特集/コラム
西洋文化の街、横浜の新たな顔となるか?
日本大通りオープンカフェ本格実験開始
海へと続く広い並木道、左右には御影石の西洋建築が建ち並ぶ。まるでヨーロッパのような景観が広がる日本大通りで、9月から全国に先がけて道路空間を活用したオープンカフェの本格的な社会実験がスタートした。開港当時、日本人街と外国人居留地を分ける大通りとして日本で初めて設計されたこの西洋式街路を通って、欧米の文化が最初に入ってきた。港町独特のゆったりした時間が流れ、歴史的にも環境的にもオープンカフェが似合う場所だ。7月からのテストランを終え、規模を拡大して始まった3ヵ月間の本格実験は好調なスタートを切った。
■本格的で格調高いオープンカフェを目指す
9月2日から4日にかけて、オープンカフェ本格実験スタートにあたりグランドオープンイベントが開催された。7月からのテストランから参加している日本大通り沿道店舗の「ランチャン アヴェニュー」、「アルテリーベ」、「gooz」に加え、旧関東財務局ビルに新規出店したアートカフェ「graf media gm:YOKOHAMA」、沿道店舗のギャラリー「ギャルリーパリ」、「日本新聞博物館」のほか、外来の飲食店2店舗や花屋などが出店し、座席数も9卓23席から24卓59席と増えた。また、3日にはヴァイオリン・チェンバロ・ピアノで構成された「セレナーデバンド2005」やヴァイオリン・アコーディオンの異色デュオ「シエスタ」による音楽イベント、4日はレストラン「アルテリーベ」による模擬結婚式や「かおかおパンダ」のペインティング・パフォーマンス、多摩美術大学学生によるアート・パフォーマンスなど、カフェだけではなく賑わいを創出するためのイベントも行った。多くの観光客が足を止め、カフェには常時客が入り、予想以上の売上げを記録した。
日本大通りスペシャルサイト 日本大通りオープンカフェ、テスト運営を本格実験に移行
■“フードサーカス”を目指すアートカフェ 「graf media gm:YOKOHAMA」
8月18日、日本大通りに面する「ZAIM」ビル(旧関東財務局)、その2棟ある建物の間の空間にカフェレストラン「graf media gm : YOKOHAMA」がオープンした。入り口に扉はなく、外と店内がそのままつながっているユニークな空間。立ち飲みスタイルがメインで、全長15メートルの巨大なカウンターが“縁側”のような外でも中でもない空間となり、多様な人が自由に出入りし交流する独特の雰囲気を生み出している。奥はソファなどリサイクル家具を用いたラウンジ空間となっており、スピーカーからは居心地のいい音楽が流れる。アルコールと食事メニューの大半は500円で、ソフトドリンクは300円、ランチは700円。9月2日から日本大通りオープンカフェの本格実験にも参加を始めた。このカフェはトリエンナーレ関連事業であり、12月31日までの期間限定の運営となる。
graf media gm:YOKOHAMA graf、ZAIMビルにカフェ開業 -トリエンナーレ関連事業カフェをプロデュースするのは、大阪を拠点に活動するクリエイターユニット「graf」。プロダクトデザイナー、デザイナー、大工、家具職人、シェフ、アーティストという異色の組み合わせで、「暮らしのための構造」を考え空間全体をトータルプロデュースしている。活動領域はオリジナル家具の企画・製作・販売、店舗や住宅の空間プロデュース、設計・施工と幅広い。最初6人でスタートしたユニットは、現在は30人にまでメンバーを拡大している。
