特集

横浜からアジアへ、歴史と創造でひもとく「サーキュラーシティ・ヨコハマ」の現在地

横浜市が「アジア版・循環型都市宣言制度」第1号署名都市に

 みなさんは、「サーキュラーエコノミー」という言葉をご存知でしょうか。サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは、「大量生産・大量消費・廃棄」といったリニア(直線)型経済とは異なり、これまで廃棄されていた製品や原材料を新たな「資源」と捉え、できる限り廃棄物を出さずに資源を循環させていく経済の仕組みです。

 横浜市ではサーキュラーエコノミーの実現を目指し、食品ロス削減や水平リサイクルの推進、動静脈企業との連携といった多岐にわたる取り組みが進められています。

 こうした流れのなか、2025年11月にパシフィコ横浜ノースにて開催された「アジア・スマートシティ会議」において、循環型社会の形成を目指す都市間連携の新たな枠組み「アジア版・循環型都市宣言制度」が正式に発表されました。横浜市はその第1号署名都市となり、循環型都市への移行に向けた国際的な取り組みをリードしていく姿勢を示しています。

▽横浜市がアジア初の署名都市に。アジア版「循環型都市宣言制度」がASCC2025で正式発足 _ Circular Yokohama
https://circular.yokohama/2025/11/27/asian_circular_cities_declaration/

 世界に目を向けると、サーキュラーエコノミーを都市政策の中核に据え、2050年までに100%サーキュラーシティの実現を目指すオランダ・アムステルダムには、各国から多くの視察が訪れているといいます。では、こうした都市はなぜ、サーキュラーエコノミーへの移行を進めることができるのでしょうか。そこにあるのは、最新技術の導入や数値目標だけでは説明できない、都市ならではの積み重ねです。

 横浜はいま、これまでの歴史を土台にしながら、分野を越えた「価値創造」を進めています。本記事では、各事業を担当する横浜市職員の声も交えながら、横浜が歩んできたサーキュラーシティとしての道のりと、その先に広がる可能性ついてひもといていきます。


1. 都市の記憶を未来の価値へ : 歴史的建造物の文化的活用

 都市のサーキュラーエコノミーを考えるとき、循環させるべきものは物質的な資源だけではありません。都市が積み重ねてきた「記憶」や「時間」もまた、次の世代へと引き継がれる大切な資源ではないでしょうか。

 横浜では「歴史を生かしたまちづくり」の考え方のもと、「ベーリックホール」や「旧大岡家長屋門」など、歴史的価値のある建築物の外観を概ね保存しながら公園の一部として活用しています。また、かつての港町の風景を今に伝える「赤レンガ倉庫」や「汽車道(橋梁を含む鉄道跡地)」も、その歴史性に敬意を払いながら再整備することで、文化を伝える商業施設やプロムナードとして生まれ変わり、現在では年間1,000万人以上が訪れる観光地となっています。

 こうした「歴史を生かしたまちづくり」に加え、その思想を具体的な施策として展開してきたのが「クリエイティブシティ・ヨコハマ」です。これは、歴史的建造物や遊休不動産など、都市に眠る資産を文化芸術の力で活用し、新たな魅力とにぎわいを創出する横浜市の取り組みです。

 この施策が生まれた背景には、都市構造の変化があります。

 港湾都市として発展してきたウォーターフロントエリアは、1981年に開発の中心地として「みなとみらい21地区」と名づけられました。高速道路の整備や特徴的な商業施設の建設が進み、地区全体は大きなにぎわいを見せるようになります。

 一方で、みなとみらいに隣接し、開港以来横浜の中心地として栄えてきた関内地区では、歴史ある西洋建築や近代建築が次第に姿を消し、オフィスビルの空室が目立つなど、経済・文化の両面において活力が低下していきました。

 こうした状況を受け、横浜市は1990年代以降に提唱されてきた都市ビジョン「The Creative City」に着目。歴史的建造物や遊休空間を活かした、さまざまな取り組みを進めてきました。

 これまで、主にアートの分野を中心に利活用が進められてきたこれらの拠点ですが、2025年以降はサーキュラーエコノミーの視点を取り入れた、新たな循環の拠点が生まれています。その最新かつ象徴的な事例が、「旧第一銀行横浜支店」です。

 2025年秋には、民間事業者との連携により建物を「BankPark YOKOHAMA」と名付け、新たな施設としてグランドオープンしました。館内はサーキュラーエコノミーの共創拠点としても活用され、専門家を招いたトークセッションや廃材を活用したワークショップなど「循環」をテーマとしたさまざまなイベントが開催されています。歴史的建造物が公民連携によって、未来の循環型社会を創造する拠点へと生まれ変わったのです。

