特集

独自のカラーでニーズをキャッチ
個性派カフェ開業のポイント

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■目標200店舗、1号店はトラベルカフェ「クルーズ」

関内駅前の複合ショッピングビル「セルテ」1階に7月12日オープンしたのは、飲食店を中心にしたコンサルティングを手がける「株式会社トラベルカフェ」直営カフェの記念すべき1号店だ。本社を横浜に構え、社長をはじめ、役員も横浜在住者が多い同社だが、東京の新しいファッションビルから出店のオファーが複数きていたこともあり「横浜で1号店がオープンできたのは偶然。これもなにかの縁」とカフェ事業担当の荒井隆是さんは語る。「クルーズ」タイプの関内店は外観も内装も船をイメージした重厚な造り、スタッフの制服も船員風だ。ホテルのカフェで出てくるようなハイティーセットやシャンパンが用意され、入り口のカウンターで注文するセルフタイプのコーヒー店とは一瞬思えない。現在は、オープニングの大きな宣伝を控えてスタッフの訓練も含めて試運転中とのことだが、マスコミでも取り上げられ「予想以上の反響」と荒井さんは驚く。

船旅を扱う旅行業者5社と提携し、入り口付近にはクルーズのパンフレットが並べられている。パンフレットはここだけに集められ、店内に進むと、フォーマットのそろった資料請求はがきがテーブルの上に置かれている。また、高い位置に据えられた4つの大型モニターに船旅のオリジナル映像が終始ブロードバンド配信され、クルーズ気分を演出。これは提携会社の広告映像だが、決して過剰にならず、くつろげるような制作、編集を自社で手がけている。トラベルカフェはその名の示すとおり「旅行の情報が得られるカフェ」だが、基本はあくまで「カフェ」。情報が多すぎると人はくつろげなくなるとの判断から、バランスに配慮している。したがって直接旅行の申込みができるというわけではなく、ここで得た情報からさらに詳しく知りたい場合は、店内のはがきで資料請求をできるという仕組みだ。来客数は1日1000人を見込んでいる。トラベルカフェは今後「ドライブ」「トウキョウ」「イタリア」など、立地にあわせて異なるテーマのカフェを出店、フランチャイズチェーン方式と直営店方式を併用し、全国200店舗展開する予定だ。出店に際し重要視するのは「立地」と荒井さんは言う。客をわざわざ呼び寄せるのではなく、必ず通るところにあって立ち寄りたいと思わせるカフェを目指す。

トラベルカフェ
トラベルカフェロゴマーク 船員スタイルの制服 トラベルカフェ入口

■消費者ニーズを分析して生まれた「新形態」のカフェ

「トラベルカフェ」という新しいコンセプトのカフェは、どのようにして生まれたのだろうか? 構想は、今から4年前にさかのぼる。株式会社トラベルカフェの社長を務める永嶋万州彦さんは、ドトールコーヒーの常務取締役を経てフードビジネスコンサルタントとして有限会社永嶋事務所を設立。独立後サントリーの「プロント」などの話題のカフェを多数手がけ、『繁盛するカフェ成功開店法』(旭屋出版)などカフェ開業に関する書籍を複数著している有名人だ。だが、コンサルをしていると客から「自分は実際にやっていないじゃないか」という指摘を受けることが少なくなかったという。株式会社トラベルカフェ設立以前に、2000人を対象に「夢」についてのアンケート調査を行った。その結果、多くの夢は「お金があってさらに時間のゆとりがある」こと。では、お金持ちで時間のゆとりがあったら何をしたいのかというと、「旅」に出たい人がとても多かったのだという。実際、旅行業全体のマーケットは着実に広がりを見せている。しかし、業界の利益率が悪いのはなぜか。旅行業者を対象にした調査で、その原因が店舗費用にあると判断したメンバーは、今後の利益効率の高い旅行業の営業スタイルとして、店舗が減っていくと予想した。そもそもフードビジネスコンサルに強い同社では「女性が理由なくカフェで一人ゆっくり過ごすことに抵抗がある」という別の調査結果を持っていた。そこで、旅行会社としては、店舗を持たずに情報提供の場を補えるというメリットがあり、客側としては「旅行の情報を得るために出かけるカフェ」という双方のニーズを満たした「トラベルカフェ」を考案。業態を表す言葉がそのまま会社名、店舗名となった。

永嶋社長の人柄を伺うと「優しい情熱家」と荒井さん。「店は劇場、演ずるのは感動というストーリー、店主はプロデューサーと監督、スタッフは役者でお客様に満足してもらう」とは、人と人との出会いを大切にする永嶋社長の言葉だ。永嶋社長のハートは店の端々に表れている。カフェの居心地や客のもてなしにこだわる10人のコアメンバーが協議し納得のうえで準備を進めた1号店。オープンの3日前に納品された椅子がオーダー通りでないということで、全て交換、ソファの柄も入れ替える一幕もあったという。今後、数年の内にトラベルカフェ店舗展開とあわせて株式上場を目論んでいる。コンサルティング業務、建築家やアーティストと消費者を結びつける事業、起業家の育成など、多角的な経営を展開するトラベルカフェ。人と人とを結ぶ劇場づくり=カフェ事業を核に展開する同社のさらなる飛躍に注目したい。

