特集

キーワードはネットワークと異業種交流。
クリエイターとビジネスを結ぶ横浜の動き

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■クリエイティブシティ・ヨコハマのビジョンとは

文化芸術の「創造性」こそが都市の未来を拓くという考えのもと、「文化芸術創造都市-クリエイティブシティ・ヨコハマ」を都心部の活性化の施策に掲げている横浜市。この構想は、2004年1月に「文化芸術・観光振興による都心部活性化検討委員会」が中田宏横浜市長に提出した提言に基づいて推進されているものだ。同委員会は東京大学助教授の北沢猛氏を委員長に、2002年に結成されたもので、7回の検討委員会を通して討議された内容を提言として取りまとめた。戦略プロジェクトである「クリエイティブ・コア-創造界隈形成」、「映像文化都市」、「ナショナルアートパーク」などの構想に加え、具体的な数値目標として、2008年までに都心部に居住するアーティスト・クリエイターを5,000人(2004年当時:3,071人)に、都心部に就業する創造的産業従業者数を30,000人(2004年当時:15,730人)に、都心部における文化・観光集客装置を100ヶ所(2004年当時:85ヶ所)に、市が主催・共催する文化芸術イベントの鑑賞者を350万人(2004年当時:248万人)に増やすことが提言された。これらの目標を達成できるかどうかは、ヨコハマをアーティストやクリエイターにとっていかに魅力的な街にできるかにかかっていると言えるだろう。

横浜市経済局 記者発表資料 「文化芸術創造都市-クリエイティブシティ・ヨコハマ」の形成を提言
「クリエイティブシティ・ヨコハマ」を掲げる横浜市

■横浜青年会議所がクリエイターとの協働をスタート

そんななか、2005年度社団法人横浜青年会議所(理事長:黒川勝氏)はクリエイティブにより魅力ある文化を創造することをミッションとする「魅力ある横浜文化創造委員会」を平成16年度に発足した。同委員会は昨年末にNPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボに相談を持ちかけ、魅力ある文化を創造のために何を行っていくべきか討議を重ね、その最初の取り組みとして今年2月10日に国際客船ターミナル大さん橋ホールにて開催される横浜青年会議所の公開例会の運営をクリエイターの力を借りて行うことを決議した。通常は横浜青年会議所のメンバーのみで行っている例会の運営にクリエイターが参加して映像や音楽を活用した演出を行うこと、またクリエイターの活動を紹介することで、クリエイターの力をまちづくりに活用していく意識を醸成することが目的だ。同委員会委員長の年友貴志氏、副委員長の関大介氏、フリーのアートディレクターの橋本誠氏を中心に、委員会メンバーとクリエイターたちが協議を重ねた。

社団法人横浜青年会議所 NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ

当日は例会の開始1時間前の18時から映像と音楽による空間演出をスタート、会場には座席を囲むように配置された20面の半透明のスクリーンに映像が投影され、例会に参加した横浜青年会議所メンバー240名、一般人約100名を幻想的な雰囲気雰囲で迎えた。横浜をテーマに撮影したフォトグラファーたちの写真のスライドショーや、DJ、VJによるパフォーマンス、開会間近になるとビジュアル+空間アーティストのmichi(ミチ)氏、音楽家のmjuc(ミューク)氏による空間演出ライブが行われた。19時から横浜青年会議所理事長の黒川勝氏の挨拶で例会が始まり、通常の例会が進行したあと、クリエイターの活動紹介としてNPO法人横浜アートプロジェクト代表の榎田竜路氏が自身の活動のプレゼンテーション、またデジタルキャンプ!代表の渡部健司氏が横浜の開港の歴史と現在の魅力をCGを活用して表現した映像作品「Rise in the World!」を上映した。その後、横浜市映像文化都市懇話会委員でもあるクリーク・アンド・リバー社 代表取締役社長の井川幸広氏が、クリエイターを支援する同社の起業体験をもとに、横浜での文化芸術都市創造のあり方について基調講演を行った。

