特集

メディアが変わる。市民が変える。
横浜で「第4回市民メディアサミット06」

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メイン会場の横浜市開港記念会館

■市民メディアとは? 海外の潮流と日本の現状

 「市民メディア」の定義は専門家の間でも定まっていないが、一般的には既存のマスメディアに対して、メディア産業に携わっていない一般市民が情報発信をする行為を指し、市民が作り手の側として参加しているメディアを総称して「市民メディア」と呼んでいる。ケーブルテレビの加入率が全世帯のほぼ70%を占めるアメリカでは、市民が自分で作った番組をケーブルテレビ網に載せて放送できる「パブリック・アクセスチャンネル」が法的に定められていて、全国約700のケーブルテレビ局でこの制度が実施されている。ヨーロッパでも古くから市民メディアが浸透しており、ドイツでは、市民が持ち込んだ番組を局側が制作に関与せずに非営利の概念で放映する「オープン・チャンネル」の制度が盛んで、その数は全国で約70カ所、番組数は蓄積で50万本以上、放送時間は年間にして約50,000時間にものぼる。また、放送業務の認可に厳しいフランスでも市民団体の放送を既に複数認可しており、パリでは現在6局の自由テレビが地上波放送を開始している。
 日本でも鳥取県米子市のケーブルテレビで地域コンテンツを配信している「中海テレビ」が、1992年に日本で初の「パブリック・アクセス・チャンネル」を設置。市民が企画・撮影・編集した映像コンテンツを放送して地域性の強い個性的な番組編成を実現し、市民メディアのエポック的存在として注目された。

市民メディアサミット06公式サイト 中海テレビ

■参加団体37、セッション数43。過去最大の規模と注目度

 2004年1月、名古屋市で「第1回市民メディア全国交流集会」が開催され、続いて10月には米子市(鳥取県)で第2回が、翌2005年9月には山江村(熊本県)で第3回が開催された。市民メディア活動をしている団体などと共に、既存のテレビ放送局やCATV局などメディア関係者が毎回200名以上参加し、活動事例の報告などを通して情報交換を行ってきている。
 4回目となる今回のサミットは、「協働」の先進と言われ、国際的な映像文化都市を目指しメディア戦略にも力を入れている港町・横浜での開催。参加団体は、全国の市民放送局、ラジオ局、地域ポータルサイトなど37団体、テーマごとに分かれ講演やシンポジウムを行う「セッション」の数は43、サミットを支えるスタッフとボランティアの数は60人と、どれも過去最大となる。また、メイン会場の横浜市開港記念会館は国の重要文化財に指定されている歴史的建築物。ここを3日間全て貸し切り開催することで、主催する意気込みを強いメッセージとして全国へ発信する。

横浜市開港記念会館

 今回のテーマは「市民メディアは社会をつなぐ」。実行委員長を務める和田昌樹さんは、出版社を定年前に退職後、横浜初のインターネットラジオ局「ポートサイド・ステーション」を設立し、市民メディアとして独自の情報発信を実践している。普段は桜美林大学で助教授を務める傍ら、横浜市中区のスタジオでラジオ番組の企画・制作もしている。「セッションは過去最高の43にまでなり、多様な議論が期待される。全国でネットを通して情報発信している人達は、いま様々な問題を抱えている。これについて、それぞれの環境で異なる体験を持つ人々が集まり、意見をぶつけ、その結果新しい知識である『集合知』を得ることが大事だ」と、サミットの意義について語る。
 また、事務局長の原聡一郎さんは、「過去3回の交流集会で、市民メディアの担い手や関心ある人が、それぞれの活動内容や人柄などを、お互いに知るようになった。市民メディアに関心がある人たちのネットワークは、全国各地に広がっている」ことを強調する。