 この動きは、これまで開発の中心地だったみなとみらい21地区を含む都心臨海部にとどまらず、住宅地の広がる内陸部にも及びつつあります。2026年には、市内初となる郊外エリアの創造界隈拠点「Creative Circular Culture Center」が保土ケ谷区にオープンする予定です。この施設では、地域で不要となった資源を展示・提供する「マテリアルライブラリー」や、循環と芸術をテーマにした市民参加型のアートプロジェクトなどを展開し、地域に根差した循環を生み出す拠点としての役割が期待されています。

 本事業を担当する、横浜市にぎわいスポーツ文化局の園田さんは、この取り組みの背景について次のように語ります。

 「クリエイティブシティの取り組みの原点は、失われつつある歴史的建造物や、開発の狭間に眠る遊休空間に、文化芸術の力で新たな価値を吹き込み、まちに活力をもたらすことでした。振り返ってみると、これは資源を再活用するという点で、サーキュラーエコノミーの思想にも通じているのかもしれません。今後は、都心臨海部で展開してきた取り組みを、星川のような郊外の地域にも広げ、まだ活かしきれていない空間に民間事業者の皆様の創造的なアイデアを結びつけることで、地域の可能性を拓く拠点へと生まれ変わらせたいと考えています。そのプロセスを通じて、新しい循環を生み出し、地域コミュニティのつながりを育み、まち全体に活力をもたらしていきたいですね。」


2. 学校の床材が思い出を未来へつなぐ 「REYOプロジェクト」

 そんな「記憶や時間を資源と捉える」哲学は、より市民の暮らしに近い場所でも実践されています。その一つが、横浜市建築局が推進する「REYO(リヨー) 横浜市再利用材プロジェクト」です。

 これは、横浜市内にある公共建築物から生じる古材を、新たな価値へとアップサイクルする取り組みです。コンセプトは「おもいでの材を、これからも」。市内外の民間事業者と連携しながら、公共建築物で発生する廃材の循環を促し、サーキュラーエコノミーの推進につなげています。

 現在は、特に市内の公立学校の建て替えなどで生じる体育館の床材のアップサイクルに力を入れています。市による学校工事での再利用に加え、連携する民間事業者の手によって、商業施設の什器や子どもたちの遊び道具へと生まれ変わり、市内各所で市民の愛着や物語を未来へつなぐ「循環アイテム」として活用されています。

 横浜市建築局の城向(じょうこう)さんは、この取り組みに込めた想いを次のように説明します。

 「体育館の床材は、誰もが知る『共通言語』のような存在です。子どもの頃に駆けまわった記憶や、ボールの弾む音――そうした思い出が、この素材には刻まれています。『懐かしい』『落ち着く』といった声をいただくたびに、素材が持つ力を実感しています。 REYOは、こうした目に見えない価値を可視化し、未来へつないでいく試みです。この挑戦を支えてくれているのは、民間事業者の創意と技術。その力があったからこそ、JAPAN WOOD DESIGN AWARD 2025にて奨励賞を受賞できたと感じています。 今後は体育館の床材にとどまらず、ほかの公共建築物の素材にも挑戦し、循環の輪をさらに広げていきたいと思っています」


3. 都市型循環の実験場 みなとみらいの官民共創モデル

 「循環」という哲学を、現代都市の複雑な経済システムのなかでどのように具現化するのか。横浜のみなとみらい21地区は、この問いに対し、多様な主体が試行錯誤を重ねてきた実践の場でもあります。

 みなとみらい21地区には、2024年時点で約2,010社の企業が事業所や研究開発拠点を構えています。国際展示場をはじめとするMICE施設や商業施設も集積し、年間の来街者数は約8,260万人にのぼります。

 同地区は、2022年4月に環境省から「脱炭素先行地域」に選定され、脱炭素化に向けたさまざまな取り組みを進めてきました。現在、このエリアでは官民が連携し、環境性と経済合理性を両立させる複数の循環システムが稼働しています。

 その一例が、家庭から出る廃食油を回収し、持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fule:以下、SAF)として利活用する「FRY to FLY PROJECT」です。廃食油由来の航空燃料は、従来の燃料と比べ、ライフサイクル全体でのCO2排出量を約80%削減することができるとされています。

 日本では、横浜・みなとみらいに本社を構えるJGC HOLDINGS CORPORATIONが同プロジェクトを立ち上げ、趣旨に賛同する企業・自治体・団体は誰でも参画できる仕組みを整えています。

 横浜市は、2023年4月に同取り組みに参画。2024年6月からは日本航空株式会社と連携し、市内のスーパーマーケットを拠点に、各家庭からの廃食油回収を進めています。2025年10月末時点で回収拠点は23店舗、累計回収量は約7900リットルに達しました。

