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ヒョウが語る高校生の選挙への疑問 動画制作は「ハーバーテイル」の伊藤有壱監督

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 横浜市選挙管理委員会は、高校生へ投票や選挙に関するインタビューを行い、高校生からの質問にQA形式で回答する動画を制作した。同じような疑問を持つ若者が、疑問を解消し、投票や選挙について考えるきっかけになることを目指す。


高校生からの質問にQA形式で回答する動画「投ヒョウの?に答えます」

 横浜総合高校と戸塚高校の学生14人が参加。動画に台本は無く、高校生自らが話した選挙の疑問等「生の声」を収録。その声にエフェクトを掛け「投票」の「票」にちなんだ「ヒョウ」が質問するアニメーション仕立ての動画に仕上げ、全14本の動画を公開した。

【横浜】高校生にインタビュー!Vol.01 投票の疑問にお答えしました!

選挙がない今だから

 1本あたり約30秒の短い動画で、シリーズの1本目は公開1カ月で2万5000回再生と注目を集めている。しかし横浜市での次の選挙は、国会や市会の解散などがない限り、2021年8月に任期満了を迎える横浜市長選と1年以上も先だ。なぜ今こんな動画を作ったのか。


動画にも登場する横浜市選挙のマスコット「イコットJr.(ジュニア)」

 さかのぼると、18歳選挙権が始まったのは2015(平成27)年6月。衆参両院の全会一致で、選挙権年齢を満20歳以上から満18歳以上に引き下げる公職選挙法改正案が可決された。


満20歳以上に変更されて以来、70年ぶりの選挙権年齢の見直しだった

 18歳選挙権が実現してから今日までに、横浜市では選挙が5回あった。参議院議員通常選挙(2016年7月10日執行)、横浜市長選挙(2017年7月30日執行)、衆議院議員総選挙(2017年10月22日執行)、統一地方選挙(2019年4月7日執行)、ここまでで全種類の選挙が一巡し、直近の選挙は、参議院議員通常選挙(2019年7月21日執行)だった。

 投票率などは選挙管理委員会のサイトの各種選挙データ投票参加状況調査で「統一地方選挙での投票行動」として公開されているが、傾向としては、低年齢ほど投票率が低い。


2019年統一地方選挙での投票行動より

 ここから選挙管理委員会は、高校生や若者にまず投票について知らせることを考えた。選挙が近い時期になると全年齢層に啓発することが必要になる。そのため、実は選挙のない時期こそが、特定のターゲット層を定めて選挙や投票について考えてもらう絶好のタイミングなのだという。

 そこで、若者に向け投票に関する短い動画を作ることを決めた。

【横浜】高校生にインタビュー!Vol.02 投票の疑問にお答えしました!

アートディレクターは「ハーバーテイル」伊藤監督

 動画のアートディレクターを務めたのは、I.TOONの伊藤有壱さん。伊藤さんは赤れんがが主役のクレイアニメーション作品「ハーバーテイル」の監督や、ミスタードーナツの「ポン・デ・ライオン」のTVCM制作、横浜市の緑化イベントのマスコットキャラクター「ガーデンベア」のデザインなどで知られる。


短編アニメーション「ハーバーテイル」より ©I.TOON

「パンダでもなく、猫でもなく、ヒョウです」

 選挙について興味のない人も振り向くようにと考えたとき、サウンドを可視化した「ヒョウ」=「票」はすぐに思い浮かんだという。


「ボツ覚悟の勝負案が採用されて嬉しい!」と話す伊藤有壱さん

 キャラクターの仕事に約30年関わり、キャラクターのメカニズムをよく知る伊藤さんは、高校生が見ても誰が見ても、確実に届くようなビジュアルを考えた。それはパンダでも、猫でもなく、ヒョウだった。


動画の結びは、投ヒョウ箱

キャラクターはすごくまじめに作りました

 とは言え、選挙管理委員会との共同制作は、とても大変だったという。「行政が主体で若年層に届ける」という初めての試みの中で、クリエーターとしての普段の作品制作のように「深く伝える」姿勢ではなく、「広く正しく知らせる」ことを目指す必要があった。用心深い意見も考慮しながら、共に作り上げていった。


そんな中で大切にしたのはキャラクターの力

 「動画視聴中に離脱されないためには、キャラクターの力が必要。キャラクターはすごくまじめに作りました。フワッとした空気をしぐさやまばたきで出す。口パクと合う感じで自然に見えるようにしつつ、ブレがないように」と伊藤さんは話す。

実在するヒョウ「アムールヒョウ」、横浜ズーラシアのダッシュくん

  ところで横浜市内に「ヒョウ」はいるのだろうか。


動画の冒頭では、アムールヒョウのダッシュくんを紹介

 このダッシュくんは、「よこはま動物園ズーラシア」で飼育しているヒョウ。伊藤さんによると、選挙啓発動画の中の「ヒョウ」は、ダッシュくんのような「アムールヒョウ」をモデルにしたとのこと。

 ダッシュくんは2011年、ズーラシアに来園。誕生日は2008年11月12日で、現在11歳。姉妹には、福山市立動物園の「ピン」、大牟田市動物園の「ポン」がいて、「ピン・ポン・ダッシュ3兄弟」として知る人ぞ知る存在。父母は「ベル」と「チャイム」で、チャイムは広島市安佐動物公園で健在だ。


2015年6月、法改正で18歳選挙権が実現した頃のダッシュくん


2016年、18歳選挙権実現後に横浜で初の選挙が行われた年のダッシュくん


最近のダッシュくん

 ズーラシアの飼育担当者は「ダッシュはもう立派なおとなのオスですが、目が丸いためかとてもかわいらしく見えます。『ダッシュ』と呼ぶとしっぽをフサッとして返事をしてくれます」と話す。

【横浜】高校生にインタビュー!Vol.07 投票の疑問にお答えしました!

制作を終えて、今後への思い

 選挙管理委員会の担当者に、動画制作の過程で印象に残っていることを尋ねた。


選挙管理委員会事務局の担当者

 それは高校生から「どうやって選べばいいかわからない」という声があったことだという。

 周囲に合わせようとする時代の中で、ある意味では「選ぶ」ことは「人と違うことをしている」かのような怖さがあるのかもしれない。そんな時は、好きな人の「推し」のような感覚で「ヒョウ」を入れるのはどうだろうか。

 「ヒョウ」の動画はいつまで公開するかはまだ決まっていないが、長くても2021年度末までの期間限定公開だという。担当者は「日々の生活で何か困ったことがあったときに目を向けるなど、普段から考えるたり、選挙に関心を持つきっかけになってくれれば」と、今後も試行錯誤しながら若者への選挙啓発を続けていく。


日ごろから選挙や投票について考えるきっかけ作り

紀あさ + ヨコハマ経済新聞
ダッシュくんの写真提供=よこはまズーラシア動物園

横浜市ホームページ 選挙の啓発・広報ページ
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/senkyo/pr/cp2020.html
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