michi mjuc NPO法人横浜アートプロジェクト デジタルキャンプ! 株式会社クリーク・アンド・リバー 横浜市、第1回「映像文化都市懇話会」開催

地元の企業人で構成される青年会議所メンバーと、フリーとして活動している人が多いクリエイターでは、仕事や普段の生活での常識が異なる部分も多いため、協働によって互いに学ぶことが多い。クリエイターは組織として動く企業人の仕事のやり方を学び、社会との接点を広げる。青年会議所メンバーはクリエイターの力を知り、そのクリエイティビティーに刺激される。イベントの運営を通して両者が協働し、対話を重ねて互いを理解していくという作業自体が両者の意識を高めるものであると言えるだろう。クリエイターの力を借りてこれまでにない例会を作り上げた「魅力ある横浜文化創造委員会」は、今後もクリエイターとの対話と協働を重ね、さらなる展開を進めていくという。

NPO法人横浜アートプロジェクト理事長の榎田竜路氏とデジタルキャンプ!代表の渡部健司氏 横浜青年会議所メンバーとクリエイターがミーティングを重ねる michi氏、mjuc氏によるライブパフォーマンス 横浜青年会議所理事長の黒川勝氏 クリーク・アンド・リバー社 代表取締役社長の井川幸広氏の講演 クリエイターとの協働により、これまでにない例会となった

■創発的な場をつくる「クリエイティブBiz ヨコハマ フォーラム」開催

3月15日、関東経済産業局 首都圏情報ベンチャーフォーラムはNPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボとともに、BankART1929 YokohamaとBankART Studio NYKの2会場にて交流サロン「クリエイティブBiz ヨコハマ フォーラム 人・地域・企業の有機的交差が生む創造産業都市・横浜」を開催する。同フォーラムは、現在注目の21の企業・団体が一堂に会し、4つのエリアで8のクリエイティブ・セッションをする分科会、全体トークセッション、交流会の3部構成で開催し、多種多様な個性と技の交流を促進し、横浜で智の産業創出をめざすもの。

関東経済産業局 首都圏情報ベンチャーフォーラム

企画制作は智財創造ラボが行い、多種多様な企業・団体をコーディネートした。BankART 1929 Yokohamaで開催される分科会のAREA1はテーマを「インフラ・ネットワーク・コミュニティ構築」とし、コーディネーターをユーファクトリー株式会社代表のヒラヤマユウジ氏が、AREA2はテーマを「地域におけるクリエイティブ・リソースの発掘と活性化」とし、コーディネーターを株式会社YSB代表の舟生俊博氏が、AREA3はテーマを「新たなビジネス連鎖を生む情報デザインとは」とし、コーディネーターを智財創造ラボ主任研究員の渡辺保史氏と杉浦裕樹氏が、AREA4はテーマを「民間主導による新たなソーシャル・システム」とし、コーディネーターを株式会社ソシオエンジン・アソシエイツ代表の町野弘明氏とD4DR株式会社コンサルタントの花田卓也氏が務める。4つの部屋でそれぞれの分科会が同時に行われ、参加者はそれぞれ好きな分科会を聞くことができるというスタイルだ。

智財創造ラボ ユーファクトリー株式会社 株式会社YSB 株式会社ソシオエンジン・アソシエイツ D4DR株式会社

分科会の後は、全体会として関東経済産業局、横浜市、起業家、第一線のクリエーターを交えての2つのトークセッション「横浜のクリエイティブ戦略─起業・創業の場としての横浜」(仮)、「クリエイティブBizにおける横浜のポテンシャル」が開催される。その後、アート展覧会「食と現代美術」展、「Evolution Cafe」展、「Reading Room」展の最終日を迎えるBankART studio NYKに会場を移し、アート作品の中で企業家とクリエイター・アーティストが集う交流会を開催する。「クリエイティブ・コア」と呼ばれる場所で、クリエイターとビジネスの新たな可能性を開く同フォーラムにも注目だ。

BankART1929 『クリエイティブBiz ヨコハマ フォーラム』3月15日(火)開催決定!
BankART1929 Yokohama BankART Studio NYK

