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横浜港を母港とするクルーズ船「ロイヤルウイング」が5月14日に、ファイナルクルーズを開催、最終運航となった。ファイナルクルーズには217人が乗船。乗船から下船までの模様と乗船客の思いを追った。
5月14日、天候はやや小雨。横浜を母港とする、国内では現役最古のレストラン船「ロイヤルウイング」の引退前の最後の運航の日。
チケット売り場
予約客で満席。販売初日でほぼ完売だったという
客船ターミナルでは、ロイヤルウイング写真展も開催されていた。
写真の向こうにはロイヤルウイングの姿
船首には「ロイヤルウイング」の文字
乗船場所に最初に訪れたのは、横浜市戸塚区在住のピアニスト・植島呂美(ろみ)さんと、マネージャーの松崎優子さん、中区の画家・髙島恵さん。
植島さんはロイヤルウイングの乗船回数は315回で、最多乗船者だという。松崎さんが120回乗船、髙島さんも100回乗船と、猛者揃い。
13時30分ごろから待っていたそう。乗船開始は16時
航路
乗船ゲートをくぐった先では船と共に記念撮影をしたり、船の姿をカメラに収めたり。
記念撮影の行列
記念撮影 横須賀から来た親子、初乗船という
16時30分からは、船上で出港セレモニーが開催された。
司会はTVKアナウンサーの岡村帆奈美さん。「1960年の竣工から60年、現在のロイヤルウイングとして22年。このクルーズが、ロイヤルウイング最後のクルーズ」と説明。
続いて、鳴鬼敏文船長が登壇。「最後のクルーズに立ち会ったことを思い出していただけるとうれしい限り。ファイナルクルーズ、ぜひ楽しんで」と呼び掛け、乾杯の発声。「ロイヤルウイング最後のクルーズに向けて乾杯!」
鳴鬼敏文船長
出航にあわせ、乗船客皆で、バルーンのリリースとクラッカーを鳴らした。天候は小雨で、予定されていた「紙テープ」は水に溶けてしまうため、クラッカーに変更になっていた。
空に上がるバルーン
みなとみらいの空に飛んでいく
大さん橋から見守る人たち
17時の出航にあわせ、周辺の船とは汽笛の交換が行われた。
帆船日本丸が見送りの汽笛を一声。その後、ロイヤルウイング出航の長音3声。出航後には氷川丸から答礼汽笛が3声。それに応え、ロイヤルウイングも3声の汽笛。クルーズ中もマリンルージュのクルーズ船が「おつかれさま」の意を込めて汽笛を鳴らした。
「汽笛の交換」は横浜港が発祥ともいわれる。
併せて、マリンタワーとハンマーヘッドもロイヤルウイングにあわせたブルーに、日没後特別ライトアップを行った。
消防船からは放水。ロイヤルウイングは汽笛で応答
ロイヤルウイングから眺めるみなとみらい
ロビーではピアノとフルートの演奏で乗船客をお出迎え
レストランのテーブル席の様子
窓からは放水船の様子も見えた
中華料理がズラッと並んだ豪華なビュッフェ。
エビチリは人気のメニュー
どれも美味しかったと乗船客から好評
船の規模を感じる長い通路 総トン数=2,872トン、全長=86.7メートル、全幅=13.4メートル
ロイヤルウイングの旧船名は「くれない丸」
1960(昭和35)年に関西汽船の「くれない丸」として運航開始し、1989(平成元)年から、横浜港大さん橋を母港にしている。
恋人の聖地としても有名だったロイヤルウイング
夜はライトアップされるデッキのハートマーク
ロイヤルウイングで式を挙げた人たちの名前が刻まれたプレート
愛してくれてありがとう
セレモニーや、汽笛の交換など、ここまでの様子を動画にまとめた。
ロビー下の階「カトレヤ」の特設会場ではマジック、バルーンアート、くじ引き、写真撮影、写真展が開催されていた。また「カトレア」へ向かう階段の壁にはスタッフのメッセージが飾られていた。
