隣の小学校に出向き、子供達とまち歩きのワークショップを実施した。大人達にくらべて子供達は、「大岡川が好き」「このあたりはゴミが散乱していてい怖い」などストレートな意見を大人達にぶつけてきた。当時は小規模店舗の関係者と思われる嫌がらせなどもあったことから、県警の暴力団対策担当やPTAのお母さん達に守られてのまち歩きワークショップだったそうだ。


小学校の総合学習の時間で実施したまち歩きのワークショップ(2007年ごろ)

 現在では、大岡川沿いのプロムナードを散歩する人たちや、高架下の広場で遊ぶ小学生の姿も日常の風景となってきたが、そこに至るまでには、さまざまな試行錯誤があったという。しかし、一方で、そうした近年のまちづくりの経緯は必ずしもしっかりと共有されている訳ではなく、難しさも感じているようだ。

 例えばNPOの黄金町エリアマネジメントセンターは、アートイベントだけでなく、さまざまな、まちづくりの活動にも取り組み、コミュニティの活動をサポートしているが、そうした部分はなかなか理解されない。比較的理解があると思っていた人からも、「アートイベントだけやってエリアマネジメントセンターという名前を掲げる」というのはどうだろうか?などのコメントがあり、鈴木さんは大きなショックを受けたという。アートイベントは氷山の一角で、水面の下にはいろいろな活動がある。まちづくりニュースなどを発行して、メッセージを送っているが、まだまだ十分ではないと理解しているそうだ。


「のきさきアートフェア」/ 地域住民と横浜市立大学の学生、アーティストが協働で毎月開催するマルシェ型イベント

 これまでにも横浜市立大学の研究室では「黄金町読本」を3回にわたって発行してきた。大学側で外部資金を確保して、学生達と印刷製本まで行い、無償で地域に配布してきた。今回はこれまでの読本では取り上げてこなかった内容なども含めてまとめるという。例えば、売春に使われていた小規模店舗を横浜市が借り上げるのはなぜか?そういった点も一般の人にはなかなか理解できない。そういう点も説明していく予定だという。これまでの地域で活動してきた人の思いがつながるように、まとめていきたいと、現行の準備を進めているそうだ。

クラウドファンディングへの挑戦

 今回の出版企画では、クラウドファンディングに挑戦することになった。これには理由があり、黄金町以外の内容も含まれることから、NPO法人として出版するのではなく、山野さん、鈴木さん個人で出版をめざすことになったためである。黄金町に関わった人以外にもぜひ、手にとってもらいたい。先行予約のような形で、クラウドファンディングを利用してもらいたいとのことである。

 リターンについては、先行予約的な本とお礼の手紙がとどく3000円のコースから、貴重なミュージアムシティプロジェクトの資料がついたもの、山野さんのオリジナル版画がついリターンなども用意されている。

 目標金額である230万円を目指して、オールイン方式(目標金額に達しなくとも実行される方式)であり、出版へ向けての作業は着々と進められている。サポーターにはアートやまちづくりに興味のある人たちのみならず、黄金町にレジデンスしたアーティスト達や学生時代にまちづくりに関わった卒業生、地域の住民の方々などさまざまな人たちが名を連ねている。

 コーディネート・企画監修を担当する佐脇三乃里さんは、2011年~2017年まで、NPO法人黄金町エリアマネジメントセンターでアシスタントディレクターとしてアートとまちづくりの双方に関わる事業のコーディネートを担当してきた。

 佐脇さんは「制作中の本は、都市政策や文化政策におけるビジョンを振り返ることでアートの役割を再考するとともに、黄金町という小さなまちで起きた出来事とそこで行われた手法が、他の地域が抱える課題解決の方法や可能性を見出していけるような本に仕上げたい。アートのある日常が新たな関係と豊かなコミュニティを育んでいくきっかけとなることを期待している」と話している。

「サポーターの皆さんのためにも、目標達成目指して頑張っていく」と鈴木伸治さんは述べている。

 クラウドファンディングでの支援の締め切りは1月12日(火)23:59。現在、130名以上のサポーターから100万円を越える支援が集まっている(2021/01/07現在)。

1月9日(土)16時からオンライントーク

 今回の出版企画「アートとコミュニティの再生ー黄金町の実践(仮)」について、著者の山野真悟さん(黄金町バザールディレクター/NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター事務局長)、鈴木伸治さん(横浜市立大学国際教養学部・教授)と、コーディネート・企画監修を担当する佐脇三乃里さんの3人による公開トークが行われる。

 黄金町エリアの歴史と現在のまちづくりの取り組みの状況について伺うと共に、現在応援を求めている出版企画の内容や、アートとコミュニティの再生の取り組みの今後の展望などについてお話を伺い、多様な主体が連携したまちづくりについて考える。

 トークは、YouTubeとFacebookライブで生配信。後半では、チャットによる視聴者の皆さんからの質問やご意見も紹介する。1月9日(土)16時から。視聴は無料。

1/9 #おたがいハマセミナー:オーサートーク「黄金町出版プロジェクト『アートとコミュニティの再生ー黄金町の実践』」の山野真悟さん、鈴木伸治さん、佐脇三乃里さんをお迎えして
https://www.facebook.com/events/179009043979610


関連リンク

都市文化政策や地域活動など、社会におけるアートの役割や機能について再考する本を作りたい! (モーションギャラリー)
https://motion-gallery.net/projects/koganechopublishmentproject/

目標金額 2,300,000円。2021年1月12日23:59までに集まった金額がファンディングされます。

  • はてなブックマークに追加

ヨコハマ経済新聞VOTE

ヨコハマ経済新聞の読者歴はどれくらいですか?

エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース