特集/コラム

【エリア特集】2004-04-22

ヨコハマ発・音楽カルチャーの起爆剤となるか?
みなとみらい線「YOKOHAMA SUBWAY MUSIC」事情

ヨコハマ発・音楽カルチャーの起爆剤となるか?
みなとみらい線「YOKOHAMA SUBWAY MUSIC」事情

2月1日にみなとみらい線が開通してはや3ヵ月。レンガ造りが美しい馬車道駅の構内では、さまざまなジャンルのミュージシャンによるライブが開催されている。週末の夕方から演奏が行われ、人々が足を止めて演奏を聴く姿や、「投げ銭」をする光景が見られる。「クリエイティブ・コア(創造界隈)」と名付けられ、歴史的建造物である旧第一銀行、旧富士銀行を文化・芸術のために活用するBankART1929がスタートするなど、みなとみらい線の「アートの拠点」ともいうべき馬車道駅周辺。その駅構内でいままさに動きはじめた「YOKOHAMA SUBWAY MUSIC(サブウェイ・ミュージック)」をレポート。

■サブウェイ・ミュージックとは

一言でいえば、「地下鉄駅構内の決まった場所で演奏される音楽ライブ」。主催はFMヨコハマで、インディーズ・ミュージシャンの発掘番組「YOKOHAMA MUSIC AWARD」と連動する形で、地下鉄構内で演奏するミュージシャンを公募している。番組のプロデューサーで、当プロジェクトの中心人物の一人でもある加藤直裕氏は、「ここから横浜発の音楽カルチャーを育んでいきたい」と抱負を語る。基本的にはプロ・アマチュアの垣根を取っ払って、ジャンルにこだわることなく、バラエティに富んだミュージシャンを取り上げる。みなとみらい線を運営する横浜高速鉄道の豊田氏は、「新しい鉄道の新しい試みのひとつ。これを積み重ねていくことで、エリア全体の魅力を創出していくためにも、サブウェイ・ミュージックを応援していきたい」と語る。

YOKOHAMA MUSIC AWARD

■投げ銭はミュージシャンへの「心づけ」

「YOKOHAMA SUBWAY MUSIC」の現場での制作やミュージシャンの管理はニュートラックスが行う。同社代表取締役の大瀧眞爾氏は、レコード会社勤務を経て一昨年、同社を立ち上げた。「横浜全体をいつも音楽であふれる街にしたい。サブウェイ・ミュージックはそのひとつ」と大瀧氏は語る。公募で届いたミュージシャンからの音源は、加藤氏と大瀧氏が中心に事務局が選出している。大瀧氏は、ニューヨークの音楽カルチャーシーンに触れた経験から、「投げ銭があってこそのサブウェイ・ミュージック」と考えている。確かにこれまで、駅の構内をコンサート空間とする「駅コン」は日本にも多く存在してきたが、「投げ銭」のスタイルは画期的だ。この投げ銭の定着がサブウェイ・ミュージックの鍵を握っているとも言えるだろう。幸い、横浜には野毛大道芸で投げ銭の文化に馴染んでいるという基盤がある。多くの横浜市民にとって、よいパフォーマンスに対して投げ銭で応えることは、受け入れやすいものであるはずだ。

■世界の都市の地下鉄音楽事情〜ニューヨーク・パリ

地下鉄で音楽といえば、まずニューヨーク。ニューヨークの地下鉄構内をアートのための空間として活用する動きが本格的にはじまったのは、今から20 年以上前の1982年のこと。当時老朽化し、犯罪が多発していた地下鉄の環境を、美術やパフォーマンスなどアートの力で改善し、地下鉄の利用を促進させるのが目的だった。公共交通機関を統括するMTAが文化事業「Art for Transit(以下、ArT)」としてはじめた。ArTのプログラムの一つが財団からの助成金で1985年にスタートした「Music Under New York」。年に1度オーディションが行われ、選出され許可証を得たミュージシャンが地下鉄構内約30ヵ所で演奏する権利を得るという仕組みだ。毎年、建設・改修費用の0,5〜1%がArT予算にあてられ、10名ほどのスタッフが運営する。ジャンルはジャズ、民俗音楽、ポップス、コーラスと何でもあり、1 日3時間演奏して得るチップだけで数百ドルを稼ぎ出すグループもあるという。駅構内に常に音楽が流れることで、地下鉄が多くの人にとって安心して利用できる場所となったようだ。

MTA

パリのメトロでも、常に音楽が人々の心を楽しませている。運営しているのはパリ市交通公団のRATPで、ニューヨーク同様オーディション制で許可証を得たミュージシャンが演奏できる。こちらは、勝手に演奏するストリートミュージシャンを取り締まる対策として生まれたのだという。興味深いのは、問い合わせをしてきた市民へミュージシャンの連絡先を伝えたり、別の市の地下鉄でのイベントの際にミュージシャンを派遣したりと、RATPがミュージシャンのエージェント的な役割を担うようになってきたこと。地下鉄という身近な場所での音楽の演奏が、新たなコミュニティを生んだとも言えるかもしれない。

RATP

■継続しながらの「クリエイティブな場づくり」

いままさに産声をあげたばかりの「YOKOHAMA SUBWAY MUSIC」だが、今後の展開としてどんな形があり得るのか。いちばんの関心事はやはり、アマチュアから出発してここで実力をつけたミュージシャンが、横浜発のプロとして日本の音楽シーンを盛り上げてくれることだ。加藤氏の「ゆず以降の横浜発アーティストが出てきてほしい」との発言は、立場を超えた本音として響いた。そのためにも、このプロジェクトを継続的なシティプロモーション事業として捉えていく視点が求められるだろう。今後、プロデューサーやディレクター、ミュージシャン、メディア、企業、行政、市民などが連携し、「クリエイティブな場づくり」を支える仕組みづくりが必要となってくるはずだ。

ミュージシャン萌芽の兆しはすでにある。ある音楽関係者の話によれば、最近の注目株は、関内伊勢佐木モール不二家前の路上を中心に活動するフォーク・デュオ、N.U.だという。5月1日のシングル「観覧車」のリリースを直前に控え、4月30日のサブウェイに参加する。果たしてN.U.は馬車道駅構内で、どんな演奏を見せてくれるのか、期待がかかる。

N.U.

来年秋には国際的な現代美術展「横浜トリエンナーレ2005」が山下ふ頭の倉庫で行われ、5年後の2009年の開港150周年に向け、中田市長リードで横浜活性化のための事業を推進する協議会が設立されるなど、横浜は今、目まぐるしいスピードで動き続けている。生まれたばかりの「YOKOHAMA SUBWAY MUSIC」が、来年、そして5年後、どのように育っていくのかを想像するだけでも興味深い。ましてや、実際に馬車道駅へと足を運び、演奏に耳を傾け、投げ銭をしてみれば、きっと横浜の「いま」の動きをより深く肌で感じることができるはずだ。

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