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空間や時間を間借りして街を活性化
ソーシャルビジネスとしての-MaGaRi-

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■街づくりとしての「MaGaRi」

 「MaGaRi」は既に所有者のいる店舗やオフィス、商店街などの空いている空間や時間(=間借りブッケン)を発見し、紹介していくメディアだ。昨年10月から開始している「MaGaRi」は今村さんが中心になって運営しており、ウェブサイトは充実した内容となっている。

 横浜市中区寿町にある横浜ホステルヴィレッジ(中区松影町3)、同じく中区にあるアトリエ付きのシェアハウスらくだ荘(中区初音町3)など、横浜市内の物件とともに、渋谷にある書店と隣接しているレンタルオフィス、高円寺の高架下にあるシェアオフィスなど、ユニークな物件が並ぶ。これらの物件の多くは企画・運営を担当している今村さんの広いネットワークと軽いフットワークの中で見つけたものだ。

横浜ホステルヴィレッジ

初音町の木造一軒家「らくだ荘」がアトリエ付きシェアハウスに(ヨコハマ経済新聞)

 各物件の紹介文や画像は、今村さんが実際に足を運んで取材したもの。利用者の目線や所有者(管理者)の思い、またそこを利用して派生する面白さやメリットなどが記事として掲載されている。

 利用者として間借りしたい場合は、各物件の個別ページにある問い合わせフォームから申し込む。入居や空間の利用に関する契約等は、利用者と所有者(管理者)の間で直接取り交わしてもらう。あくまでユニークな空間を発見し、そこを面白く利用できる人や団体に紹介し、街全体を活性させるのがMaGaRiの仕事だ。

 物件の登録や貸し出す際の掲載料は無料。スペース利用料の中から規定の料金をもらう成果報酬制をとっている。

 MaGaRiのチラシには、黄色+青色=緑色という図が水彩画タッチで描かれている。このイメージはウェイブサイトや今村さんの名刺にもあり、MaGaRiの朗らかで創造的な印象にピッタリだ。そのチラシの中に「ユニークな空間を、安く利用することを可能にします。通常の賃貸に比べ、『間借り』とすることで、月々の支払いや初期投資を抑え、個性的な空間や好立地の場所を利用することが可能になります」とある。確かに面白い事業を立ち上げようとしている個人やチームが、街の中で活動しやすくなるメリットがある。

 街というものは、そこに長く居て安心していられる部分と、常に動いて新しくチャレンジできる部分が必要だ。そういった意味において、街づくりとしてのMaGaRiは新しいコミュニティとビジネスケースをつくる可能性を大きく含んでいる。

 今村さんが優秀賞を受賞した「第1回社会起業プランコンテスト」を実施しているiSB公共未来塾は、内閣府「地域社会雇用創造事業」の一環として、社会的企業育成支援事業コンソーシアムが運営するビジネススクールだ。東京、横浜、名古屋の3事務局があり、横浜地区での事業実施を担当しているのが公益財団法人 起業家支援財団(中区尾上町5)である。

iSB公共未来塾

公益財団法人起業家支援財団

■横浜、東京での活動

 昨秋の11月26日、街路樹も黄色や紅に染まりはじめた秋も盛りの頃。横浜、東京を駆ける今村さんの1日に同伴させてもらった。

 まず朝の10時に渋谷のモアイ像に集合、都内にあるマンション内のコミュニティづくりに取り組んでいる人たちと打ち合わせ。既にマンション内では隣人祭り、屋上菜園、朝カフェなどのイベントを実施していた。MaGaRiに相談した理由は「宣伝につながる」「新しい入居者が入るようなイベントの相談ができる」からである。

 MaGaRiは中区寿町のヨコハマホステルヴィレッジの一角を物件としてウェブサイトに掲載した際も、同施設を運営するまちづくり会社であるコトラボ合同会社とともに「コトラボでMaGaRiしたらどうなる?」というイベントを同施設内で開催している。取材して記事を掲載するだけではなく、その場所により深く関わろうとするのだ。

コトラボ合同会社

 もろもろマンション内の現状の説明を受け、今後のことを話した結果、前半は飲食メイン、後半はトークディスカッションの二部構成イベントを実施することに決定。今村さんの人脈の中で、食に関する人やトークディスカッションの参加者を探すようだ。

 今村さんは街(空間)、コミュニティ(人間)、スケジュール(時間)の中で、ユニークかつ新鮮で持続可能なことを考えている。

 15時。横浜駅東口から徒歩3分、11月に誕生したオープンシェアハウス「クリエイティブデザインセンター(CDC)」(西区高島2)で打ち合わせ。今村さんの方からアプローチして既に一度取材しており、先日さっそくMaGaRiのウェブサイトにも掲載された。

