特集

「21世紀型の都市再生のかたち」
リノベーションで横浜を活性化 (1)

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■2つの都市再生のかたち:壊す再生となおす再生

「都市再生」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。雑居ビル街や旧来の産業のために供してきたために活かし切れていなかった土地に、新たなに高層ビルやマンションを建築し、その土地の価値を高め全く新たな街を現出させる。東京品川の倉庫街を潰して出来たマンション群、六本木ヒルズなどといった、新たなる街区の登場は、快適な住居やIT時代に適合したオフィス、それに魅力的なショップや飲食で彩られた21世紀のライフスタイルを、比較的安価に提供し、都心回帰とも呼ばれる状態を巻き起こしている。この波は横浜にも押し寄せ、ビジネス街であった中区の市街地に大型マンションが次から次へと建ち始め、都市の生態系をも変えつつある。

このような開発型の都市再生ビジネスとは180度異なるもう一つの都市再生のかたちがうまれつつある。そして、このもうひとつの都市再生ビジネスの担い手は新しい価値観を持った新たな世代が中心となっているのだ。このもうひとつの都市再生のかたちは、未だ停滞を続ける中区を中心とする都心部を再生させる効果的な手段として横浜市も活用に動き出している。

シルクセンター 個性的な店が並ぶ海洋会館

■「リノベーション」が都市をクリエイティブにする

もうひとつの都市再生。それは「リノベーション」とよばれるものである。東京目黒区。鉄道の駅から程遠い(最寄り駅からも歩いて15分)、目黒通り沿いにあるホテルがデザインピープルにとって最もホットなスポットとして注目を浴びている。ロビーのカフェには、クリエイティブな仕事をする若者たちが昼夜を問わず打ち合わせをしたり、歓談にうちとけている。企業やクリエイティブユニットによるパーティーも連日華やかだ。クラスカというこのホテルは、郊外にある寂れたホテルを、新世代の建築プロデューサーのもと、建築家やデザイナーが「リノベーション」を施し、デザインホテルへと変貌させたもの。それぞれの部屋を異なるデザイナーが手がけた空間には、宿泊客よりもプロジェクトを行うために長期滞在してオフィスとするクリエイティブな人たちの方が多くみられる。

クラスカ

このホテルから北に行った池尻には、廃校となった中学校を「リノベーション」し、デザインや社会企業家など新しい社会をデザインし、クリエイティブするベンチャーのみが集まり起業と実践の場とする、コミュニティーデザインをクリエイティブする実験事業、世田谷ものづくり学校が、世田谷区との協定のもと、インテリア会社を発端とする、リノベーションによる再生をテーマにしたベンチャーのもと始まった。

世田谷ものづくり学校

東京の都心部に目を移すと、森ビルまでもが「リノベーション」を研究している。戦後から港区でビルを建て続けてきた森ビルにとって、老朽化したビルの価値を高めることは命題の一つであった。若い建築家やデザイナーたちは、この命題に対して、その古い「森ビル」を自らリノベーションを施すことでオフィス空間とすることを提案、最初のその場所である co-lab は東京の中でも最もクリエイティビティーがある場所として注目を集め、新しいプロジェクトを生み出しながらその面積を拡大し続けている。

co-lab

老朽化したビルが連なる東日本橋を中心とする下町では、自分たちがクリエイトできるオフィスを求め、地域住民との交流を深めながらビルを取得し「リノベーション」することで、下町文化と融合したクリエイティブな都市環境へと再生させる動きが生まれている。

オフィスビルをアトリエに改装した「co-lab」 木工などモノづくりもできるようになっている 東日本橋の古いオフィスビルをマンションに用地転換した

■21世紀世代による都市再生モデル

ここに出てくる「リノベーション」の担い手は、大規模な都市再生の主人公である、ゼネコンや大手金融ではなく、自らのクリエイティビティーで身の丈の都市空間を作り出すことを求める30代を中心とする若いクリエイティブなビジネスベンチャーである。90年代末のITベンチャーがそうであるように、彼らは新たな価値観で都市をデザインし、再生することでビジネスのチャンスを狙っている。もはや「リノベーション」は、古い建物への思い入れや文化価値としての存在だけでなく、クリエイティブに都市を再生する、新しい世代だからこそ参加できる21世紀的オルタナティブなビジネスモデルになりつつあるのだ。20世紀が思い浮かべた21世紀が、巨大都市再生であるのなら、21世紀人による都市再生のしくみこそが「リノベーション」である。

帝蚕倉庫

■「みらとみらい」の次の未来にある「リノベーション」

横浜もまた、20世紀からみた21世紀と、21世紀からの瑞々しい都市再生のコントラストが、新たなランドスケープを都心部にもたらしつつある。空き地が目立つみなとみらい地区に21世紀のビジネス拠点を求め、日産、セガなど有望企業が進出を始める一方、運河を隔てた馬車道から西の地域では明治から昭和に続く横浜が海外へのゲートウエーであった時代を髣髴させる歴史的建造物を「リノベーション」し、賑わいを取り戻すどころか新たな賑わいを作り出そうという動きが本格化し始めている。昨年オープンした、昔の銀行建築物を用いたアートスペースは早くも横浜の名物として定着し、その銀行建築物には21世紀のアートとクリエイティブのための大学院が、東京藝術大学の手によって来年生まれようとしている。

BankART1929

横浜における「リノベーション」の可能性を明らかにした文化施設だけでなく、これら歴史的建造物にオフィスを入居するためにクリエイティブな企業が続々移転しようとする段階を早くも迎えつつある。横浜市は「リノベーション」による都心部再生のため、活用できる建築物の調査を続け、積極的な情報提供のための準備が進められている。例えば、住民と産官学が参加し、空きオフィス、空き倉庫を活用するための仕組みや方法を検討する「芸術不動産」(仮称)という「リノベーション」による都市再生の現場としての環境整備に向けたプロジェクトが動き始めている。

東京で芽生え始めた、ビジネスとしての「リノベーション」による都市再生の波は、まさに文化による都心部再生と活性化を目論む横浜の取り組みの先にあるものといえるだろう。そして、急ピッチに展開する横浜都心部での歴史的建造物の「リノベーション」は、特別な存在に対してでは無い、事業としての意思があれば参入できる都市再生の現場になりつつある。「リノベーション」に大きな可能性が生まれた今、「リノベーション」で横浜はどう再生されるのか。リノベーションの魅力と横浜の可能性を、「リノベーション」ビジネスの最先端事情を交えながら、シリーズで紹介してゆきたい。

岡田智博 Creative Cluster + ヨコハマ経済新聞編集部

http://coolstates.com
BankART1929 yokohama BankART1929 yokohama BankART1929 馬車道
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