カトレアでのイベントの様子
くじ引きで当たった練馬区在住の日向さん 母の日も兼ねて家族4人で乗船
スタッフによるバルーンアート
カトレヤには、大さん橋の写真展会場で、来客が多くのメッセージを寄せたボードも船内に運ばれていた。
ボード前で撮影する東京都大田区の佐野憲史さん「船が橫浜から離れるのを見届けたい」
船内では船長や副船長も気さくに写真撮影に応じていた
最終日専用のメッセージボードも設置され、乗船客たちはさまざまな形でお礼を表現していた。
メッセージボードにロイヤルウイングへの想いを書く乗船客
思い出の写真も数多く展示
カトレアへ向かう階段で 船長と料理長からのメッセージ
ゲストサービスチーム長のメッセージ
乗船客に船との思い出や、今の気持ちを尋ねた。
58年前の5月14日に結婚して、ロイヤルウイングに乗ったと話すのは久保武雄・泰子夫婦。娘・明美さんと3人で乗船。
58年前の5月14日に結婚、東京で結婚式を挙げた
武雄さんの実家でも結婚式を挙げるため、くれない丸で佐賀へ。泰子さんは当時の思い出を「とにかく天気が良くて、幸せな気持ちでいっぱいだった」と話す。
「両親の新婚の思い出の船、一緒に乗船でき最高の思い出になった」という明美さん(左)
神奈川区在住の成見馨子さんは「小学生のころ、両親の結婚記念日にロイヤルウイングに乗った思い出があった」と話す。「今日乗船して、自分でも驚くほどその時の記憶が鮮明に浮かびました。急なデッキの階段、家族4人で食事したときに横にあった白いグランドピアノ、船での食事に感激したことなど」と思い出を振り返る。
夫の慶さんは初乗船、「中華バイキングもどれも美味しかった」と笑顔を見せた。
「自宅から毎日ロイヤルウイングが見えた」という成見夫妻
自作したロイヤルウイングの模型を持参したのは、日本大学大学院・芸術研究科の梅村建太郎さん。船長に模型を披露し、一緒に写真撮影をしていた。
「手元にロイヤルウイングの形を残しておきたかった」
東京都東村山市在住の船舶イラストレーター中村辰美さんは、自身が描いた作品を持参して乗船。「ロイヤルウイングは形が素晴らしく、船好きにとって魅力的。くれない丸から63年の歴史を持つロイヤルウイングは特別。中華料理を提供するレストラン船も珍しい」と話す。
ロイヤルウイング乗船暦は40回、船舶イラストレーターの中村さん
「ロイヤルウイングのためにおしゃれをしようと思った」と話すのは、白いドレスをまとった横浜市在住の野村一紅(いっこう)さん。
歴史研究家の野村さん「さまざまな船に乗るきっかけになったのがこの船」
乗船歴は20年ほど。船の中では「国旗がはためく場所からみる船の波の軌跡が好き」という。「『紅』が自分の名前にもついているので元『くれない丸』に親近感を覚えた。この船がどうなるかわからないが、どこかでまた新しい船の歴史を重ねるようなら追いかけたい」とも
野村さんが撮影した夜のロイヤルウイング「晴れている日に撮りました」
ロイヤルウイングのマーケティング&プロモーションチームの石井義幸さんは、最終便に自らはスタッフとして乗船、家族を乗客として迎えた。「ファイナルクルーズで寂しさも感じつつ、多くの人に来てもらえて嬉しい。レストラン船に携わることができたことに誇りを持ち、今後も関わり続けたいと思っています。お客様が笑顔で帰ってくれることが喜びで、この仕事での魅力」と話す。
ロイヤルウイングに関わって35年になるという石井さんと家族
ロビーでスタッフと親しそうに談笑していたのは戸塚区の伊藤誠さん。
「年間パスポートでいつも利用してくださっています」
