特集

ヨコハマ発、現代アートの祭典
動き始めた「横浜トリエンナーレ2005」

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■横浜トリエンナーレ2005のディレクターが磯崎新氏に決定

先日、来年の9月から開催される現代美術の国際展「横浜トリエンナーレ2005」のディレクターに建築家の磯崎新氏が就任することが決まった。磯崎氏は横浜トリエンナーレ2005公式HPで「既存の国際美術展の枠組みを組み立てなおし、扱う領域を美術、建築、そしてコンテンポラリーカルチャーにまで拡大する。さらに、ハイアートとローアート、また領域の区別をなくしたあらたな試みを提案する。国際美術展のシステムそのものを明示すること、それ自体が第2回横浜トリエンナーレのテーマとなるだろう」とメッセージを発表している。作家の選定方法や全体テーマに関しては現在検討中で、年内に詳細を発表する予定だという。

前回の「横浜トリエンナーレ2001」は2001年の9月2日から11月11日まで、67日間にわたり開催された。ディレクターには、河本信治氏(京都国立近代美術館主任研究官)、建畠晢氏(多摩美術大学教授)、中村信夫氏(現代美術センターCCA北九州ディレクター)、南條史生氏(インディペンデント・キュレーター)の4氏によるキュレーションにより、38ヶ国から109組の作家が参加した。全体テーマを「メガ・ウェイブ-新たな総合に向けて」とし、絵画、彫刻、写真、映像、インスタレーションなど現代美術の最新作品がパシフィコ横浜と赤レンガ倉庫の2会場を中心に展示された。ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルに巨大なバッタを吊り下げた椿昇氏・室井尚氏の作品「インセクト・ワールド、飛蝗」や、多数のミラーボールを並べたインスタレーションを展開した草間彌生氏の作品「エンドレス・ナルシス・ショウ」、赤レンガ倉庫の外に展示されたオノ・ヨーコ氏の作品「貨物車」などは特に注目を浴び、2会場でカウントされた入場者数は35万人に達した。

横浜トリエンナーレ2001 横浜トリエンナーレ サイバープロジェクト
横浜トリエンナーレ2005・ディレクター 磯崎新氏

■横浜トリエンナーレ2005開催までの経緯

横浜トリエンナーレの主催は独立行政法人国際交流基金、横浜市、NHK、朝日新聞社から成る「横浜トリエンナーレ組織委員会」。文化交流を通じた国際的な相互理解と友好を目的に活動している国際交流基金は、1998年に日本での本格的な美術の国際展の開催を目的に「トリエンナーレ調査室」を設置し、開催候補地を探し始めた。1999年にアートイベントを誘致しようとしていた横浜市が候補地として選定され、2001年に第1回横浜トリエンナーレが開催される運びとなった。「トリエンナーレ」とは、イタリア語で「3年に1度の祭典」を意味するもので、「2年に1度の祭典」を意味する「ビエンナーレ」とともに、継続的に開催される大型の国際美術展を表わすもの。本来なら第1回が開催された2001年の3年後の2004年に開催されるはずであったが、主催者側が展示会場として想定した1万平方メートルを超える施設を約3ヶ月間以上確保することができず、1年見送って2005年に開催することとなったという。

「横浜トリエンナーレ2005」は2005年の9月中旬から12月中旬まで、山下埠頭の先端に位置する倉庫2棟(延床面積は約1万2千平方メートル)をメイン会場に開催される。横浜市側でトリエンナーレ開催を担当する横浜市文化芸術都市創造事業本部の野田邦弘さんは「海に面した倉庫という、横浜らしい会場を楽しんでもらい、横浜のイメージアップにつなげていきたい」と語る。前回の開催はオープン前の赤レンガ倉庫を会場として使用することで、赤レンガ倉庫の認知度向上とともにトリエンナーレ終了後の集客に繋がった。「横浜トリエンナーレ2005」の会場となる山下埠頭3、4号倉庫のイベント終了後の活用にも注目が集まる。また横浜市は「行政主導で市民側の盛り上がりに欠ける部分があった」という前回の反省を踏まえ、「横浜トリエンナーレ2005」への市民の積極的な参加を呼びかけている。