■パートナーネットワークで異業種の繋がりを作る「ジョイントワークス」

「クリエイティブBiz ヨコハマ フォーラム」でコーディネーターを務めるヒラヤマユウジ氏は、2005年春に新たなるデジタルコンテンツネットワーク「ジョイントワークス」を横浜から立ち上げる。「ジョイントワークス」は、デジタルコンテンツの制作に携わる企業・SOHOをはじめ、その業務をサポートするデザイナー、イラストレーターなど様々なクリエイターによるネットワークだ。理事長にユーファクトリー株式会社代表のヒラヤマユウジ氏、副理事に株式会社六面堂代表の鈴木拓也氏、事務局長に有限会社ジョイントクリエイツ代表の高野竹正氏が就任、3社が協力して「地元」ヨコハマからスタート。業務は、コンテンツ制作に携わる企業・SOHO・クリエイターの会員制ネットワーク、コンテンツ会社とSOHO&クリエイターのパートナーネットワーク形成、そして日本の中小企業が苦手とするセールスプロモーションのサポート。会員にはコンテンツ業界における動向の情報・技術情報の提供や、会員出展または協力による展示会やイベントの開催、会員への業務発注、メーリングリストなどを行う。一般企業、クライアントに向けては、会員企業及びJWのセールスプロモーション・営業、デジタルコンテンツ・IT技術導入に関するコンサルティング、説明会・講演の開催・業務の受注等を行っていく。

ヒラヤマユウジ公式サイト VARIATION 株式会社六面堂

発足の経緯についてヒラヤマ氏は「自身がITクラスターに関わった際、他の都市と比べ横浜にはコンテンツ産業が少ないと感じた。今後ITを高めて行くためにはコンテンツ産業が育っていく必要がある。しかし現状は、中小企業が大手企業の特定の工場になっていたり、良い技術があってもコミュニケーション能力・売りこみ能力不足によりうまくPR出来ずにいるケースが多々ある。ジョイントワークスではそうした企業に対し、代わりにセールスプロモーションを行うことで、サポートをしていく。ネットワークが薄いというコンテンツ産業の弱点も、会員制、パートナーネットワーク形成をする事で解消していく。また、個々で活動するクリエイターの達が、受注をメディアに求めた際、クライアントと結びつける線を作り、異産業同志が手を繋いで新しいものを産み出す、そういった場でありたい」と語った。告知、会員の募集は詳細を発表する「クリエイティブBiz ヨコハマ フォーラム」から開始予定で、その他にも雑誌や放送、Webを連動させたメディア・ミックスによるプロジェクトを企画中だという。

ユーファクトリー株式会社代表のヒラヤマユウジ氏 ヒラヤマユウジ氏によるイラストレーション 漫画「我輩はマックである」

■ヒラヤマユウジ氏が語る、創造環境としてのヨコハマ

ヒラヤマ氏は、自身も横浜で活動する「デジタルクリエイター」だ。『ぴあ』、『とらばーゆ』、『Mac Fan』等、雑誌のイラストレーシ ョンやアートディレクター、デザイナーとして活躍、これまでに様々な賞を受賞している。『Mac Fan Beginners』では漫画「我輩はマックである」を約8年間に渡り連載。過去には雑誌の映画評論やデジタルアートのhow to記事を書き、現在も トップ堂(エイ出版社刊)にて連載をかかるなど、多彩な顔を持つ。一方、自分の創る世界をアニメーションやゲームにして動かしたいと1997年に立ち上げたデジタルコンテンツ制作会社「ユーファクトリー」の経営者でもある。同社では、学研マルチメディア図鑑を始め、ベネッセコーポレーション・ヤマハなど、教育関係のデジタルコンテンツの制作に多く携わってきた。「ファミマ・ドット・コム」、「Tsutaya Cinema Handbook」などのディレクション・制作に携わった事から、プロデューサー的要素をもつクリエイターとしても活動を始め、2002年からは海外のク リエイター達とファッションブランド「Groovyk」を立ち上げた。今後は海外のクリエイター達とのミックスカルチャーによる展開を目指している。また、2004年12月に横浜情報文化センターにて開催された「デジコンフェスタ横浜」では実行委員長を務め、自身がそうであるように「プロデューサーであり、クリエイターでもある人物育成の重要性」を訴え、横浜におけるIT産業の発展のベースともなる、若きクリエイターの育成 にも力を注いでいる。

