特集

ホームタウンを盛り上げるサポーター組織「ハマトラ」
「この街には、横浜F・マリノスがある。」(2)

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■どこまで地域に入っていけるのか、チャレンジしていきたい

 開港都市「横浜」のサッカー文化の始まりは古く、1884年に誕生した「横浜クリケット&アスレチッククラブ(YC&AC)」には、すでにサッカーチームがあったという。今回の特集記事では、「スポーツカルチャーへの貢献」や「地域社会の活性化と地域愛の醸成」を掲げて、サッカー文化がいちはやく伝わったこの横浜を舞台に活動する「NPO法人ハマトラ・横浜フットボールネットワーク(通称:ハマトラ)」の活動について、ハマトラ代表理事の清義明さんと、理事で新規のファン獲得に向けた外部告知用のフライヤー「We are F・Marinos(ウイマリ)」の発行を担当する下島野得さんにお話を伺った。

―ハマトラの活動を教えてください。

清 活動の本質はF・マリノスをサポートし、ファンと横浜の街が一体となれるように、仲間を少しずつ増やしていくことです。その上で現在、ポスターを横浜市内全域、3,000カ所に2か月おきに掲出する活動や、ソーシャル・ネットワーキング・サービス「ハマトラSNS」の運営、フリーペーパーやビラの街頭配布、グッズ販売を主に行っています。F・マリノスの試合を盛り上げるためには私たちが地域により入っていき、地域ごとにサッカー文化を盛り上げなければなりません。これからも、どこまで地域に入っていけるのか、新しいチャレンジにもどんどん取組んでいきたいと思います。 

下島 そうですね。土壌をつくることに取り組まずに豊作だけを願っても何も生まれません。ホームタウンを盛り上げる活動においては、ただ単にお金をかければいいわけではなく、お金をかけなくても出来ることは、山ほどあるわけです。僕たちは、みんな横浜が好きで、F・マリノスが好きだからストイックで地道な活動に取り組んでいけるのです。

―街頭でビラ等の配布活動を行っていますが、活動当初と現在とで市民の反応に何か変化はみられますか。

下島 活動をはじめた2004年頃は、それはもう悲惨な状況でした。というのも、5分配って1枚も受け取ってもらえない時もありましたし、「ティッシュじゃないの?じゃあ要らない」と拒絶されたこともありました。それでも、めげずに毎日ユニフォームを着て繁華街に出て行き、声を出して元気よく配り続けていくうちに、街の方々は徐々に私たちの存在を認めてくれるようになり、ビラを受け取ってもらえる回数も増えるようになりました。なにより僕たち自身も工夫を重ね、上手く配れるようになっていきました。そして今では、「いつも頑張っているね」とか「ご苦労さま」とか、道行く人に声をかけていただくこともあり、少しずつ活動が実を結び始めてきたという手応えを感じているところです。

―それらの活動が、観客の増加という結果となって表れていますね。

下島 我々の活動が観客増のお役に立っていたらうれしいですね。スタジアムに足を運ぶようになるきっかけは、案外ささいなことだったりします。友達に連れてこられたり、たまたまチケットをもらったりだとか。だから、何よりもまず横浜市は367万人も市民がいますので、1人でも多くの人にF・マリノスを知ってもらうことが必要なのです。配布している「ウイマリ」にはスタジアムでの楽しみ方や、選手の特徴など、初めてスタジアムに来た方に楽しんでいただける情報を載せています。スタジアムを楽しんでもらい、その中にあるサッカーというエンターテイメントを観て、盛り上がってもらうことができれば嬉しいですね。

マリノスのサポーター組織がNPO法人に-ハマトラSNS運営も(ヨコハマ経済新聞)

ウイマリ~横浜F・マリノスを観に行こう~

■醸成されつつあるクラブとサポーターの補完関係

 ホームゲーム開催日に発行するフリーペーパー「ハマトラ」の発行は既に5年目となる。1試合あたり約4,000部を一般ファンに配布し、累計発行部数は232,000部に達する。街頭配布ツール「ウイマリ」は、駅頭などで配っている。2009年度は32,688人に対して配布をした。また年に6回、試合告知ポスターを商店街や飲食店などの店舗に掲示する、F・マリノスのプロモーション活動への協力にも力を入れており、年間で24,000枚をホームタウン各所に貼ったという。

―F・マリノスのクラブに対してハマトラが働きかけていることはありますか。

清 毎回3,000枚以上のポスター掲示活動も、フリーペーパーの配布も、元々は私たちの提案から始まりました。クラブにもできることが限られていることは、私たちも重々承知しています。その上で、クラブがこれから取組んでいこうと考えていることで、私たちにできることがあれば、可能な限り率先して行っていこうという、補完関係を築きながら取り組んでいます。クラブの地域活動に対して私たちが「やっていないじゃないか」「もっとやれるじゃないか」と批判するのは簡単です。しかし、批判ばかりしているとお互いにポジティブにはなれません。だから私たちは「できることがあれば、私たちがやりましょう」という立場で行動しています。

