特集

シェアするココロ代表 石井正宏さん
「引きこもりの若者への新しいアプローチ」

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■“おすそわけ”精神から生まれた会社「シェアするココロ」

—まず、「シェアするココロ」という株式会社で取り組んでいることを教えてください。

 引きこもりやニートなどの若者とその家族に対しての情報提供のため、「Hamatorium Café/ハマトリアム・カフェ」という若者の雇用と自立を応援するウェブサイトを、横浜市こども青少年局からの委託事業として運営しています。

 また、公立高校の就職希望生徒に対するキャリアガイダンスや講演を通じて、進路未決定で学校を卒業することのリスクの高さを教えています。学校の先生を対象としたセミナー事業も始めたところです。

—ユニークな会社名ですが、どんな意味が込められているんですか?

 「シェアするココロ」とは、自分たちのスキルやノウハウを社会に“おすそわけ”したいという気持ちと、課題意識を共有することで支援者同士がつながっていこうよ、という意味が込められてるんです。

—シェアするココロの目指すもの、ミッションはどんなことですか?

 引きこもりやニートの若者だけではなく、今はすべての若者が社会的に弱者になっていて、これまで誰もが通ってきた”正規のルート“で自立していくことが困難になっています。シェアするココロでは、「若者と家族、教える人と支える人が笑顔で暮らせる社会創り」をミッションに掲げて、困難を抱える若者とその家族たちだけでなく、彼らを取り巻く教師と支援者がイキイキと仕事をし、サービスの質の向上が図られることへの貢献を目指しています。そして目の前の困難を解決するだけではなく、社会の制度や構造変革へもコミットしていきたいと思っています。

—2009年に横浜で起業されたということですが、どうして若者を支援する会社を立ち上げようと思ったのでしょうか?

 起業する前は、引きこもりやニートの若者を支援するNPO法人で10年間働いていました。自分の部屋に何年間も引きこもっていたような若者たちの支援をしていたのですが、そんな若者たちの相談を毎日受けながら、「なぜ彼らはもっと早く動きだせなかったんだ」という悔しさのような感情を抱くようになり、彼らの問題が手遅れにならないための予防支援の必要性を強く感じたのが大きなきっかけです。

■NPOの精神を持ちながら、しっかり持続できる形態としての「非営利型株式会社」

—会社のキャッチコピーに「NPOみたいな株式会社」と書かれていますが、これはどういう意味ですか?

 この業界では、NPO法人が行政の委託事業を受けて支援施設などを運営しているケースがほとんどです。でも、そうなると委託事業をいかにタイミングよく受託し続けられるかが経営の重点課題になり、自分たち本来の活動を持続していくことが難しくなります。株式会社として立ち上げたのは、思い切ってこの業界で商売として成立するビジネモデルを確立し、自主事業として持続性のあるサービスを提供していけるようになろうと決心したのが理由です。

 その際に、収益を可能な限り若者へのサービスに充てられるようにするため、社の定款を非分配型の「非営利株式会社」になるようにしてあります。NPOの精神を持ちながらも、しっかり持続できる形態としての株式会社という意味を込めているんです。まあ、儲かる業界じゃないのでこういうことを言ってられるというのもあるんですけどね(苦笑)。

—石井さんのように、社会課題解決のために起業する、いわゆる「社会起業家」が注目されていますが、どうして若者を支援する仕事に関わるようになったんですか?

 実は、根っからこういう業界にあこがれがあったわけでも、「社会起業家」と言われる人のような課題解決への思いなんて当時はまるでなく、たまたまハローワークで前職の求人を見つけたのがきっかけなんです。引きこもりという言葉もその求人票で知りました(笑)。

—偶然この仕事に出会いながらも、ずっと続けていられるのはどうしてだと思いますか?

 働き始めた頃は、こんな状態の若者がたくさんいることにショックを受けました。でも、関わりを持ってみると、思った以上に自分が彼らの役に立つということに喜びをじわじわ感じるようになったんです。それに、部屋からずっと出ず親とも口を利かないような若者たちが、徐々に外に出られるようになり、スポーツをしたり、仲間とゲラゲラと笑うのを見てると、毎日が奇跡の連続のようで。最終的に社会に出るのを見届けられた時は、自分が彼らの人生に関わり、ポジティブな影響を与えられていると実感できます。それが、続けていられる理由なのかもしれません。

