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エリア特集2005-02-17

IT+アートで日常生活を豊かにする
多拠点型NPO「Creative Cluster」始動

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デバイスアーチストとして国内外で名声を高めるクワクボリョウタ氏をはじめ、新世代のメディアアーティストたちによる21世紀のライフスタイルを進化させる作品の展覧会「Evolution Cafe」。同展を主催するNPO法人クリエイティブクラスターの、ITとアートが融合したモノづくりに賭けるビジョンとその想いをレポート。

■BankArt Studio NYKにて「Evolution Cafe」展開催

座ると空気圧の変化をセンサーが感知して色が変化する光のソファ、向かい合う相手との会話の声に反応して椅子と照明がインタラクティブな機能を発揮するファニチュア、上にモノを置くと緑色の光の影が浮かび上がるテーブル――どれも今まで経験したことがない、ワクワクするような新しい体験だ。次世代を支えるアーティストたち8組が提案する新しいライフスタイルの心地よさに、時間を忘れて見入ってしまう。

これらのアート作品は、2月18日から3月15日まで、BankArt Studio NYKで開催されている展覧会「Evolution Cafe 21世紀のライフスタイルを進化させる新しい世代のアート」にて展示されているものだ。ITとアートが融合したモノづくりで21世紀の豊かなライフスタイルを提案するというコンセプトのもと、子供の頃からITに触れてきた新世代のメディアアーティストたちが日常生活に刺激を与え、かつ実用に対する視差が高い作品を制作した。来場者はこれらの作品を実際に触り、使い、遊び、進化したライフスタイルを体験することができる。スペースデザインは春蒔プロジェクトの田中陽明氏が、エディトリアルデザインはアルフェイズのナカノケン氏が担当した。会場であるBankArt Studio NYKは、ギャラリーの中にカフェが併設されラウンジ的な機能を持つ、アットホームな雰囲気が感じられる場所。「Evolution Cafe」の作品群は、海に面し寛ぎを感じさせるこの心地よい空間にとてもマッチしている。

Creative Cluster、IT+アートの「Evolution Cafe」展 ナカノケンのマンガ部屋。
鈴木太朗氏の作品「青の軌跡」 MT-Planningの作品「Media Table」

■既存のアート作品とは一線を介するメディアアート作品

しかし現在、これらのアーティストたちが自分の作品を売ることで作家として成り立つのは難しいと語るのは、展覧会を主催するNPO法人クリエイティブクラスター理事長の岡田智博氏。「メディアアートの作品は、既存のアート作品とは一線を介するもの。絵画や彫刻などの作品は磨耗せず、時間とともに資産価値が高まるものだが、ITやハイテクといった時代の最先端の技術を使用するメディアアートの作品は、時間とともにやがて古び磨耗してしまう。しかしレオナルド・ダ・ヴィンチのように、アーティストは時代の最先端の技術を駆使して世の中に新しい価値をもたらすモノづくりをしていく発明家でもあるはず。彼らの作品を評価し、世の中に生み出していくことで、くらしや社会を豊かに明るく進化させていきたい」。

岡田氏は、西欧にはITと社会の関わりの中で存在するアーティストたちが正当に評価される土壌があるという。「アップルのスティーブ・ジョブズなど、企業が個人の創造性を尊重するから独創的な商品が生まれる。日本では大企業中心のモノづくりで、携帯電話やゲーム機を作れるような優れたアーティストでもメーカーの下請けとして使われてしまうのが現状」。岡田氏は2002年からITを活用したモノづくりに取り組むアーティストのデモンストレーション・イベント「アートデモ」を定期的に開催するとともに、コーディネーター支援制度を利用してこれまで4組のアーティストが事業として成り立つための支援を行ってきた。その経験から、アーティストと企業が対等な立場で取引することやアーティストの特許を守るためにも、組織体を持って総合的にアーティストを支援していくことが重要だと考えるようになったという。

NPO法人クリエイティブクラスター理事長の岡田智博氏 クワクボリョウタ氏の作品「loopScape」 「アートデモ」でプレゼンをするクワクボリョウタ氏

■多拠点型NPO法人クリエイティブクラスターとは

岡田氏の目標は、アーティストを企業や行政に結びつけることで、アーティストたちが「クリエイティブ・クラス(創造的階級)」として経済的にも社会的にも成り立っていける環境をつくることだ。「クリエイティブ・クラス」とは、2002年、カーネギーメロン大学の都市計画研究者、リチャード・フロリダ教授が著書『The Rise of the Creative Class』にて提唱した概念で、アーティストやプログラマー、科学者、技術者、あるいは金融、法律の専門家などの知識労働者のこと。フロリダ氏はこのような個人の創造性によって仕事をする人々のライフスタイルが都市の活性化に大きな役割を果たし、これからの社会を牽引していくと述べている。「クリエイティブ・クラス」を都市に呼び寄せるには、テクノロジー(技術)、タレント(人材)、トレランス(許容度)の3つの「T」を地域が備えることが重要だという。

