特集

地ビール職人が腕を競う
「JAPAN BREWERS CUP FESTIVAL 2014」
130種類を味わえるビールの祭典開幕

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■楽しい空間づくりをしたい-23歳でビール職人の道へ

 「20歳で最初に地ビールを口にして衝撃を受けました」という鈴木真也さんは今年32歳。ちょうど「自分の一生の仕事は何か?」と模索していたころ。「それはビールづくりではないか」と見定めるきっかけになったという。「大手企業のビールしか飲んだことがなかったのですが、御殿場にビールの楽園があると友達に聞いて、その日のうちに飲みに行きました。『御殿場高原ビール』のヴァイツェン(白ビール)を飲んだのですが、それがとても衝撃的でした。こんなビールがあるのかと」

 入口はヴァイツェンで、それからは他の種類にのめり込んでいき、次第にビール職人になる夢は大きくなっていった。自転車で書類を届けるメッセンジャーの仕事をしていたが、23才の時にビール職人になることを決意し、この道に入った。鈴木さんはビールの魅力についてこう話す。「ビールは他のお酒に比べてつくりの幅が広いです。また、僕はみんなでワッと飲むのが好きなのですが、そういう楽しい空間作りができるっていいなと思いました」

 自転車で各地の地ビール工場19社を訪ね、見学を希望しながら履歴書を渡して回った。「大手メーカーでは自分がやりたいことを実現できないと思い、小規模な地ビールメーカーをターゲットにしました」

 そして24歳の春、「横浜ビール」(神奈川県横浜市中区住吉町6)に就職した。横浜生まれの横浜育ちである鈴木さんは、「横浜ビール」に勤められたことを「今思うととてもよかった」と振り返る。地元「横浜」ということのほかに、鈴木さんが後に大きく影響を受けた「チェコ」のビールスタイルとの出会いが「横浜ビール」によってもたらされたからだ。現在も鈴木さんは、この時期に出会ったこの2つの価値を大切にしている。

 「チェコのスタイルを極めていこうというのが、僕の一生の目標です」と鈴木さんは話す。チェコのビールは、世界中の9割を占めるピルスナータイプだ。「その中でも色が濃くて、ホップの香りが味わい深い。重たくなくて日本のビールよりもすいすいといけます。ビール職人はみんなそうですが、何杯も飲める、飲み飽きないビールがおいしいという評価です。僕もその一点に目標を絞っています」

 日本で手に入る輸入瓶ビールは残念なことに劣化していることが少なくない。常温コンテナで船便により時間をかけて運ばれてくることが多いため、赤道近くを通るルートでは気温に影響される。海外ビールの真のおいしさを日本で味わうためには、冷蔵コンテナもしくは空輸の必要がある。

 「横浜ビールのホップ輸入会社が冷蔵コンテナで年に一回、チェコのビールを輸入してくれていました。それを飲んだら、こんなにピルスナーでうまいものがあるのかと感激しました。何年か後に、それがつくりたいという思いが強くなって、チェコに研修に行きました」

 「横浜ビール」は1995年の立ち上げのときに、チェコ人のビール職人マトゥーシカさんから技術指導を受けている。日本で地ビール製造が解禁された時に、マトゥーシカさんは10カ所くらいの地ビール工場で指導をしたという。鈴木さんは親交のあるホップ輸入会社に頼み、マトゥーシカさんを訪ねてチェコで3週間の研修をすることができた。

 「チェコのビールには麦汁を煮沸して焦がしていく工程があり、それを初めて見ました」。この日本ではやっていない製法を、帰国後に横浜ビールに採り入れた。「横浜ビール」で醸造責任者になっていた鈴木さんは、その後、IPA(インディア・ペール・エール)を限定で何種類も造り、ヴァイツェンもより本格的な白ビールに造り変えた。

 横浜ビールの当時8種類の定番と限定商品を、3年間で20種類くらい造った。鈴木さんが醸造責任者を務めた3年間で一番売れたのは横浜開港150周年記念Y150イベントに合わせた「開港ラガー」で、「せっかくだからと、チェコのスタイルの赤いアンバーラガーに取り組みました」という。

横浜ビールの「驛の食卓」がチェコスタイルパブにリニューアル(ヨコハマ経済新聞)

横浜ビールが「開港ラガー」-ペリー横浜上陸の図をラベルに(ヨコハマ経済新聞)

■独立と夢のビアフェス実現へ

 「横浜ビール」で3年間の下積み、3年間の醸造責任者を経て、2012年に独立。中区福富町に「ベイ・ブルーイング・ヨコハマ」を開業した。その頃から、主催者が利益を独占するようなビアフェスティバルではなく、出展者に利益を還元し、お客さんには安い値段で提供するビアフェスティバルを構想し始めた。鈴木さんが一生の仕事を見定めた時に考えた「楽しい空間」の実践だ。

 「アイディアはあったのです。出展ビール工場に利益のある仕組みを作りたいと思い、自分で開催概要を作って投げかけたところ、一気に20社埋まりました。それで、やろうということになりました」

 JAPAN BREWERS CUPでは、入場料を500円に抑え、各ビールメーカーは一杯500円~の価格帯で販売する。現在日本各地で開催されているビアフェスティバルの標準からすると、かなり値段を抑えている。プラスティックカップで提供されるため、ビアグラスのデポジット料金なども必要ない。