graf近年は奈良美智氏や草間彌生氏など現代美術作家とのコラボレーションも多く、横浜トリエンナーレ2005にも「奈良美智+graf」として作品を出品する。その「graf」が横浜でカフェをオープンすることになった経緯を、「graf」の工藤千愛子さんはこう語る。「これまでカフェレストランのプロデュース実績があり、しかも横浜トリエンナーレンに参加するとあって、オープンカフェ事業を企画していた横浜市側の担当者が『graf』に興味を持ってくれました。横浜市の日本大通りのオープンカフェ事業と、それにリンクするように日本大通りに面した建物『ZAIM』にトリエンナーレ・ステーションが入ったことで、『graf media gm : YOKOHAMA』は横浜トリエンナーレの関連事業としてスタートさせることになりました」。トリエンナーレ・ステーションには出品作家やアートサポーターなどクリエイティブな活動に興味を持つ様々な人が集まる。その人と人の交流の拠点として「graf media gm : YOKOHAMA」が果たしている役割は大きい。
横浜トリエンナーレ2005「graf media gm : YOKOHAMA」に集う10名あまりのスタッフは、今回のカフェのために集まったプロジェクトチーム。「graf」の活動の中で知り合った人の人脈で音楽、飲食、イベントとアートカフェに必要な人材が揃った。今回のカフェでは関わっている人の様々なエッセンスが交わって変化していくようなものを目指しているという。「graf media gm : YOKOHAMA」の岡田真紀さんは、カフェのコンセプトをこう語る。「このカフェはトリエンナーレとともに終わる期間限定のプロジェクト。普通のカフェとしての完成度を求めるのではなく、テーマである『運動態としての展覧会』のように、お客さんとコミュニケーションしてハプニングも共有してしまうようなライブ感を持ってやっていきたい。アーティストが壁に絵を描きたい、演奏をしたいと言ってきてもフレキシブルに対応し、“フードサーカス”とも言うようなハプニングを楽しみに変えていく、そんなカフェを目指しています」。その意味で言えば、オープンカフェもいろいろな出会いやハプニングが生まれやすい空間であり、そこでライブで起きる事象が街の賑わいを生み出していくのかもしれない。
■道路占有の規制緩和がオープンカフェ事業を後押しした
横浜の新しい顔となる賑わいの場を作ろうと始まったオープンカフェ事業だったが、その後押しとなったのは今年3月の国土交通省道路局長による道路占有に関する規制緩和だ。地域活性化につながる路上イベントを継続的に行う場合は、その都度許可申請を行わなくてもよくなったこと、また道路管理者は地域活性化や賑わいの創出の観点から道路占有の円滑化に配慮し弾力的な判断を行うことが定められた。これまでのオープンカフェは数日間で終了するイベントとしてしか開催できなかったが、一定の基準を満たすものは規制緩和により継続的に開催することが可能となった。
国土交通省道路局 地域活性化等に資する路上イベントに伴う道路占有の取り扱いについて(pdf) 国土交通省道路局 道を活用した地域活動の円滑化のためのガイドライン(pdf) 国土交通省道路局 平成17年度 社会実験地域一覧(pdf)日本大通りができたのは1879年(明治12年)、設計は日本の灯台の父とも言われる英国人技師R・H・ブラントン。道路の幅員36メートル、二車線道路の両側に3メートル幅の歩道、9メートル幅の植樹帯を備え、総距離約400メートルにわたる日本初の西洋式街路だ。関東大震災後の復興整備で、車道が四車線に拡幅され歩道が狭くなったが、2002年5月までの再整備によって、植樹帯を含めた歩道幅員を13,5メートルに拡幅し、明治創設期にブラントンが設計したイメージを復活させた。リニューアルを記念し、2002年5月から6月にかけて9日間のイベント「日本大通りパラソルカフェ&ギャラリー2002」を開催した。実行委員会は日本大通り街づくり協議会準備会、関内・関外TMO、中区商店連合会、関内地区連合町内会、地元商店街、財団法人横浜観光コンベンション・ビューロー、関内を愛する会、横濱まちづくり倶楽部、横浜市によって構成され、官・民の協働でオープンカフェを開いた経験があった。
■民間事業者から成る自立的な実行委員会
