特集

ユードー代表取締役 南雲玲生さん
「横浜から世界にコンテンツを発信」

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■コミュニケーションの手段としての音楽

 急速に成長を続けるスマートフォン市場では、誰でも全世界をターゲットとしたビジネスを展開できる。スマートフォン市場の魅力の一つに、誰でも簡単に全世界をターゲットとしたビジネスが展開できる点がある。現在、この巨大な市場を目指して数多くのIT企業がアプリケーションの開発を行っており、その中には世界的なヒット作を生みだしたベンチャーも生まれ始めている。その代表的な例とも呼べる企業がユードー(横浜市神奈川区鶴屋町3)である。横浜から世界に向けてコンテンツを発信し続ける同社で代表を務める南雲玲生さんは、かつてKONAMI(東京都港区)で「beatmania」などのヒット作を生み出した実績を持つほか、「dj nagureo」として音楽家の顔も持つ。その視線が目指す先はどこに向いているのだろうか。

―まず、南雲さんの足跡から伺います。「beatmania」をはじめとして、音楽関係の作品を多く手がけていますが、そのルーツはどこにあるのでしょう?

 音楽的に一番影響を受けたのは、坂本龍一さんがやっていた「YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)」です。それまで人間が演奏する音楽を普通に聴いていましたが、シンセサイザーとかコンピュータとかで作られた音は、これまでと全然違う新しい音楽だなと子ども心に思ったんです。以前は、僕らの世代にYMOから影響を受けた人が沢山いたので、それ反発していたところもありましたが、今なら素直にそうだと言えます。

 それと、これも今になって気がついたことですが、コミュニケーションの手段として音楽を選んだという面もあったのかもしれません。最近では講演などにも呼ばれるようになり、割と流暢に人と話せるようにはなりましたが、幼少期から思春期にかけては人とコミュニケーションを取るのが苦手だったんです。そこで、将来自分ができる仕事として、音楽だったら話さなくても自分の中に溜まっているいろんな風景とか感情とかが伝えられるのではないかと思いました。そんなことが重なって、必然的に音楽に関わるようになっていったんでしょうね。

―ユードーの立ち上げまでに、かなり多彩な経歴をお持ちですね。

 最初は普通に大学進学を志望していたんですけど、高校の時にCMの楽曲を作る仕事でお金を貰ってしまって、それでCMの音楽を作る仕事もいいんじゃないかって勘違いしてしまいまして(笑)。最初に広告の音楽を作る会社に入って、その後いろいろあってゲームメーカーのKONAMIに入社しました。

―そのKONAMIで「beatmania」という大ヒット作を生み出されました。その後、会社を辞めて青山学院大学に入学されましたが、その辺りの経緯をお教えいただけますか?

 会社というものは、業績を上げると管理職とかに出世するじゃないですか。そしてその立場になった時に、果たして自分にマネージメント能力があるのか疑問に感じたんです。そこで、それを学ぶために大学に入ろうと思いました。それと、自分がやりたいと思っていること、その可能性をいろいろと試したかったという理由もあります。キャンパスライフは楽しかったですよ。もしかしたら僕が生きていた中でも一番かもしれません。みんな18歳とか、そんな若い歳からあんな体験できるのかとうらやましく思いました。私が青学に入学したのは29歳の時でしたから(笑)。

―大学入学と同時にユードーも立ち上げたことになりますね。

 大学に入学した時は、僕はもう結婚して子供もいたので、それでアルバイトっていうのもどうかって思ったんです。じゃあ、自分で会社を作れば、自分の時間で勉強したり仕事したりできると考えたんです。それともう一つ、今まで自分ができなかったことを自分の好きなようにできると思ったからというのもあります。当時、ゲームはパッケージが花形の時代でしたが、僕はもっと違った形のエンターテインメントが出てくると思っていました。例えば、家の中でゲーム機を使って遊ぶのではなく、携帯電話のように端末が体の近いところにやってくると。それを試してみたいと思ったんです。

ユードー

KONAMI

■横浜にある、世界的に知られた会社を目指す

―南雲さんは横浜で育ち、横浜で起業されましたが、その辺りも含めて横浜に対する思いはありますか?

