特集

「百年家具」に込められる人の想い。
横浜洋家具の伝統を守る「ダニエル」

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■西洋のデザインと日本の技術が融合した横浜洋家具

ダニエルの横浜洋家具で構成されたモデルルーム 横浜で洋家具が作られ始めたのは1863年のこと。開港を機に横浜に居住した英国人ゴールマンが、日本に持ち込んだ椅子の修理を、横浜に住む馬具職人原安造に依頼したことが始まりだった。修理の出来栄えに感心したゴールマンは、本国イギリスで作られている洋家具と全く同じものの製作を日本の職人たちに注文した。これをきっかけに、日本の職人たちは高品質な家具作りの技術を磨いていった。やがて職人たちは、四季のある日本の風土に適した素材を使い、日本にやって来る外国人のための洋家具を作り始めた。それが横浜洋家具だ。

曲線を生み出すために作られた専用の刃その最大の特徴は、飽きの来ないクラシックなデザインと、滑らかな曲線に仕上げられた無垢の木の美しさだ。ダニエルでは、イギリスのビクトリアンやジャコビアン、フランスのロココ、アメリカのコロニアルなどの特徴を生かしながら、時代に左右されないデザインを確立した。素材は高級家具材である樺桜(カバザクラ)の無垢の材木を用いる。北海道の厳しい寒さの中育った樹齢200年前後の樺桜で、優美で上品な質感に加え、堅牢で長く使用しても狂いがこないので、長期の使用に耐えることができるものだ。複雑な曲線は、形に合わせて職人自らが作った専用の刃を使うことで生み出される。刃の種類は200以上にも上るという。横浜洋家具は、木を知りぬいた家具職人たちの手によって、木が本来持っている美しさと温もりが表現された、まさに「木の芸術品」である。

パネル式で壁や天井のエッジに取りつけられる木枠 ダニエルは横浜洋家具の誕生の地・元町に本社を構え、東京に新宿・虎ノ門など計5カ所のショールームを持っている。また、洋家具の魅力が五感を通して体験できるよう、伊勢原にユニークな研修センター「The Daniel Studio」を作った。同社代表取締役社長の高橋保一さんは、こうした「魅せる」ための施設を作った狙いをこう語る。「モデルルームはお客さんに実際の完成のイメージをもってもらうことと、さらには木の温もりに囲まれた暮らしの環境提案するために作りました。マンションの白い壁や天井のエッジを見るモダンな生活は疲れます。この木枠はパネル式で、後付けでマンションにも簡単に取り付けられる。都会でもこうした豊かな暮らしができるという可能性を見せたい」。

ダニエル

■「百年家具」品質の秘密は「ほぞ組」にある

横浜洋家具で使われる日本古来の仕口「ほぞ組」 横浜洋家具が、3世代、4世代にわたっての使用に耐えることができる「百年家具」の品質を持つ秘密はどこにあるのか。それは、「ほぞ組」と呼ばれる日本古来の仕口(木の組み方)にある。木の接合部分を凹凸にして組み合わせる方法で、釘は一切使わない。そのため古くなった家具でも組まれている木をバラバラに分解できるので、修理する際にきめ細かな微調整をすることができる。緩んだ部分を直し、綺麗に塗装し直せば、再び新品のような美しく堅牢な姿を取り戻すことができるのだ。こうして作られる横浜洋家具は、一種の「形見分け」のように親から子へ、子から孫へと世代を超えて受け継がれ愛されている家具なのである。

椅子の貫(ぬき)などをを削る挽物(ひきもの)職人の仕事風景 以前、弊紙で紹介した横浜家具工房「蓮華草」では、分業を行なわず、木の選択から仕上げまで一人の職人が全てを担当するスタイルだった。しかし、「ダニエル」では完全な分業制を採用し、それぞれのパートのスペシャリストである職人たちが協力して1つの家具を創り上げている。

"技"と"新感覚"を備えた職人が導く!伝統工芸「横浜家具」新時代の夜明け

■「家具の病院」で見えてくる現代社会の縮図

家具の病院で生地の貼り替えをする職人たち 同社のモノを大切にするという理念が結実したものが、1998年に同社が開設した「家具の病院」だ。ここでは同社の家具にかかわらず、壊れた家具を持ち主から預かり、家具作りのベテラン職人たちが時間と手間をかけて丁寧に修理を行う。椅子の張替え、家具の再塗装、ガタ止め、キズ・破損直しなど、細部まで職人の手が入ることで、壊れた家具が見事に蘇る。生まれ変わった家具を持ち主に引き渡すと、時には新品以上の丈夫さ、快適さになって戻ってきたと褒められることもあるという。