Groovyk JAPAN ヨコハマから新たなクリエイターを発掘! 参加型ITイベント「デジコンフェスタ横浜」

横浜を活動拠点とし、様々な横浜でのクリエイティブシーン、IT関係にも携わってきた同氏は、約9年前に横浜市経済局のIT産業研究会の委員として参加したことをきっかけに、NPO法人横浜コンテンツネットワークの理事に就任。WEBを中心に「横浜市観光情報サイト」「ヨコハマ仕事ねっと」「横浜開港150周年記念事業」「横浜フィルムコミッション」などの制作やアートディレクションをおこなってきた。ヒラヤマ氏は横浜でクリエイターとして活動を始めて約10年になるという。何故東京ではなく、横浜という土地で活動しているかについて、ヒラヤマ氏はこう語る。「多くのクリエイター仲間は東京をベースに仕事をしている。都内を拠点に仕事をしていれば、今より楽に仕事がとれ、大きな仕事に携わることもあったかもしれない。しかし空気の汚さや交通渋滞、人の多さなど、仕事や生活の環境として都内は考えられない。もともと、出身地が保土ヶ谷という事もあり、とにかく横浜が好き、という地元愛も要因の一つ」。ヒラヤマ氏の経営する「ユーファクトリー」はたまプラーザにあり、現在もたまプラーザを拠点に活動しているが、今後は横浜都心臨海部、関内に第2の拠点を作る事も計画しているのだとか。

NPO法人横浜コンテンツネットワーク

また、ヒラヤマ氏は「ヨコハマは東京からのほど良い距離があり、自然環境に恵まれている。関内・山下・本牧エリアなどはクリエイターが何かを創作するためには新旧様々な文化が混ざりとても面白い場所だ」とも語る。クリエイターとして活動していく中で、仕事をする環境は重要と言えるだろう。発想力・創造力が求められる仕事だけに、刺激を受ける場と同時に集中力や静かさ等の環境も必要となってくる。そういった条件を一度に満たす場所がヨコハマなのだという。山下公園付近は海に囲まれた環境があり、少し行けば開発の進むみなとみらい地区もある。山手地区には外国人居留地として栄えた当時の面影が残り、関内エリアには、開港時代から昭和初期にかけての史跡や建造物が今も利用されている。異文化とも言える中華街も、同じ関内~元町エリアに存在するなど、ヨコハマは、一つのエリアの中に、新旧・異国の文化の入り混じった要素を多数抱えている。これはヨコハマ特有のものと言えるだろう。そんなヨコハマが、クリエイティブな仕事に携わる人間に、自然とインスピレーションを与えているのかもしれない。

ヨコハマ特有の環境に惚れ込んで集まってくるクリエイターに異産業を結び付け、彼らを支援していく民・官の取り組み。様々な側面から「クリエイティブ・シティ・ヨコハマ」の熱が今、徐々に高まりつつある。また、単にアーティストを育てるというだけではなく、ITという「産業」を支援し、異なった業種が互いに交流しあうことで、ヨコハマそのものを活性化していこうとする、大きな動きも感じられる。異業種交流の新たなネットワークにより、凝り固まった視野から開放されて互いに刺激を与え合い、今までにない新たなるクリエイティブ&ビジネスシーンを創造していくこの動きに期待していきたい。

ヒラヤマユウジ氏による表紙のイラストレーション ヒラヤマユウジ氏による表紙のイラストレーション 第3回デジコンフェスタ横浜で横浜市長賞(グランプリ)を獲得した山本聰氏の作品 静止画コンテンツ部門優秀賞の楠本茂克氏の作品
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