■若者の働く・学ぶをみんなで創るウェブサイト「ハマトリアム・カフェ」

—横浜市こども青少年局からの委託で運営されている「ハマトリアム・カフェ」は、行政のサイトとは思えないほどエンターテイメント性の高い内容になっていますね。

 現在日本には約64万人のニートがいると言われていますが、この中で支援施設を利用できているのは3万人に満たないのではないかと推測しています。そして、残りの約60万人には支援施設の情報をキャッチできている人が圧倒的に少ない。ひょっとすると施設利用の3万人は実は特殊なタイプで、残りの約60万人のニートの方がマジョリティなのかもしれません。そこで、NPOや行政では訴求効果が少なかった彼らへのアプローチを変えていくには、ポップなものが必要なんじゃないかと思うんです。私たちはこれを情報支援と呼んでいます。そういった意味でも、まず見ていて楽しい、わかりやすいポップなサイトにすることを意識しました。

—ハマトリアム・カフェには、ハローワークの使い方を説明しているニュース記事や、インターンシップの紹介動画などコンテンツが多彩ですが、その中でもおすすめのコンテンツはありますか?

 「横浜つながり地図ソコドコ」という、地図コンテンツですね。ハマトリアム・カフェの役割は情報提供にとどまらず、最終的に若者がアクションに移してもらうことにこだわって運営しています。ですので、気になるイベントや、サービスを知った時の「ソコはドコ?」というニーズに応えるために地図を作りました。ソコドコを見てもらうと、ついでの距離に別のサービスを見つけることができますし、関連記事をランダムに読み始めるきっかけにもなっていて、灯台もと暗しで地元のサービスに出会うこともあります。これは若者だけではなく、支援者側にも同様の効果があると思っています。

—引きこもりなどの若者に対して、こうしたウェブで支援をしていくことにどのような可能性を感じていますか?

 情報をキャッチした引きこもりやニート状態の若者がアクションを起こすまで、そのキャッチからアクションの間が数年に渡ることは稀ではありません。また、保護者の方がセミナーに参加したり相談を受け、魔法がかかったように「よし明日こそ!」と思っても、家の玄関をくぐった途端に魔法が溶けちゃいます。ですから若者にも家族にも、定期的な動機づけが絶対に必要なんです。でもそれを毎日は誰も出来ない。だから支援施設に姿を現さないわけです。それをウェブならできるのではないか、そういう可能性を信じています。

横浜市が若者就労支援サイト「ハマトリアム・カフェ」開設(ヨコハマ経済新聞)

ハマトリアム・カフェ

■誰もが必ず何らかの役割を担える。まずは他人事を自分事で考えてみてほしい

―引きこもり、ニート、フリーター、就職できない学生たちなど、困難を抱える若者たちが増える中で、私たちに何かできることありますか?

 シェアするココロでは、「市民ケースカンファレンス」という、困難を抱える若者の事例を挙げて、一般市民の方々に解決策を考えてもらうワークショップをしています。そのワークショップの最後では「あなたがしてあげられることはなに?」という質問に答えてもらうのですが、「私は家庭菜園をしているので、一緒に苗を植えたり土に触れさせてあげれます」とか「音楽が好きで毎月ライブハウスに行っているので、誘って一緒に行きます」なんて言葉が参加者から出てきます。

 自分自身が若者たちからすれば社会資源なんだということに気づいてもらうワークショップなのですが、誰もが必ず何らかの役割を担えるので、まずは他人事を自分事で考えてみてほしいと思います。この市民ケースカンファレンスの簡易版として、ハマトリアム・カフェに「ラウンジ・ミーティング」というユーザー参加型のコーナーがあるので、是非書き込んでみてください。

—会社の今後の展開について教えてください。

 私たちは「100人のニートを支援するよりも1人の支援者を支援した方が社会的効果は高い」という仮説を信じています。ですので、若者への直接的な支援もさることながら、NPO法人等の社会的課題を扱ったプロジェクトを動画を使ってアピールしたり、スキル共有のお手伝いをする。そのことで寄付や会費、協力者が集まりやすくなり、ひいてはその団体で働くスタッフの賃金やステータスに反映されていくというような「教える人と支える人」たちのための支援の事業化を目指します。これも情報支援の一環だと考えています。また、私自身の経験値や、全国の支援者の経験値をウェブ上でシェアできる仕組みを構築していきたいと考えています。

—最後に、若者へのメッセージをお願いします。

 若いっていうだけで許されることって結構いっぱいあります。失敗して当たり前な年代だってことを大人は案外受け入れてくれるし、思ったよりも懐が深いです。そういうことに気づける機会があると、もっと可能性は広がり、楽しく生きられるようになると思います。要するにもっと甘えていいんだよ、と伝えたいですね。まずは、「ハマトリアム・カフェ」で情報収集から始めてみて下さい。

―どうもありがとうございました。

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鈴田翔 + ヨコハマ経済新聞編集部

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