特集

ヨコハマは環境先進都市になれるか?
エコ化を推進する新交通システムの実情

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■知っている人だけがトクをする「カーシェアリング」

横浜の街を電気自動車が走っていることをご存知だろうか? 電気自動車は「カーシェアリング」という新しいシステムを利用して、免許さえあれば誰でも手軽に利用できる。ちょっとした移動で車を使いたいときに便利なこの「カーシェアリング」。利用には会員登録が必要で、会員個人や事業者が必要に応じて自家用車並の手軽さで車を共同利用できる仕組みだ。最近では、ビジネスマンの営業回りにもカーシェアリングが利用されている。社用車を保持するより大幅にコストが削減できるというだけでなく、エコカーを使っているというクリーンなイメージと新しい交通システムの話題性で顧客とのコミュニケーションが円滑になり、契約獲得につながるケースもあるという。

横浜を拠点に日本初のカーシェアリング・サービスを行っているのはシーイーブイシェアリング(本社東京)。同社は、(財)自動車走行電子技術協会が1999年9月から2002年3月までみなとみらい21地区で実施されたカーシェアリングのモデル実験を引き継いだ。当初は横浜のベイエリアを中心に7ヵ所に車両ステーションを配置して事業を開始、現在は横浜の他にも川崎駅前、東京丸ノ内などにも車両ステーションを配置し、電気自動車を24台、ガソリン車を3台運用している。利用は15分単位で料金は月ごとの精算、会員になればICカード1枚で無人の車両ステーションから24時間いつでも貸出・返却ができるという手軽さがレンタカーにはない魅力。料金はライトユーザー、ヘビーユーザー双方に向け2種類のプランを用意、月会費と使用した時間分の利用料が月ごとに徴収される。運営・管理にはインターネットやドコモのiモードから受けた予約をネットワーク上で管理するASPシステムを導入。予約の際に貸出場所と返却場所、使用時間を決定、指定した時間になれば利用可能となる。自動車1台につき20~30人でシェアするという割合だが、予約が重なってしまうケースは全体の2%ほどだという。同社執行役員の高山光正さんは「今後は需要の多いガソリン車の台数を増していくほか、横浜駅西口への進出、マンション住人向けのカーシェアなども推進していく。将来は利便性を高めるためにJR東日本のICカード『Suica』でも利用できるようにしたい」と意欲的に語る。

シーイーブイシェアリング

■カーシェアリングは「第4の公共交通システム」

カーシェアリングは1980年代後半に交通問題解消と環境保護運動の一環としてスイスで考案され、鉄道、バス、タクシーにつづく「第4の公共交通システム」と言われている。90年代に欧州各国で急速に普及、450以上の都市で15万人以上が利用、欧州以外でもアメリカ、カナダ、シンガポールなどの都市でも順調に広がりを見せている。発祥の地スイスでは、国の補助や他の公共交通機関と連携したこともあり90年代後半から会員数が急増、それにあわせて車両台数、車両ステーションを増やし、現在では2,000台を超える車両が市民に共有されている。

普段は公共交通機関を利用する都市圏の住民にとって、週末の利用のためだけにマイカーを所有し、高いローンと駐車料金、保険料を支払うのはコスト的に割に合わない。環境に対する意識の高い欧米諸国ではマイカーを手放しカーシェアリングを利用する人が増えている。一方、日本ではマイカー所有に対する意識が高く、現段階ではマイカーを手放してまでカーシェアリングを利用する人は少ない。しかし車両ステーションが広域に点在し、他の公共交通機関との連携を図ることができれば、経済性・利便性の高いカーシェアリングは日本でも普及する可能性が高い。

昨年11月、横浜市は世界電気自動車協会が新たに設けた「Global E-Visionary」賞を受賞、アジアにおける次世代自動車先進都市として高く評価された。1999年から電気自動車のカーシェアリング社会実験が東京、横浜、大阪、京都など各地で実施されたが、終了後民間事業として引き継がれたのは横浜のみである。高山さんは「世界でもこんなに多くの電気自動車が走っている街は横浜の他にない。横浜は環境先進都市として世界での地位を築いていくべき」と語る。

