特集

「映像文化都市」構想の今後を占う
デジタル映像とアートの祭典「ヨコハマEIZONE」

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■2回目を迎えたデジタル映像とアートの祭典

2回目を迎えるヨコハマEIZONE 昨年に続き、今年も開催されている「ヨコハマEIZONE」(会期:7月28日~8月5日)。ヨコハマEIZONEとは、市民が映像文化に気軽に触れたり、国内トップクラスの業界関係者が集まり、コンテンツ産業の新しいマーケットを探る機会として、昨年から開催されている「デジタルな映像とアートのフェスティバル」(EIZONE実行委員会)だ。赤レンガ倉庫やZAIM、旧東横線桜木町駅舎など横浜都心臨海部の10カ所以上の会場で展開する「回遊性ネットワークイベント」として、CG、フラッシュ、アニメ、携帯ムービー、インタラクティブアート作品など、高感度な映像・アート作品などを上映・展示するイベントである。昨年は、「デジスタ展」「明和電機ライブ」などの様々なイベントが開催され、会期中に3万人を超える来場者を集めたが、第2回目となる今年はどのようなイベントが用意されているのだろうか。まずは用意されているイベントの数々を紹介していきたい。

のっぽさんも登場 今回のヨコハマEIZONEのメイン会場となる赤レンガ倉庫1号館では、新進デジタルクリエーターや映像関連企業など最新のテクノロジーや作品を紹介する「ヨコハマEIZONE ショーケース」、NHKの人気番組「グラスホッパー物語」などに出演中の“のっぽさん”こと高見のっぽさんのワークショップ「孫バッタ大作戦!!」、サンプラザ中野さんとNHKテレビ「デジタル・スタジアム」のナビゲーターを務める中谷日出さんのアートユニット「Na」による「デジタル川柳ワークショップ」などが行われる。

 一方、ZAIM会場では、プロのデジタルクリエーターや映像作家による「ZAIMワークショップ」が開催される(8月1~5日)。その他Na(左・中谷日出さん、サンプラザ中野さん)の会場でも、旧東横線桜木町駅舎では「明和電機」をはじめとするアーティストを招きライブや映像上映を行う他、期間限定カフェ「Station ART Cafe」がオープン、17時以降はラウンジ風クラブをイメージした「Club E」としてアーティストやクリエーター達が交流するイベント会場になる。また、東京藝術大学の馬車道校舎と新港校舎では、教授陣・学生・卒業生たちの映像作品の展示イベントも行われている。

ヨコハマEIZONE2007

■様々なクリエーターが作品を発表できる場

 第1回目の昨年からヨコハマEIZONEの企画・運営に携わってきたデジタルクリエーターのヒラヤマユウジさんは、今回のEIZONEについてこう語る。「前回のEIZONEと今回とで、一番違うのは会場です。今回のメイン会場のひとつの赤レンガ倉庫1号館では、昨年はイベントを行いませんでした。コンセプトなどを決める前にまず場所を決めて、その場所が持っているエネルギーを生かしたかった。場所からもらうイメージを大切にしたかったんです。また、今回はイベントの敷居を低くして、気軽に誰でも楽しんでもらえるような工夫しました。せっかく良いものを作っても、それを見てもらえないのでは意味がないですから」。

デジタルクリエーターのヒラヤマユウジさん ヒラヤマさん自身も、子どもを対象にしたワークショップ「ゲームを作ろう」をZAIMで行うが、その他にも子どもやその保護者が対象のワークショップやイベントが多いことは、2回目を迎えた今回のEIZONEの大きな特徴と言えるだろう。

 さらに、ヒラヤマさんはEIZONEが目指す将来像をこう語る。「有名無名を問わず、様々なクリエーターが作品を発表できる場にしていきたい。それは自己満足に終わるのではなく、色々な人に見てもらえるようにイベントの魅力も高めていかなければならないのはもちろんのこと。そうしたことを念頭において、ゆくゆくはアジア最大級のCGアートとデジタルコンテンツの祭典と言われる『アジアグラフ』と双璧を成すようなイベントにしていきたいですね」。

ヒラヤマユウジ

■クリエイティブシティ構想の重要な位置を占めるイベント

単なるイベントではない そんなEIZONEだが、実は単なる「映像の祭典」ではない重要な側面も持っている。現在、横浜市では、横浜という都市の活性化を図るための重要な政策として、「文化芸術創造都市=クリエイティブシティ・ヨコハマ」構想を推進している。言ってみれば、文化芸術・経済の振興と横浜らしい魅力的な都市空間形成というソフトとハードの施策を融合させた新たな都市ビジョンを形成していこうというものだ。この構想は、(1)ナショナルアートパーク構想(2)創造界隈の形成(3)映像文化都市(4)横浜トリエンナーレ(5)創造の担い手育成——といった5つのプロジェクトで構成されている。