 市内事業者や回収拠点の方々との連携強化に日々取り組んでいる、横浜市 脱炭素・GREEN×EXPO推進局 循環型社会推進課の佐々木さんと山形さんは、次のように語ります。

 「市民の皆さんが廃食油の回収に参加しやすい環境を整えるためには、回収拠点を増やすことが欠かせません。そこで私たちは、市内スーパーマーケットの担当部署を一つひとつ訪問し、取り組みへの参画を呼び掛けています。また、回収量を増やすため、地域のスポーツチームや学校、地域団体とも連携を深め、普及啓発を進めています。新しく回収を始める店舗では、日本航空株式会社のスタッフとともに専用回収ボトルのプレゼントを行い、対話を重ねながらプロモーションを行っています。こうした取り組みを通じて、SAFの認知度が着実に広がっていること、そして市民のみなさんにとって『資源循環』に身近に取り組める行動のきっかけになっていることを実感しています」


4. 都市循環を進化させる「共通言語」としてのデータ

 みなとみらいでは、地区全体の循環をさらに高める取り組みとして、日本初となる「地区単位でのマテリアルフローの可視化」が始まっています。どのような資源が、どれだけみなとみらい21地区に流入し、消費され、そして流出しているのか。こうした動きをデータで描き出すため、地区内の商業施設やオフィスビルと連携し、廃棄物データの収集と分析が進められています。

 この可視化とデータの精度向上が進めば、これまで個別に最適化されていた資源管理を、地区全体で俯瞰しながら改善できるようになります。さらに、共通のデータに基づく議論が可能になることで、都市レベルでの循環システムの改善にも取り組みやすくなるはずです。

 2024年には13の施設との連携が実現し、さらなるデータの精度向上に向け、現在も地区内の事業者との連携強化が続けられています。

 横浜市 脱炭素・GREEN×EXPO推進局の村尾さんは、みなとみらい21地区における循環の取り組みの背景についてこう語ります。

 「横浜を象徴するウォーターフロントであるみなとみらい21地区には、横浜の“顔”となるホテルや商業施設、グローバル企業の本社や研究開発施設など、環境意識の高い企業が集積しています。横浜市やエリアマネジメント団体と連携しながら、都市における資源循環の推進に取り組んできました。

 これまで都市は、物の『消費地』としての役割が中心でした。しかし、これからの循環型社会においては、新たなループの出発点として資源の『生産地』に転換していくことが求められています。

 サステナブルな調達、資源化につながる分別、効率的な資源の収集、そして再びループに戻すための再利用やアップサイクルの検討―――マテリアルフロー図の策定は、こうした資源循環率の向上に取り組むための第一歩です。行政やエリアマネジメント団体が、データという共通言語を用いて、企業や市民など多様なプレイヤーの対話を促すことで、これからの都市の在り方を共に考えていきたいと考えています」

 さらに同局では、脱炭素や循環の実践を後押しする「Style100」の取り組みにも力を入れています。これは、市内企業や団体が日々の業務の中で実践している“脱炭素に向けた100のスタイル”を集め、紹介していくものです。今後は、多様な主体が循環型の行動を共有し合うプラットフォームとしての発展が期待されています。

▽地球1個分で暮らそう STYLE100 CITY OF YOKOHAMA
https://style100.city.yokohama.lg.jp/

 市内では、こうした小さな実践が積み重なり、各地で新たな循環の芽が育ちつつあります。


5. 横浜からアジアへ 開かれた港が描く次なる航路

 市民との対話や事業者との共創を通じて積み重ねてきた知見やアイデアは、横浜だけにとどまるものではありません。開港以来、世界の文化を受け入れ発展してきた歴史を持つ横浜は、自治体として世界のサーキュラーエコノミーへの移行に貢献する役割を担うと同時に、世界の都市の実践を通して学び合っていく姿勢を示しています。

 横浜が海外都市とつながる重要なプラットフォームのひとつが、2012年から横浜市が主催してきた「アジア・スマートシティ会議(以下「ASCC」)」です。経済発展と良好な都市環境が両立する持続可能な都市づくりの実現を目指して立ち上げられた同会議では、アジア各都市のリーダーや実務者をはじめ、国際機関、政府機関、学術機関、民間企業の代表者が集います。気候変動などの地球規模の課題に対し、優良事例や直面する課題を共有し、議論が行われてきました。