「組み立て家具」で多く使われている「ダボ接合」しかし、「最近持ち込まれる家具はひどいものが多い」と修理に当たる職人たちは嘆く。安い家具では、コストダウンのため、素材にはチェリーやマツ、パインなどの柔らかい木や合板を使用している。組み立ての手間を減らすため、木材同士を組み合わせる際には「ダボ接合」と呼ばれる簡易的な方法を使う。中には、ただ木が全く接合できていなかったり、スチールを使って簡単に止めているだけのものもある。しかし、一般消費者が素材や構造のことまで考えた家具選びはできない。見栄えが良ければ、どうしても低価格のものを選んでしまう。

 どうしてこのような家具が市場に溢れるようになったのか。それは高度経済成長期の工業化の波が、家具業界にも及んだからだ。その最も象徴的な出来事は、合板の発明だ。もともと自然物である木材には、一本一本に個性がある。湿度や温度、時間経過によって反りや若干の伸縮などの影響が出るので、木を熟知した職人でなければしっかりと扱うことができない。しかし、薄い板を何枚も重ねて接着剤で張り合わせる合板なら、自然物としての木の個性はなくなる。材料費も格段に安くなり、機械で加工しやすい。合板の登場によって、木は工業用素材として扱うことができるようになったというわけだ。

■本物の家具を通して、モノを大切にする心を伝える

ショールームでは木に囲まれた暮らしの環境提案をしている 顧客が自分の家で組み立てる「組み立て家具」も生まれた。簡単に組み立てられるよう、仕口は前述した「ダボ接合」と呼ばれる簡易的な方法や、釘やネジなどが使われる。戦後、モノがなくなって、モノを欲する時代。メーカーの信頼性や品質よりも、小売店で安く買えることが喜ばれた。そして、こうした商品の登場によって、「安いのだから、壊れたら新しいものを買えばいい」というモノの価値を低める考え方が生まれてきたことが、日本のモノづくりが停滞してしまった原因だと高橋さんは言う。「高度経済成長以降、お金が人の価値観を変えてしまう恐ろしい時代になってしまった。海外では良いモノをつくるメーカーのものを買おうという意識があるが、日本人のブランド信仰には、モノを見る眼、本質を見抜く眼がない」。

ダニエル代表取締役社長の高橋保一さん バブルを期に、大企業が家具やインテリア業界に参入してきた。素材に木を使わない家具が一段と増えた。低価格で組み立て家具を売る海外の企業も日本に上陸した。高級洋家具とは顧客層が異なるとはいえ、市場全体が低価格商品へと流れはじめている。しかし、昨今はスローライフが叫ばれるなど、モノを大切にする精神が見直され始めている。少しずつ消費者の目が肥え、真摯なモノづくりをするメーカーの名前がクローズアップされてきた。「家具は家財。親子が長い時間をかけて楽しく絆を作っていく暮らし、その生活を作っていくパートナーです。値段は安いか、流行のデザインかどうかでなく、生活のあり方そのものを考えて家具を選んでほしい」(高橋さん)。

6人の職人の手で復活した横浜クラシック家具の椅子2003年には社会人に洋家具づくりの基本を教える「家具の学校」を開校した。「昔は街角に工場があって、子供は職人が熱心にモノづくりをする過程を見て育ったから、自然とモノを大切にする心が育まれた。しかし今はそういう場所がない。だから一般の消費者がモノづくりに触れる場面を作ろうと思いました」(高橋さん)。通常、こうした学校の受講者は年配の方ばかりになるものだが、この「家具の学校」では若い人も多い。「木を触っていると落ち着くから」と、IT関係の仕事をしている人や金融マン、飛行機のパイロットなど、仕事が実体として残らない職業の人がやって来る。中にはこの学校をきっかけに家具職人の道に入った若者もいる。職人の後継者問題も、少しずつ解決の兆しが見えてきた。

 考えてみれば、家具ほど人と長い時間を共有するモノはない。家具を選ぶこと、それは自分がどのように生きるのかを選ぶことだと言える。しっかり考えて後悔のないよう選びたいものだ。

 この記事は、横浜テレビ局の番組『企業の履歴書』とヨコハマ経済新聞のタイアップ企画です。横浜テレビ局でも10月に「ダニエル」を取材した番組を放送しています。

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