特集

ソウル、釜山、横浜でジャンルを越えたアートを紹介
日韓同時開催多元芸術フェスティバル「フェスティバル・ボム」
日本と韓国、仲良くしようとするからうまくいかない?

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■「北朝鮮にピザの作り方を密輸する」プロジェクトも「多元芸術」

 「多元芸術」は、2005年に韓国の助成金申請の枠組みとして作られた言葉で、美術、演劇、音楽、ダンスなど、これまでの芸術ジャンルに当てはまらない作家や作品のことを指している。もともとはあくまで行政の支援の枠組みとして作られた言葉だったが、明確な定義づけが存在しなかったため、多様な広がりを見せ、現在ではジャンルにとらわれない最先端の芸術のあり方として、フェスティバル・ボムとともに注目されている。

 実は、2012年、多元芸術のあり方を示すとても特徴的な作品が、横浜の十六夜吉田町スタジオで発表されている。

 タイトルは「皆のためのピザ」。

 この作品は制作者のキム・ファンさんが2008年に平壌(ピョンヤン)に北朝鮮初のピザ屋がオープンしたことを受けて作成されている。北朝鮮のそのピザ屋には特権階級しか入れない。キムさんは2年間のリサーチを経て、現在の北朝鮮でも作れる一般人向けのピザのレシピを開発。その後、短編映画「ピザの作り方」を制作し、密輸ルートを通して北朝鮮に500枚のDVDを配布することで、北朝鮮の人々との交流を試みた。すると、平壌から、DVDを見た人たちによる「ピザを食べました」という写真や手紙が届くようになる。

 2012年の公演では、短編映画「ピザの作り方」のほかに、制作過程のドキュメンタリー、北朝鮮から送られてきた手紙の朗読を行った。公演期間中は、作品内の短編映画で使用した北朝鮮にまつわる展示もされていた。

 もともとは行政の便宜上のために作られた多元芸術という言葉は、現在では「皆のためのピザ」のように、「ひとつのジャンルに縛られず、作品を通して社会との関わりを問い直すような表現活動」そのものを指すようになっている。

 フェスティバル・ボムはこの多元芸術を紹介する、世界でも類を見ないアートフェスとして、韓国内外で注目を集めている。

吉田町スタジオで韓国招へい公演「皆のためのピザ」ー北朝鮮初のピザ屋を題材に(ヨコハマ経済新聞)

横浜でアートイベント「フェスティバル・ボム」-ソウル、釜山と連携(ヨコハマ経済新聞)

■人工衛星の打ち上げ方もアートになる?

 横浜会場でも、これまでの枠組みでは芸術として捉えられなかったアーティストや作品が登場する。

 たとえば、トークイベント「人工衛星、原発、そしてアート」に登場するアーティスト・ソン・ホジュンさんは個人で人工衛星を5年かけて作成し、打ち上げている。日本円にして何千万円もの費用を費やし、多くの人々の協力を得て人工衛星を打ち上げるこのプロジェクトに、何か明確な政治的主張があるわけではないという。しかし、「彼がそういった行動に至るには、何らかの社会的背景があり、それは現在の韓国社会の有様を表している」とイさんは話す。美学的な意味を問うのではなく、そうした個人のあり方や表現の方法そのものをフェスティバル・ボムでは紹介していく。

 ちなみに、ソンさんの対談相手は渋谷駅の岡本太郎の壁画「明日の神話」に福島第一原発を連想させるベニヤ板を貼り、物議を醸したアート集団「Chim↑Pom」の卯城竜太さん。

 また、横浜会場の目玉のひとつであるトークイベント「韓国から見る日本、日本から見る韓国」では、韓国の若手政治評論家で、インターネットやサブカルチャーについて深く関わりを持ち、「韓国の東浩紀」として登壇するハン・ユンヒョンさんと、福島第一原発観光地化計画などラジカルな活動で知られる社会学者・東浩紀さんが登壇する。両者ともアーティストではないが、社会のあり方を自らの活動を通して問う2人の対談に、大きな注目が集まっている。

 このほかに、寿町のグラフティを観賞し、町の人々の現状と貧困とアートとの関わりを考える「寿町グラフティ観賞ツアー」、本牧地区の日本庭園「三渓園」にて花見の習慣など日本文化を学習し、ダンスプロジェクトの観賞やオリジナルのお弁当をいただく「本牧アートプロジェクトはなのえん」など、個性的で横断的なプログラムがそろう。

寿町でアートとまちの関わりを見つめ直す「コトブキ編集塾」ー参加者を募集(ヨコハマ経済新聞)