 循環型の都市づくりと都市間連携について、欧州ではすでに「欧州循環型都市宣言」という枠組みのもと、多くの都市がサーキュラーエコノミーの目標を掲げ、ネットワークを形成しながら地域全体で移行を進めています。一方、アジアでもサーキュラーエコノミーへの関心は急速に高まっているものの、これまで欧州のように地域全体を巻き込む枠組みは存在していませんでした。

 そこで横浜市は、アジアの都市とともに新たな一歩を踏み出します。2025年11月に開催されたASCC2025において、国際機関や多様なステークホルダーに向け、「アジア循環型都市宣言」の枠組み創設を公開で呼びかけたのです。

 その結果、イクレイ(※)日本が「アジア循環型都市宣言」の枠組み設立を発表し、横浜市は第1号署名都市となりました。

(※)世界2,500以上の自治体による都市ネットワーク。国連に対して実体を代表した発言を行うなど、持続可能な都市と地域の実現を目指す。欧州の循環型都市宣言はイクレイ欧州が中心的な役割を担っている。

 この宣言は、単なる声明の発表ではありません。アジアの多くの都市は、ダイナミックな経済成長を遂げる一方で、資源消費の拡大という共通の課題を抱えています。それは、横浜が歩んできた道でもあります。この宣言は、それぞれの都市が持つ独自の文化や発展状況を尊重しながら、互いの政策や成功事例、ときには直面する課題からも学び合う「ピアラーニング」の好循環を生み出すことを目指しています。

 横浜市 国際局グローバルネットワーク推進課で本取り組みに携わる谷澤(やざわ)さんは、その意図を次のように語ります。

 「今回のASCCでの試みは、私たちにとって大きな挑戦でした。循環型都市への移行を、アジア地域全体で後押しする枠組みを新たに創ろうというものです。環境と経済が両立する持続可能な社会に向けて、市民生活や企業活動に近い存在である『都市』ならではの役割があるはずです。そこで、同じ志を持つ都市同士が、ネットワークを形成し、取り組みの輪を広げていくことが必要であると考えました。この枠組みに集まる都市が、アジアの都市が持つ独自の視点やローカルボイスを世界に届けることは、国際的な議論に建設的に貢献することにもつながります。そしてこのような国際的な連携は、市民としての誇りを高め、企業行動や地域経済にも好影響をもたらす大きな可能性を秘めていると考えています」

 ASCCは、2026年から「アジア太平洋循環型都市フォーラム(APCC-Forum)」へと名称が変更されます。循環型都市に関する知見共有のプラットフォームとして、宣言都市が集い、循環型都市の移行に向けた取り組みを共有しながら、互いに政策力を高めていくことを目指しています。

 開かれた港として、世界とつながってきた横浜。その歴史の延長線上で、都市と都市が学び合い、循環の航路を描いていく挑戦が、いまアジアへと広がろうとしています。


6. 2027年、GREEN×EXPOへ 横浜とのパートナーシップを、ここから

市民との対話を重ねる中で培われてきた信頼は、都市の記憶を価値へと転換し、経済を動かす仕組みを生み出してきました。そして今、その信頼を土台とした歩みは、国境を越え、アジアの都市との連携へと広がろうとしています。

その大きなマイルストーンとなるのが、2027年に横浜の上瀬谷地区で開催される「GREEN×EXPO 2027(2027年国際園芸博覧会)」です。

 循環型社会は、一つの都市だけで成し遂げられるものではありません。開港以来、世界中のパートナーとの関係性の中で発展してきた横浜は、この挑戦をアジア、そして世界の都市とともに歩んでいくことを目指しています。

 港町・横浜で積み重ねられてきた取り組みは、サーキュラーエコノミーが理念ではなく、都市の日常として根づいていく可能性を静かに示しています。これから毎年開催される「APCC-Forum」、そして2027年に開催される「GREEN×EXPO 2027」は、実践の共有を通して、環境と共生した持続可能な未来を語り合う絶好の機会となることでしょう。

 都市の現場で積み重ねられてきた小さな実践や対話が、どのように次の都市や地域へと手渡されていくのか。横浜で進む試みは、循環型社会を自分ごととして考えるためのヒントを与えてくれます。2027年以降も続く未来に向けたこの歩みを、今後も追い続けていきたいと思います。

※本記事は、横浜市国際局が運営する「Green Hub in Asia」に2026年1月に掲載された記事の翻訳・一部編集版です。横浜市職員への取材をもとに、Circular Yokohamaを運営するハーチ株式会社が制作しています。

▽Circular Yokohama - 横浜のサーキュラーエコノミーを加速する
https://circular.yokohama/

▽Yokohama_ A Green Hub in Asia - Office of the City of Yokohama Global Offices
https://businessyokohama.com/yokohama-a-green-hub-in-asia/

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