特集

「家庭教育学」で日本の教育を変える。
初の通信制大学「八洲学園大学」の挑戦

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■社会人・主婦のための通信制大学「八洲学園大学」

横浜駅東口から徒歩数分のところにある八洲学園大学 横浜駅東口から徒歩数分のところに、日本で初めて生涯学習学部を設置した大学「八洲学園大学」がある。学部は生涯学習学部のみで、そのなかで学べるものは2つ。1つは、胎児から18歳までの子供を持つ親を対象とした、家庭における子育てについて学ぶ「家庭教育課程」。もう1つは、生涯学習支援活動で活躍する人材を育てたり、スキルアップを志す企業人のためのリカレントを行う「人間開発教育課程」だ。

八洲学園大学

 八洲学園大学の特徴は、インターネット学習システム「eラーニングシステム」を採用し、インターネットにつながるパソコンさえあればどこでも講義を受けることができるというもの。キャンパスから遠い人や通う時間のない人でも、一度も登校しなくても卒業することができ、大学卒業資格である「学士」のほか、「家庭教育アドバイサー」「社会教育主事」「図書館司書」「博物館学芸員」などの各種資格も取得できるという、社会人や主婦のための新しいコンセプトの大学だ。入学定員は年間1,200人。学年という概念はなく、半年ごとに受ける講義を選ぶ仕組みだ。また、カルチャースクールやお稽古ごと並の格安の受講料で、家計に負担をかけずに学ぶことができる。

「eラーニングシステム」の講義画面 インターネット学習システムだけで卒業までできる大学は日本で初めて。社会人や主婦を対象とする大学であるため、このシステムの導入は必須だった。また、好きな時間に講義を受けられることが便利な通信教育だが、一方で孤立感を感じてしまうという問題もある。そこで講義は録画したものではなく、生中継で行っている。これによって講師と受講者たちが時間を共有し、相互にコミュニケーションを図ることもできる。講義の映像は1週間だけ残し、オンデマンドであとからでも受けられるようにしている。

「現代マネジメント概論」を担当している沼倉佑栄教授実際に講義をしている教授に、大学の特徴を聞いた。沼倉佑栄教授は、日本に特徴的である、倫理観や道徳に立脚したマネジメントについて教える「現代マネジメント概論」を担当している教授。外資系企業の営業マンを長く勤めていた経歴があり、講義では自分の体験を通して学んだことを、恩返しのつもりで話しているという。「非常勤講師の大半は企業人を経験している人で、なかには現役の社長さんもいます。それぞれの社会経験をもとに、ユニークで実践的な講義を行っていることが大きな特徴です」。

■家庭教育の貧しさが子供たちに与える影響

学校法人八洲学園理事長の和田公人さん 同大学を設置したのは、不登校や学習障害などによる高校中退者を受け入れる通信制高校や高等専修学校を経営している学校法人八洲学園。同学園の理事長・和田公人さんは、同大学の設置目的である「家庭教育」の啓蒙の必要性について、こう語る。「教育は学校でするものだと皆さん考えている。しかし、教育とは学校、地域社会、家庭の3者が連携して行っていくものです。そのなかでも一番大切だと言えるのが、しつけや道徳、倫理などを教える家庭教育です。現代の日本では学歴社会を反映した学校教育偏重の教育となり、地域教育と家庭教育が貧しいものとなりつつあります。それが社会の様々な面で悪影響を及ぼしています」。

学校法人八洲学園

 高度経済成長の時代、日本の学校教育は国民全員の教育水準を高めることに成功し、学校を卒業した人たちは優秀な企業戦士となり、飛躍的な経済発展を果たした。そして、経済発展と近代化という国家的目標を達成し、誰もが豊かな生活を手に入れられるようになると、それまで画一的だった日本人の価値観は多様化していった。しかし、この社会の大きな変化に対し、学校教育の内容や評価基準はなかなか変わることができなかった。その結果、いじめ、学級崩壊、援助交際、フリーター、ひきこもり、ニートなど、子供たちに様々な問題が生まれ、学校教育の見直しが叫ばれ続けている。

 和田さんは、通信制高校での保護者懇談会での親たちが悩み試行錯誤を繰り返しながら子供に向き合っている姿を見て、こう考えたという。「いわゆる子育て支援に関する情報交換は、学校や地域社会、民間団体などで行われているが、どのように子供を教育していけばいいのか、その基本となる考え方を体系的にまとめられたものはない。日本の教育問題を解決していくためには親の再教育が必要。そのためには、子育てを科学的アプローチで研究・体系化し、社会へと発信できる大学のような機関が必要だと思いました」。

