特集

横浜の“おもいやり”を全国に、そして世界に発信。
市民活動をベースに展開する「おもいやりライト運動」とは?
―事務局の松田吉広さん、真田武幸さんに聞く

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■美しい夕暮れ時の安全を守る、おもいやりライト運動

―おもいやりライト運動とはどのような運動なのか教えてください。

真田 「ライト」が何のライトを指しているかと申しますと、車のヘッドライトのことです。おもいやりライト運動は、車のヘッドライトをいつもより早めに点灯しようと、ドライバーに呼びかける活動です。

 夕方の4時から6時の時間帯は、実は非常に交通事故の多い時間帯で、ちょうど日が暮れ始める時間帯でもあります。日が暮れる前の薄暗い時間帯からヘッドライトを点灯すると、歩いている人や自転車に乗っている人に、車が接近していることに気がついてもらいやすくなる。この時間帯の事故を減らす為に、車のヘッドライト点灯が効果的だとうことが実証されています。ですから、周囲を見やすくするためのライト点灯ではなく、周囲の人に車の存在を見られやすくするために点灯することが大切。これが「おもいやりライト」なんです。このおもいやりライトを多くの方に伝え、交通事故を減らすことを目的として活動をしています。

 具体的には、日没の30分前からヘッドライトを点灯しましょうと呼びかけています。また、歩行者や自転車に乗られる方には、サムシングイエローといって、身体のどこか1カ所でも、イエローのような視認性の高い色を身につけて、ドライバーに自分の存在を見られやすくするようとお勧めしています。ドライバーと歩行者や自転車が、双方向に互いをおもいやる気持ちを光で表現しよう、コミュニケーションしていこうということですね。

おもいやりライト

―活動をスタートされてどのくらいですか? また、どのように展開されてきたのでしょう?

松田 2009年の皇居ランがスタートです。この時は、SNSを使って「早期点灯に賛成し、それを訴えたいと思う人は黄色いTシャツを着て皇居ランをしますので集まってください」と呼びかけ、180名もの人が集まりました。この人数で皇居ランをすると、周囲の人からは「黄色いTシャツの集団がぞろぞろと走っている」と、興味を持って見てもらえる。そうしたとき、スマートフォンで「皇居 マラソン 黄色いTシャツ」と検索すると、おもいやりライト運動のHPにたどり着いて、コンセプトムービーを見る事ができるような仕組みを作っていたんです。

 私は現在おもいやりライトの賛同パートナーでもある日産自動車株式会社で2009年から環境・安全技術渉外部という部署に属しています。日産自動車は交通事故ゼロの社会を目指して50年ほど前から様々な取り組みを行ってきました。日本での交通事故件数は2005年にピークを迎え、なだらかに減少しています。こうしたタイミングですから、これまでの交通安全キャンペーンのあり方を見直して何か新しいアプローチを考えたいと、広告代理店の博報堂とアイディアを出し合いながらチャレンジ的に始めた様々な実験が、現在のおもいやりライト運動に繋がっています。利己的な考え方ではなく、他人をおもいやることのできる利他的な考え方を持った人たちと一緒に、ひとりひとりの顔が見えるコミュニケーションを繋げていくようなことができるのではと。日産自動車は本社機能をみなとみらい地区に移し、横浜に帰ってきたタイミングでもあったため、やはり地元横浜の人々と何かを起こしたいと考えたんです。

真田 単純に「ライトを早く点灯しよう」と呼びかけても浸透しにくいと思い、まずは地域のコミュニティからメッセージを発信していって、街の中でムーブメントを作っていこうと考えました。まずは横浜の市民の方々と一緒になって、おもいやりライトの考え方を広く伝えるためにはどうしたらいいかというアイディアを交換する市民会議を2011年の7月に始めました。

 この市民会議では、ワークショップなどでアイディアを募集します。出されたアイディアをもとにイベントを実施し、その効果をまた市民会議の場で共有するということを続けています。昨年の10月21日(灯りの日:エジソンが電灯を発明した日)に実施した、道路上での点灯呼びかけアクションや、4月に実施した「よこはまシャルソン」も、市民会議で出されたアイディアをもとにしています。

日産自動車が横浜で「おもいやりライト運動」市民会議-交通事故低減目指す(ヨコハマ経済新聞)

■街のパワー、クリエイティブのパワーで“おもいやり”を伝える

―市民会議には、主にどのような方が参加されるのでしょう?

真田 横浜でまちづくりに参加されている方、クリエイティブやデザインの力で街を元気にしようという方、街の中でメディアとして情報を発信されている方々などです。どなたもユニークな活動をされている面白い方々ばかりです。

 つい先日の会議には、神奈川特命子ども地域アクターの子ども達が来てくれました。「黄色いなめこキャラクター」や「崎陽軒のシウマイのパッケージを黄色に」など、子ども達ならではの視点でアイディアを提供してくれました。

 こうした活動で、横浜が「おもやりのある都市」として知られるようにしたい。横浜は夕暮れが奇麗な街ですし、世界的にも知名度がある。その街に住む人たちにとって、おもいやりライトの点灯が当たり前のことになり、おもいやりを持った人たちが沢山住む街だと発信していきたいです。

横浜で「特命子ども地域アクター養成アクション」説明会-中高生を募集(ヨコハマ経済新聞)

―広い意味でデザインされたプロジェクトだというように感じます。今回のショートムービー制作も含めて、デザインやクリエイティブについてはどのようにお考えですか?