横浜トリエンナーレ2005 独立行政法人国際交流基金
横浜トリエンナーレ2001・ロゴ 横浜トリエンナーレ2005のメイン会場となる山下埠頭3、4号倉庫

■横浜トリエンナーレ2005作戦会議~市民参加の仕組み

「横浜トリエンナーレ2005作戦会議」なるものが行われているのはご存知だろうか? トリエンナーレを横浜の街の側から盛り上げるべく、市民による応援団をつくるとの趣旨ではじまったもので、今年に入って3回(3月、7月、9月)開催されている。主催は財団法人横浜市芸術文化振興財団。自主的なトリエンナーレ応援企画、市民による広報、本展ボランティアの3つのグループに分かれての活動がスタートしている。9月12日にBankART1929Yokohamaホールにて開催された横浜トリエンナーレ2005・第3回作戦会議には、70人が参加した。会議では、本展ボランティア活動チームと市民広報チームから活動の紹介および報告と、9つの自主的な応援企画者が協力者を募り、意見交換をする目的でプレゼンテーションを行った。身体に障がいのある芸術家の作品展覧会「スーパーピュア2005」やアートNPOによるアートイベント企画、フリーマーケット型のアートTシャツイベント、QRコードを活用した情報の配信企画、アートカフェの提案などバラエティに富んだ提案があがった。学生からのユニークな企画提案も多くあった。

財団法人横浜市芸術文化振興財団 トリエンナーレ作戦会議のページ
横浜トリエンナーレ2005・第3回作戦会議 横浜トリエンナーレ2005・第2回作戦会議

■港と市民をつなぎ、循環社会を構築~艀プロジェクト

東京大学大学院に在籍中で、CYGNETの代表を務める佐々木一晋さん(27歳・旭区在住)と、副代表の岡部友彦さん。佐々木さんが第3回作戦会議の場で提案したのは、艀(はしけ)プロジェクト「HAPPY BARGE(艀)」だ。これは、現在山下埠頭に放置されている艀をアート・環境サイクルの装置として再活用し、元町と中華街の間を流れる中村川・堀川を中心に、山下埠頭や象の鼻地区、クイーンズイースト前の水辺などに「お花畑」を浮かべようというもの。艀とは港内や河川などで物資を運ぶ小型船のことで、横浜の艀は開港以来、横浜の発展を支えるとともに港町横浜の原風景を作り出してきたと佐々木さんは考える。だが、船舶輸送がコンテナ化するに従って使用価値が薄れ、現在では大半が解体され、放置されたままになっているという。横浜の文化的遺産とも言えるであろうこの艀を再度活用できないかと考えたのが、佐々木さんのアイデアの出発点だった。

艀プロジェクトは土づくりからはじまる。冬の間に周辺の住宅や商店街、レストラン、庭をもたず高層に住む市民達などから生ゴミを回収し、艀上の畑でEM発酵処理をかけることによって堆肥をつくる。EM発酵処理で生じた消化液は、艀から河川に直接流すことで河川のヘドロや悪臭を浄化する作用をもつ。春には地域の小学校、インターナショナルスクールの学生を集めて種植え教室や環境ワークショップを開催し、植えられた種は夏になると艀畑いっぱいにひまわりやチューリップ、ケナフを開花させる。そして横浜トリエンナーレ2005開催の秋ごろには、艀上で作られた堆肥は「土塊」にパッケージ化され、種とともに参加者に分配し還元が完成するという、一連のサイクルを形作っている。

このプロジェクト、実はトリエンナーレ会期中にインスタレーション作品として展示することが最終的な目的ではない。トリエンナーレはプロジェクトの一つのステップであり、CYGNETが目指すのは、長期的な視野に立った市民レベルの循環社会を意識化させることだという。トリエンナーレ会期後も、周囲の住人や子どもたちとワークショップの場や交流の場をつくり、市民の環境・アートに対する意識のレベルを引き上げていきたいと考えている。

現在、CYGNETは横浜艀運送事業の後援のもと、実施に向けて計画を進行させながら、実現可能なかたちを模索している最中で、広く協賛者を募っている。港町横浜ならではの夢のある環境アートプロジェクト「HAPPY BARGE(艀)」。来年の夏ごろ私たちは、海に浮かぶ艀畑いっぱいに咲いたひまわりを眺めることはできるのか。CYGNETの今後の活動に期待したい。

CYGNET
水辺に浮かぶ艀(はしけ) 艀(はしけ)プロジェクト「HAPPY BARGE(艀)」イメージ写真

■新世代アートライター、トリエンナーレBlogを開始

7月開催の第2回横浜トリエンナーレ2005作戦会議に参加以来、トリエンナーレの市民広報チームとして関わるアートライターのドイケイコさんは、8月1日より「横浜トリエンナーレ2005フリンジ」というブログをはじめた。ブログとは、ウェブ制作の知識がなくても簡単に作れて更新できる日記のようなウェブページのこと。同ブログは、市民広報チームが今秋に立ち上げを予定している広報ウェブサイトの前段階としての自主的な活動で、おもにトリエンナーレを盛り上げる応援企画の活動模様を画像付きの文章で紹介している。動きはじめた応援企画に対して何ができるかを考えたとき、ドイさんの頭に浮かんだのがこのブログだった。丁寧で親しみやすい文章で、活動の様子がリアリティをもって伝わってくる。