理事長の開学日記

■大学とともに新しい学問分野「家庭教育学」を設立

大学の講義室 親たちに家庭教育を教える大学をつくる――そう決意したものの、教師や幼稚園の先生などは子供の教育のプロではあるが、親の教育については素人と同じ。家庭教育についての専門家はいないという状態だった。それもそのはず、当時は家庭教育学という学問分野自体が存在していなかったのだ。家庭教育の専門家ではないが、研究したり勉強会を開いている組織はある。それがスコーレ家庭教育振興協会、日本家庭教育学会で、八洲学園大学の家庭教育課程では、これらの会のメンバーから教員を構成している。

日本家庭教育学会

家庭教育学を教えている生越詔二教授 実際に同大学で家庭教育学の講義をしている生越詔二教授に、その必要性について聞いた。「過干渉や過保護など、家庭における教育やしつけの内容が著しく低下しています。今の子供は『三間』が不足しています。三つの間とは、時間、空間(遊び場)、仲間(友達)で、その不足は都会でも田舎でも同じ状況になってきています。塾や習い事で、まるで大人のようにスケジュールがびっしり詰まっている子供もいますが、人間の成長プロセスは時代が変わっても同じです。親はそれを保障してあげなくてはなりません。こうした状況のなかで、お父さん、お母さんは、子供の教育を切実な問題ととらえています。しかし、それを『家庭教育』としてしっかり考えている人は少ないのが現状です。準備していなければ行き当たりばったりの子育てになり、最終的に困るのは子供ですから、親は責任をもって子供の教育に取り組んでいただきたいと思います」。

 長年にわたり大阪を拠点にしてきた八洲学園。この八洲学園大学はなぜ横浜にキャンパスを構えたのか。「教育に問題があるのは都市部、それも大阪などの関西ではなく、東京・横浜近郊の関東が圧倒的に悪い。その違いを生み出している要因の一つは、学歴偏重の教育を行っている有名私立が、東京・横浜に数多く集まっていることがあります。実際、『お受験』という言葉は私立の少ない関西にはありません。教育の問題が一番強い、つまり家庭教育のニーズが一番強いのが東京・横浜です。そして、横浜は東京に比べて職住が近接していて、入学対象者となるお父さんもお母さんも通いやすい街。だから横浜を選びました」(和田さん)。

■リーダーを養成し、日本の教育を変える

横浜にキャンパスを構えた八洲学園大学 開校して3年目を迎えた八洲学園大学。その講義内容は入学者に好評を得ているが、和田さんの目は厳しい。「これまで家庭教育の学びの場を待ち望んできた人が入学者となっていますから、いま反応がいいのは当然のこと。今後、家庭教育に意識のない人に入ってもらわなければ本来の目的は達成できないわけで、真価が問われるのはこれからです」。大学を始めて意外だったのは、世間の人は家庭教育の重要性を思ったほど認識していなかったことだと言う。「通信制高校は反応が良く、口コミによって3年で浸透しました。しかし、家庭教育のeラーニングはそれに比べて爆発しない。まだまだ家庭教育の重要性が伝わっていないと感じます。もちろん、家庭教育を世の中に広めていくことが大学の使命なのですが、これほどまでとは思いませんでした」。

 欧米諸国と比較すると、日本の家庭教育に対する意識は低いと言わざるを得ない。アメリカやオーストラリアは国土が広いため家の近くに学校がない家庭も多くある。だから子供を教育するのは学校ではなく親だという意識が高い。アメリカの学校では、先生と親の言うことが違う場合には親の言うことを聞きなさいと教えているという。急激な経済成長により社会が成熟し、欧米に近づいた日本。教育に関しても、今後は欧米型に近づいていくだろう。

キャンパスでの講義風景 「子供の教育やしつけは大変なものとしか思ってない親が多いですが、本来、子供とふれあう家庭教育は、親にとって楽しいものであるはず。それを学校や塾という第三者に委ねてしまっていては、自らが責任を持って子供を育てる喜びをわからないままです。そして、家庭教育の不備は、親から子へ、またその子へと世代間で連鎖していきます。まずこの学校から家庭教育をの重要性を社会に啓蒙できるリーダーを養成すること。そのリーダーが各地で多くの人に家庭教育の重要性や教育方法を伝えていき、日本の教育を変えていくこと、それが私たちの目標です」。

 この記事は、横浜テレビ局の番組『企業の履歴書』とヨコハマ経済新聞のタイアップ企画です。横浜テレビ局でも8月に「八洲学園大学」を取材した番組を放送しています。

横浜テレビ局
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