特集

第二の開港に向け、企業家たちが集結?
検証「創業の『場』としてのヨコハマ」

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■SOHO横浜インキュベーションセンターとSOHO STATION

1998年、横浜での起業家の夢を実現する「場」として、中区山下町に日本最大規模の創業・ベンチャー支援施設「SOHO横浜インキュベーションセンター」が誕生した。横浜開港100周年を記念して、近代建築の巨匠ル・コルビジェの弟子である坂倉準三氏による設計で建てられたシルクセンターが、全 75室に最新の通信インフラを備えた「電子のコテージ」施設として生まれ変わった。運営・管理には株式会社SOHOがあたる。各階にリラックスルームやミーティングルームなどが設けられ、海側のガーデンテラスからは海が一望できる。そのデザイン性と快適な空間が高く評価され、1999年にサテライトオフィス推進優秀賞を受賞。また、同施設は、横浜市による「情報化ビル」第1号認定施設となっており、市の審査により最高100万円の「横浜市IT小規模事業者立地促進助成」を受けられる仕組みが整う。SOHOでのこれまでの入居数は約200社にのぼるが、この制度を活用して起業した入居者も多いという。なお、横浜市には元浜町のI.S.O横浜 のヘリオス関内ビルをはじめ、現在50棟ほどの「情報化ビル」認定施設がある。

SOHO横浜インキュベーションセンター 横浜市IT小規模事業者立地促進助成

2004年2月1日、都市基盤整備公団がSOHO(=スモールオフィス、ホームオフィスの略称)拠点の創業・ベンチャー支援施設として建設したオフィス兼在宅ワーク型賃貸住宅「シティコート山下公園」のオフィス棟、「SOHO STATION」がオープン。同じ日に開通したみなとみらい線・日本大通り駅から徒歩6分の立地だ。同施設は2000年5月、横浜市の「中心市街地(関内・関外地区)活性化基本計画」に基づいて同公団が建設したもので、オフィス棟の運営・管理はSOHO横浜インキュベーションセンターと同じく、株式会社 SOHOがあたる。1月29日のオープニングセレモニーには来賓として中田市長が駆けつけ、祝いの言葉を述べた。10階建て全51室のオフィス棟の一部屋当たりの広さは約10~30平メートル。最大100メガbpsの光回線を配備し、シャワー室も完備されている。なお、株式会社SOHOでは起業家たちの交流支援を目的とした「SOHO CLUB」も運営。入居者を中心に小規模事業者などを集めての月例会やSOHO祭といったイベントが行われ、活気あるコミュニティの「場」が立ち上がっている。

SOHO STATION 横浜市中心市街地(関内・関外地区)活性化基本計画

■横浜での創業のキーワードは「国際性」

株式会社SOHO代表取締役社長の齋藤裕美氏によれば、センターでの入居者の業種傾向は、そのインフラに魅力を感じたIT関連事業者が大半。中国で IT専門学校を設立し、日本の大手企業からの大量デジタルデータを中国で処理する会社、環境系素材のアメリカの特許を日本国内で取得し、製造工場を中国・台湾につくって日本企業に販売する小規模事業者など、少人数でも世界と直接向き合いながら活動するような新しいスタイルの起業家たちが入居している。なかには所得番付の上位に入るなど、めざましい実績を挙げている会社もあるという。また、株式会社SOHOは2004年3月、ドイツ・ザールランド州の「ザールランド経済振興公社」と業務提携を結び「ナノテクノロジー」関連の技術が集積する同州のベンチャー企業の日本進出を支援していくなど、国際的な活動に力を注いでいる。齋藤氏は、「横浜から創業した国際派の起業家が、世界で活躍していくのが楽しみ」と語る。

1859年に開港して以来、横浜には日本全国および世界から人々が集まり、生糸などの輸出によって外貨を確保することで都市としての発展を遂げてきた歴史がある。明治時代、銀行や新聞社、鉄道、ガスなど、日本の近代化および経済発展に深く関わってきた事業は、横浜で外貨を稼ぐ元祖・起業家たちによってその礎が築かれた――。そう考えてみると、横浜は世界への視線をもちながら、新たに何かを起こすことへの「成功体験」の記憶をもった「場」であると捉えることができそうだ。起業・創業にまだ一歩踏み出せない人に向けて、「起業にはまず純粋な動機が大切。その次に行動力。まずは思いついたらやってみること」と語る齋藤氏には、その「場」の記憶と共に在るような力強いエネルギーが満ちていた。