「本牧アートプロジェクト」初開催-「フォトモ」ワークショップも(ヨコハマ経済新聞)

■観客をお互いの国に行き来させたい

 世界でも最先端を行くアートフェスがなぜ3都市開催という形を取ったのか。

 これには、イさんと、その恩師である東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科准教授の市村作知雄さんが、以前より考えていた「都市と都市をつなげる日韓フェスティバル」という発想がある。市村さんとイさんの間には、単に「お互いの国の作品を持ち込んで、鑑賞して、おしまい」ではなく、共同での作品制作や、企画の運営などを通して、もう少し両者の間に深い関わりを作りたいという考えがあった。

 横浜のアートスペース「十六夜吉田町スタジオ」はそういった交流を含めた日韓フェスティバル開催のための拠点として、2012年に創設。過去にも何度か日韓共同制作プロジェクトを行っている。

 イさんは「十六夜吉田町スタジオ」に企画段階から関わっており、以前からフェスティバル・ボムに対し日韓フェスティバルを共同で作れないかと提案していた。その願いは、今回イさん本人がボムのディレクターになったことで、三都市同時開催という形で実現した。

 さらに、今回のフェスティバル・ボムでは、「作品の移動ではなく、観客の移動」を謳い、お互いの国に移動し、文化や社会、人とふれあいながら作品を鑑賞することを勧めている。

 この新しい形の国際交流には、イさん自身の日本滞在経験が大きく影響している。イさんは2009年から日本に滞在しているが、滞在から2年ほど経ってから当初は近いと感じていた日本のことが急に、わからなくなり、あらゆることに納得がいかなくなった時期があったという。

 隣国ということで、日韓の間には互いに理解しやすいという先入観があるが、むしろそれが交流の妨げになっているのではないか。そう感じたイさんの経験が、お互いが密に関わりあい、行き来し合うフェスティバル・ボムの構想につながっている。

 2月15日に、ボムの開催に先んじて行われたトークイベントで、イさんは「日本と韓国は、すぐ『仲良くしよう』と言うでしょう。ぼくは無理に仲良くしない方がいいと思う。世界的に見ても、隣同士の国というのは仲が悪いものです。だから、いきなりお互いに『好きになれ』と言っても無理がある。ただ、たとえばヨーロッパであれば人や仕事の行き来がある。だから、たとえ仲が悪くても戦争するというところまではいきません。日本と韓国は海を隔てているから、人の行き来が少ない。だから、アジアでは戦争の心配が存在するのだと思います」と話している。

 こうしたイさんの問題意識を受けて、横浜のフェスティバル・ボムは、横浜市内にあるいくつかの会場で、作品を鑑賞するという方式を取っている。寿町や三渓園と言った横浜の現在をダイレクトに感じることの出来る会場は、来日する韓国のスタッフや観客にとって大きなインパクトを与えるだろう。

 また、アーティストの表現だけでなく、日韓トークライブシーリーズでは、3つのトークイベントを開催。東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科准教授の市村作知雄さん、演劇作家・小説家・チェルフィッチュ主宰の岡田利規さんと、イさんとミュージシャンのジョン・ジンファさんが「野球 軍隊 兄弟」というキーワードで語るセッション、人工衛星の制作と打ち上げという一大プロジェクトをやり遂げたソン・ホジュンさんがアーティスト集団Chim↑Pomリーダー・卯城竜太さんとの対談、韓国の東浩紀といわれている評論家のハン・ユンヒョンが東浩紀とのトークも行われる。

 小さなコミュニティやスペースが点在し、それぞれがゆるやかにつながっているという横浜という地域の特色を活かし、行き来する観客にとってより両国に対する理解を深められるようにと考えられている。 「日本と韓国を同じアジアのひとつの地域」として捉え直し、つないでいきたいというフェスティバル・ボム。最先端のアートフェスとしてはもちろん、アジアの芸術の新しいあり方を考える大きな挑戦として、注目していきたい。

Festival Bo:m in Yokohama

会期:2014年4月4日(金)-4月6日(日)
会場:さくらWORKS<関内>、STスポット、急な坂スタジオ、三渓園、寿町

カケラが集まって一つの象 −かたち− を生み出します。
それは遊びの産物です。
それぞれは等価です。
それは自由に組み合わせることが出来ます。
それは日常の環境としてあなたの周りに出現します。
フェスティバル・ボムは主観的集積によって形成されます。

http://festivalbom.org/festival-bom-in-yokohama/
https://www.facebook.com/festivalbom

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