特集

横浜発「東日本大震災復興支援」活動レポート
「ヨコハマ関外 吉田町」の取り組み
~Cheer From YOKOHAMA! vol.1~

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■三陸特産品イベント「ガッツ!三陸」も開催

 吉田町名店街内の「ギャラリーミロ」では、5月9日から三陸特産品にクローズアップするイベント「ガッツ!三陸」が始まった。

 このイベントは、三陸の新鮮野菜やお米、蔵元で作られたお酒などの産品をギャラリー前の特設会場にて販売、売上の全てが被災者支援に寄付されるというもの。また商品である「ハーブたまご」の売上の一部は被災地で栽培される花の購入に充てられ、その花は被災地で植えられるという。アートが盛んな吉田町らしく、併設会場にて地元出身の画家ユニット「アトリエ21」の画家が描いた震災前の美しい三陸海岸の風景画も展示されている。

 「震災から既に4回にわたり支援物資を現地へ届けていますが、今回は物資の支援とは異なった形の支援活動を行ってみよう、本当の意味での復興を実現するために、現地の産品を購入して支援する活動を行ってみようとイベントを企画しました。新鮮な三陸の野菜や美味しい地酒のほか、プロの画家たちが描いた在りし日の美しい三陸海岸の絵もぜひ見ていってほしい」。吉田町町内会の会長であり、会場「ギャラリーミロ」オーナーの今井大さんはこう語る。実施期間は5月15日18時まで。

吉田町名店街会が被災地特産品を販売-三陸の風景画展示も(ヨコハマ経済新聞)

■吉田町ってどんな町?

 吉田町は「関内」ならぬ「関外」(幕末関内駅前の吉田橋の上に関所があったことからその内側を関内、外側を関外と呼んだことに由来する)と言われ、バーやジャズ喫茶、画廊などが多く、独特の雰囲気を醸し出している。昨年の夏は道路を閉鎖してジャズライブなどが実施されたり、隣接した野毛エリアでは「野毛大道芸フェスティバル」が行われたりと、イベント開催にも積極的に取り組んでいる注目のエリアである。

 今井さんは、町内会長に就任した15年ほど前から付近の老舗商店主などと共に町自体の強みを検証。年齢の若いバーのオーナーを積極的に誘致するためのカクテルイベント「バーズストリート」を開催するなど、多くの顧客誘致に成功しているだけでなく、幅広い世代が共存する新しい町づくりに成功している。

吉田町でアート&ジャズフェス-路上ライブや作品展、ワークショップも(ヨコハマ経済新聞)

吉田町でカクテルイベント「バーズストリート」-27店舗が参加(ヨコハマ経済新聞)

■震災直後から町をあげて支援活動を開始

 2011年3月。吉田町町内会では新築したばかりの町内会館のオープニングイベントを企画していたところ、東方地方太平洋沖地震に伴う東日本大震災が発生した。

 震災発生日の11日には、今井会長はじめ町内会員数名の的確な指示により、すぐに避難所として町内会館を開放、延べ50人以上の帰宅難民者を受け入れた。混乱の中でも町内の石井耳鼻科が毛布、天ぷらの登良屋が炊き出し、老舗の田中屋茶店がお茶を提供するなど、帰宅難民者の支援を行った。このように帰宅難民の為に強い結束力と迅速な支援活動を開始したことを皮切りに、同町内会では若手のメンバーを中心に、「自分たちでできること」を考えて、さらに積極的な支援を開始した。

 「夜が明けてからどんどん明らかになる被災地の惨状を見て、なんとか町をあげて救援しよう、ということで、まず支援物資を持って現地に届けることを計画しました」。吉田町名店街会会長で、震災日に炊き出しを行った天ぷら店「登良屋」のオーナーの荒井さんはこう話す。震災後、町内会の若いメンバーから「行かずにはいられない」と強い声が起こり、これまでに計4回、被災地のひとつである石巻市の湊小学校と渡波小学校へ出向いて支援を行った。

 「1回目はレトルトのおかゆや水、お菓子などの食物を中心に、2回目はスタッフのFacebook上での友人を介して子どもの絵具や玩具などを提供しました。3回目は浸水した1階に敷き直す畳や水による高速洗浄機を。4回目は被災者の皆さんから大きな要望があった横浜名物「崎陽軒のシウマイ」などを支援物資として持っていきました。崎陽軒さんから既にシウマイの寄付を頂いていたのですが、私が行きつけのバーのマスターに話をしたところ、オーナー達が皆でお金を出し合って『シウマイ基金』が急遽集まり(笑)、追加分を購入して持っていくことができました」

