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横浜の「クルーズ熱」は日本一熱い?
都市型マリンライフを上手に楽しむ方法

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■「横浜国際マリンエンターテイメントショー」が開幕

横浜国際マリンエンターテイメントショー'06赤レンガパークの周辺の海に、大型クルーザーなどボート、ヨットが約50隻も浮かぶ。これまで見られなかった光景だ。これは5月19日から21日まで開催される「横浜国際マリンエンターテイメントショー'06」のために集められたものだ。その狙いは、マリンレジャーと共生・融合した「都市型マリンライフ」を生み出していくこと。都心にウォーターフロントを持つという、他の都市にはない横浜の港としての魅力を多くの人に知ってもらう、そのために企画されたものだ。イベントでは、スモールボートやカヌー、ヨットなどの体験メニューが手軽に楽しめるほか、マリングッズやマリーナなどの紹介・情報コーナー、ボート免許コーナーなどが設置され、マリンエンターテイメントを様々なフェーズで楽しみ、体感できる。このイベントを機会に、知っているようで意外と知らない、横浜の海の魅力を見直してみたい。

横浜国際マリンエンターテイメントショー 赤レンガ特設会場で「マリンエンターテイメント」の祭典
 

■横浜駅から乗れる海上交通船「シーバス」の秘密

ポートサービスの運営する海上交通船「シーバス」港をもつ街は数あるなかで横浜の最大の特徴は、先述したとおり、都心にウォーターフロントを持っていること。全国でも第5位の巨大ターミナルである横浜駅だが、駅からすぐに船に乗ってみなとみらいや赤レンガ倉庫、山下公園といった観光地に海を通って行くことができる。それがポートサービスの運営する海上交通船「シーバス」だ。多いときには1時間に4本の船が走り、料金も300円~600円とタクシーを使うより安く、みなとみらい線を使っても少し歩かなければならない海沿いの観光地へのアクセスに非常に便利だ。そのため、観光客に負けず地元客の利用が多く、乗船者数は年間100万人に上るという。シーバスは電車やバスでの移動と違い、目的地へ移動しながら海の景色や波の揺らめきを楽しめる、非日常的な心躍る「体験」である。生活のなかにそうした時間を組み込むことの大切さを、地元の人たちは知っているのかもしれない。

ポートサービス

この「シーバス」という名前の由来をご存知だろうか。「シーバスは英語で『SEABASS』(日本語で魚の「スズキ」の意味)と書きます。『SEA BUS』(海のバス)の間違いではないか、スペルミスではないかとお客様からよくご指摘を受けるのですが、実は違うんですよ。横浜から帷子川を通って海に出るという運行経路から、川と海の両方に生息する魚『スズキ』の名前をとったんです」と同社観光事業部観光事業課課長の竹澤弘史氏は語る。

8月には横浜そごう隣に豪華客船をモチーフにした商業施設「横浜ベイクォーター」がオープンする。同社はそこに横浜駅東口のシーバス乗り場の待合室を作り、一足早く営業を開始している。「これまで乗り場に来る人は、シーバスに乗って観光するという目的をはっきりと持ってくる人でした。こうした商業施設に拠点をもつことで、『ぶらっとみなとみらいに行ってみようか』というような新たな顧客層を開拓できると期待しています」。

豪華客船モチーフの「横浜ベイクォーター」が8月開業
 

■特別な日を演出する、船上のレストラン

レストラン船「マリーンルージュ」と海から見た横浜の夜景同社はシーバスのほかに、横浜港をぐるっと周る2つの船、クルージング船「マリーンシャトル」、レストラン船「マリーンルージュ」を手がけている。「マリーンシャトル」は手軽に、カジュアルにクルージングを楽しめる観光船で、ファミリー層や団体旅行、宴会での利用が多い。この5月・6月にはほぼ毎日のように修学旅行の予約が入っているという。