ポートサイド・ステーション

 サミット開催が近づくにつれ、開幕前から問合せが相次いている注目「セッション」もある。8日に行われる「市民メディアと著作権」と題したシンポジウムでは、「日本音楽著作権協会」や大手広告代理店「電通」等の著作権問題の専門家が、近年注目度が高い「著作物に係る拒否権」という分野に焦点をあて、実例を挙げて検証しながら業界の動向を探る。9日の公開セミナー「いま始まった日本での試み」では、2000年2月に韓国で誕生、現在約41,000人の市民記者が登録し、毎日約250本の記事が掲載されるWebサイト「オーマイニュース」のオ・ヨンホ代表が、市民記者制度の可能性や韓国での成功実例や日本での展開について語る。さらに同日のパネルセッション「市民メディアは社会をつなぐ?」では、元TBS社員で現在は市民メディア・アドバイザーとして活躍する下村健一さんをコーディネーターに招き、地域で実際に市民メディアに携わっているパネリスト達と、今後の市民メディアの展望について討論する。

OhmyNews:オーマイニュース ~市民みんなが記者だ~

 今回のサミットではこうしたセッション以外にも、参加者同士のつながりを重視した飲食を交えた交流の場を多く設けているのが特徴。8日にはバーベキュー大会や「Welcome Bar in ZAIM」、9日はさらに規模を大きくした交流会を行うほか、同日夜には、音楽の中冨雅之さんとDJ.hallelujah、照明/ 光アーティスト伊地知完さんのユニットによる「Club in ZAIM」などのイベントも行い、若年層へもサミットの存在を強くアピールする。「飲食を共にしながら夜の深けるまで、じっくりと語らう場(公式HPより)」を豊富に設けることで、サミットの本来の目的である関係者同士の直接的な接触を実現するのが狙いだ。

 一方、サミットの開催を前にプレ・イベントも積極的に行われてきた。8月13日には和田実行委員長が、「ポートサイド・ステーション」で「ポッド・キャスティング講座」を開き、20日には、2002年にスタートした日本初の本格的インターネット新聞「JANJAN(ジャンジャン)」の竹内謙代表が、KGU関内メディアセンターのPC教室を会場に「市民記者実践講座」を開催し、市民40数人に市民記者に必要な目線や技術を、「JANJAN」の豊富な記事の事例を紹介しながら講義した。

交流バーベQ 市民メディアサミット「サポーターズブログ」 市民メディアサミット06 特別企画 "中冨雅之 Club n ZAIM" JANJAN(ジャンジャン)

■地域で動き始めた参加型サイト ~横浜の取組みは?

  8月28日には、編集長に鳥越俊太郎さんを迎え「市民みんなが記者」をコンセプトに「誰もがニュースを書くことができ、発信することができる」ニュースサイト「オーマイニュース」がスタートした。鳥越さんはサイトと連携するブログの中で「新しいメディアに関わることになり、私の目の前には新しい世界が広がっている。市民が参加することが成功の鍵」として市民記者への参加を呼びかけている。今年は「市民メディア」や「市民記者」「市民リポーター」などのキーワードが広く一般に伝わる年になるだろう。
 一方、開催都市である横浜は「市民メディア」の分野でどんな取組みが進行中なのだろうか。横浜市は、市民と行政が課題解決に向けて協力しあうことで質の高いサービスの実現を目指す「市民との協働」を行政運営の柱の一つとして位置づけている。
 「協働」により市民が公共の事業に直接触れることで地域の課題や行政の仕組みを理解し、まちづくりに主体的に取り組む空気が生まれると共に、一般市民からの密な情報のフィードバックを通して、市職員の意識も同時に高めることができる。「協働レポーター制度」は、その市民と市職員が共に「市民記者」となって連携する「協働」の取り組みの一つでもあり、2005年度から始まり、昨年度は10件の事業をレポートした。

協働レポーター制度

 青葉区では、青葉区役所と区民が、ネット上に区民向けポータル(玄関)サイト「あおばみん」を運営している。区の最新ニュースや地域情報が閲覧できる一般サービスのほか、市民団体や個人がユーザー登録をすれば無料でホームページを作成できるのが特徴。サイトの使用方法に関する講習会を開くなど積極的に普及促進を図った結果、今では登録団体数150、PV実績も一日平均400アクセスにまでなり、地域の情報交換の場として定着しつつある。また都築区でも、区のHP内にあった区民参加型のコーナー「都筑の魅力探検隊」をさらに発展させ、やはり区と区民の「協働」による情報交換のためのWebサイト「つづき交流ステーション」を2004年10月から開始している。区からの補助金を主な予算源としながら企画から運営までを区民が中心となって行っている。