 CDCはセルディビジョンという会社が運営している。同社はデザイン会社であるが、単にデザインするだけではなく、クライアントとともに理念を考えることからスタートし、綿密なコミュニケーションを経てデザインを進めていく。クライアントは幅広く、証券会社、幼稚園、劇場、美術館、農家など。特に横浜市民ギャラリーあざみ野が発信するフリーペーパー「アートあざみ野」の優しげなデザインが印象的である。

クリエイティブデザインセンター

横浜市西区/クリエイティブデザインセンターオープンシェアオフィス(MaGaRi)

セルディビジョン

 代表取締役の岩谷真史さんは多摩美術大学時代にテキスタイルを学んでいたが、「もっと広くやりたい、広い意味でのデザインをやりたい」と考え、学生時代からデザインの仕事をするようになる。その後、父親が経営する幼稚園の広報担当の仕事に就いた。この時クライアントとしてデザイン会社に発注する側に立った経験が、自分で会社を立ち上げるきっかけとなった。

 デザイン会社のセルディビジョンがCDCというオープンシェアオフィスを運営することになったのは、昨年に横浜開港150周年記念イベントであるY150が開催された際、仕事として関われなかったことがきっかけだ。どうすれば大きなプロジェクトの仕事を得ることができるのか、岩谷さんは考えた。ちょうどその時、父親が所有する物件が空いていた。そこで実力のあるクリエイターが集まる拠点をつくり、そこから派生するプロフェッショナルなネットワークを作ることにした。

 CDCにはJAGDA神奈川(社団法人日本グラフィックデザイナー協会神奈川支部)も併設される。現在CDCに入居しているのはカメラマン、ウェブデザイナー、アニメーターなどのクリエイターである。「29歳という若い岩谷さんが、大きなプロジェクトを立ち上げようとする魅力にひかれてCDCに入居した。一緒に大きな仕事をしたい」という入居者もいた。

 使用料金は、1ブース月額31,500円から、その他に月額共益費や初期費用がかかる。CDCにオフィスを構えるデザイナーの渡邊幹子さんは、自宅は東京だが、横浜-東京間を行き来する刺激や他業種クリエイターとの交流が魅力だと話す。

 MaGaRiの今村さんは寸刻を惜しんで人に会う。18時、子育て支援など多彩な活動を実施しているNPO法人シャーロックホームズ(横浜市西区宮ヶ谷3)を訪問。同法人の活動内容の説明や施設案内を受ける。そして19時にはその足で東京・用賀の物件に向かう。

■「AIM HIGH ROCK!!!」MaGaRiのビジョン

 今村さんからのメールには、最後に「AIM HIGH ROCK!!!」という一文がつくことが多い。大学時代から使っているそうである。高いロックを目指すという意味であるが、障害物としての「岩」という意味と、「音楽」としてのそれだという。

 最後に今村さんに率直なインタビューを行った。

―MaGaRiでしたいことは。

 活動したい人に人脈や場所を紹介して応援したい。同時に、世の中の空いている場所を活用して街のためにもなりたいです。1+1=2じゃなくて、5になるような仕組みをつくりたい。建物を作ることよりその中にいる人や活動の充実の方が面白いし、お金がかからないから動きやすい。

―横浜でMaGaRiを大きく展開しようとしたのはどうしてですか。

 「縁」です。コトラボの岡部友彦さんに横浜が面白いって紹介されて、同時にiSB公共未来塾のことを教えてもらった。空間としても東京に比べて広いし、横浜市がさまざまな形でアート活動を支援していることもあり、魅力を感じました。

―将来的に目指すものは。

 今は空間を紹介することが中心ですが、近い将来、逆に魅力的な企画を持っている個人やチームをMaGaRiで紹介して、空間と企画にMaGaRiの中で出会ってもらいたいと考えています。それからMaGaRiを介した事例を一件ずつ増やしていって、近い将来、例えば商店街にクリエイターが集まるという成功例を作り、その成功例を他の地方にも持っていきたい。

MaGaRi

 限られた空間をいかに有効に使うか、そこに生きる人々がどうしたら生き生きと仕事をして暮らしていけるか。都市に突き付けられた問題は抜き差しならない状態が続く。だがその間を駆け抜け、今村ひろゆきさんの挑戦は続く。「AIM HIGH ROCK!!!」

吉本伊織 + ヨコハマ経済新聞編集部

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