横浜トリエンナーレ2005・フリンジ(仮称)

ドイさんは現在26歳。平日は会社員として勤めながら、週末は各地で開催されるアートプロジェクトの現場へ足を運び、雑事からアーティストへの取材までこなす「二足のわらじ」生活を約2年前から続ける。ドイさんは横浜トリエンナーレ2005のほかに、開催間近の取手アートプロジェクト2004にもサポーターとして参加している。アートライターとして、また、ゆくゆくはアートのコーディネーターとして一人立ちしたいとの目標をもっており、一連の自主的な活動はその目標を実現するために必要な「経験」であり、「修業」であると捉えている。このように、特に若い世代でトリエンナーレに関わりたいという人々のなかには、大袈裟に口に出すことはなくても、自らを成長させる機会にしたいとの前向きな姿勢をもっている人が少なくない。

取手アートプロジェクト2004

「子供の頃から美術とかきれいなものが好きで、自分で絵を描いてもいた。でも、あるとき自分は継続的に何か新しいものを生み出す『アーティスト』ではないのだと気づき、一般の人々とアーティストの間に立つような仕事をしたいと思うようになった」とドイさん。世田谷区在住で職場も都内のため、横浜での取材や広報チームのミーティングの際にはみなとみらい線で駆けつける。好きなことを仕事にしたいとのまっすぐな意志が、現在のドイさんを動かしている。来年開催の横浜トリエンナーレ2005について「これまで関わってきたアートプロジェクトのなかで最も大きな規模で、とても楽しみ。トリエンナーレにまつわる活動やアーティストに対して、体当たりでどんどん取材して皆さんに紹介していきたい」と意欲的に語る。トリエンナーレが市民の側から盛り上がり、成功を収めるためには、このような目標をもった若い世代の「つなぎ手」の存在がとても大切に思われる。

横浜トリエンナーレ2005・フリンジ アートライターのドイケイコさん 市民広報チーム ミーティングの様子

■トリエンナーレを通じた「まちづくり」の推進~横浜市芸術文化振興財団

作戦会議を主催する横浜市芸術文化振興財団事業推進課の伊勢田さんにトリエンナーレにおける財団の役割を訊ねると、次のような答えが返ってきた。「『横浜トリエンナーレ2005を地域から盛り上げる活動』や『横浜トリエンナーレをきっかけに市民が自主的に行うアートによるまちづくり活動』をサポートしたり、共につくりあげていくことが財団の役割」。横浜トリエンナーレ2001の反省を踏まえ、市民の側からの盛り上がりを積極的に推進していく役割を担っていくという。財団では現在、市民の自主的な活動のサポートの一環として、トリエンナーレに関連する応援企画を募集しており、認定事業には財団との共催事業として事業経費の一部を負担をする。事業として利益が発生しない範囲での負担となり、上限は30万円。

具体的な対象は、平成16年10月中旬から17年2月までに横浜市内で市民向けに実施されるトリエンナーレ関連事業で、1)横浜トリエンナーレの啓発につながる事業、2)横浜トリエンナーレのプレイベントとしての効果があるアートイベントや教育プログラム、3)トリエンナーレをきっかけとしたアートによるまちづくりを目指す事業、となる。「横浜トリエンナーレのPRとなる事業や市民がアートを楽しめる(学べる)企画、学校や商店街などの地域と協力して実施するアートイベントを待っている」と伊勢田さん。選考のポイントは、ただ漠然とアートなイベントを行いたいというのではなく、トリエンナーレを通じた、横浜の「まちづくり」への視点が求められていると言えそうだ。

平成16年度横浜トリエンナーレ応援企画(仮)事業提案募集の詳細(PDF)

「横浜トリエンナーレという国際現代美術展が横浜で開催されるということは、多くの市民がアートを知り、学び、楽しむきっかけとして、また同時に多くの市民がアートで『まち』を盛り上げる活動を行うきっかけとして利用できる絶好の機会。この機会を生かせるように、さまざまな市民の方が関わりをもち、つながりをもつことができる環境づくりをすすめていきたい」と伊勢田さんはトリエンナーレへの意気込みを語る。財団は、応援企画の事業提案についてはもちろん、市民としてトリエンナーレに関わりたいとの気持ちをもっている人に対して気軽に相談に乗ってくれるとのことだ。積極的に活用することで、横浜トリエンナーレ2005への新しい関わり方を発見できるかもしれない。

横浜市芸術文化振興財団 横浜市芸術文化振興財団の伊勢田さん 横浜トリエンナーレ2001・パンフレット
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