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特集

「誰一人取り残さない」に向き合って~SDGs小論文コンテスト 
野毛坂グローカル 奥井利幸代表に聞く

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 持続可能な開発目標(SDGs)への関心が高まっている。メディアが取り上げることも増え、企業の取り組みも活発化、横浜市はSDGs未来都市を都市づくりの目標に掲げている。こうした中、多文化共生を掲げてさまざまな活動に取り組む横浜市西区のNPO「野毛坂グローカル」が、25歳以下の若い世代を対象にした「第2回 SDGs『誰ひとり取り残さない』小論文コンテスト」を実施している(2021年6月30日締切)。コンテストの意義や成果、「誰一人取り残さない」への思いなどを、同団体の代表、奥井利幸さんに聞いた。

学生支援と「一律配布」への反発が生んだ企画

―――まずは2020年に第1回のSDGs小論文コンテストを開催しようと思ったきっかけを教えてください。

 昨年、新型コロナウイルス感染症によって、世の中がごちゃごちゃになりました。その中でSDGs小論文コンテストの実施を思いついたきっかけは2つあります。

 1つは、学生がアルバイトがなくなって困っているというニュースでした。もう1つは、特別定額給付金として、すべての人に10万円が、一律に配られるということでした。様々な意見があると思いますが、個人的には、この「一律に配布」には微妙な思いもあったので、その10万円を有効に使いたいということから、学生に1人5,000円でも渡せたら、と考えました。せっかくなら、私の大切にしているところを大事にしたいということで、SDGs小論文コンテストを開催して、賞金としてお渡しできればと考えました。

 最初の企画では、入賞10人、大賞3人と考えていて、応募した人が全員、入賞するくらいでいいかなと考えていました。それで賞金が全部で10万円をちょっと超えると。実際には、32人から応募があり、特別賞を増やしたり、入賞者を増やしたりで、32人中、20人を表彰しました。

―――予想以上の成果だった?

 応募者数も思っていたより多かったというのもありますが、質がすごく高かった。(課題に直面している)いわゆる「当事者」からの応募もありました。大賞の3人のうち、2人が当事者でした。1人(加賀明音さん)は視覚と聴覚が不自由な盲ろう者で、1人(エバデ・ダン愛琳さん)は外国をルーツにする人でした。

 当事者の声、あるいは悲鳴に近いのかも知れませんが、その発信する力というのはとても強いと思いました。

 「当事者」という言葉を使いましたが、「すべての人がマイノリティー(少数者)」と言われたりもします。誰にも弱い部分があるし、すべての人が「標準形」ではありません。



野毛坂グローカル 奥井利幸代表
アジア地域での国際協力活動に20年以上携わり、2016年に野毛坂グローカルを設立、海外と日本のネットワークによる学びあいによるコミュニティづくりを実践。一昨年までは日本とアジアを月一ペースで往復、ここ1年はオンラインでの往復をしている。2020年第一回アジア健康長寿イノベーション賞国内優秀事例賞受賞。

開発目標だけでなくSDGsの宣言文そのものも読んでほしい。

―――前回も今回も、「誰一人取り残さない」という言葉が重視されていますが、この言葉に込められた思いとは?

 なぜ、「誰一人取り残さない」というテーマに取り組んでいるか、ですね。

 日本は、世界でもまれなほど、「SDGs」という言葉を多くの人が知っている国です。ただ、胸にSDGsバッジをつけるだけで、何か活動をしているような気になっている人もいるかもしれません。もちろん活動のきっかけとしては良いと思いますが、SDGsには17の開発目標があるので、自分のやっていることが、そのどれかにはあてはまる。それによって自分のやっていることを正当化するツールにSDGsを使っている場合もあるのではないかとの疑問です。

 2015年9月に国連で採択されたSDGs「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」の全文は、外務省が仮訳を公表しています。「仮訳」とはなっていますが、正式訳が発表されることはないので、実際には正式訳です。ここで前文を見てみると、以下のような文章となっています。

 「我々は、世界を持続的かつ強靱(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることに決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う」 (出典=外務省仮訳

 「大胆かつ変革的な手段をとる」など、相当な決意が示されています。

 そして、次のような文章もあります。 「今日我々が発表する17の持続可能な開発のための目標(SDGs)と、169のターゲットは、この新しく普遍的なアジェンダの規模と野心を示している」 「これらの目標及びターゲットは、統合され不可分のものであり、持続可能な開発の三側面、すなわち経済、社会及び環境の三側面を調和させるものである」 (出典=いずれも外務省仮訳)。