リチャード・フロリダ著 『The Rise of the Creative Class』

岡田氏はフロリダ氏の考えに共鳴し、ITのテクノロジーを持つメディアアーティストや情報デザイナーといったタレントに活動の場を与え、新しいライフスタイルを提案するプロダクツを生み出していく活動を支援していく組織、「クリエイティブクラスター」を多拠点型NPO法人として内閣府に申請、今年1月22日にNPOの初総会を開催した。”Creative Cluster is everywhere”をキーワードに渋谷、横浜、北九州の3拠点で活動をスタート。理事にはそれぞれの地域でアートの支援に取り組む人たちを迎えた。

3都市のなかでも横浜に本部を置いた理由について、岡田氏はこう語る。「横浜は、アートやクリエイティブが一つの産業構成として成り立っているヨーロッパのモデルを取り入れ始めている先進的な都市。横浜市が昨年から取り組み出したBankART1929プロジェクトは、アートスペースとしての高いステータスを保ちながら、市民から提案される様々な企画も実現し、カフェやラウンジといった交流の機能も持つ、他の都市にはないオルタナティブスペースを生み出している。また、物事を公正に評価する目があり、NPOが大企業と対等に話ができる土壌がある、許容度の高い場所。東京ではできない先進的・実験的なこと、自分たちのやりたいことができる都市ですね」。

アーティストが集うニュースポット誕生。「BankART Studio NYK」の全貌
リチャード・フロリダ著『The Rise of the Creative Class』 ヒマナイヌの作品「ワクワク」 クワクボリョウタ氏の作品「Vomoder - IT devolution」

■アートとデザインを複合した新領域のプロダクト

「問題なのは、20代、30代はモノづくりをしないと世の中の人たちが思っていること」と岡田氏は言う。今後もデモンストレーション・イベントとしての「アートデモ」はもちろん継続していくが、特に力を入れていきたいのはアーティストの作品の商品化だ。オープン翌日の2月19日には、イーケイジャパンの電子工作キット「エレキット」の新作をメディアアーティストが開発する「E+KIT」プロジェクトの公開プレゼンテーション・評価フォーラムも行う。この「Evolution Cafe」展は、アート作品をプロダクトへと進化させる一つの契機となるだろう。

「アートデモ05」開催、「E+KIT」公開プレゼン&評価 エレキット・ウェブ・ワールド イーケイジャパン

多摩美術大学助教授でありながら、一作家として「Evolution Cafe」展に光の影が浮かび上がるテーブルを出展している森脇裕之氏は、メディアアーティストたちが作り出す作品は、アートとデザインを複合した新領域に位置するものだという。「近年『エモーショナル・デザイン』という考え方が生まれ始め、インタラクティブな装置を活用し、それを使う人のコミュニケーションや関係性までデザインするプロダクトが現れ始めた。これまでは、アート=美術品、デザイン=実用品、とアートとデザインは異なるものであったが、それらの新しいプロダクトは『用と美』の両方を兼ね備え、使う人をワクワクさせるもの。メディアやエレクトロニクスを使ってエモーショナルにアピールするものだ」。

森脇氏の作品は、テーブルにそこに行って触ってみたくなる美しい仕掛けを施すことで、テーブルにもともと備わっているコミュニケーションを促すという機能をより際立たせるというものだ。それは美術館で作品を鑑賞するような皮膚感覚と切り離されたアートではなく、日常生活の中に入り込み、それを豊かにしていくアートである。「これらの作品群は一点ものとして管理されることで価値が上がるものではなく、大量生産されて多くの人が使うことによってより価値が上がるもの。人間の心を捉えるプロダクトは、技術力でばかりで競争している大企業にはつくれない、アーティストだからつくれるもの。モノの時代から精神の時代へと言われて久しいが、そのヒントがここにはある」。

Crispin Jones氏の「E+KIT」のイラスト 光の影が浮かび上がるテーブル「Tea for Angel」 光の影が浮かび上がるテーブル「Tea for Angel」 多摩美術大学助教授の森脇裕之氏

■注目の出展作家 - fuwapica と Surroundings -

「Evolution Cafe」展に出展しているアーティストたちに話を聞いた。fuwapicaプロジェクトとして、ソファ内の空気圧の変化をセンサーが感知して座ると色が変化する光のソファを製作したのは、八木澤優記氏と松山真也氏の二人。ソファの半透明の空気袋の空気圧をセンサーが感知し、その圧力と座った位置をコンピュータが認証、空気袋の下にある赤・青・緑の3色のLEDが反応し、様々な色に変化する。柔らかな光の変化によってソファの持つ癒しの効果をさらに高めたインタラクティブオブジェだ。東京芸術大学デザイン科助手の八木澤氏は、以前は立体造形作品を主に製作してきたが、触れると変化するインタラクティブなものを作りたいと思うようになり、メディアアートエンジニアの松山氏とユニットを組んで技術やプログラミングの部分で力を借りて、共に作品を開発してきた。今作品でfuwapicaは7作品目となる。空気圧で光の色が変わる仕組みは現在特許申請中で、商品化を目標としている。