一方、「マリーンルージュ」は、特別な日を演出したい人の利用が多い。サザンオールスターズの1998年のヒット曲『LOVE AFFAIR~秘密のデート~』のなかに、「マリンルージュで愛されて 大黒埠頭で虹をみて シーガーディアンで酔わされて まだ 離れたくない」というフレーズがあるが、まさに恋人たちや夫婦がロマンチックな景色と食事、時間を楽しみに来る船だ。船上で誕生日を祝ったり、プロポーズしたりする人も多く、演出についての相談にはできるかぎり対応しているという。「花束やケーキ、シャンパンなどを注文される方は多いですね。『デザートに結婚指輪をそっと忍ばせて運んできてほしい』などとお願いされることもあり、船の運行や他のお客様のご迷惑にならないことであれば、でできるだけご協力しています」。

修学旅行や、人生の特別な日の船での体験が大切な思い出となり、記念日にはまた訪れるリピーターとなる。そんな好循環を生み出しているのだ。

 

■本格中華のレストラン船「ロイヤルウイング」

本格中華のレストラン船「ロイヤルウイング」横浜でレストラン船といえばもう一つ、レストラン船としては東京湾で最大、国内でも2番目の大きさを誇る「ロイヤルウイング」がある。この船は、47年前に大阪-別府間を運行する客船として就航した船「くれない丸」が平成元年に横浜でレストラン船「ロイヤルウイング」として生まれ変わったものだ。船は15年償却と言われるなか、これだけ長期間使われる船は異例で、おそらく客船として国内で最も古いという。そのため、現在のコンピューター化が進んだ操舵室とは異なり、大きな木製の舵輪を今でも使っている、レトロなかなり珍しい船なのである。それに、フランス料理が多いレストラン船のなかで、中華料理を提供しているのもユニークだ。

ロイヤルウイング

大きな木製の舵輪を今でも使っている「ロイヤルウイング」ランチクルーズメニュー(ランチバイキング・中華コース・軽食)、ティークルーズメニュー(ケーキ&フルーツバイキング、点心などの軽食)、ディナークルーズメニュー(中華バイキング・中華コース・軽食)の3つのコースがあるが、すべて中国飲食業界で最高栄誉である「中国烹(ほう)じん大師」の称号を受けた総料理長自らが腕を振るう広東料理。ケータリングではなく、すべての料理を下ごしらえから船内で行っているのだ。ロイヤルウイング企画広報室室長の神長氏は、「最近の船は電気調理器を使っていますが、この船はプロパンガスで4万キロカロリーの火力のコンロを使っています。だから他の船とは違い、本格的な中華料理が作れるのですが、立ち上げ時にはフレンチという声もありましたが、横浜ならやはり中華で勝負したい想いがありました。中華を選んだのは一つの賭けでしたが、幸い、中華街の店と匹敵するほどの評価をいただいています」と語る。フルコースでも大皿ではなく小皿で一品ずつ出すスタイルで、女性でもたくさんの味を楽しめるのがうれしい。

 

■料理、音楽、景色、挙式と楽しみ方はそれぞれ

ウェディングプランでは船長が挙式に立会う取材に訪れた日はランチクルーズメニューのバイキングだったが、クラシックの生演奏を聴きながら食事を楽しむ年配主婦でほぼ満席状態だった。料理代金プラス乗船料という高値だがここまで人気があるのは、クルージング老舗である同船で味わえるハーバービューといった雰囲気はもとより料理の美味さと、スタッフの細やかな接客態度に好感がもてることもあるだろう。「食事中の観光案内は行いません。空気、演出、サービスすべてがおもてなし。スタッフが行うマジックやアートバルーンもお客様とのコミュニケーションの手段と考えています。お客様にいかに喜んで帰っていただくかがポリシー」と神長氏。

テーブルを回りマジックやアートバルーンを披露するスタッフ就航開始当初用意した4,600円~12,600円の4つのコースのなかで、意外なことに高額のコースが一番売れた。そこで、より美食を追求した高級なコースを増やしていったのだという。乗船客が金額に見合う満足度を得ているからこそできることだ。さらに、芸能人も利用するVIPルームを作ったり、みなとみらいのホテルまでロールスロイスでお出迎えするロイヤルプランもつくり、高額な料金ながらも好調だという。誕生日プランは一月に150件もの申込があるそうだ。