 SDGsに関心があっても、SDGsの仮訳(SDGsそのもの)を読んだことがある人は案外少ないのです。それを知ってもらうことが大事かなと思いました。

 また、SDGsでは、「最も貧しく最も脆弱な人へ焦点を当てる」ということが、くどいくらい書かれています。 「我々は、強化された地球規模の連帯の精神に基づき、最も貧しく最も脆弱な人々の必要に特別の焦点をあて、全ての国、全てのステークホルダー及び全ての人の参加を得て、再活性化された『持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップ』を通じてこのアジェンダを実施するに必要とされる手段を動員することを決意する」 (出典=外務省仮訳)。

 こういったことを頭に置いて、SDGsに関する活動に取り組む若者が増えてほしい、少しでも意識する若者が増えてほしいと思って始めたのが、前回のSDGs小論文コンテストです。

―――開催後、非常に大きな反響があった。

 予想していなかった結果です。たまたま野毛坂グローカルのウェブサイトを記者や編集者が見てくれて、大きな記事にしてくれた。思っていたより共感してくれる人が多かったと思いました。また、募集終了後に「このコンテストを知らなかった、知っていたら応募したのに」という若者もいて、もう少し準備期間をとって、広報に力を入れて、少しでも応募してくれる人が増えたらと考えました。

▽第1回 SDGs「誰一人取り残さない」小論文コンテスト 受賞者および作品(野毛坂グローカル ウェブサイト)
https://nogezaka-glocal.com/sr/

▽朝日新聞 掲載記事 「人に触れない今だから 指文字頼りの私、取り残さないで」(連載「共生のSDGs 明日もこの星で」第1回)
https://digital.asahi.com/articles/ASNDV3Q60NDQUHBI00Q.html
大賞の加賀さんのエピソードや作品を紹介(朝日新聞デジタル 2020年12月29日)

▽大月書店『10代からのSDGs』
http://www.otsukishoten.co.jp/book/b550640.html
入賞者4名の作品紹介

自分事(じぶんごと)化されたメッセージには力がある

―――記者や編集者の気持ちを動かすほどの作品だったということだったと思いますが、何がすばらしかったのでしょう?

 1つは、当事者性です。「自分事(じぶんごと)」にしているということ。文章だけの話ではなくて、具体的な事例でもって書いているところが多かった。私も感じるものがありましたし、それが読む人の心に届いたのではないでしょうか。

 2つ目は、「誰一人取り残さない」ということ。ハードルが高いと思ったのですが、若者たちは向き合ってくれました。

 2020年11月22日に、大賞受賞者の1人である、加賀さんとの交流会を東京で開きました。そのときに加賀さんが、こういう意味のことをおっしゃったんです。 「取り残されるのが障害者だけでもないし。いろんな人が取り残されている。取り残される人がいない社会になればいいな。」 加賀さんは、目が見えない、耳が聞こえない、歩くこともできない。そうした人が社会全体のことを気遣っているというのが衝撃でした。

加賀さんの言葉を含むYouTube(朝日新聞デジタル 2020年12月29日)

 

 加賀さんの小論文の最後に、「私たちは今、取り残されています。あなたの力をほんの少しだけ、かしてもらえませんか?」という文章があります。審査のとき私は、「私は取り残されています」あるいは「私たち盲ろう者は取り残されています」という意味かと思っていたのですが、そうではなくて、すべての人たちのことだったのではないかな、と思ったのです。

 エバデ・ダンさんは、すごく強い人です。エンパワー(力をつけること)された後の人です。「自分は何者なんだ」「自分は自分であって、他の誰でもない」という力強いメッセージに感激しました。

 エバデ・ダンさんの小論文には、以下のようなくだりがあります。

 「吃音症の親友が、『吃音症は僕の一部であり僕の全てではない。それだけでかわいそうな人だとレッテルを貼られると一番腹が立つ』と言っていたことを鮮明に覚えています。わたし自身も同様な経験をしてきました。彼の一部だけを切り取り、『かわいそうな人だ』と決めつけてしまう行為は、彼のもつ可能性を殺してしまいます」 抽象的でなく、よく練られていて、完成されていると思いました。

政策決定から取り残される若い世代の声を

―――奥井さんが、「若い世代」を重視するのは、なぜなのでしょう。

 障害と平等の問題に関して、平等と公平の違いというテーマがあります。背の高さが違う3人がいて、例えばスポーツを観戦しようとするとき、どういう支援をした方がいいかというものです。

 3人に同じ高さの台を配るのは、「平等」です。しかし、これでは背の低い人は、フェンスから頭を出すことができないために、やはりスポーツ観戦ができないかも知れません。背の低い人には、より高い台を用意しなければいけない。それで初めて、一緒にスポーツが見られるようになります。これが「公平」ではないでしょうか。

 特別定額給付金で10万円を一律に配るということになったときに思ったのが、この話です。しかも、その財源として国債(借金)を使用する。ツケを払うのは若い人たちです。 年を重ねている人は、経験の量や勉強の総量は、若い人より多い。一方で、これからの社会の主役である若い人はさまざまな決定に関わるべきなのに、実際には決定に関わるようにはなっていない。だからせめて、若い人の声を社会に届けることをしたいと思っています。そのために今回のコンテストも若い人を対象にしています。

