特集

「写真発祥の地」からフォトカルチャーを発信 
ハマの街の魅力を伝える「横浜写真アパートメント」

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北仲WHITEを舞台に繰り広げられる写真イベント

 「写真術」が、横浜から発祥した文化の一つだということはご存じだろうか? 幕末の1859年に開港した横浜港、その翌年に写真が上陸し、初の日本人写真師となる下岡蓮杖が、横浜に1862年に写真館を開業したのが、日本における「写真の起源」とされている。馬車道にはその歴史を伝える「下岡蓮杖顕彰碑」がある。

 その下岡蓮杖の碑にも近い「北仲WHITE」で、「写真によるコミュニティの創造」をテーマに、写真家で、フォトカルチャーを提案する写真雑誌「PHaT PHOTO」編集長兼発行人でもあるテラウチマサトさんと若手からベテランまで14人の写真家が「横浜」を撮りおろした写真展が26日から開催される。横浜の街をアートによって活性化していく試みの一環として企画され、会期中には来場者が撮影した横浜の写真をプリントして展示するコーナーを常時開設するほか、フォトグラム(日光写真)の作品づくりや、参加する写真家らによるトークショー、生演奏の音楽に合わせて横浜の写真をスライドで投影するイベントやワークショップなども行われる。

 会場となる「北仲WHITE」はみなとみらい線馬車道駅に程近い北仲通北地区に位置し、2004年までオフィスとして利用されていた 1927年(昭和2年)竣工の歴史的建造物(旧帝蚕ビルディング)。白い外観から名付けられたその呼び名は同時に建物を期間限定で活用するプロジェクトの名称でもあり、2006年10月まで1年半にわたりアーティスト、建築家、デザイナーなど芸術、文化的活動に関わるグループが入居して個々の活動を展開していた。今回は建物内の3フロアを使い、横浜の歴史が刻まれた空間を生かした展示を行う。
 ちなみに現在、当地区は2010年の一部竣工を目指して再開発が進められている。

横浜写真アパートメント 北仲WHITE 馬車道駅に隣接した「北仲地区」の再開発案がまとまる(ヨコハマ経済新聞関連記事)

写真家・編集長「テラウチマサトさん」のねらいとは

 テラウチマサトさんは出版社勤務を経て1991年に写真家として独立。屋久島などの風景作品で女性や若者層からの支持を得て、数々の個展を成功させてきた。またこれまで6,000人以上の著名人のポートレートを撮影し、99年には米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)のファインアート部門で講演するなど海外でも積極的に活動をしている。

 テラウチさんは今回の写真展についてこう話す。
「今回の写真展の位置づけはハイアート的な高尚なものではなく、気軽に楽しめるサブカルチャー的なものです。気軽に楽しめれば、観に来てくれた人の中に自分もやってみようという感覚が生まれるのではないでしょうか。僕はこれをきっかけにして、ある種の市民参加型のイベントにつながっていけばいいと思っています。最近は、安価なコンパクトカメラの製品技術が向上して、誰でも簡単に、うまく撮れるようになりました。うまく撮れる喜びから、写真人口は年々増えてきている。でもその一方で、写真には感性が大切であることを忘れて欲しくないんです」

 特に日本の写真展やコンテストでは、評価において技術的な部分が重視される傾向が強いという。彼はそんな写真界が変わらなければいけないと考えている。
「音楽に例えると、フォークソングやロックが流行る前は高い歌唱力を持つ歌手が評価されていましたが、その後は歌い手の感性が重視されるようになりましたよね。カメラの世界も同じ事が言えるんです。自分達の写真も技術的な部分でのユニークさではなく、『感覚』が大切であるととらえています。今回の横浜写真アパートメントは、見る人にも "横浜をとらえる感覚" を我々と一緒に共感してもらいたいと考えています。決してうまくはないけど、こういう感じわかるよね、という様に。僕を含め15人の写真家の写真が一堂に会する中で、そのいずれかの写真に共感を得てもらいたい。自分もできる、やってみたい。そんな感覚を呼び起こしてもらいたいんです」