あおばみん つづき交流ステーション

■課題と展望。 市民メディアが構築する新たな社会像

 市民メディアが社会へ浸透する中で、問題点も指摘されている。既存メディアが取材、編集、情報、執筆などに充分なスキルを持つ一方、市民メディアにはその蓄積が不足していることは否めない。ニュース作成のための基本的技術が不足すれば、それはそのまま情報自体への信頼を揺るがす事にも繋がりかねない。また、全ての人が自由に情報発信できるネット媒体のシステムは、自由であるがゆえのモラル・ハザードも起こりがちである。従来の一方通行型のメディア運営と比べると、市民メディアの運営者には、ある関心事を共有する人たちの「表現と交流の場」として「オンライン・コミュニティ」を運営していくのだという、新しい発想とスキルが必要とされるのだ。
 横浜市の「協働レポーター制度」で実際に取材にあたった市内在住の岡角ますとさんは、「取材対象は一つであっても、取材する記者の立場によって見方が変わってしまう。表現の難しさを痛感した」と、記者としての軸足をどこへ置くか、その難しさを実感しているという。
 メディアという言葉が「マスメディア」や「マスコミ」と同義語で使われた時代が終わり、情報が大手マスコミの独占商品ではなくなりつつある中で、送り手のスキルアップと共に、受ける側の情報を評価・識別する能力「メディアリテラシー」の向上も同時に求められているのである。                                     カレーランチ・ミーティング                                    8月28日には、サミット実行委員7名と横浜市長との「カレーランチ・ミーティング」が行われた。中田市長は「ネットメディアには大きな意味での『構想力』やモラルが必要。そのモデルを(サミットにより)作ってほしい。」として、期待感を語った。委員会メンバー達は市長に対し「ブログやポッドキャスティングなど、誰もが手軽にメディアを作ることができるようになった。『つなぐ』をキーワードに、これからの『市民メディア』がとるべき方向性を探る今回の交流集会は、全国の実践者や研究者などが全国から横浜に集まるいい機会。交流の輪を拡げていきたい。」などと抱負を述べた。

カレーランチ・ミーティング

  

■市民の情報発信により社会の『共有財』を蓄積する「市民メディア」

 ここ数年で、ブログやポッドキャスティング等の「WEB2.0」系と言われる新しいツールが普及し始めている。新しい情報技術は、市民にとって役に立つ地域の情報を編集し、地域社会の新しい「共有財」としてローコストに蓄積する仕組みづくりを可能にした。また、市民達の生活目線が生み出すきめ細かい、顔の見える情報の提供や共有の仕組みとしてSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サイト)が果たす効果にも注目が集まっている。全国各地でNPO、公益団体、企業、自治体などによる地域型SNSやテーマ型SNSがここ数ヶ月で急増している。今後は、市民メディアが、地域SNSや既存メディア、行政の広報システムなどと連携していくことも期待される。

 急速に進化する情報技術。メディア運営のツールや環境が整備されても、それによって誰に何を伝え、何をするのかが明確でなければそれはメディアとしては未成熟だ。「つなぐ」をキーワードに、これからの「市民メディア」がとるべき方向性を探る今回の交流集会で行われる43のセッションや、さまざまな交流プログラムがどんな具体策を提示できるか、技術の実践者達の新たな出会いがどんな化学反応を起こすのか。4度目を迎える交流集会への期待は大きい。
 市民メディアが今まで以上に浸透し、多様な情報発信が可能になり、誰もが自分の知りたい情報に容易にアクセスできる状態になったとき、新たな価値観の中で今までとは異なる社会像が見えてくるだろう。

 

 

浮島さとし+ヨコハマ経済新聞編集部

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