永嶋万州彦著『繁盛するカフェ成功開店法』 永嶋事務所
クルーズのパンフレット 舟を模した外観

■若手ハマッコオーナーの手作りカフェ「Cafe FLOWER」

広いガラスの壁面から明るい日差しが差し込む白を基調とした店内、山下公園から2本奥に入った通りに面してそのカフェはある。おそろいのグリーンの Tシャツを着たスタッフが笑顔で動き回る。27坪、28席のフロアは、平日はランチを楽しむ会社員で、土曜は犬連れのカップルやファミリーで賑わう。「Cafe FLOWER」は、横浜、元町出身のオーナー荒井淳さん(32)が、今年3月にオープンした「実はペット連れOK」で食事ができるカフェだ。店の名前は、「ふわっとしたやわらかいイメージを持つ言葉」から決めた。とにかくオープンにこぎつけるのに必死で、特別な宣伝をしたわけではなかったが、犬好きの集うサイトでお店が紹介された直後、問い合わせやペットをつれての来客が飛躍的に増えたという。11時半~23時半まで終日、喫茶メニューのみならずアルコールメニューも含めた豊富なドリンクメニューに加え、ホットサンドや丼物のカフェ飯などの食事メニューも楽しめる。日替わりのオススメプレートのご飯もおしょうゆとゴマが香ばしい混ぜご飯。ひと手間かかった料理の数々が身体にうれしい。

学生時代は音響関係の専門学校に通い、卒業後専門職についたものの、学生時代飲食関連のアルバイトで得た充実感は得られなかったという荒井さん。程なく職を離れ、今度は独立を視野に入れながら飲食業界に戻り経験を積みつつ開業資金を貯めた。自己資金が目標の500万円に近づき、独立の時期を計っていたころ店長を務めていた元の職場の急遽閉店により、開業を実行に移すこととなった。開業するなら地元横浜だと決めていた荒井さんは、横浜ならではの歴史を感じさせる建物に魅力を感じ、山下町近隣の物件を探していたが、なかなかそういった物件に出会わなかった。7ヵ月探し回り、出会ったのは都市基盤整備公団が所有するビルの1階スペース。このビルの2階以上は今年の 2月1日、同公団がSOHO(=スモールオフィス、ホームオフィスの略称)拠点の創業・ベンチャー支援施設として建設したオフィス兼在宅ワーク型賃貸住宅「シティコート山下公園」のオフィス棟「SOHO STATION」だ。個人が独立開業するにあたって頭を悩ませるのは資金面だが、この物件は公団運営のため通常より保証金が安くすむというメリットがあり、決め手となった。新築ビルへの入居は、自由な店舗造作ができるメリットもある。スタイリッシュで清潔感あふれる店舗は夢を持ち独立起業を目指す SOHO入居者にも好評だ。「めぐり合った環境を活かすのが得意」と語る荒井さん。店内はポップなインテリアでまとめられている。中でも目を引く清潔感あふれるステンレス製のカウンターや什器は、荒井さんの父が手がけたもの。荒井さんの実家は元町で明治時代から続く金属加工の店を営んでおり、今回の出店には多大な協力を得た。元町での開業は考えなかったのか、という質問に、笑顔で答えてくれた。「元町の物件は高い。ここの3倍以上かな」。この度の開業資金はトータル1500万円前後に抑えることができたという。店舗の運営的には仕入れ、人件費、家賃などで最低月200万円が必要。客単価は500円~3000円と幅広いが、ざっと見積もって一日80人の集客を見込んでいる計算だ。

荒井さんには、35才までに横浜で3店舗カフェを持ちたいという計画がある。その上で今後課題となるのが店を任せられる人材の育成だ。「横浜は店の人が動くと客も動く」とは、荒井さんのバーテン時代の経験上の言葉。特に個人オーナーの飲食店では、オーナーが2店めに力を注いだとたん、1号店の客層が変わったり、経営が危なくなるというのはよくあること。一人のオーナーが複数の店を持つという難しさを認識したうえで、戦略的に事業拡大の準備していくつもりだ。現在6人のアルバイトのスタッフと店を切り盛りしているが、このカフェを軌道に乗せて、店を任せられる人を育て次第、次の店舗を手がけたいという。現在はまだ、「手一杯」だと言いつつも頭の中にはすでに新店舗の色々なアイデアがめぐっている様子。「次は、雑貨とコラボレーションした店舗を構えたい」と夢を語っていた。

カフェフラワー SOHO STATION
Cafe FLOWER 白を基調とした明るい店内 オーナーの荒井淳さん 「カフェ飯」も提供

忙しい現代の都市生活者にとって「なごみ」「癒し」の空間として、生活の一部となっているカフェ。豆や茶葉にこだわり、おいしい飲み物が提供されるのは当たり前。消費者の多様なニーズは、カフェにくつろぎの部屋とセンスの良い情報を得られる場を求めはじめている。カフェ成功の鍵は、飲食、インテリア、音楽、趣味に至るまでトータルな感性に溢れた居心地の良い空間を実現させること。今回取材した2店は、開業の経緯も手法も規模も全くスタイルは異なるが、いずれもコンセプトを明確に打ち出し、人が集い、くつろぐ空間の演出にこだわるオーナーにより手がけられた注目すべきカフェだ。

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