 テラウチさん自身、昔から写真を撮っていた訳ではない。大学卒業後に就職した出版社では編集部に配属。だが外に出て仕事をしたいという思いから、写真部に転属してカメラの仕事をするようになった。カメラマンとしての評価は高く、コンテストに受賞するなど順調だった。そんなある日、軽い気持ちで外部の写真家に自分の写真を見てもらった事が転機となる。
「光が見えていない、と言われたんです。その時に本気でプロの写真家になりたいと思いましたね」

 独立し、自分の個性を出していく事を意識し始めたテラウチさんは元々ポートレートが好きだった事もあって、経営者や政治家などの写真を撮るようになっていった。中田横浜市長、松沢神奈川県知事の写真を撮ったこともある。人をイメージアップをさせる写真。彼が選挙用の写真を撮ると落選しないという噂が広まり、写真家としての仕事の幅も広がったという。

 その一方で風景作品にも力を入れ、最近もニューヨークやカリブなどへ積極的に渡航。現在に至るまでその場その場で「魅力的なもの」を撮ることを心がけている。今回の写真展には今年に入って3ヶ月間、中華街やみなとみらい、そして横浜の古い街並を撮り歩いた作品の中から出展する。テラウチさんの今回のコンセプトは「世界を捉えた感覚への共感」。「この世界、わかる!」と思える、来場者の共感を呼び起こすことをテーマにしたという。

 「横浜は今ものすごく変化している。この変化は成長だと思うんです。つまり変わっていく事によって将来に不安を抱く変化ではなく、未来を明るいと思える変化。僕は海に向かって立つ大型風車と、ベイブリッジから期待感のある変化を感じました。香港や上海にある未来への期待感と近いものがあるかもしれません。それでいて、心を癒してくれるノスタルジックな場所も残っている。そんな横浜の魅力を写真を通じて感じ取ってもらいたいですね」

AIR OF M.T|写真家テラウチマサト(PHaT PHOTO編集長)のオフィシャルサイト

「PHaT PHOTO」の若手写真家集団のとらえた"横浜"とは

 テラウチさんは写真家の活動と平行して、若手写真家を育成し、作品を世に広めようとしている。それは2000年に写真雑誌「PHaT PHOTO(ファットフォト)」を創刊し、若手写真家の作品を発表したり、「PHaT PHOTO Teachers」という写真教室を主宰する事にも表われている。

 PHaTとは、Pretty Hot and Temptingを略したCOOLと同じ意味の米国のスラングだそうだ。「PHaT PHOTO」は、ファッションや音楽、アートなどのカルチャーにも敏感な層をターゲットに、人気の写真家に加え、今後の活躍が期待される新しい写真家たちや、写真に関心のあるミュージシャン、モデル、アーティスト、タレントなどを取り上げている。

 「日本の写真界には若いファンがいなくて、魅力的に見えなかった。写真業界やシーンに関心が強かったこともあり、自分のアピールだけでなく、写真好きはもちろん、写真はよくわからないけど感覚的に写真をとらえている、人と違うと言うことが嬉しい。そんな多くの若者を写真好きに変えるための雑誌を作ろうと思って「PHaT PHOTO」を創刊しました。この雑誌が出たことによって類似誌も増え、マーケットが出来た。これはいいことですが、僕らの雑誌はもっと違う所に行きたい。新しいファンを作っていきたい。撮り続ける人をつくっていきたいんです」。

 今回テラウチさんと共に出展するのは、A.K.Iさん、小栗祐子さん、神島美明さん、小宮山桂さん、坂本和則さん、設楽季昭さん、高田むつみさん、塚崎智晴さん、中藤毅彦さん、長谷川迅太さん、馬場菜穂さん、丸谷裕一さん、和久祥子さん、StairAUG.さん。全員が今回の写真展のために横浜の街を廻り、それぞれの感覚で撮影した写真作品を出展している。