 2013年の第1回は4月に開催。3日間で4,000人を動員した。2日目に台風が直撃しなければ、もっと客足は伸びただろう。今年は寒い時期の2月の開催になる。単純に「(場所が)空いていなかった」という。「この時期にビールイベントはないので、いいかな」と思ったという。今年は日本のメーカー20社、海外インポーターが5社参加し、130種類のビールが楽しめる。動員の目標は7,000人だ。

出展ビールメーカーは、アウグスビール、アウトサイダーブルーイング、あくらビール、オラホビール、御殿場高原ビール、シャトーカミヤ牛久ブルワリー、湘南ビール、スワンレイクビール、横浜ベイブルーイング、ヘリオスクラフトビール、ヤッホーブルーイング、横浜ビール、ロコビア、M's Kitchen(リオブルーイング)、奥能登ビール 日本海倶楽部、海軍さんの麦酒、六甲ビールほか。

 会場には、地元飲食店のグリル&バー「Charcoal Grill green」(中区弁天通6)、ビアバー「ブーシェル」(西区宮崎町40)、かつれつ老舗レストラン「勝烈庵」(中区常盤町5)が出店し、ビールと相性のよい料理を500円から提供する。

福富町にビール醸造所を併設するビアパブ「ベイ・ブルーイング・ヨコハマ」(ヨコハマ経済新聞)

大さん橋でクラフトビールの祭典「JAPAN BREWERS CUP」-ビアコンペも(ヨコハマ経済新聞)

■ビール職人によるビール職人が集うフェスティバル

 一般的なビアフェスティバルが消費者目線で開催されているのに対して、JAPAN BREWERS CUPは、その名の通り「ビール職人同士のコンペティション」であることが特長だ。「僕らビール職人にとっては、コンペがメインです。コンペだけ開催しても採算が取れないから、一般に向けたフェスと同時開催を考えました」という。

 コンペの開催形式も、世界的に見て画期的だ。ビールの世界には、「ワールドビアカップ」というビールの世界的な審査会がある。日本でも同様の審査会が開催されているが、世界中のほとんどの審査会は、ディスカッション形式になっているのだという。この場合、発言力のある人の意見が通りやすい。一方で、チェコの審査会は、ディスカッションを行わずに審査員が一人で採点して投票するスタイルであり、「日本人にはチェコの審査形式が合っている」と目を付けた鈴木さんは、自身も審査員として参加するチェコ最大のビール審査会「Gold Brewers Seal」と正式に提携。実行委員長Alois Srbさんの全面協力のもと、この形式をチェコ以外の国で初めて導入した。

 採点方法は単純明快で、各テーブルに5、6名の審査員がつき、それぞれ6つのビールをテイスティングして1~6の順位をつけるだけだという。1位1点、2位2点とし、テーブル毎の集計で点数の低いビール3種類が次ラウンドに進む。「審査員は全員醸造家なので、飲めばつくり手の意図やどうやってつくっているなどわかります。地味だけど技術が高くて評価に値すると思えば高得点を与えるなど、プロの視線で判断してもらいます」と鈴木さんは話す。審査はトーナメント形式で、3回戦おこない、最終的に6つのビールに絞り込み、決勝戦では審査員総勢24名で審査に臨む。

 コンペティションは2月1日にピルスナー部門、2月2日にIPA部門がおこなわれる。午前中に審査会があり、午後に審査結果を発表する。一般来場客には見学席を設けてあり、審査のテイスティングと採点の様子をすべて公開している。

大さん橋でクラフトビールの祭典「JAPAN BREWERS CUP」-ビール審査会も(ヨコハマ経済新聞)

JAPAN BREWERS CUPオフィシャルサイト

■日本のビールのレベルを高めていきたい

 鈴木さんによると、ビール職人同士は非常に仲が良いという。「横のつながりが強いです。ライバルという感じではない。もっとみんなで底上げをして、高まっていかないといけないと思っていますから。聞かれれば平気でレシピも教えたりします。」

 そのような職人たちが、この日に合わせて最高のビールを用意して、楽しみながら競い合うのだから、味についてはどのフェスティバルよりも期待できる。

 鈴木さんは現在、年に2回は海外に行き世界のビール事情を視察しているなかで、海外の一般消費者の理解度の違いから「日本と世界との温度差を感じる」という。「アメリカではIPAという言葉が普通に飛び交っています。日本ではビールのスタイルを呼ぶことはあまりないです。一般の方が『生中』以外の言葉を発するように、日本のビール文化をもっと発展させていきたいです」と話す。

 JAPAN BREWERS CUPは自身の夢の「楽しい空間」づくりでありながら、日本人へのビールの啓蒙という側面も含まれているのだ。

 「ベイ・ブルーイング・ヨコハマ」では、今年6月までに瓶ビール販売を目指している。瓶での販売が実現すれば、鈴木さんの情熱は更に遠くの消費者にまで届くことになるだろう。

JAPAN BREWERS CUP FESTIVAL 2014
日時:2014年1月31日(金)17時~21時
2月1日(土)13時~21時
2月2日(日)13時~19時
会場:横浜大さん橋ホール
入場料:500円(ビール代別途)
http://japanbrewerscup.jp/

山崎拡史+ヨコハマ経済新聞編集部

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