横浜F・マリノスのサポーターがMM地区で「大清掃作戦」(ヨコハマ経済新聞)

―チームとの距離はずいぶんと縮んできたようですね。

清 クラブとさまざまな関係を構築してきた中で、サポーターとクラブがこれほどの協力体制で地域での活動を進めている状況は、過去にはありませんでした。「横浜という地域の中で何ができるかという方向を今一度、一緒に考えなおしましょう。」「行動を起こしていきましょう。」と、一年一年改善していくことができる流れをつくれたことは大きな進歩です。

下島 それは、ピッチでプレーする選手との関係にも当てはまります。これまでは、チームが勝っても選手は最後に挨拶に来るくらいで、ゴールを決めても自分たちだけで喜んでいるようなところもありました。スタジアムで試合を観ているのに、まるでテレビで見ているような感覚になることもありました。しかし、今ではゴールが決まれば、マリノスの選手たちはサポーターめがけて真っすぐ走ってきてくれますし、私たちサポーターが陣取るゴール裏にアピールしてくれることも多くなりました。

―やはりチームの象徴は何といっても実際にプレーする選手なのですね。サポーターの代表として選手に望むことはありますか。

下島 選手たちに期待するのは、何より試合に勝ってもらうことです。初めてスタジアムに足を運んでくれた方が、勝ち試合を観るのと、そうでないのでは、F・マリノスに対する印象も違ってきます。ただ、たとえ負けても面白い試合だとか、気迫が伝わってくるような熱い試合を繰り広げてくれると、次も応援に来てくれるようになると思いますので、選手には目の前の一試合一試合を全力で闘って欲しいですね。

横浜F・マリノスが2010年シーズンに向け新体制を発表(ヨコハマ経済新聞)

―今後の抱負をお聞かせください。

清 とにかく、スタジアムに来てくれる人のハードルを下げるということ。横浜において、F・マリノスっていうチームを身近に感じてもらうということがハマトラの役目であり、使命だと思っています。それをクラブと一緒に取組んでいければ、将来目に見える成果となってあらわれると信じています。現在、精力的に続けている活動も、中途半端にやめてしまえば全てが水の泡となってしまいます。続けていくことが大事だということを、私たちはこの5年間で痛いほど学んできました。

―横浜の街とクラブの地域密着の関係、その果てには、どのような理想の姿を描いていますか。

下島 街の人、クラブのスタッフ、選手、みんなで一緒に勝利を分かち合ってお酒を飲むことです(笑)。それは決して馴れ合いになるということではなく、立場は違っても、一緒に戦って、一緒の場所で、一緒の事で喜びを分かち合いたい。「マリノスが勝ったら嬉しい」。単純に横浜にいるみんながそう思えるようになること、それが本当の意味での地域密着だと思っています。

―どうもありがとうございました。

ハマトラ・横浜フットボールネットワーク

横浜F・マリノス

※ハマトラ活動概要
1.フリーペーパー「ハマトラ」(年間16号発行)の企画・制作・配布活動:サッカー・サポーターによる地域コミュニティ活動への動員
2.フリーペーパー「ウイマリ」(年間10号発行)の企画・制作・配布活動:一般市民へのサッカーカルチャーの普及
3.ウェブ・コミュニティ「ハマトラ SNS」の企画・開発・運用活動:サッカーサポーターコミュニティの提供と地域コミュニティ活動の普及とサポーター動員活動
4.定期地域清掃活動の実施:サッカー・サポーターによる地域清掃活動
5.ポスター掲示や配布によるサッカー文化普及活動:各種サッカー大会の告知などをサッカー・サポーターのボランティアにより実施
6.ハマトラ・クロージングの企画:上記活動の資金調達のためのアパレルブランドの企画

※設立経緯
2004 年4月、任意の横浜F・マリノスのサッカー・サポーターを中心とする横断組織が、サッカー文化を広げるため、「ハマトラ」「ウイマリ」等のフリーペーパーの企画・制作・配布活動を開始。その後 2005年8月、サポーターの横断コミュニティとしてハマトラ SNS を開設。さらに積極的に地域貢献活動を開始し、サッカー開催日の競技場やみなとみらい地区の清掃活動を定期的に開催。ハマトラ SNS の会員は現在 2,997人(2010年3月30日現在)。1日平均約5万PVのアクセスがある(PC 約15,000PV、携帯 約35,000PV)。

▽NPO法人ハマトラ第一期活動報告(動画バージョン)
NPO法人ハマトラの第一期(09.4.30-10.1.31)までの活動報告をまとめた動画(Youtubeより)

真の地域密着型クラブへ-横浜F・マリノスの挑戦「この街には、横浜F・マリノスがある。」(1)(ヨコハマ経済新聞)

阪本伸太郎 + ヨコハマ経済新聞編集部

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