若者主体の実行委員会、表彰の先のゴールを目指す

―――今回と前回の違いをあらためて。

 前回は野毛坂グローカルが事務局をやって、理事だけで審査しました。今回は大学生を中心に24人に実行委員になってもらい、審査員は若者を含む各界の人にお願いしました。小学生や外国人にも応募してもらいやすいように、「やさしい日本語」版のチラシも作りました。賞金と応募作品をまとめた小冊子を作成する費用として70万円を募るクラウドファンディングも実施して達成しました。

 実行委員のみなさんは活発に議論しています。その中から、「表彰が終わりなんですか」という意見が出ています。「課題解決に向けて実行委員も関わりたいよね」ということで、活動支援や伴走することを考えています。「小冊子ではなく書籍にしたい」との話もありますが、前回と今回の分だけではお金も足りないので来年には? と考えたりしています。

―――締切が近くなりましたが、応募を考えている人にメッセージを。

 このコンテストは、高校や大学の課題ではないので、小論文や作文としての体裁はあまり気にしていません。思ったことを、ぶつけてください。誤字・脱字は直してもらった方がいいですが、誤字・脱字があったからといって減点することは考えていません。

 SDGsのことは気にしても、「誰一人取り残さない」はあまり気にされていません。1人でも多くの人が「誰一人取り残さない」ということを少しでも考えてほしいと思います。今年書けなくても、来年ぜひ書いていただければうれしいと思います。

 

◎第2回 SDGs「誰ひとり取り残さない」小論文コンテスト 概要

・応募資格:2021年4月1日時点で25歳以下の人
・締切:2021年6月30日23時59分
・主催:野毛坂グローカル
・運営:同コンテスト実行委員会
・後援:朝日新聞社、SDGsジャパン、独立行政法人国際協力機構(JICA)
・詳細:https://nogezaka-glocal.com/dh2/

◇審査委員
野津隆志:兵庫県立大学教授 / 野毛坂グローカル監事:審査委員長、秋山愛子:国連・アジア太平洋経済社会委員会 社会課題担当官、安達一:笹川平和財団 常任理事、荒木田百合:横浜市社会福祉協議会会長(元横浜市副市長)、杉浦裕樹:横浜コミュニティデザイン・ラボ代表理事、高木超 :SDGs-SWY共同代表、富樫泰良:オールニッポンレノベーション代表 / 野毛坂グローカル理事、中西由起子:アジア ディスアビリティ インスティチュート(ADI)代表/ SDGs市民社会ネットワーク理事、藤谷健 :朝日新聞東京本社デジタル機動報道部長  兼 ジャーナリスト学校デジタル推進担当部長、吉原明香:市民セクターよこはま事務局長、奥井利幸:野毛坂グローカル 代表

◇実行委員(肩書は2021年3月時点)●:共同実行委員長 ◆:事務局長 ■:副実行委員長 
●神谷優大:University of Sussex修士課程 学生、●木俣莉子:東京女子大学 学生、●倉石東那:津田塾大学学生 / JYPS事務局長、◆金田茉優:青山学院大学 学生、■伊東美貴:特定非営利活動法人ミラツク非常勤研究員、■今子由稀:クラーク記念国際高等学校生、■蔭西希美:東京医科歯科大学 学生、■斉藤竜平:法政大学 学生、■玉崎葵:岡山大学医学部保健学科 学生、■西村奈々代:JICA海外協力隊員、安藤紗楽:クラーク記念国際高等学校生、奥井利幸:野毛坂グローカル理事/代表、木村心香 :横浜国立大学学生、黒田優斗:就職準備中、小林璃代子:横浜市立大学 学生、笹木愛:東京医科歯科大学大学院修士課程 学生、鈴木ゆりり:野毛坂グローカル理事、武井啓子:野毛坂グローカル理事 / 日本学生支援機構 勤務、戸田尚穂子:青山学院大学国際政治経済学部 学生、富岡あまね:青山学院大学 学生、野中正輝 :創価大学国際教養学部学生、古川遼:ソフトバンク株式会社 勤務、松本颯太:岡山大学法学部 学生、山本梨央:横浜市立南高等学校 学生

◎野毛坂グローカルによる関連イベント
2021年6月21日(月)20時~
基本に立ち返って!SDGsの基本理念「誰ひとり取り残さない」を考えよう
https://nogezaka-glocal.com/2021/06/03/dht/

2021年6月22日(火)20時~
LGBTQ+、外国ルーツ、引きこもり:当事者の学生と話そう
https://nogezaka-glocal.com/2021/06/03/lgh/

2021年6月25日(金)20時~
タイにおける高齢者公的介護制度 勉強会 ~地域での取り組みを中心に~
https://nogezaka-glocal.com/2021/06/03/tks/

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