■市長リードによる創業・起業支援の取り組みとその実績

横浜プロモーション推進事業本部では、昨年15年度より3ヵ年で350社の創業・ベンチャー企業の新規立地を目標に、さまざまな推進施策に取り組んでいる。昨年度、目標の80社を大きく上回る150社の新規立地が、横浜市の支援により実現した。各創業者の背中を一押ししたのは何といっても「資金」だ。昨年4月より創設された「創業ベンチャー支援資金」は、事業を営んでいない個人が1,000万円までの融資を受けられるもので、勤務経験のある同業種での開業や、国家資格をもつことが条件だったそれまでの融資制度が緩和され、裾野が広がった。事業計画さえしっかりしていれば、経験や資格を問わずに融資を受けるチャンスがあるというわけだ。横浜プロモーション推進事業本部、創業・ベンチャープロモーション課の石井和男氏によれば、150社のなかで、この融資を活用して物販・飲食店を開業したケースが最も多かったという。

横浜プロモーション推進事業本部

また、中田市長自らが出向いて横浜での起業・創業メリットをアピールする「横浜ベンチャーフォーラム」が昨年3月に東京都、10月に大阪府、今年3 月に東京都と、これまでに3回開催され、横浜という「場」への注目度が高まったことも一筆に値する。毎回各方面の最前線で活躍するベンチャー企業経営者を迎え、今年3月にはワタミフードサービス代表取締役社長の渡邉美樹氏と中田市長の対談が実現、横浜での創業の魅力が熱く語られた。30~50代の男性を中心に、定員をはるかに上回る応募があり、当日はいずれも活況を呈したという。そのほか、すぐれたビジネスプランに対して資金面や販路面で支援し、その実現化を目指す「よこはまビジネスプラングランプリ」を6・9・12月と年3回行い、そのなかから5件が創業を開始している。中田市長リードによるさまざまな取り組みのなかから、確実に新たな卵が孵化してきていると言えそうだ。

行政における今後の取り組みについても触れておきたい。この春、中区太田町に情報・放送・通信・IT関連企業等の集積拠点として、神奈川新聞社・テレビ神奈川・横浜産業振興公社の3社によって横浜メディア・ビジネスセンターが開設された。それに伴い、産業振興公社の本部が同センターの7階に移転した。また、今年4月より同公社が「横浜市中小企業支援センター」に指定され、これにより資金調達をはじめとする創業希望者への支援の窓口が「横浜起業家サポートデスク」として一本化、ワンストップでサービスが受けられるかたちとなった。今後、横浜で創業を考える人々にとって本デスクは、積極的に活用していける「場」の一つになりそうだ。また、昨年度に引き続いて年2回の「創業・ベンチャー支援説明会」を実施するほか、経験豊富な企業実務経験者(ビジネスエキスパート)に1年に3度まで無料で相談できるサービス、「起業への関心はあるが何をすればいいかわからない」方を対象にしたセミナーの開講など、市は創業希望者へのより実践的な支援に力を注いでいく。

財団法人横浜産業振興公社 横浜起業家サポートデスク

■ローカルな特徴からグローバルな志向へ

これまで、民間企業による快適に働く空間としての「場」と、行政による資金支援など、よりシビアな「場」との両面を見てきた。最後に横浜の大きな特徴の一つ、「職住近接型」の街であることについて確認しておこう。それは、個人の働くありようが、同時にライフスタイル全般にまで関わってくることを意味している。英国のシンクタンク「コメディア」の代表であり、世界各地の都市戦略のコンサルタントとして活躍中のチャールズ・ランドリー氏は、都市再生のために「創造性」が大事であることを強調した上で次のように語る。「自らのアイデンティティをもち、地元の特性を反映するローカルな特徴から出発してグローバルな志向に至ることが大切」。チャールズ・ランドリー氏の言うように、地元の特性を活かすことが広く世界への発信の道筋となっていくのだとすれば、横浜という「場」においては、自らの頭と手足を使って身近な人やモノやコト、そしてカネと関わることのなかから、起業・創業におけるきっかけやアイデアが生まれてくるのだと言えそうだ。新しいものを受け入れるDNAをもった横浜での起業・創業には、限りない可能性の海が広がっている。

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