 崎陽軒の例にあるように、同町からの呼びかけにより企業も被災地支援を積極的に実施しているが、被災地のニーズはこちらで想像している以上に多様化しており、課題もあるようだ。「食事のバランスが悪い為、ファンケルさんから1,000人分のサプリメントを寄付して頂いたり、横浜ベイスターズ友の会からは帽子を頂いたりと、いろいろな支援を頂き、現地でもとても喜んで頂きました。ただ被災地のニーズは日が経つにつれ刻々変わるので、実際に行ってヒアリングしないと分からない部分も多々ありますし、たった500メートル離れた避難所での支援の格差があったりと、課題もまだあるのが現状です」

 さまざまな課題を抱えつつも、同町内会は物資支援以外の活動も積極的に展開している。「4月7日には吉田町はじめ近隣の野毛、桜木町の3商店街が合同で募金活動を実施、総額102,513円の寄付を頂き、支援物資を購入し被災地へ持って行きました。また、例年町内で行われているアート&ジャズフェスティバルで被災地の子どもが描いた絵を展示したり、開催37回を数える野毛大道芸と同時開催で、被災地支援のチャリティバザーを開催しました。特に大道芸は、宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)漁協より要請があり、大道芸人4人が5月14日に現地へ出発する予定です」と今井さん。音楽や大道芸が根付いた同町ならではの新しい支援の取り組みは、復興に向けて新しい「心のケア」が求められるフェーズに入ってきている証であろう。

吉田町町内会 Yoshidamachi Town Assoc (facebook)

■イベントには被災家族の参加も

 横浜市内にも被災地からの避難者が数多くいるが、今回の「ガッツ!三陸」には、アルバイトとして被災者の家族が参加している。福島県いわき市で生まれ育った梅宮さん家族だ。

 避難地域であるいわき市。風評被害や原発問題は彼らの将来に大きな不安を残したままだ。「一時帰宅でいわきに戻ったのですが、人通りがないゴーストタウンのようないわきを見て思わず『もういわきは終わりなんじゃないか』と感じたりもしました。避難所暮らしで子どものストレスがたまってきているのも一番心配です。明日からベビーシッターさんが来てくれるということですが、たとえそれが解決しても家もないですし、夫の仕事も未定なので、将来いわきに戻りたくても現段階ではこちらに暮らすことになるかもしれないという覚悟もしています」

 梅宮さんの自宅は内陸だったため津波の被害には遭わなかったが、小さな二人のお子さんの健康を考え、知人のいる神奈川での避難生活を選択したという。「震災後すぐにアパートも解約し、こちらへ来て避難所で暮らしています。ボランティアスタッフの皆さんや今回応募させて頂いた「ガッツ!三陸」へのアルバイト参加など、いろいろな人に助けて頂いて本当に感謝しています。まだ先は分かりませんが、頑張っていきたいです」と笑顔を見せていた。

■町の特徴を活かした新しい支援活動を継続

 今井さんは今後の支援活動について、「これからの支援活動は、ハード面でなくソフト面で必要な段階になってくると思います」と話す。「幸いなことに、吉田町は30代から40代を中心にした町内会青年部が、他のエリアからも入りたいという希望者がいるくらいの高いモチベーションと結束力を持った組織に成長してくれています。震災時に活躍した町内会館も先日ようやくオープニングを記念し、アジアのバーテンダーチャンピオンを獲得したノーブルというバーの山田さんによるカクテルパーティーを開催しました。このエリアで開催されるイベントは、外部の業者などには一切頼らずに町内会だけで運営を取り仕切るのですが、今後はこの町の強みや特徴を活かした支援をしていきたいのです」

 それは具体的にはどのようなものなのだろうか。今井さんに尋ねると「やはりアートや音楽が根付いているエリアなので、それを活かした取り組みを考えています。例えば以前に一度実施した被災地と横浜の小学生同士で、絵の交換を行ったりする活動などですね。これは私が30年以上前にフィリピンと日本の子ども同士で行った絵画の交流活動をモデルに考えていますが、吉田町の小学校のPTA会長さんと夏休みあたりに開催できたらいいなと話しており、将来的には横浜市など行政と連携しながらさらに広く展開していきたいですね」と答えが返ってきた。

 被災地にお菓子や絵具を持って行った際に、親御さんがいる子どもは積極的に受け取りに来るのに、孤児になってしまった子はうずくまって取りに来ようとしなかったという。その姿があまりに哀れで見ていられなかった、と今井さんは語る。世代を超えた強い結束力でまとまり、町の活性化に挑戦し続けながら、被災者支援を行う吉田町。被災地で膝を抱えてうずくまっている子供たちを笑顔に変えるために、今まさにこの町のもつアーティスティックなパワーが求められていると言えよう。

ヨコハマ関外 吉田町

吉田町町内会(Facebookページ)

柳澤史樹 + ヨコハマ経済新聞編集部

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