 この中の、「映像文化都市」とは、映像・コンテンツ系産業の集積によって横浜がアジアにおける映像文化の拠点となることを目指すプロジェクトである。これまでにも、横浜市は東京芸術大学大学院映像研究科や、エンタテインメント施設の誘致、新しいクリエーター支援の仕組みづくりなどに取り組んできた。

EIZONEの重要性を訴える野田由美子副市長 7月31日、赤レンガ倉庫でヨコハマEIZONE「デジタルアート縁日」のオープニングレセプションで挨拶に立った横浜市の野田由美子副市長は、「現在、クリエイティブシティ構想の中で、様々なプロジェクトが進んでいます。中でも、今後の成長が見込まれる分野である映像・コンテンツ産業の集積を図る『映像文化都市事業』は、クリエイティブシティ構想の重要な位置を占めています。その『映像文化都市事業』の大きな柱としてあるのが、ヨコハマEIZONEです。そうした意味で、EIZONEの今後の広がりには大きな期待を寄せています」と、EIZONEの重要性を語った。

クリエイティブシティ・ヨコハマ(横浜市開港150周年・創造都市事業本部)

■「映像文化都市・横浜」の近未来像

クリエーターズネットワーク 横浜市が標榜する「映像文化都市」構想では、将来へ向けて様々な布石が打たれている。そのひとつが、横浜市がみなとみらい地区に誘致した、大手ゲームメーカーのセガによる大型複合施設の建設。2010年の完成を目指しているこの施設は劇場、屋内型パーク、シネマコンプレックスなどアミューズメント的なものに留まらず、ホテルや飲食店、物販店などが併設される一大複合施設となる予定だ。さらに、セガの本社機能を一部移転されるという。また、山下町地区には開港150周年を迎える2009年のオープンを目指して、新しい県立ホールも建設が予定されている。この施設は、NHK横浜放送局と神奈川県との合同建築施設で、最新鋭の舞台装置と照明・音響システムや大小のスタジオなどが建設される予定。この地区にはアジア映画専門の映画館なども建設される予定だ。

 さらに、JR桜木町駅前には、東宝と松竹の共同事業体が運営する大規模シネマコンプレックスが横浜開港150周年の2009年9月に竣工する。このシネマコンプレックスは、デジタル受信上映対応設備などの最先端の上映・音響システムを導入し、スクリーン数が13、座席数2,500~3,000席を備え、横浜でも最大規模の上映施設になるという。

「ビジネスモデルの構築が必要」と渡部さん 横浜でデジタル作品のクリエーターやアーティストの育成に力を注いでいる「Digital Camp!」の代表であり、自身もCGクリエーターである渡部健司さんは「映像文化都市」構想の現状をこう分析する。「横浜市の『映像文化都市』という考え方は、都市のブランディングにとって有効だと思います。クリエーターやアーティストが集い、情報発信をすることの中から何か新しいモノも生まれてくるでしょうから。ただ、その取り組みの中から発生するビジネスの利益をクリエーターやアーティストに還元できる仕組みを作っていかなければならないと思います。行政と企業、そしてアーティスト・クリエーターたちが一緒になってビジネスモデルをつくったり、3D立体映像や大型映像施設の事業化の可能性を探っていく必要があるでしょう」。

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■我が国のコンテンツ産業活性化施策と連動

Pマンも登場 今回のEIZONEは「クリエーターの発表の場」とは違った側面も持っているイベントでもある。8月1日には、我が国のコンテンツ産業活性化施策と連動して、「アートから生まれるクリエータービジネス」をテーマとするフォーラムがZAIM会場で開催された。このフォーラムでは、ビジネスのプロデューサーや映像関連会社やメディア各社、コンテンツ制作会社やクリエーターといった100人以上のネットワークでコンテンツ制作の支援をする「JAPAN CREATOR'S NETOWRK」の取り組みが紹介され、プロデューサーやクリエーターらによるパネルディスカッションが行われた。

 また、8月2・3日には、今年で3回目となる「クリエイティブBizフォーラム」が開催される。今回のフォーラムでは、開港150周年を迎える2009年の横浜の文化芸術、デジタルコンテンツ、情報コミュニケーション技術を活用したサービス、ネット環境などのインフラなどのイメージを共有し、そこに向かうアプローチについて意見交換する8つの公開トークセッションが行われる。