 出展作家の1人、PHaT PHOTO'Sの和久祥子さんにこの写真家集団の魅力を聞いてみた。PHaT PHOTO'Sは、作品審査で選ばれた雑誌「PHaT PHOTO」の公認フォトグラファー。
「まったく別々の経験を積んだカメラマンが集っているので、それぞれの違いを感じる事が出来て面白いし、また刺激になっています。写真展では、14人の個性を『PHaT PHOTO』というフィルターを通じて感じてほしいですね」

 和久さんは今回、横浜をどのように捉えたのだろうか。
「横浜には1,2度しか来た事がなくて、ほとんど関わりがなかったんです。そこで横浜に住んでいる人を紹介してもらって話を聞いたり、鶴見区や神奈川区の方など昔から住んでいる人の多い地域を回りました。今までのイメージではみなとみらいやランドマークタワーなど観光地のイメージが強かったのですが、そういう地域に住む人達がいきいきと楽しんで生活しているのが強く印象に残りましたね。私も住んでみたいと思った程です」

 同じくPHaT PHOTO'Sのメンバーである設楽季昭さんの切り口も興味深い。
「僕は横浜の日常的な部分をアート的にとらえてみました。深夜から早朝にかけて中心街を歩き回ったり、本牧まで自転車で行ってみたり…。この街は東京と比べると狭いエリアに真新しいものとお洒落なもの、日常生活の部分や人間くさいディープな部分が凝縮していて面白いですね。あと港町ならではの雰囲気も他にはないものだと思います」

PHaTPHOTO ONLINE

横浜から日本の写真文化のレベルアップを図りたい

 最後に日本大通りのZAIM本館にあるNPO法人ザ・ダークルーム・インターナショナル代表の齋藤久夫さんにも話を伺った。同団体は、1999年より、写真文化の保存・発展や欧米諸国に負けない日本の写真文化のレベルアップを目的とし1999年6月に中区で活動を開始した非営利団体。

「地元の僕からすると、こういった外部からの風が吹いてくるのは面白いし、刺激になる。だから『ようこそ横浜へ!』って感じです。そしてこれを機にたくさんの人が自己表現にカメラを使ってくれると嬉しく思います」と話す。

 齋藤さんは中区出身の横浜4代目、生粋のハマっ子でもある。写真家としての活動も行いながら、NPOの活動として、670人の会員がいるレンタル暗室を日本大通りの創造拠点「ZAIM」内で運営するほか、小・中学校、高校などで写真に関する様々なワークショップ、横浜や都内で写真の博覧会などを行っている。最近では日テレのバラエティ「ザ!鉄腕!DASH!!」の番組制作にも協力するなど活動の幅はとても広い。

「写真は、時間軸を貫き通せる唯一の芸術。写真の本質を大切にしていきたい。要するにこの瞬間の写真はこの瞬間にしか撮れない。それを忘れると写真がただの画像になってしまうんです。例えばお母さんが自分の子供の写真を撮りますよね。そこには愛情があるんです。なぜこの写真を撮るのかという意味を考えた時、感性も大事なポイントですが、被写体に対する愛情と想いを大切にして欲しいですね」と話す。

ザ・ダークルーム・インターナショナル

 映像文化都市を標榜する横浜市は、約1万件の貴重なカメラ・写真のコレクションを所蔵している。これはアメリカのサーマン・F・ネイラー氏が40年にわたり収集した「ネイラーコレクション」と呼ばれるもので、94年に横浜市が約4億2千万円を投じて購入した。また89年にオープンした横浜美術館には写真専用の常設展示室もある。写真に関する文化的・歴史的背景を持つ横浜は、新しい写真文化を産み出していくための条件がかなり整っていると言えるだろう。

 その面白さと可能性、本質まで思いをめぐらせると、写真は今よりもっと面白いものになるだろう。そして写真を通した横浜の新しい魅力を、ぜひ今回の「横浜写真アパートメント」で感じてもらいたい。

北仲WHITEをアパートに見立て「横浜」を表現する写真展(ヨコハマ経済新聞関連記事)

黒田創 + ヨコハマ経済新聞編集部

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