真田 おもいやりライトの考え方は、イメージとして共有することが難しい部分もあります。「薄暗い時間帯からヘッドライトを点灯してね」といっても、どのくらいの明るさなのか?など。ですから、横浜の景色の光の移り変わりを表現しながら、おもいやりライトの気持ちを伝えることのできる映像を皆さんに観ていただけば、コンセプトがすっと伝わるのではと考え、映像制作を企画しました。映像に関しては、おもいやりライト運動をずっと応援してくださっていて、横浜の街を取り続けていらっしゃる写真家の森日出夫さんにコンセプトを相談したところからスタートしています。

横浜の24時を魅せる「おもいやりライト」ムービーが完成 写真家・森日出夫さんらクリエイティブチームに聞く(ヨコハマ経済新聞)

 パンフレットやステッカー、ウェブサイトのデザインなどは、横浜でデザインを通して社会的課題の解決を目指して活動をしているクリエイティブチームNOGAN(ノガン)が手がけています。明るいレモンイエローのデザインで統一し、おもいやりライト運動に参加してくださったひとりひとりが、参加していることを誇らしく思えるような、美しさや親しみやすさを心がけて制作しています。おもいやりライトもひとつのブランドというような意識でいます。

■各地に展開・派生する“おもいやり”

―まずは横浜からスタートした活動ですが、全国にその動きが波及しているそうですね。

真田 そうですね、山形を筆頭に活動は全国に広がりを見せています。

 活動に共感してくださった個人が、「自分の会社の中でも広めたいから、ステッカーを送ってください」と問い合わせてくださったり、交通安全の取り組みの主軸としておもいやりライト運動に取り組んでくださる団体も現れました。 

 山形の山形県安全運転管理者協会では、自主的にのぼり旗を制作してくださり、所属されている4,000の事業者さんに配ったりしてくださっています。

 この1ヶ月程は、神奈川県以外からのお問い合わせも多いです。事務局としては、問い合せいただいた方におもいやりライト運動を伝えるツールとしてパンフレットやステッカーを提供したり、これまで横浜で展開してきた手法を共有するなどして、各地の方々が自由な発想でおもいやりライト運動を展開するためのサポートを行っています。

松田 この運動を通じて他人をおもいやる利他の心を持っている人が多く存在していることが分かり、希望となっています。私自身も企業で働いてばかりでは出会うことのできなかった人たちと出会う機会ができました。

おもいやりライト運動の広がり|おもいやりライト

■社会運動志向のマラソン大会、シャルソンとは?

―先ほどのお話の中でも出てきた「シャルソン」は、秋にも開催をされるそうですね。このシャルソンも全国に広がりをみせているとか。どのようなイベントなのでしょう?

真田 ソーシャルマラソンを略して「シャルソン」と呼んでいます。普通のマラソン大会はスタート時間が決まっていて、早くゴールした人が勝ちですよね。シャルソンではゴールの時間だけが決まっています。コースの設定も特になく、街中を自由に走っていただいて、その体験の面白さを競うというマラソン大会です。ランナーがおもいやりライト運動のメッセージが描かれた黄色いTシャツを来て街中を周遊することで、居合わせたドライバーや歩行者にも、メッセージを発信していきます。

 経堂マラソンから始まったシャルソンは、我々のよこはまシャルソン、墨田、前橋、札幌でも。札幌のシャルソンでは、おもいやりライトのTシャツを着用して走っていただきました。

 我々のよこはまシャルソンは4月に開催したところ、あいにくの嵐のような悪天候にも関わらず非常に好評でして、秋にさらに拡大して実施予定です。11月10日、みなとみらいのクイーンズスクエアをお借りし、「おもいやりライトシャルソン」と名前を変えて準備中です。4月のシャルソンと同じく、Facebookやtwitter、Googleのサービスで位置情報を伝えるGoogle Latitudeを駆使して、参加された方同士の体験をシェアできるような場を用意しています。

横浜臨海エリアで地域発見ソーシャルマラソン「よこはまシャルソン」(ヨコハマ経済新聞)

―それは非常に楽しみですね。おもいやりライト運動の今後の展開はどのようにお考えですか?

真田 ますます広めて行きたいです。他人をおもいやる気持ちをアクションにする。これが当たり前のことだということを、横浜の皆さんと一緒に、映像やイベント、アクションで、世界的に名の知れた国際都市である横浜から発信していきたいと思います。

―ありがとうございました。

「見るためだけでなく、見られるための光を。」歩行者や自転車に乗る人の安全のために、夕暮れ時早めに点灯するヘッドライトのことを、「おもいやりライト」と名付けました。」という、おもいやりライト運動。この素敵な活動が、横浜から全国へ、そして世界へとおもいやりの輪が広まっていくことを期待したい。

友川綾子 + ヨコハマ経済新聞編集部

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