日本大通りは周辺はオフィス街であり、商店街のような街づくりに取り組む組織がなかった。そこで2002年のイベントの経験とネットワークが活かし、沿道地権者や周辺の民間施設が集まって今年5月に日本大通りオープンカフェ実行委員会を組織した。今回は実行委員会には行政組織は参加せず、民間事業者から成る実行委員会が自立的に事業を行う仕組みとなった。実行委員会の事務局長を務めるハッスル代表の小嶋さんは、「社会実験として国費も導入できることになったため事務局を置くことができ、短期間でテストラン、本格実験まで実現することができました」と語る。
横浜市都市整備局都市デザイン室道路を占有してオープンカフェ事業を行うには、道路占有許可、道路使用許可、食品営業許可の3つが必要になる。実行委員会は道路占有許可を横浜市道路局から、道路使用許可を所轄の警察署から、食品営業許可を中福祉保健センターから認可を受けて事業を行うことが可能となった。道路への出店料は1ブロック(3メートル×4メートル)あたり月5万円で、実行委員会が横浜市から占有許可をまとめて取得し、個店が実行委員会に出店料を支払うという仕組みだ。出店審査会には周辺施設の人も参加し、日本大通りにふさわしいものかどうかを審査している。民間事業者から成る実行委員会が自立して運営するのは日本で初めてのことだという。
日本大通りの都市デザインに携わってきた横浜市都市整備局都市デザイン室課長補佐の河本一満さんは、「オープンカフェの社会実験は全国各地で行われています。しかし日本大通りが目指すのは、ただイスを外に並べて簡単な飲食物を出すものではありません。美しい景観にマッチするイスやパラソルのデザイン、イベントやサービスの内容にも気を配り、手の込んだメニューを提供する。ローマやパリにあるような、街の賑わいと文化を支える、本格的で格調高いオープンカフェを目指しています」と事業のビジョンを語る。これまで日本大通りの景観を維持するための様々な施策を行ってきた都市デザイン室。今回の実験では、街路周辺の民間施設が組織する日本大通りオープンカフェ実行委員会と協働し、対等なパートナーとして事業を推進している。
横浜市都市整備局 日本大通りでオープンカフェがスタート
■景観を維持してきた都市デザイン室の取り組み
都市デザイン室は2004年12月、日本大通りのまちづくりのルールとして「日本大通り用途誘導地区計画」を策定した。策定の理由を河本さんはこう語る。「これまでのまちづくり協議制度は、条例や規則のように法律上の根拠に基づいて制定されたものではなく、事業者等に指導方針を明示したもので開発を誘導していく“要綱行政”。昔は特に問題はなかったが、近年は要綱を守らず開発をする事業者も現れ、一部で限界が生じてきた。居住地としての環境が整備されていない地域や、歴史的な景観との調和が必要とされる地域に高層マンションが建設されるなどの問題が起こっています。そこでこの歴史的な景観を守っていくために新たなルールを定めたというわけです」。
その内容は、高さ制限、日本大通りに面する敷地での住宅用途の禁止、周辺の歴史的建造物と調和する格調高い外観であること、壁面後退により広い通景空間を確保することなど。またユニークなのは事務所や店舗、大学、美術館、診療所など一定用件を満たす事業者には容積率上乗せの優遇措置を行うというもの。業務施設を集積させることにより落ち着いた街並みを保つのが狙いだ。
ヨーロッパの都市のように魅力的な景観を守っていくには何が必要なのか、河本さんに聞いた。「ヨーロッパの都市は厳しく規制をして、歴史的な建物を残し、その景観を守った開発を行っています。思い通りに建物を改修できなかったり、自由に看板を作れなかったりと不便な点も多いのですが、その不便な点も受け入れ、住民が歴史的な景観を守っていくという価値観を共有しているんです」。横浜を世界中から観光客が集まる魅力的な都市にしていくには、都市デザインという大きな視点で自分たちの街を眺め、ともに一つの街を作っているという意識を持つことが大切なのではないだろうか。様々な立場の人が協働する社会実験であるオープンカフェ事業に関わることは、街づくりのあるべき姿を多様な人たちが共有するための機会を生み出すものでもあると言えるだろう。
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