 実はずっと横浜で普通に暮らしてきたので、横浜の特色とか良いところとかってあまり感じていないんですよ。横浜で起業したのは、もともと横浜に住んでいたので、引っ越ししないで通えるなというのが理由ですから(笑)。

 スマートフォンみたいな新しい分野は、情報が東京中心に集まってしまうものなので、そういう点では横浜という土地は不利なのかもしれません。実際、打ち合わせも東京が多いですからね。でも、逆に情報があふれたところでは思いつかないこともあると思うんですよ。情報が入らない分、自社内の文化を盛り上げようという気勢が生まれて、それが独自性になっていく。だから、僕はかえって横浜で良かったんじゃないかと思っています。正直なことを言うと、僕は身近な会社同士の付き合いって苦手なんですよ(笑)。おなじみの会社同士で、というのが抵抗があって。もちろん横浜にいて横浜が好きというのは代わらないんですが、「横浜の狭い枠の中でこじんまりと」ではなく「横浜から世界に」向かっていきたいんです。横浜にある、世界的に知られた会社になりたい。そう思っています。

■欠点があったとしても「とがった」アプリを

―アプリ制作について心がけていることはありますか?

 自分がやりたいことをどんどんやっていく、それが僕たちの考えです。大手の企業ですと、いろいろなしがらみがあって作りたい物が作れないこともあります。でも僕たちは人数が少ないベンチャーなので、自分がやりたいと思っていることにどんどんチャレンジできる。もちろん失敗することもありますが、それはしょうがないことだと割り切って気持ちを切り替えて次を目指す。僕を除けば平均24.5歳と若いですから、常に前向きにやっていこうと考えています。

 それと、デザインには特に力を入れています。僕はデザインは「おもてなし」だと思っています。日本のアプリはプログラマーの方のみで制作しているケースが多くて、どうしてもデザイン的に弱いんです。でも、ユーザーの第一印象はデザインから入ってくるので、そこは特に意識しています。

―「8bitone」などのヒットアプリもそうやって生まれたんですね。

 あの時は、1日1企画という目標を立てて、ひたすら思いつくままにやりたいことだけをやっていました。僕はあまり人の意見を聞かないんですよ。普通、アプリの企画を作るときは企画会議とかブレインストーミングとかやるものなんでしょうけど、あれをやると企画の角が取れて取りあえず無難なものに収まってしまうことが多いんです。欠点のない無難なものより、どこか欠点があってもとがっている方が、iPhoneアプリには合うと思っています。iPhoneアプリの場合、ユーザーからの評価がダイレクトに伝わってきます。中には厳しいコメントを付ける方もいますけど、逆に言えばそれだけそのアプリに対して強く思ってくれていることなので、ものすごく刺激になります。

8Bitone MICRO COMPOSER(ユードー)

■一点に集中して特化した得意分野を持つことが大切

―ユードーとして、今後はどんなことをやっていきたいと思っていますか?

 これからはスマートフォンとソーシャルゲームに絞っていくつもりです。コンシューマーゲームとかホームページの制作とかも、やろうと思えばできますけど、基本的にはやらないつもりです。

 何でもできるって、長所にならないんです。僕も最初に会社を作った時は信用も何もないので、器用貧乏に何でもできるってやってきましたが、それだと弱いんです。むしろ一点に集中して特化した得意分野を持つ方が長所になります。僕が音楽でそこそこ良いところまでいったけど結局失敗した原因は、取りあえず音楽ならなんでもできますよ、という感じでやってしまったからだと思うんです。ですから、今後はスマートフォンとソーシャルゲームしかやりませんという、アーティストみたいにとがった感覚を持ってやっていこうと思っています。

 iPhone OS用の新しい広告プラットフォーム「iAd」などのアプリ内広告にも注目しています。制作会社としては恐ろしいことですけど、僕はこれからは音楽も情報も限りなく0円に近づいていくんじゃないかと思っています。そうなった場合の新しいビジネスモデルを考えると、アプリ内広告は非常に魅力的です。ぶっちゃけた話をすると、100円や200円のアプリが売れても、あまり儲からないんです。だったら無料で沢山のユーザーに遊んで貰って、広告とか追加アイテムとかでビジネスをした方がいいんじゃないかと。現状はそれくらい割切らないといけない状況になっています。

 僕らは、とにかく新しい物を生み出していきたいと考えています。例えば普通、ソーシャルゲームを考える場合、まずはmixiとかfacebookとか既存のSNSがあって、その上で何かって考えると思うんです。でも、僕らはそうじゃなくて、新しいコミュニティーの仕組みを作り出していきたいんです。次のSNSは何かじゃなく、SNSの次は何か、というように考えていきたいですね。8月中に新しいソーシャルゲームをリリースしますが、これはちょっと今までにないものとなっていますので、ぜひご期待ください。

―ありがとうございました。

PianoMan for iPad

Matrix Music Pad

小関匡 + ヨコハマ経済新聞編集部

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