■レンタサイクルでヨコハマ観光「ハマチャリ

休日のベイエリアではブルーにペイントされた自転車に乗るカップルや夫婦、学生のグループが目立つ。300円で1日使えるレンタサイクル・サービス「ハマチャリ」を利用した観光やデートが密かなブームとなっている。運営しているのはNPO法人ナイス・ヨコハマ(中区山下町)。昨年10月に無料でサービスを開始、今年4月に営業時間を延長、同時に有料化した。受付所は「マリタイムミュージアム(日本丸)前」「大桟橋入口」「横浜赤レンガ倉庫前」の3ヶ所で、簡単な申し込みをして保証金1,000円を払い自転車を借りるシステム。チェーン鍵も一緒に借りられるので1日どこでも好きなところに行ける。返却場所は3ヶ所どこでも良く、返却時に700円が戻ってくる仕組み。平日はスーツ姿のサラリーマンが利用、週末は各地からの観光客の利用で全車出払う人気ぶりだ。利用者の年代は子供からお年寄りまで幅広いが、特に20代、30代に人気がある。みなとみらい線開通後は首都圏近郊の観光客の利用も増えた。実際に街を自転車で走ってみると、ベイエリアは坂道がほとんどなく快適に走れる。徒歩で行くには遠いところ、車では見過ごしてしまうような路地にある店などに行くのに便利で、普段より行動範囲が広がる。

現在ハマチャリの台数は200台以上。横浜市や鎌倉市が回収した放置自転車を修理、「ヨコハマブルー」にペイントして使う。カゴや車輪のスポーク部分にはスポンサーの広告を設置、現在KDDI、タカナシ乳業、横浜Fマリノス、日本丸、ソディックなどの広告が取り付けられている。スポークに広告を取り付ける「車輪広告」は同法人が開発したもので、現在特許申請中。広告付きの自転車が70台ほどしかない現状では、広告収入で運営に当たる人の人件費を全てまかなうのは厳しい。ナイス・ヨコハマ代表の桐田哲雄さんは「場所が横浜という土地に限定されているためスポンサー獲得は容易ではない。横浜の地場企業にスポンサーになって応援してもらいたい」と語る。ナイス・ヨコハマは今後横浜での拠点を増やしていくほか、鎌倉市や横須賀市でもレンタサイクルを展開していく方針だ。

特定非営利活動法人 ナイス・ヨコハマ

■コペンハーゲンに学ぶレンタサイクル民官協働事業

近年欧州各国ではクリーンな交通手段として自転車交通を奨励しているが、その中心となったのはデンマークの首都・コペンハーゲン市。同市内の通勤手段の1/3は自転車が占め、レンタサイクルも市民の足として定着している。市内中心部には200~300メートルごとにレンタサイクルの自転車返却ラックを設置、主要道路の両側には自転車専用道路が整備されていて、車で移動するのと変わらないほどのスピードで移動できる。これだけ環境が整備されているのには、レンタサイクルが民官協働事業として推進されてきたという背景がある。

1994年に同市と各省庁などが資金を出してシティーバイク財団が設立しプロジェクトが具体化、1997年にはデンマーク議会が支援を決定した。プロジェクトは同市とコペンハーゲン自転車協会、トランスメディア・エージェンシー、スカンジナビア自転車製造輸入会社が協力し運営されている。自転車に広告を付けスポンサーを獲得するというアイデアはこのプロジェクトの発案。開始当初は民間2企業がスポンサーとして毎年300台の自転車を3年間支給、その後コカ・コーラをはじめ多くの企業がスポンサーとして支援を行っている。レンタサイクルを支援することで環境保護・社会貢献をしているというイメージを得られるため、欧米では自転車広告は効果の高い広告媒体であると考えられている。自転車をスポンサーとなる企業が購入して広告を掲載するので、デザイン性の高い自転車となりそれが利用者拡大の一因となっている。また、一般の自転車と部品規格を変えて部品の「持ち去り」を防止している。

コペンハーゲン市のレンタサイクル利用者の40%は外国人観光客で、点在する観光スポットを回遊するために利用されている。横浜は市外からの観光客も多く、観光スポットも点在していて、レンタサイクルの潜在的な需要は高いと言える。拠点の数を増やしていくには貸し借りを無人で行えるシステムが必要だが、NPO単独による運営では資金的・技術的に導入は難しい。実現のためには行政や協賛企業との協働による新しい運営スキームが必要となるだろう。

新しい公共交通システムが参入し、横浜臨海都心部の交通はより便利に、よりエコロジーになろうとしている。しかしその活動に対する理解と支援、認知度が不足しているのが現状だ。良いシステムがあってもそれを積極的に利用しなければ何も変わらない。街をつくっていく市民一人一人が環境に対して高い意識を持つことで環境先進都市はつくられる。横浜は回遊に便利な観光都市として、また環境先進都市として世界に秀でる存在になれるのか。いま、市民、民間企業、NPO、行政が一体となり活動を推進していくことが求められている。

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