fuwapica

向かい合う相手との会話の声に反応して椅子と照明がインタラクティブな機能を発揮するファニチュア「Cafe Tools」を製作したのは、アーティストグループ「Surroundings」。会話の相手の声を体全体で感じられる椅子「parabola」に、会話の様子から親密度を把握して演出する照明「breathing」のセット。コミュニケーションを楽しく、会話をより活発にするするための装置だ。「Surroundings」は慶應義塾大学メディアデザインプログラム稲蔭正彦研究会所属のメンバー4人によって結成されたグループ。”人に寄り添うメディア”をテーマに、家具を中心として、生活文化に溶け込んだ次世代プロダクトを提案、製作している。企業や研究機関からの製作依頼に応えるため、今年1月に資本金を300万円集めて有限会社Surroundingsを設立、西区西平沼町に事務所を構えた。メンバー全員がSFCに在学中、最年少は20歳というこの若きアーティストたちの活躍に期待したい。

Surroundings Evolution Cafe
fuwapicaの八木澤優記氏と松山真也氏 過去のfuwapicaの作品 インタラクティブファニチュア「Cafe Tools」 Surroundingsのメンバーたち

■併催展「食と現代美術 part1」「Reading Room」

「Evolution Cafe」展は、BankART1929による独自企画展「食と現代美術 part1」の併催展として開催される。「食と現代美術 part1」は美術の視線を通して、食文化を中心とした生活の中に潜むプライベート性、地域性、共有性、暴力性、批評性、時代性、空間性を解き明かしていくと同時に、横浜のもっている食文化の歴史、豊かさにも焦点をあて、芸術文化と食との古くて新しいネットワークを探るという趣旨で、BankART Studio NYKとBankART1929 Yokohamaの2会場で開催されている。BankART1929の運営統括を行っている池田修氏は、「様々なことを包容している”食”をテーマに、現代美術からのと食の仕事からの両方の視点で企画しました。食の街であるヨコハマの持つポテンシャルを上げていきたい。グルメマップではない、食文化を支えるスポットのマップを制作していくプロジェクトを1年間かけて実施していきます」。ワークショップ、シンポジウムが多数開催されるのも注目だ。まな板ハウスをつくる建築家ユニット「みかんぐみ」のワークショップでは塩卓(塩でできたテーブル)をつくり、その後食事の際には塩卓を活用していくなど、おもしろい取り組みが目白押しだ。

BankART1929 BankART、「食と現代美術」展 -2つの併催展も開催

また、併催展として「よむ」アート作品展「Reading Room」も開催される。同展はブック形式の「読む」アート作品、マンガ表現、ビデオインスタレーション、パフォーマンスなど、形態にとらわれず「よむ」ことをテーマにした展覧会で、机に腰をすえてゆっくりと作品を鑑賞しながらより作品との対話を深めることを目的とするもの。企画・ディレクションをフリーのアートディレクター橋本誠氏が担当、5人のアーティストの作品の展示に加え、オンライン古本屋を運営しながら”人と本の素敵な出会い”を実験するユニット「Book Pick Orchestra」が出展するのが注目だ。これは袋詰めになっている本を客が開けていき、じょじょに本屋としての形を作り上げていくという参加型のプロジェクトで、本との出合いをおもしろく演出する仕掛けが行われるもの。橋本氏は、「『見る』ことではなく、『読む』という行為をテーマにすることで、日常に近い目線でアートを楽しむことができるのではないだろうか」と企画意図を語る。参加作家は、豆本マンガ作品『奇的』を制作している大久保亜夜子氏、吹き出しを活用したイラストを描く竹本真紀氏、言語表現を用いた映像作品を制作している川崎昌平氏、文字を書くパフォーマンスを行う東野哲史氏、言葉を用いたインスタレーションを行っている酒井翠氏。会期中のイベントとして、2月20日には水戸芸術館学芸員の高橋瑞木氏をゲストに招き、スライドトーク「Breakthrough! 新世代のマンガ/アートのかたち」を、また2月27日、3月6日、13日には川崎昌平氏のビデオ作品上映会を開催する。

Reading Room BankARTで「よむ」アート作品展「Reading Room」展 Book Pick Orchestra

これらの展覧会に共通するのは、いずれも「生活文化」に焦点を当て、アートがもたらす豊かさを日常生活に取り入れることを目的としていることだ。そのなかでも、アートを展示作品として終わらせるのではなく、プロダクトとして実際の生活に取り入れていくことを目標にしているクリエイティブクラスターは、「美」を追求するアートと「用」を追及するデザインを止揚し、21世紀の生活に新たなビジョンを提案する最先端の活動なのかもしれない。先進性をもって新しいことに挑戦してきたこのヨコハマを起点として、新世代のアーティストたちが大きく羽ばたいていくことを期待していきたい。

coolstates telegraph
BankART1929による独自企画展「食と現代美術 part1」 「よむ」アート作品展「Reading Room」

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