特集

みんなでつくる横濱写真アルバム
いま、写真で想うヨコハマ-市民が記録した150年-

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■写真アーカイブサイト「みんなでつくる横濱写真アルバム」とは?

 「みんなでつくる横濱写真アルバム」とは、市民が持っている横浜の開港から現在にいたる暮らしや商いの写真を集め、魅力ある郷土の共有財産づくりをしようとしているインターネット写真投稿サイト。横浜開港150周年記念事業として今年の3月2日よりスタートし、市民や企業が所蔵している写真画像を広く収集。市民が記録した150年にわたる横浜の文化と歴史を後世に残す事を目的としている。

 同サイトでは、個人のスナップから市史的意義のある写真まで、簡単な操作で閲覧・投稿することが可能。アルバムには写真を投稿するだけでなく、「いつ・どこで・どのようなシチュエーションで撮られたか」を記録として書き込むスペースを用意し、投稿画像に記入されるコメントなどによって、キーワード検索で写真を探し出すことができる。家族の思い出写真から、震災や戦災の写真まで、撮影した人の「想い」を込めて写真を投稿することができ、横浜の文化や市民の歴史がひとつひとつ記録されていくのである。

 また、近年はデジタルカメラやカメラ付き携帯の普及で写真撮影の機会が増え、市民の生活がいろいろな形で記録されていることから、古い写真だけではなく、これのデジタルカメラで撮影された最近の写真も貴重な文化資産として投稿されている。昔の横浜の写真を見ながら、現在の横浜の姿とそれらを見比べるのも楽しみ方の1つだ。

横浜開港150周年 みんなでつくる 横濱写真アルバム

■「写真の持つ力」写真アーカイブ事業の重要性

 古い写真をデジタル化して保存しようという写真アーカイブの取り組みは、地域団体や大学、新聞社など全国で徐々に広がりつつある。資料的意味の高い昔の写真を保存できることも強みだが、現在の写真を投稿することで、10年、20年後、さらなる将来に向けて今の「街の姿」を引き継いでいくことができることも重要な役割となっている。

 「みんなでつくる横濱写真アルバム」を主催している「横浜写真アーカイブ実行委員会」は、2008年8月に発足。横浜商工会議所、横浜市開港150周年協会、横浜港振興協会、横浜市で構成される。写真の収集支援や広報などは、開港150周年の事業への市民参加を呼びかける「Y150プラットホーム推進委員会」が担当している。

 同実行委員会委員長の小此木歌藏さんは「開港150 周年の2009 年という年を、どう迎えれば良いのかを考え続け、お祭り騒ぎで終わらせてはいけないと思い至りました。今こそ先人が培ってきた知恵、歴史、精神に学び、それを継承し、次の世代に引き継いでいく年にするべく始めた事業がこの『みんなでつくる横濱写真アルバム』です。城下町でも門前町でもなかった『横浜』という街を作ってきた人々の団結の証として、この事業が少しでも役に立てればと思っております」と話す。

 市民により蓄積された写真を収集し、大切に整理することで、共有の価値としてそれらを新たに発信していく。「みんなでつくる横濱写真アルバム」は、横浜の150年の歴史を単に振り返るものではなく、街の歴史を再発見し、この街で生きてきたひとりひとりの歴史を次代へと継承をしていくものなのである。

 また、横浜は、日本で最初のカメラマンと言われる下岡蓮杖が、ハリスの通訳ヒュースケンから写真術を学び、写真師ウィルソンから写真機を譲り受けて商業写真を始めた地でもあり、馬車道には下岡蓮杖の顕彰碑が建てられている。写真とゆかりの深い横浜で行われる写真アーカイブの取り組みは、写真というものが持つ強い結びつきの力や歴史性を、自ずと表しているようである。

■写真を投稿する楽しみ!当時の暮らしぶりを振り返る

 「みんなでつくる横濱写真アルバム」に投稿される写真は、50年以上前の開港記念会舘や野毛商店街の写真、建設中のランドマークタワーやベイブリッジの写真など、さまざま。運営事務局がこれまでに行ってきたスキャニングコーナーに写真を持ち寄った人たちは、その写真から溢れ出る思いを、当時の様子を思い返すように語る。

 Y150開国博ヒルサイド会場では7月24日、同サイトの写真投稿者を招いてのトークイベント「いま、写真と映像で思うヨコハマ」が行われ、投稿者代表として、田代信太郎さんと生駒實さんが招かれた。開国博Y150総合プロデューサーの小川巧記さんをホスト役に、投稿者のお2人が実際に投稿した写真をスクリーンで来場者と一緒に見ながら、写真と自分との関わり、つきあい方などを語った。