各月ごとのクルージングイベントも盛りだくさんで、特に花火クルージングはリピーターで毎年ほぼ満員になるという。「ウェディングプランでは船長が挙式に立会います。それから船内には新郎新婦の名前が刻まれたプレートが貼られたり、船長が船上で起こった全てのことを記録する航海日誌に、お二人の名前が永遠に記されるというのも、ロマンチックですよね」。

クラシックやジャズの生演奏を聴きながら食事が楽しめる最近では「年間パスポート」の売上も伸びているという。価格は11,000円で、本人含めて2名まで乗船料無料、14名まで食事代10%オフ、個室貸切無料、本人のみ1回限り中華ディナーバイキング無料で、有効期限1年というもの。購入即日に使用可能で、すぐに元が取れる、かなりお得な内容だ。個人客はちろん、企業が得意先へのプレゼントにと買っていくのだという。なるほど、1回で終わってしまうイベントのチケットではなく、1年間有効のパスポートを贈れば、何度も恩返しができるということだ。こうしたものもうまく利用し、優雅に、そして気軽にクルージングを楽しんでみてはいかがだろうか。

 

■クルーズを特別価格で楽しめる「横浜市民クルーズ」

小型ラグジュアリー客船「クリッパーオデッセイ」客船が入港してくることも多い横浜。横浜港を回る観光クルーズやレストランクルーズは身近になってきたものの、いろんな港を転々と移動していくような客船となると敷居が高く感じるものだ。そこで横浜市港湾局が平成2年から実施しているのが、客船運行会社・旅行会社との協力により、割安な価格による客船クルーズを提供する「横浜市民クルーズ」だ。横浜市港湾局振興事業課担当係長の長谷川氏は、「市民の方にクルーズの楽しさを伝え、クルーズ人口を増やすという趣旨に賛同してもらい、ワンナイトクルーズや2泊3日クルーズなどを割安価格でご提供いただいています」と説明する。毎年10クルーズほどを実施している。

横浜市港湾局 横浜市民クルーズ

「交通費や食費も入った『動くホテル』と考えていただければ、宿泊クルーズも決して高くはないと思います。朝、目が覚めたら違う街に着いているという、『どこでもドア』のようなワクワク感や、大きい荷物は船に置いて、身軽にいろんな街を観光できるのも宿泊クルーズならではです」と語るのは、横浜市港湾局振興事業課主任の川口氏。市では入港する客船の見学会を開催し、客船を知ってもらいクルーズへつなげる試みを行っている。8月には小型客ラグジュアリー客船「クリッパーオデッセイ」(5,218総トン)の市民見学会と市民クルーズがあり、ともに現在参加者を募集している。「今後は、ショータイムなど参加しやすい商品を作って客船を身近なものにしていき、クルーズ人口の裾野を広げたい。多くの人にとってクルーズを楽しむことが当たり前になり、市民クルーズの役割が必要なくなるようにすることが目標です」。

 

■「飛鳥II」効果で一層高まった横浜のクルーズ熱

横浜港に船籍を置く初の客船「飛鳥II」横浜港に多くの客船が寄港するようになったのには、平成14年の大さん橋国際客船ターミナルがリニューアルオープンの影響が大きい。複数の客船が入港可能になったことはもちろんだが、客船ターミナルが横浜の観光スポットのひとつになり、それに伴って市民のクルーズへの情熱が高まっていった。良好なサービスや誘致活動の展開などにより、横浜港の客船寄港数は平成17年には145隻へと増加し、3年連続で日本一となっている。「今年2月の、横浜港に船籍を置く初の客船『飛鳥II』の就航セレモニーでは、7,000人の見送り客で客船ターミナルは埋め尽くされ熱気であふれていました。ぜひ皆様にもその雰囲気を味わっていただきたいと思います」(川口氏)。