抽選で当たって初乗船したのは十数年前。天候が悪く船がよく揺れたが「揺れてごめんなさい」と当時のスタッフから笑顔で差し出しトランプを引いた。トランプを裏返したら、スタッフの名前が書かれた名刺だった。以来、ロイヤルウイングのとりこに。
乗船でもらった誕生日カードを大切に保管
「下船時に、今度は僕の方からカードを置いていこうと思っているんです」
「また会えると信じているから、さよならは言わずにおこうと思っています」と伊藤さん。
船長は客席を回り、多くの人たちと会話を交わしていた。300回を超える最多乗船客の植島さんたちとは、船長の好きなアイドルのボーズをとったり、旧友のような雰囲気だった。
300回乗船時は操舵室で記念撮影(写真=本人提供)
船内の様子を動画でまとめた。
船が港に近づいてきた
217人の乗船客の思いを乗せて、船は19時30分に大さん橋に着岸。
帰港セレモニーでは、船長、服成長、機関長、料理長の4人が、最後のあいさつ。
小雨の中、帰還セレモニー 右から、鳴鬼船長、杉村副船長、石井機関長、雲井料理長
鳴鬼船長「乗船中はさまざまな運航状況を判断、対応し船の安全運航を第一に心がけてまいりました。そして、無事今日という日を迎えることができました。皆様本当に、ありがとうございました」
杉村副船長「スタッフ一同、常にお客様の安全と満足度の向上のため、精いっぱい頑張ってきました。皆様最後までありがとうございました」
石井機関長「皆様本日はファイナルクルーズご乗船をありがとうございます。私たち機関部は主にメインエンジン発電機の運用において、安全運航の寄与をしてまいりました。また、63年の間、安全運航を継続できたのは、ロイヤルウイングに関わっていただいた皆様のお力添えがあったからこそだと確信しております。皆様本当にありがとうございました」
雲井料理長「ロイヤルウイングはレストラン船として今までやってきました。そして最後の一言に言わせていただいたのは、本当に、沢山のお客様、そして沢山の関係者の皆様、そして船のスタッフの皆様、最後に本当に皆さんありがとうございました」
異口同音に心からの感謝を口にした4人に、乗船客から花束が贈られた。
乗船客を代表して花束贈呈
一緒に写真を
「本当にこれで最後なんですけれどもこの後ろにある偉大な船・ロイヤルウイングに私も従業員も一緒に皆様とお礼をしたいと思います。63年という長きにわたり私たちを含め、数多くの人たちに幸福と笑顔を与えてくれて、本当にありがとうございました」
ロイヤルウイングに向かって、従業員一同で礼
ロイヤルウイングは約14秒にわたる、長い汽笛で、これに答えた。
乗船客と従業員全員で記念撮影
撮影を追えたあとも、船長やスタッフに声をかける乗船客はしばらく途絶えなかった。
乗船客を見送る船長ら
見送りを終えた従業員ら
帰港セレモニーの様子を動画でまとめた。船長らのあいさつはノーカット、長い汽笛が深く届く。
ロイヤルウイングのウェブサイトではクルーズ情報などこれまでのクルーズ情報のページにはアクセスができなくなった。代わりに休止のお知らせと、永年の愛顧への感謝、そして「現行本船の代替新造船建造を計画いたしております」とアナウンスが出ている。
関係者によると、新造船での運航再開は2025年春ごろだという。
また会う日まで
編集後記
現役最古のレストラン船の引退。63年という歴史の幕を閉じるとあり、船への思いを持つ乗船客も少なくなかったが、船とあわせ、人、乗務員への思いを話す人が多かったのが印象的だった。ファイナルクルーズだが涙はなく、笑顔がよく見られ、これまでのロイヤルウイングで重ねた楽しさが結晶化していたようなクルーズだった。運航再開での再会が待ち遠しい。
紀あさ+譲原亜矢子+ヨコハマ経済新聞編集部