 横浜で長年にわたり中華料理を提供してきた「一品香」(名物は横浜たんめん)社長の田代信太郎さんは「みんなでつくる横浜写真アルバム」に現在13枚の写真を投稿。一品香を始める前は真砂町(市庁舎から関内駅北口にいたる中通り)で八百屋さん(八百房)を営業していたが、関東大震災でお店は倒壊。この八百屋さんにまつわる写真を同サイトに投稿し、震災前から震災後復活していくまでの様子を克明に捉えている。

 震災復興後の都市計画による道の拡大でお店が削られるなどのエピソードもあり、当時の暮らしぶりを振り返るようにして話す田代さんの嬉嬉とした様子は、写真を撮った方の想いを表すものであり、写真を投稿する楽しみそのものと映った。

 小川さんからは「横浜で生まれたいろいろなものを投稿して欲しい」と言う呼びかけがあり、「初めての横浜たんめんの写真はないですか?」などの具体的な例に言及。田代さんは「ぜひ探してみましょう」、「どなたか持っている方が有れば投稿して頂きたい」という投稿依頼ともなった。

 田代さんの投稿された写真を見ることによって、1955年に創業した一品香の歩みが、横浜の歴史を映し出す。1枚の写真によって、その場所にまつわる記憶や情景が、見る人それぞれによって思い起こされていくのである。

横濱たんめんの一品香

田代信太郎さんのアルバム(みんなでつくる横濱写真アルバム)

■自分の撮った写真がサイト上で公開・発表されることが幸せ

 大正15年生まれで生粋のハマっ子である生駒實さんは、「みんなでつくる横濱写真アルバム」に現在185枚もの写真を投稿。「横浜市中区・街の先生 No.94」、「横浜観光地ガイド」、「郷土史研究家」「日本スケート連盟公認指導員」という多彩な顔を持っており、天気の良い日は観光スポット周辺に出掛けガイドを兼ねながら写真を撮り続けている。

 生駒さんは幼い頃から横浜の写真を撮り続け、毎日のようにアサリ採りに通った本牧は写真に残されただけでなく、彼の頭に焼き付けられた歴史となっている。今は地名も無くなってしまった「十二天」や小港のチャブ屋談義は、写真説明と共に会場の皆を沸かせた。

 同トークイベントの会場となったヒルサイドエリアにちなんで「こどもの国」の写真紹介もされ、現在の天皇陛下がご成婚され記念に「こどもの国」が出来た当初はスケート場もあったことなど、いまは知らざれる歴史が写真を通して語られた。

 また、若かりし頃に奥様と記念写真を撮られた想い出の進駐軍将校ハウス(山手)も紹介。実はこの家の現在の住人は筆者の知人でもある。

 生駒さんは「7歳の時、押入れを暗室にして現像したのが始まりで、写真歴は70年以上になります。趣味が多く、そのなかに写真というものがあり、自分の好きなことがこの『みんなでつくる横濱写真アルバム』で皆さまに発表されるのが幸せです。撮ること自体が楽しい、また、撮る仕組みを勉強することも楽しい。なおかつそれが発表されるのが幸せです」と話す。

 生駒さんが70年以上撮り続けてきた写真は、横浜が積み重ねてきた歴史を映し出し、また、生駒さん自身の人生を映し出している。「みんなでつくる横濱写真アルバム」に投稿される写真は、市史的意義を持つだけでなく、それらの写真に刻まれた人々の思いや出会いを継承し発信しているのである。

ヒルサイドエリア Y150つながりの森

生駒 實さんのアルバム(みんなでつくる横濱写真アルバム)

■「横浜の文化と歴史」記録を残すことで記憶を継承していく

開港記念会舘 同サイトにこれまでに投稿された写真は現在約4,700枚。カメラ付き携帯やデジタルカメラで撮った写真はメモリーカードなどを経由してパソコンに移すことができるので、サイトから自ら写真データを投稿することができる。そのほか、パソコンやスキャナーを持っていない人に対応したスキャニングサービスもこれまでに実施され、たくさんの貴重な写真が投稿された。

 8月22日から31日には、象の鼻パーク内「象の鼻テラス」で「みんなでつくる横浜写真アルバム」展示会が開催される。テーマごとに投稿写真の映写展示を行い、市民・企業によって作り出された地域経済の発展や市民の生活文化など、投稿写真を通して多様な横浜の歴史を紹介。また、予約制のスキャニングコーナーでデジタル化のサポートも行われる。

 写真は、シャッターを押すだけで誰しもが撮ることができ、そこに自分の思いを込めることができる。そうして撮られた写真の1枚1枚は、次代へ継承されることで人々の記憶を呼び起こし、新たな思いを生み出していくだろう。写真アーカイブの取り組みがさらに広がり、市民の力によってたくさんの記録が作り上げられていくことがこれからも楽しみだ。

横浜港発祥の地「象の鼻地区」がリニューアル 150年の歴史と未来をつなぎ、新たなアートスポットも(ヨコハマ経済新聞)

「みんなでつくる横濱写真アルバム」写真展(PDF書類)

福井一男 + ヨコハマ経済新聞編集部

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