実はこれまで、船籍は客船運行会社の本社がある場所になっていた。日本郵船や商船三井客船といった業界大手が東京に本社を置いているため、横浜に寄港する船も東京船籍になっていたのだ。しかし船籍を会社の本社と同じ場所にすることに大きな意味はない。「飛鳥II」のでビューを契機に横浜を船籍港とすべく、横浜市より働きかけを行った結果、「飛鳥II」は初の横浜船籍の客船となったのだ。船体に「YOKOHAMA」と記された「飛鳥II」が世界を航海することで横浜港のブランド力が高まり、外国籍の客船の横浜港寄港へとつなげる。それがさらに市民のクルーズ熱を高め、第2第3の横浜船籍の客船が誕生していく。そんな好循環が期待されている。

 

■アマモで海の生態系の再生に取り組む「海をつくる会」

山下公園の海底清掃を行う「海をつくる会」華やかな横浜港の景色、クルーズの裏では、東京湾の環境を守る人々がいることを忘れてはならない。海の上から見える景色と海の中から見える景色は違うもの。その海を見続けてきた人が神奈川県水産技術センター栽培技術部主任研究員の工藤孝浩氏だ。「東京湾には季節によって熱帯魚がやってきますし、氷川丸のあたりにはメバルの大群やスズキの群れなど、いろんな魚たちが群れているんですよ」と工藤氏。子供の頃から海に慣れ親しみ、海好きが高じて東京水産大学(現・東京海洋大学)に入学。スノーケリングを手段にする生物研究のサークルに入部してさらに海との距離が縮まった。

海をつくる会

神奈川県水産技術センター栽培技術部主任研究員の工藤孝浩氏常に海との生活を送っていた工藤氏が卒業論文で横浜の海で魚の暮らしぶりを徹底的に調査したことから、だんだんと地元の海に関われる研究機関に就職したくなり、地元水産試験場へのパスポートである地方公務員上級試験に合格。そのころ、横浜唯一の自然の海である野島海岸のそばに人工島の埋め立てが始まった。これが現在の「海の公園」である。工藤氏は人工島の造成で海がどうなってしまうのかと不安を覚えて考えた結果、記録を取り続ける事にし、一人でも出来る素潜りによる魚の目視観察調査を卒業後も毎週日曜日に続けていた。一方、学生時代に潜っていた山下公園にも潜りたかったが、卒業してからは海上保安部の許可なしには潜れなかった。そんなときに、ダイビングによる海底清掃を行っていた「海をつくる会」を知り、入会したのだという。同会ではそんな工藤氏の野島海岸の潜水調査を定例活動に位置づけ、仲間たちとともに20年も潜り続けることとなった。

海の生態系を整える役目を果たす植物「アマモ」現在の同会の活動は月一で行う、この野島海岸の定点観測と山下公園の海底清掃を軸として、海の環境再生活動、野島・平潟湾流域の市民団体とのネットワーク形成、東京湾の市民団体の連携へと発展していく。その活動の中で、海の生物を育む試みとして、2003年6月に「金沢八景-東京湾アマモ場再生会議」が発足した。「海の生態系を整える役目を果たすのは、アマモという植物です。正式にはオモダカ亜綱イバラモ目アマモ科といって、稲に似た単子葉植物で、水深2メートル未満にしか生育しません。アマモは海水を浄化して、生い茂ることでイカが産卵したり小魚などの生物の住処になります。そのアマモが東京湾の埋め立てでほぼ絶滅してしまったのです。会としてアマモ場の再生に取り組み、2001年からは県内産の種子を育てて植え付けを行ってきました。ここ数年の活動で東京湾にも再びアマモが元気に育つようになり、人間が手を貸せば海は再生するのだなと実感しました」と工藤氏。

海をつくる会が編集した書籍「ハマの海づくり」今年4月には、海をつくる会が編集した書籍『ハマの海づくり』(成山堂書店、2,310円)が出版された。かつては豊かだった横浜の海の生態系が埋め立てや開発により失われていったことと、再生に向けて市民が取り組んできた多彩な活動について、現場からの声で綴られている。彼らのような海の環境を守る活動が、横浜の海の魅力を縁の下で支えていることを忘れてはならない。

ハマの海づくり

田中あき子 + ヨコハマ経済新聞編集部

 
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