ショウケース 世界中に浸透しつつある日本発のプログラミング言語Ruby(ルビー)の開発者として知られる、まつもとゆきひろ氏を招いた講演やトークセッション。横浜市と東京藝術大学の協働で制作された横浜開港150周年・短編映画「たまくすと犬と男」の上映会と、横浜の歴史と地域資源のアーカイブを考えるセッション。先端的なデザイン・アート・ものづくりの取り組みを紹介するセッション。横浜のワイヤレスLAN環境とコンテンツ配信の未来型を日産自動車や神奈川新聞、横浜観光コンベンション・ビューローなどの担当者と考えていくセッション。無線LAN共有サービス「FON」と「skype」が掲げるインフラ 2.0の世界を紹介するセッション……。横浜のクリエイティブ産業を活性化するためのアクションプランを様々な分野のクリエーターや事業者、研究者などが集まってディスカッションする予定だ。

クリエイティブBizフォーラム3 関連記事(神奈川県が山下町「県立新ホール」の名称を募集—2009年開館) クリエイティブBizフォーラム3 関連記事(2009年の横浜のクリエイティブ産業を考えるトークセッション)

■横浜は日本の映像文化産業の発祥の地

 港町・横浜は、日本の文化の窓口として新しい技術が流れ込んできた都市であり、明治・大正時代から映像文化産業が活発だった。

デジタル縁日 写真師の下岡蓮杖が、日本最初の写真館を開業したのは馬車道。明治時代に開業した映画館「港座」に始まり、伊勢佐木町や関内には多くの映画館が誕生し、当時最新の流行映画を連日上映していた。また、中区には「大正活映撮影所」があった。大正9年、現在の元町公園にあった煉瓦工場跡地を利用して設立されたこの撮影所は、日本で初めて映画界に財界の資本が投入されて作られた画期的な事業だったと伝えられている。ハリウッドで修行した栗原トーマスを監督に招聘した他、当時新進気鋭の作家だった谷崎潤一郎を脚本顧問として迎えていたという。その意味では、我が国の映像文化産業の発祥の地である横浜は、歴史的に見ても映像文化に関する遺伝子を持っているのではないだろうか。

 「映像文化都市」に向けた横浜の具体的な取り組みはまだスタートしたばかり。アーリーステージである。その理念を具体化し、クリエーターやコンテンツ制作会社などが横浜に拠点を置き、仕事を長く続けていくためには、どうしたらよいのだろうか。横浜の都市イメージはいい。みなとみらいから関内にかけての都心臨海部にはこれから開発する土地や、壊されずに残っている歴史的建造物がまだある。東京と近い地理的な優位性、豊富な人材、IT関連産業などのクリエイティブ産業の集積などのアドバンテージを多角的にフル活用することや、市税の減免や助成金・補助金交付などの制度的支援の充実、行政が発注する仕事を横浜の企業やクリエーターが受注できるための仕組みづくりなどにより、コンテンツやエンターテインメント産業に携わるクリエイティブな人種にとって魅力的な都市として横浜をブランディングしていくことが大切だろう。

 都市ブランディングの推進には、優れたシナリオや監督、役者、スタッフたちによる映画撮影などのロケを誘致し、国内外の他都市に住み暮らす多くの人たちに感動を与える「映像」を通じて、横浜のいいイメージを伝えることも効果的な作戦の一つだろう。横浜市が行っている、映像業界向けのロケの情報提供や相談、届出手続きのサポートなどをする「横浜フィルムコミッション事業」も産官民の協働で、多くの映像製作者にとってより魅力的なサービスを提供できるような仕組みを再検討することも必要だろう。

 横浜で活動するさまざまな分野の専門家やクリエーターが一緒になって、持続可能なビジネスの仕組みや、優れた人材を誘致・育成する方法を模索していくことが重要であり、これまでの「映像文化」の枠を越えた新しいアウトカムを、創造力を働かせて生み出していく必要がある。ビジネスで成功する人材と優れた作品を生み出すクリエーターの両方が育ち、「横浜発」のコンテンツやサービスが世界に向けて発信されていくためには、まだまだ課題も多いと言えるだろう。

 今年で2回目を迎える「ヨコハマEIZONE」は、どうだろうか?

 横浜都心臨海部の地場が持つ魅力や、歴史的建造物などの地域資源を生かしつつ、映像クリエーターとの連携で、アーティスティックな時空を提供することにより、来街者や市民に好感を持ってもらうことができるイベントである「ヨコハマEIZONE」。創造力とネットワークを併せ持つ、横浜のクリエーターを信頼し、来年2008年、開港150周年を迎える2009年と段階的に、戦略的に企画・運営の体制や、現場の企画、実施、検証のサイクルを改善しながらコマを進めていくことができるだろうか。

 横浜市が掲げる「映像文化都市」構想の今後を占う意味で、2回目となる今年の「ヨコハマEIZONE」に注目したい。

箕輪健伸 + ヨコハマ経済新聞編集部

※セガによる大型複合施設は、2008年3月28日に開発中止が発表されました。

セガ、MM地区エンターテインメント複合施設開発中止へ(ヨコハマ経済新聞)

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